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Extra Ausgabe
伯爵令嬢、奮闘中《21》御褒美はティータイムのあとで
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ジャビールザハの一味は、主犯の男、爆薬を巻いた男が捕らえられ、女は死んだ。
男達は、二人とも気絶したまま縛られ、中央情報局に連行されていく。
後は、クリム様の部下が全て手配し、舞踏会場はやっと落ち着きを取り戻した。
しかし、その間も私は姫君達の質問攻撃を受け、やれ好きな食べ物だの、嫌いなタイプなどをこと細かに尋ねられていた。
私の好きな食べ物なんか聞いても、なんの役にも立たないよ??
とは思うが、姫君達乙女の皆さんはそういった細かい情報ほど欲しがるようだ。
私としては、この新しくなったボニーとクライドのことについて聞いて欲しいと思っている!
………だが、誰も聞かなかった!
なぜだ!?
いや、そもそもそれが当たり前なのだろう。
そんなことに興味があるのは、たぶん私とファビアンヌ様くらいだろうな……。
あ、ファビアンヌ様と言えば、リリアンヌ様はどうなっただろう??
殿下をこっぴどく振り、逃げることが出来ただろうか?
そう思い、リリアンヌ様を目で探すと……。
会場の開け放された窓の外、薄闇の噴水の前でにこやかに談笑する二人の姿が!!
なんで??どういうこと?
可哀想な殿下じゃないじゃないか!!
チッと、私は舌打ちをした。
「……どうやら、あちらは案外上手くいったようだ」
「え?あ、クリム様!」
部下と仕事の話をしていたクリム様が、いつの間にか私の後ろに来ていた。
げ、舌打ち聞かれてた?
「思っていたのとは違ったか?」
「あー、はい。リリアンヌ様、殿下のことをあまり良く思ってなかったようだったので。意外です」
そして、残念です、と付け加える。
心の中でね。
「私はもしかしたら……とは思ったよ?リリアンヌも少し変わっているからね。実は……ボロミアから彼女を呼んだのは陛下なんだよ」
「陛下が!?」
「うん。クリスタを巡って大事を引き起こしたことを、口には出さないが殿下は大層悔やんでいてね。あんなに自信たっぷりだった殿下に少し気概がなくなってたんだ。しかも、失恋だしな。心のキズも深いだろう」
確かに。
だが、自業自得だよな。
そんな私の考えを見抜いたように、クリム様は苦笑いをした。
「失恋の心のキズは、新しい恋でしか埋められない。そう思った陛下は、この舞踏会を企画された。各国から姫君を招いて……だが、その中に本命はちゃんといたんだ」
「それが、リリアンヌ様ですか?」
「ああ。私はね、最初クリスタに良く似ているリリアンヌは、反対に殿下の心のキズを抉るのではないかと思っていた。だが、殿下のことを知り尽くしている陛下は、リリアンヌしかいないと思ったらしい。結果的に、その決断が正解だったけどね」
「でも……不思議です。あんなに嫌がっていたではないですか?それが、ほんの一瞬で、仲良くなれるものなのでしょうか?」
噴水の前に腰掛け、熱く話をしている2人。
何を話しているのかはまったくわからないが、とても雰囲気はいい。
殿下が話すと、リリアンヌ様が更に倍話す。
そして、またさらに殿下が話す。
ロマンチックな話ではないようだが、熱くなっていることに間違いは無さそうだ。
「きっかけなんて、ほんの些細なことだ。例えば、私が君をいいなと思った瞬間も他愛のない一言だったよ」
「………え……と。聞いてもよろしいですか??」
是非教えて頂きたい!!
この無骨な私の!一体どの辺りがクリム様の琴線に触れたのか!!
これから先、飽きられてしまわない為にも何とぞ!!
「教えない」
「は?」
クリム様は、その真っ白な頬を軽く赤らめて目を逸らした。
普段なら、ここでガックリ肩を落とす所だが、今日はそうはならない。
何故かというと……。
目の前のクリム様が、もう堪らなく美しかったからーー!!
きめ細やかな肌に、うっすらと紅の差す様子や、逸らした目の角度で変わるブルーの陰影や、上げた前髪の一房だけ額に落ちる稲穂のように輝く髪とか……。
もう数え上げればキリがない、クリム様の大好きな所が波のように押し寄せる。
「ふふふ……わかりました。聞きません。でも、これは許して下さい」
私はもう我慢をしない。
少し背伸びをして、その頬に手を伸ばしゆっくりと唇を近づける。
すると、音もなく押し当てられた唇の離れていく所から、頬は更に朱に染まる。
「ア、アンナ!?」
狼狽えたクリム様の頬をとらえたまま、私は言う。
「このほっぺたを、ずっと食べたいって思ってたんです!」
「食べたい!?食べたい……のか?」
「はいっ!」
耳元で叫んだ私の声に驚き、クリム様は少しビクッとなった。
だが、すぐにあははと笑い、グッと腰を抱き寄せる。
「いいよ。しかしな、ここではまずい。姫君達を見て?君の色気にあてられている」
色気なんて……。
それはクリム様の間違いでしょう??
ほら、姫君達もそんなの………うげ、目が……目がどこかにイっている!!
変な薬でも嗅がされたのか、集団催眠か、という変な状況だぞ!?
「クリム様、大変です」
「大変だな。では、帰ってからでもいいかな?アンナは我慢出来るかな?」
自信はないけど、がんばります!
激しく縦に首を振る私を、クリム様は愉しそうに見て言った。
「では、急いで帰ろう!」
姫君達が見つめる中、私達は足早に会場の外に出た。
そして、噴水前のリリアンヌ様と殿下に会釈をし、真っ直ぐ玄関へと向かう。
グリュッセル家の車は、何故だか既に玄関前に回されていた。
促されて乗り込むと、クリム様は行きと同様、物凄く近付いて耳元でこう言ったのだ。
「ラングが熱いお茶を淹れてくれるだろう。そして、一息ついたら……好きなだけ食べるといい。今日の御褒美を」
武者震い、とはまた違う震えが体中に走る。
鼓動も早まり、その音量も最大だ。
ヤバい、死ぬかもしれない……そう思ったが、この御褒美を堪能するまでは、絶対に死ねない!!
意識が飛びそうになるのを必死で堪えながら、私は……
「わかりました、御褒美はティータイムの後ですね!!」
と、大声で叫んだのだ。
男達は、二人とも気絶したまま縛られ、中央情報局に連行されていく。
後は、クリム様の部下が全て手配し、舞踏会場はやっと落ち着きを取り戻した。
しかし、その間も私は姫君達の質問攻撃を受け、やれ好きな食べ物だの、嫌いなタイプなどをこと細かに尋ねられていた。
私の好きな食べ物なんか聞いても、なんの役にも立たないよ??
とは思うが、姫君達乙女の皆さんはそういった細かい情報ほど欲しがるようだ。
私としては、この新しくなったボニーとクライドのことについて聞いて欲しいと思っている!
………だが、誰も聞かなかった!
なぜだ!?
いや、そもそもそれが当たり前なのだろう。
そんなことに興味があるのは、たぶん私とファビアンヌ様くらいだろうな……。
あ、ファビアンヌ様と言えば、リリアンヌ様はどうなっただろう??
殿下をこっぴどく振り、逃げることが出来ただろうか?
そう思い、リリアンヌ様を目で探すと……。
会場の開け放された窓の外、薄闇の噴水の前でにこやかに談笑する二人の姿が!!
なんで??どういうこと?
可哀想な殿下じゃないじゃないか!!
チッと、私は舌打ちをした。
「……どうやら、あちらは案外上手くいったようだ」
「え?あ、クリム様!」
部下と仕事の話をしていたクリム様が、いつの間にか私の後ろに来ていた。
げ、舌打ち聞かれてた?
「思っていたのとは違ったか?」
「あー、はい。リリアンヌ様、殿下のことをあまり良く思ってなかったようだったので。意外です」
そして、残念です、と付け加える。
心の中でね。
「私はもしかしたら……とは思ったよ?リリアンヌも少し変わっているからね。実は……ボロミアから彼女を呼んだのは陛下なんだよ」
「陛下が!?」
「うん。クリスタを巡って大事を引き起こしたことを、口には出さないが殿下は大層悔やんでいてね。あんなに自信たっぷりだった殿下に少し気概がなくなってたんだ。しかも、失恋だしな。心のキズも深いだろう」
確かに。
だが、自業自得だよな。
そんな私の考えを見抜いたように、クリム様は苦笑いをした。
「失恋の心のキズは、新しい恋でしか埋められない。そう思った陛下は、この舞踏会を企画された。各国から姫君を招いて……だが、その中に本命はちゃんといたんだ」
「それが、リリアンヌ様ですか?」
「ああ。私はね、最初クリスタに良く似ているリリアンヌは、反対に殿下の心のキズを抉るのではないかと思っていた。だが、殿下のことを知り尽くしている陛下は、リリアンヌしかいないと思ったらしい。結果的に、その決断が正解だったけどね」
「でも……不思議です。あんなに嫌がっていたではないですか?それが、ほんの一瞬で、仲良くなれるものなのでしょうか?」
噴水の前に腰掛け、熱く話をしている2人。
何を話しているのかはまったくわからないが、とても雰囲気はいい。
殿下が話すと、リリアンヌ様が更に倍話す。
そして、またさらに殿下が話す。
ロマンチックな話ではないようだが、熱くなっていることに間違いは無さそうだ。
「きっかけなんて、ほんの些細なことだ。例えば、私が君をいいなと思った瞬間も他愛のない一言だったよ」
「………え……と。聞いてもよろしいですか??」
是非教えて頂きたい!!
この無骨な私の!一体どの辺りがクリム様の琴線に触れたのか!!
これから先、飽きられてしまわない為にも何とぞ!!
「教えない」
「は?」
クリム様は、その真っ白な頬を軽く赤らめて目を逸らした。
普段なら、ここでガックリ肩を落とす所だが、今日はそうはならない。
何故かというと……。
目の前のクリム様が、もう堪らなく美しかったからーー!!
きめ細やかな肌に、うっすらと紅の差す様子や、逸らした目の角度で変わるブルーの陰影や、上げた前髪の一房だけ額に落ちる稲穂のように輝く髪とか……。
もう数え上げればキリがない、クリム様の大好きな所が波のように押し寄せる。
「ふふふ……わかりました。聞きません。でも、これは許して下さい」
私はもう我慢をしない。
少し背伸びをして、その頬に手を伸ばしゆっくりと唇を近づける。
すると、音もなく押し当てられた唇の離れていく所から、頬は更に朱に染まる。
「ア、アンナ!?」
狼狽えたクリム様の頬をとらえたまま、私は言う。
「このほっぺたを、ずっと食べたいって思ってたんです!」
「食べたい!?食べたい……のか?」
「はいっ!」
耳元で叫んだ私の声に驚き、クリム様は少しビクッとなった。
だが、すぐにあははと笑い、グッと腰を抱き寄せる。
「いいよ。しかしな、ここではまずい。姫君達を見て?君の色気にあてられている」
色気なんて……。
それはクリム様の間違いでしょう??
ほら、姫君達もそんなの………うげ、目が……目がどこかにイっている!!
変な薬でも嗅がされたのか、集団催眠か、という変な状況だぞ!?
「クリム様、大変です」
「大変だな。では、帰ってからでもいいかな?アンナは我慢出来るかな?」
自信はないけど、がんばります!
激しく縦に首を振る私を、クリム様は愉しそうに見て言った。
「では、急いで帰ろう!」
姫君達が見つめる中、私達は足早に会場の外に出た。
そして、噴水前のリリアンヌ様と殿下に会釈をし、真っ直ぐ玄関へと向かう。
グリュッセル家の車は、何故だか既に玄関前に回されていた。
促されて乗り込むと、クリム様は行きと同様、物凄く近付いて耳元でこう言ったのだ。
「ラングが熱いお茶を淹れてくれるだろう。そして、一息ついたら……好きなだけ食べるといい。今日の御褒美を」
武者震い、とはまた違う震えが体中に走る。
鼓動も早まり、その音量も最大だ。
ヤバい、死ぬかもしれない……そう思ったが、この御褒美を堪能するまでは、絶対に死ねない!!
意識が飛びそうになるのを必死で堪えながら、私は……
「わかりました、御褒美はティータイムの後ですね!!」
と、大声で叫んだのだ。
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