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伯爵令嬢、奮闘中《17》ドクトルファビー
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「まさか!!ファビアンヌ・オーレリィとは……ボロミアの王妃様では……」
お腹を押さえてひたすら笑うリリアンヌ様は、もう、目に涙すら浮かべている。
「あはっ、ふふっ、ふくくくくっ、え、えっええ、そう。そうなのよ。はぁ……ごめんなさい、ああ可笑しい」
私の顔、そんなに笑えましたか?
少しショックです……。
肩を落とした私を、リリアンヌ様は申し訳無さそうに上目遣いで見ながらごめんねと、とても可愛らしく言った!
……おお!なんとあざと可愛らしい!
さすが、奥方様とそっくりなだけあるな!
単純な私の機嫌は、可愛らしいものを見てすっかり直った!
「本当に面白くて、勇ましい方。グリュッセル家に相応しいわ。ね、クリム?」
リリアンヌ様はクリム様を振り返る。
「そうだろう?ああ、伯母上にも宜しく伝えておいてくれ。丁寧迅速なメンテナンス、非常に助かったとな!」
「うふふ、ええ。伝えるわ」
「あっ、あの?それでは、ボニーとクライドを作ってくれたのも、メンテナンスをしてくれてたのも……王妃様ですか!?」
「ええ、毎度ありがとうございます」
リリアンヌ様は、おどけて笑ったが、私は全然笑えない。
だって、父さま、何で普通に王妃様とやり取りしてるんだ!?
恐れ多くも強国ボロミアの王妃様だぞ?
いや、それよりも一言くらい言ってくれても良かったのでは……?
そんな心の声が聞こえたのかどうなのか、リリアンヌ様はまぁまぁと私を宥め、大階段に座らせた。
そして、自分も隣に座る。
「母はね、我が国ではドクトルファビーの名で通っているの。王妃様なんて呼ぶのはよその国の者だけ」
「ドクトル?ファビー?」
「ふふ。ファビー博士よ。機械工学の第一人者で、物作り、改良の天才。ファビー工房も母の趣味のために、父が作ったの。昔からグリュッセル家にはそういった天才肌の人が多いらしくてね」
「あ!そういえば、奥方様……クリスタ様もそうですね」
「クリスタ・ルイスね、私は会ったことはないんだけど、噂は聞いているわ。彼女はどちらかというと医療分野の方かしら?」
良くわかりません。
とは言えなかったので、黙っておくことにしよう。
どうか、リリアンヌ様がスルーして下さいますように!
「……でね、ユリウス殿と母の接点なんだけど」
はい!
それ、それが聞きたいです!
と、私は身を乗り出した。
「昔ボロミアが農業大国だった頃、農耕機械の導入に際して、ザナリアに技術指導を求めたの。その時、指導に来たのが母。ユリウス殿は軍の大佐で母の護衛として来ていたらしいわ」
「なるほど」
そこで見初められ、ファビアンヌ様は王妃様になったんだな。
すごいな、夢のある話だ。
「アンナ?そんな夢のある話でもなかったようよ?」
ふぁっ!?
え、なぜ考えがバレたのだ!?
そんなに分かりやすいのか、私。
「まぁ、その話はユリウス殿にでもしてもらうといいわ。これで、私があなたの銃を持っていた件に納得がいったわね?」
「はい。もう納得いきまくりの了解しまくりです」
毅然と頷いた私を見て、リリアンヌ様はまたぷぷっと笑い、言った。
「……良かった。では、私はこれで……」
立ち上がり優雅に去っていこうとするリリアンヌ様。
私も立ち上がり勢い良く敬礼をした。
すると。
今までどこにいたのか、階段脇からスッと出てきた皇太子殿下がリリアンヌ様の腕を取った。
「リリアンヌ、少し待ってくれ」
「でぇ!?……これは、殿下。どうかなさいましたか?」
でぇ!?って言ったな、リリアンヌ様。
一瞬で顔も態度も変えられるなんて……これは特技だろうか?
私は邪魔しないように、じりじりと後ろに下がった。
すると、トンっと何かに当たる。
振り返るとそこには、キラキラと輝くクリム様!……と、陛下が。
「大儀であった。アンナ・オズワルド」
「はっ!」
陛下の労いに、私は身を翻し再度敬礼をする。
「お疲れ、アンナ」
と、今度はクリム様が労いのお言葉を!
「はいいっ!疲れてなんておりませんけど!」
あの程度で疲れるアンナではございません!!
クリム様のためならば、何人でも蹴って、殴って、撃ちまくりますとも!!
鼻息の荒い私を見て、陛下は豪快に笑い、愉快そうに言った。
「これは頼もしい伴侶を見つけたな。強く、美しく、誠実とは。グリュッセル家は盤石の構えだな」
「恐れ入ります、陛下」
クリム様が優雅に挨拶をするのを見て、私もペコリと頭を下げた。
珍しく誉められている……?
文句を言われることはあっても、誉められるなんて初めてかもしれない。
何だか少しむず痒いな。
「それに周りを見てみろ?各国の姫君達は、そなたの勇姿に釘付けだぞ?やれやれ、ジークの為に呼んだのだが、全てそなたに持っていかれたようだ」
陛下はまた豪快に笑ったが、私はゾッとした。
周りを見回した途端、いつか聞いた黄色い声が耳に飛び込んで来たからだ。
「きゃぁ!今、私を見たわ!」
「はぁ!?何を仰っているのかしら?私を見たのに決まっているわ!」
「ケンカは止めましょうよ、皆様。騎士様が困惑なさるわ」
青、赤、黄色。
三色の鮮やかなドレスの姫君がこちらを見て恥ずかしそうに頬を染めた。
その隣では別の姫君達も扇の隙間からこちらを見ている。
い、いや!それよりも!!
何か今、変な言葉が聞こえたぞ!?
騎士様とか、なんとか……。
ポラリスの次は騎士か?
一体私はどれだけの名前をつけられることになるんだろう……。
お腹を押さえてひたすら笑うリリアンヌ様は、もう、目に涙すら浮かべている。
「あはっ、ふふっ、ふくくくくっ、え、えっええ、そう。そうなのよ。はぁ……ごめんなさい、ああ可笑しい」
私の顔、そんなに笑えましたか?
少しショックです……。
肩を落とした私を、リリアンヌ様は申し訳無さそうに上目遣いで見ながらごめんねと、とても可愛らしく言った!
……おお!なんとあざと可愛らしい!
さすが、奥方様とそっくりなだけあるな!
単純な私の機嫌は、可愛らしいものを見てすっかり直った!
「本当に面白くて、勇ましい方。グリュッセル家に相応しいわ。ね、クリム?」
リリアンヌ様はクリム様を振り返る。
「そうだろう?ああ、伯母上にも宜しく伝えておいてくれ。丁寧迅速なメンテナンス、非常に助かったとな!」
「うふふ、ええ。伝えるわ」
「あっ、あの?それでは、ボニーとクライドを作ってくれたのも、メンテナンスをしてくれてたのも……王妃様ですか!?」
「ええ、毎度ありがとうございます」
リリアンヌ様は、おどけて笑ったが、私は全然笑えない。
だって、父さま、何で普通に王妃様とやり取りしてるんだ!?
恐れ多くも強国ボロミアの王妃様だぞ?
いや、それよりも一言くらい言ってくれても良かったのでは……?
そんな心の声が聞こえたのかどうなのか、リリアンヌ様はまぁまぁと私を宥め、大階段に座らせた。
そして、自分も隣に座る。
「母はね、我が国ではドクトルファビーの名で通っているの。王妃様なんて呼ぶのはよその国の者だけ」
「ドクトル?ファビー?」
「ふふ。ファビー博士よ。機械工学の第一人者で、物作り、改良の天才。ファビー工房も母の趣味のために、父が作ったの。昔からグリュッセル家にはそういった天才肌の人が多いらしくてね」
「あ!そういえば、奥方様……クリスタ様もそうですね」
「クリスタ・ルイスね、私は会ったことはないんだけど、噂は聞いているわ。彼女はどちらかというと医療分野の方かしら?」
良くわかりません。
とは言えなかったので、黙っておくことにしよう。
どうか、リリアンヌ様がスルーして下さいますように!
「……でね、ユリウス殿と母の接点なんだけど」
はい!
それ、それが聞きたいです!
と、私は身を乗り出した。
「昔ボロミアが農業大国だった頃、農耕機械の導入に際して、ザナリアに技術指導を求めたの。その時、指導に来たのが母。ユリウス殿は軍の大佐で母の護衛として来ていたらしいわ」
「なるほど」
そこで見初められ、ファビアンヌ様は王妃様になったんだな。
すごいな、夢のある話だ。
「アンナ?そんな夢のある話でもなかったようよ?」
ふぁっ!?
え、なぜ考えがバレたのだ!?
そんなに分かりやすいのか、私。
「まぁ、その話はユリウス殿にでもしてもらうといいわ。これで、私があなたの銃を持っていた件に納得がいったわね?」
「はい。もう納得いきまくりの了解しまくりです」
毅然と頷いた私を見て、リリアンヌ様はまたぷぷっと笑い、言った。
「……良かった。では、私はこれで……」
立ち上がり優雅に去っていこうとするリリアンヌ様。
私も立ち上がり勢い良く敬礼をした。
すると。
今までどこにいたのか、階段脇からスッと出てきた皇太子殿下がリリアンヌ様の腕を取った。
「リリアンヌ、少し待ってくれ」
「でぇ!?……これは、殿下。どうかなさいましたか?」
でぇ!?って言ったな、リリアンヌ様。
一瞬で顔も態度も変えられるなんて……これは特技だろうか?
私は邪魔しないように、じりじりと後ろに下がった。
すると、トンっと何かに当たる。
振り返るとそこには、キラキラと輝くクリム様!……と、陛下が。
「大儀であった。アンナ・オズワルド」
「はっ!」
陛下の労いに、私は身を翻し再度敬礼をする。
「お疲れ、アンナ」
と、今度はクリム様が労いのお言葉を!
「はいいっ!疲れてなんておりませんけど!」
あの程度で疲れるアンナではございません!!
クリム様のためならば、何人でも蹴って、殴って、撃ちまくりますとも!!
鼻息の荒い私を見て、陛下は豪快に笑い、愉快そうに言った。
「これは頼もしい伴侶を見つけたな。強く、美しく、誠実とは。グリュッセル家は盤石の構えだな」
「恐れ入ります、陛下」
クリム様が優雅に挨拶をするのを見て、私もペコリと頭を下げた。
珍しく誉められている……?
文句を言われることはあっても、誉められるなんて初めてかもしれない。
何だか少しむず痒いな。
「それに周りを見てみろ?各国の姫君達は、そなたの勇姿に釘付けだぞ?やれやれ、ジークの為に呼んだのだが、全てそなたに持っていかれたようだ」
陛下はまた豪快に笑ったが、私はゾッとした。
周りを見回した途端、いつか聞いた黄色い声が耳に飛び込んで来たからだ。
「きゃぁ!今、私を見たわ!」
「はぁ!?何を仰っているのかしら?私を見たのに決まっているわ!」
「ケンカは止めましょうよ、皆様。騎士様が困惑なさるわ」
青、赤、黄色。
三色の鮮やかなドレスの姫君がこちらを見て恥ずかしそうに頬を染めた。
その隣では別の姫君達も扇の隙間からこちらを見ている。
い、いや!それよりも!!
何か今、変な言葉が聞こえたぞ!?
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