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Extra Ausgabe
出産狂想曲①~従軍記者ジェシカ
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セントラル駅からクライムシュミット駅に着いた私は、今、とんでもない事態に直面している。
市バスから列車へとタイムロスなく順調に来ていたのに、ここに来て大事故に遭遇してしまったのだ!
列車のホームから降り、改札付近まで行くと、そこには多くの人だかり。
クライムシュミット名物の花時計は見るも無惨な状態になっていたのだ。
「ちょっと!?これ、どうしたの?」
私は、近くの紳士に尋ねた。
「事故だよ。バスと乗用車が正面衝突してね。また不運なことに後続の車が玉突きさ……」
「……まぁ……」
溜め息をつく紳士の側で暫く呆然とした。
クライムシュミット駅正面は、混乱の坩堝である。
バスは横倒し、正面衝突した乗用車の前面は潰れている。
後続の乗用車からは、軽傷者が自力で脱出しているが、災難の中心にいるバスや乗用車の人間の生死はわからない。
「これは酷い……」
私は思わずつぶやいた。
首都でもこの手の事故は多く、昔はよく取材に行っていたが、最近は広報活動に忙しくご無沙汰だった。
しかし、カメラはいつも持って来ている。
取りあえず取材を……という記者精神に則り、トランクの中を物色するため屈み込んだその時。
どこからか男の大きな声が聞こえてきた。
「おいっ!君、大丈夫かっ!」
聞いたことのある声だ、と振り返るとそれはハインミュラー家の執事だった。
何度か、熊……いや、ローラントの荷物を本部に取りに来たことがある男。
彼は、玉突き事故を起こした車両のすぐ後ろの車だったらしく、正面衝突の車の運転手を助けようとしていた。
「君っ!!しっかりしなさい!」
彼の叫びは、周りの人たちを動かした。
それまで遠巻きに見ていた観光客や住人も何か手伝えることがないかと動き出したのだ。
私もトランクの物色を諦め、執事に手を貸すことにした。
記者としてはあるまじき行為だが……ここは、人助け優先である。
「手伝うわ!あなた、ハインミュラーの人ですわよね?」
「えっ!あ、はい、そうですが!貴女は……」
「従軍記者のジェシカ・ハーネスよ!で、私どうしたらいいかしら?」
「あ、彼を運転席から出そうとしたのですが……」
執事の背後から近寄って、運転手の具合を見る。
運転手は足をボンネットと座席に挟まれ動くことが出来ない。
その上、頭からの出血が大量だ。
「無理に出さない方がいいわね。挟まれた足がどうなってるかがわからないし……ひょっとしたら出した途端大量出血するかもしれないわ」
「はい。ですからここは取りあえず頭を止血するべきかと……」
「流石。賢明だわ。で、医術士はまだなの!?」
「この近くに大きな病院がありまして……そこからすぐ来てくれるとは思います。ですが……」
執事は蒼白になって頭を抱えた。
「何?何か問題が!?」
私は着ていた薄手の羽織物を脱いで、運転手の頭を止血しながら、執事に問う。
「奥様が!クリスタ様が産気づきブランケンハイムに産科医を迎えに行く途中だったのです……」
「あら!……ん?でも出産って、産婆さんでも出来るでしょ?産科医がいなくてもなんとかならない?」
領主様はどうか知らないけど、平民なんてみんな産婆さんよ?
よっぽどのことがない限り……。
「それが……お子様は《双子》なのです……」
「な……」
なんてこと!
双子……。
医療が充実して、出産のリスクが減ったとはいえ、多胎妊娠はかなり危険である。
女性誌でそういった特集を組んだことがあったからその辺の知識はあるのよ。
となると、何かあったらいけないから医術士は絶対必要だし、それなりの人手と設備も欲しいところ。
設備はきっと揃ってるはずだけど、問題は……産科医ね。
この事故の状況では、すぐに車を動かすことは不可能。
しかも、多くの怪我人で病院は忙しくなるし、人手が足りず産科医だって駆り出されるかもしれない。
市バスから列車へとタイムロスなく順調に来ていたのに、ここに来て大事故に遭遇してしまったのだ!
列車のホームから降り、改札付近まで行くと、そこには多くの人だかり。
クライムシュミット名物の花時計は見るも無惨な状態になっていたのだ。
「ちょっと!?これ、どうしたの?」
私は、近くの紳士に尋ねた。
「事故だよ。バスと乗用車が正面衝突してね。また不運なことに後続の車が玉突きさ……」
「……まぁ……」
溜め息をつく紳士の側で暫く呆然とした。
クライムシュミット駅正面は、混乱の坩堝である。
バスは横倒し、正面衝突した乗用車の前面は潰れている。
後続の乗用車からは、軽傷者が自力で脱出しているが、災難の中心にいるバスや乗用車の人間の生死はわからない。
「これは酷い……」
私は思わずつぶやいた。
首都でもこの手の事故は多く、昔はよく取材に行っていたが、最近は広報活動に忙しくご無沙汰だった。
しかし、カメラはいつも持って来ている。
取りあえず取材を……という記者精神に則り、トランクの中を物色するため屈み込んだその時。
どこからか男の大きな声が聞こえてきた。
「おいっ!君、大丈夫かっ!」
聞いたことのある声だ、と振り返るとそれはハインミュラー家の執事だった。
何度か、熊……いや、ローラントの荷物を本部に取りに来たことがある男。
彼は、玉突き事故を起こした車両のすぐ後ろの車だったらしく、正面衝突の車の運転手を助けようとしていた。
「君っ!!しっかりしなさい!」
彼の叫びは、周りの人たちを動かした。
それまで遠巻きに見ていた観光客や住人も何か手伝えることがないかと動き出したのだ。
私もトランクの物色を諦め、執事に手を貸すことにした。
記者としてはあるまじき行為だが……ここは、人助け優先である。
「手伝うわ!あなた、ハインミュラーの人ですわよね?」
「えっ!あ、はい、そうですが!貴女は……」
「従軍記者のジェシカ・ハーネスよ!で、私どうしたらいいかしら?」
「あ、彼を運転席から出そうとしたのですが……」
執事の背後から近寄って、運転手の具合を見る。
運転手は足をボンネットと座席に挟まれ動くことが出来ない。
その上、頭からの出血が大量だ。
「無理に出さない方がいいわね。挟まれた足がどうなってるかがわからないし……ひょっとしたら出した途端大量出血するかもしれないわ」
「はい。ですからここは取りあえず頭を止血するべきかと……」
「流石。賢明だわ。で、医術士はまだなの!?」
「この近くに大きな病院がありまして……そこからすぐ来てくれるとは思います。ですが……」
執事は蒼白になって頭を抱えた。
「何?何か問題が!?」
私は着ていた薄手の羽織物を脱いで、運転手の頭を止血しながら、執事に問う。
「奥様が!クリスタ様が産気づきブランケンハイムに産科医を迎えに行く途中だったのです……」
「あら!……ん?でも出産って、産婆さんでも出来るでしょ?産科医がいなくてもなんとかならない?」
領主様はどうか知らないけど、平民なんてみんな産婆さんよ?
よっぽどのことがない限り……。
「それが……お子様は《双子》なのです……」
「な……」
なんてこと!
双子……。
医療が充実して、出産のリスクが減ったとはいえ、多胎妊娠はかなり危険である。
女性誌でそういった特集を組んだことがあったからその辺の知識はあるのよ。
となると、何かあったらいけないから医術士は絶対必要だし、それなりの人手と設備も欲しいところ。
設備はきっと揃ってるはずだけど、問題は……産科医ね。
この事故の状況では、すぐに車を動かすことは不可能。
しかも、多くの怪我人で病院は忙しくなるし、人手が足りず産科医だって駆り出されるかもしれない。
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