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伯爵令嬢、奮闘中《20》称号
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陛下とクリム様、二人と談笑中だった私は、その肩越しの異変にいち早く気付いた。
可哀想な殿下とリリアンヌ様の邪魔をしないようにと側を離れたが、まさにそこで事件は起こったのだ!
「クリム様!人質の女が!」
私の声にクリム様と陛下は振り向いた。
女は衛兵を振り切りナイフを手にすると、近くのリリアンヌ様と殿下に何やら叫んでいる。
「ジーク!!」
急いで駆け寄ろうとする陛下の腕を止め、クリム様はつまらなそうな顔をして言った。
「ふん。泳がせて大元を探ろうと思っていたのだが……こうなってはもう用済みだ。アンナ……」
と、その美しい瞳を怪しく光らせる。
ええ。
わかっておりますとも。
その時、私にはクリム様の考えが手に取るようにわかった。
ああ、やはり赤い糸で結ばれているのですね!!
私は頷き、クライドを抜いた。
彼の性能は確かめてはいない。
些か不安でもあったが、私の子供達が私の期待を裏切るはずがない。
スライドを引き、照準を合わせ、引き金に指をかける。
クリム様と陛下がサッと脇に逸れるのを見て、私は女の一点だけを狙った。
一発で沈めなければ、ナイフが殿下に届く。
これから振られる予定の可哀想な殿下に、更なるキズを負わせるわけにはいかない。
気の毒すぎる!!
私は、涙を堪えながら引き金を引いた!!
パシュッ!という静かな発射音と、女が崩れ落ちるのはほぼ同時だ。
ほう!クライドの性能は消音機能と、発射速度の向上か!
素晴らしいな!暗躍し放題じゃないか!
ナイフは……殿下の腹の手前で止まっているようで、無事なようだ。
良かった、可哀想な殿下の命はお救いできた………。
まぁ、すぐにリリアンヌ様に引導を渡されるはずだが。
「あの女、テロリストどもの仲間だったのだな……しかし、良い腕に良い銃だ。アンナ・オズワルド、ジークを救ってくれて礼を言う」
「いえ!当然のことをしたまで」
クリム様の命に従っただけのこと。
礼を言われる筋合はないです、陛下。
と、不遜なことを考えているなんて誰も思うまい。
しかしな……。
いくらなんでも、各国の姫君たちの前で、人を撃つなど良くなかったかもしれない。
そんな凄惨な場面を見せてしまっては、トラウマになりはしないだろうか。
それが心配なのだが……。
「まぁ、ご覧になって?」
「ええ!」
「なんと雄々しいのでしょう!」
「私も守って頂きたいわ!!」
…………………………。
トラウマってなんだろう。
そんな言葉は姫君達にはなかったようだ!!
唖然とする私を見て、クリム様は楽しそうに笑った。
「王族の姫君達は、常に暗殺や命を狙われる危険にさらされている。お気楽な貴族などとは心構えが違うよ」
なるほど。
姫君達は、己の立場を良くわかっているのだな。
目の前に死体が転がろうが、毅然としているくらいじゃないと勤まらないか。
王族って、結構大変だな……。
改めて尊敬の眼差しを向けると、それまで遠巻きに見ていた姫君達が、少しずつ私に近付いてきた。
まるで集団で狩りをする肉食獣のように、逃げ道を塞ぎ徐々に範囲を狭めてくる!!
こ、怖い!!食われる!!
「アンナ・オズワルドさん?」
青いドレスの姫君が口を開く。
「は、はいっ!な、なな何か?」
吃りすぎだ……私…。
「私達、貴女への感謝の意味を込めまして、称号を用意しましたの」
「へ?称号??」
称号って何だ?
肩書きのようなものかな?
それとも、愛称的な?
いや………ポラリスっていうのがもうあるんだよな……要らないけど……。
「ええ!称号。受け取って頂ける?」
青いドレスの姫君は、周りを囲む余多の姫君達と顔を見合わせ頷き合った。
出来ればお断りしたい!
と、口を開こうとしたとき、クリム様が私に言った。
「名誉なことだよ?受け取っておくといい」
「え?そうなんですか?」
「ああ、姫君達……王族の方々に称号を貰うということは、各国で賓客待遇をされるということだ」
「賓客………」
私が!?各国で賓客扱いを!?
目を丸くする私を見て、姫君達は何故かうっとりと見ている。
…………知ってるぞ………こういうの、前に見たからな。
「婚約者の方も仰っているように、貰っておいて損はないわ。ここにいる方達の国、どこへ行っても賓客として扱われるわ。ね、そうなさいな?」
「あ、はい。畏れ多いことでございますが……」
「よろしい。では、私、ラストリアの第二王女クロエが証人になります。ザナリア帝国、伯爵令嬢アンナ・オズワルドに感謝と敬愛の意味を込め《五色の薔薇の騎士》の称号を与える!!」
………………………え?
ごしきのばらのきし!?
これを私は各国で名乗るのか!?
『どうもー、五色の薔薇の騎士です』って言うのか!
………恥ずかしいぞ?
言葉を失くした私を見て、姫君達は、感動のあまり声が出ないと思ったらしい。
一様に満足そうな顔をしてうんうんと頷いている。
「五色の薔薇の騎士……くくっ、いいね!それは世界に向けてどんどん流布していかないとな」
と、クリム様は能天気に言った。
流布はちょっと、困るんですけどぉ………。
舞踏会に出る度に増えていく私の二つ名。
そして、必ず巻き起こる物騒な事件。
二度あることは三度あると良く言うが、出来ることなら、これでもう打ち止めにしてもらいたい!!
という私の願いは叶うのだろうか……。
姫君達の黄色い声と、クリム様の含み笑いの中、私は力なく、あははと惰性で笑っておいた。
可哀想な殿下とリリアンヌ様の邪魔をしないようにと側を離れたが、まさにそこで事件は起こったのだ!
「クリム様!人質の女が!」
私の声にクリム様と陛下は振り向いた。
女は衛兵を振り切りナイフを手にすると、近くのリリアンヌ様と殿下に何やら叫んでいる。
「ジーク!!」
急いで駆け寄ろうとする陛下の腕を止め、クリム様はつまらなそうな顔をして言った。
「ふん。泳がせて大元を探ろうと思っていたのだが……こうなってはもう用済みだ。アンナ……」
と、その美しい瞳を怪しく光らせる。
ええ。
わかっておりますとも。
その時、私にはクリム様の考えが手に取るようにわかった。
ああ、やはり赤い糸で結ばれているのですね!!
私は頷き、クライドを抜いた。
彼の性能は確かめてはいない。
些か不安でもあったが、私の子供達が私の期待を裏切るはずがない。
スライドを引き、照準を合わせ、引き金に指をかける。
クリム様と陛下がサッと脇に逸れるのを見て、私は女の一点だけを狙った。
一発で沈めなければ、ナイフが殿下に届く。
これから振られる予定の可哀想な殿下に、更なるキズを負わせるわけにはいかない。
気の毒すぎる!!
私は、涙を堪えながら引き金を引いた!!
パシュッ!という静かな発射音と、女が崩れ落ちるのはほぼ同時だ。
ほう!クライドの性能は消音機能と、発射速度の向上か!
素晴らしいな!暗躍し放題じゃないか!
ナイフは……殿下の腹の手前で止まっているようで、無事なようだ。
良かった、可哀想な殿下の命はお救いできた………。
まぁ、すぐにリリアンヌ様に引導を渡されるはずだが。
「あの女、テロリストどもの仲間だったのだな……しかし、良い腕に良い銃だ。アンナ・オズワルド、ジークを救ってくれて礼を言う」
「いえ!当然のことをしたまで」
クリム様の命に従っただけのこと。
礼を言われる筋合はないです、陛下。
と、不遜なことを考えているなんて誰も思うまい。
しかしな……。
いくらなんでも、各国の姫君たちの前で、人を撃つなど良くなかったかもしれない。
そんな凄惨な場面を見せてしまっては、トラウマになりはしないだろうか。
それが心配なのだが……。
「まぁ、ご覧になって?」
「ええ!」
「なんと雄々しいのでしょう!」
「私も守って頂きたいわ!!」
…………………………。
トラウマってなんだろう。
そんな言葉は姫君達にはなかったようだ!!
唖然とする私を見て、クリム様は楽しそうに笑った。
「王族の姫君達は、常に暗殺や命を狙われる危険にさらされている。お気楽な貴族などとは心構えが違うよ」
なるほど。
姫君達は、己の立場を良くわかっているのだな。
目の前に死体が転がろうが、毅然としているくらいじゃないと勤まらないか。
王族って、結構大変だな……。
改めて尊敬の眼差しを向けると、それまで遠巻きに見ていた姫君達が、少しずつ私に近付いてきた。
まるで集団で狩りをする肉食獣のように、逃げ道を塞ぎ徐々に範囲を狭めてくる!!
こ、怖い!!食われる!!
「アンナ・オズワルドさん?」
青いドレスの姫君が口を開く。
「は、はいっ!な、なな何か?」
吃りすぎだ……私…。
「私達、貴女への感謝の意味を込めまして、称号を用意しましたの」
「へ?称号??」
称号って何だ?
肩書きのようなものかな?
それとも、愛称的な?
いや………ポラリスっていうのがもうあるんだよな……要らないけど……。
「ええ!称号。受け取って頂ける?」
青いドレスの姫君は、周りを囲む余多の姫君達と顔を見合わせ頷き合った。
出来ればお断りしたい!
と、口を開こうとしたとき、クリム様が私に言った。
「名誉なことだよ?受け取っておくといい」
「え?そうなんですか?」
「ああ、姫君達……王族の方々に称号を貰うということは、各国で賓客待遇をされるということだ」
「賓客………」
私が!?各国で賓客扱いを!?
目を丸くする私を見て、姫君達は何故かうっとりと見ている。
…………知ってるぞ………こういうの、前に見たからな。
「婚約者の方も仰っているように、貰っておいて損はないわ。ここにいる方達の国、どこへ行っても賓客として扱われるわ。ね、そうなさいな?」
「あ、はい。畏れ多いことでございますが……」
「よろしい。では、私、ラストリアの第二王女クロエが証人になります。ザナリア帝国、伯爵令嬢アンナ・オズワルドに感謝と敬愛の意味を込め《五色の薔薇の騎士》の称号を与える!!」
………………………え?
ごしきのばらのきし!?
これを私は各国で名乗るのか!?
『どうもー、五色の薔薇の騎士です』って言うのか!
………恥ずかしいぞ?
言葉を失くした私を見て、姫君達は、感動のあまり声が出ないと思ったらしい。
一様に満足そうな顔をしてうんうんと頷いている。
「五色の薔薇の騎士……くくっ、いいね!それは世界に向けてどんどん流布していかないとな」
と、クリム様は能天気に言った。
流布はちょっと、困るんですけどぉ………。
舞踏会に出る度に増えていく私の二つ名。
そして、必ず巻き起こる物騒な事件。
二度あることは三度あると良く言うが、出来ることなら、これでもう打ち止めにしてもらいたい!!
という私の願いは叶うのだろうか……。
姫君達の黄色い声と、クリム様の含み笑いの中、私は力なく、あははと惰性で笑っておいた。
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