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伯爵令嬢、奮闘中《15》アナライズ(クリム)
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「失礼。何だったかな?外にいたものでね。もう一度詳しく教えてくれないか?」
階下で睨みを利かせるテロリスト、いや、ジャビールザハの男。
奴は、人質の女性の首にダガーナイフを突き付けながら、私を真っ直ぐに見た。
思慮分別のない者ではないな。
周りの気配に耳を傾けつつも、正面の私の動作を見逃さない。
タイプ的にはクラインに近い。
そして、自分の命も、他人の命も同様に粗末にする人間だろう。
爆薬を体に巻いた男は、人の命令に従うしか能がないが、その信仰と信念は計り知れない。
こいつも恐らく、命に無頓着な人間だ。
「イライジャの皇太子を引き渡してもらおう。でなければ、みな共にあの世行きだ」
と、ナイフを持った男は、爆薬を巻いた男に準備をさせる。
彼は導火線に簡易マッチを擦る仕草して、私を牽制した。
「イライジャの皇太子……ええと、彼は、彼の名は確か?」
「エンヴィレオ・ファザ!!」
「ああ!そうそう!………でも、確か、イライジャのクーデターに巻き込まれ、そこで死んだのではなかったかな?」
飄々と話す私の態度に、ナイフを持った男はほんの少しだが、イライラしている。
「白々しい!……我々はそう思っていたのだ。いや、思わされていた……だが、ある筋の情報でこの国にエンヴィレオ殿下が囚われていることが知らされたのだ」
ある筋の情報…………。
ふぅん、それは詳しく聞きたいね。
「もしも。もしもだが、そのエンヴィレオ殿下がここに生きて囚われているとして。君達は彼を解放してどうするのかな?」
私はやんわりと尋ねた。
ナイフを持った男はその手を少し弛めたが、眼力は衰えない。
「お前になんの関係がある?」
「あるさ。こんなところで、脅されてるんだぞ。しかも、爆発で死ぬかもしれない。そのくらい教えてくれてもいいじゃないか?」
「……………………………」
言うつもりはない、か。
だが、こちらはその答えを是非とも引き出したいのだ。
悠長に交渉しているのが無駄ならば、拘束して後、ゆっくりと聞くことにしよう。
さてと。
ではここらで、少し揺さぶってみるとするか?
「そうだな……事と次第によっては……考えなくもないが?」
「な!?……本当か!?」
明らかに顔色が変わった……。
なるほどな。
これは、彼らにとっては交渉ではなかったか。
元より聞いて貰える願いではない、とわかっていたのだろう。
だとすれば、玉砕覚悟。
この国の中枢を巻き込んで、ダメージを与えたい誰かが、エンヴィレオをエサにジャビールザハを唆し、送り込んで来たということか。
「君の名前は?」
「………は?言うと思うのか?」
「思わないが、交渉をしたよしみで教えてくれてもいいんじゃないか?」
「…………………」
「私は名乗ったのだが?」
その言葉に、ナイフを持った男は重たい口を開いた。
つまり、彼は育ちがいい。
名乗った相手に名乗り返さないなどという不義は出来ない性質だ。
「ラティーフ………」
「ラティーフ……そうか。ありがとう」
私はにっこり笑っておいた。
ああ!そうそう。
まだ聞きたいことがあったんだ。
「それで、ラティーフ。君達はどうやってここに入れたんだ?招待状を持っていないと入れないはずだが?」
今日の招待客は王族が多く警備も厳重だ。
出入りも厳しくチェックされる。
正門をくぐる前に、招待状を確め、この会場入り口でそれを回収する、二重の体制を敷いていたのだが?
「……国境付近で、入れ替わったのさ。身ぐるみ剥いでな」
「王族と?」
「ローランのな。後は簡単だったぞ」
そうだろうな。
ローラン……小国だからか、あまり警備に人員を割けなかったのだろう。
狙われても当然だな。
まぁ、ここまではあいつの情報の通りか。
しかしこうなったら、国境でのチェック体制も大幅に変えなくては。
王族であろうがなんだろうが、身体検査はするべきだな。
あとは、軍の人員を南の国境付近に多めに割いて貰おう。
どうもキナ臭い気がするからな。
一通り頭の中で、策を講じると、私は目の前のラティーフを見た。
決して頭の悪い男ではない。
だが、交渉の場に出てくるには、まだ経験が足りないようだ。
その証拠に、迂闊にも軽く名を教えてしまっている。
名前を教えるということは、ある程度踏み込ませても良いという態度の表れだが、それは心を許すということではない。
心を許さず、心を乱さす。
これが出来なければ、交渉の場に立つ資格はない。
まぁ、確かに……エンヴィレオを返して貰えるかもしれないという希望に胸を踊らせるのはわからんでもない。
だが甘い甘い。
「事と次第によっては、考えなくもない」
なんて、約束でも何でもないからな。
「それで、エンヴィレオ殿下を連れてくるのか!?」
おっと、せっかちだな。
せっかちは命を縮めるぞ、と言っても遅いかな。
私は2階から、凛々しく美しい騎士の視線を感じていた。
ざっと必要な情報を彼女に伝えると、後はもう騎士の降臨を待つだけ。
「ああ、エンヴィレオ殿下ね……くくっ、いいよ。ただ少しお転婆になってるかもしれないが。それと、頭には気をつけて。アレを持ってる時の彼女は鬼神のごとき強さだからね」
「は!?」
驚きの声を上げたラティーフを無視して、私はニッコリと笑った。
天からふわりと深紅のカーテンが舞い、五色のマントがヒラリと靡く。
そして……音もなく降り立った彼女は、渾身の脳天蹴りをラティーフにかましたのだった。
階下で睨みを利かせるテロリスト、いや、ジャビールザハの男。
奴は、人質の女性の首にダガーナイフを突き付けながら、私を真っ直ぐに見た。
思慮分別のない者ではないな。
周りの気配に耳を傾けつつも、正面の私の動作を見逃さない。
タイプ的にはクラインに近い。
そして、自分の命も、他人の命も同様に粗末にする人間だろう。
爆薬を体に巻いた男は、人の命令に従うしか能がないが、その信仰と信念は計り知れない。
こいつも恐らく、命に無頓着な人間だ。
「イライジャの皇太子を引き渡してもらおう。でなければ、みな共にあの世行きだ」
と、ナイフを持った男は、爆薬を巻いた男に準備をさせる。
彼は導火線に簡易マッチを擦る仕草して、私を牽制した。
「イライジャの皇太子……ええと、彼は、彼の名は確か?」
「エンヴィレオ・ファザ!!」
「ああ!そうそう!………でも、確か、イライジャのクーデターに巻き込まれ、そこで死んだのではなかったかな?」
飄々と話す私の態度に、ナイフを持った男はほんの少しだが、イライラしている。
「白々しい!……我々はそう思っていたのだ。いや、思わされていた……だが、ある筋の情報でこの国にエンヴィレオ殿下が囚われていることが知らされたのだ」
ある筋の情報…………。
ふぅん、それは詳しく聞きたいね。
「もしも。もしもだが、そのエンヴィレオ殿下がここに生きて囚われているとして。君達は彼を解放してどうするのかな?」
私はやんわりと尋ねた。
ナイフを持った男はその手を少し弛めたが、眼力は衰えない。
「お前になんの関係がある?」
「あるさ。こんなところで、脅されてるんだぞ。しかも、爆発で死ぬかもしれない。そのくらい教えてくれてもいいじゃないか?」
「……………………………」
言うつもりはない、か。
だが、こちらはその答えを是非とも引き出したいのだ。
悠長に交渉しているのが無駄ならば、拘束して後、ゆっくりと聞くことにしよう。
さてと。
ではここらで、少し揺さぶってみるとするか?
「そうだな……事と次第によっては……考えなくもないが?」
「な!?……本当か!?」
明らかに顔色が変わった……。
なるほどな。
これは、彼らにとっては交渉ではなかったか。
元より聞いて貰える願いではない、とわかっていたのだろう。
だとすれば、玉砕覚悟。
この国の中枢を巻き込んで、ダメージを与えたい誰かが、エンヴィレオをエサにジャビールザハを唆し、送り込んで来たということか。
「君の名前は?」
「………は?言うと思うのか?」
「思わないが、交渉をしたよしみで教えてくれてもいいんじゃないか?」
「…………………」
「私は名乗ったのだが?」
その言葉に、ナイフを持った男は重たい口を開いた。
つまり、彼は育ちがいい。
名乗った相手に名乗り返さないなどという不義は出来ない性質だ。
「ラティーフ………」
「ラティーフ……そうか。ありがとう」
私はにっこり笑っておいた。
ああ!そうそう。
まだ聞きたいことがあったんだ。
「それで、ラティーフ。君達はどうやってここに入れたんだ?招待状を持っていないと入れないはずだが?」
今日の招待客は王族が多く警備も厳重だ。
出入りも厳しくチェックされる。
正門をくぐる前に、招待状を確め、この会場入り口でそれを回収する、二重の体制を敷いていたのだが?
「……国境付近で、入れ替わったのさ。身ぐるみ剥いでな」
「王族と?」
「ローランのな。後は簡単だったぞ」
そうだろうな。
ローラン……小国だからか、あまり警備に人員を割けなかったのだろう。
狙われても当然だな。
まぁ、ここまではあいつの情報の通りか。
しかしこうなったら、国境でのチェック体制も大幅に変えなくては。
王族であろうがなんだろうが、身体検査はするべきだな。
あとは、軍の人員を南の国境付近に多めに割いて貰おう。
どうもキナ臭い気がするからな。
一通り頭の中で、策を講じると、私は目の前のラティーフを見た。
決して頭の悪い男ではない。
だが、交渉の場に出てくるには、まだ経験が足りないようだ。
その証拠に、迂闊にも軽く名を教えてしまっている。
名前を教えるということは、ある程度踏み込ませても良いという態度の表れだが、それは心を許すということではない。
心を許さず、心を乱さす。
これが出来なければ、交渉の場に立つ資格はない。
まぁ、確かに……エンヴィレオを返して貰えるかもしれないという希望に胸を踊らせるのはわからんでもない。
だが甘い甘い。
「事と次第によっては、考えなくもない」
なんて、約束でも何でもないからな。
「それで、エンヴィレオ殿下を連れてくるのか!?」
おっと、せっかちだな。
せっかちは命を縮めるぞ、と言っても遅いかな。
私は2階から、凛々しく美しい騎士の視線を感じていた。
ざっと必要な情報を彼女に伝えると、後はもう騎士の降臨を待つだけ。
「ああ、エンヴィレオ殿下ね……くくっ、いいよ。ただ少しお転婆になってるかもしれないが。それと、頭には気をつけて。アレを持ってる時の彼女は鬼神のごとき強さだからね」
「は!?」
驚きの声を上げたラティーフを無視して、私はニッコリと笑った。
天からふわりと深紅のカーテンが舞い、五色のマントがヒラリと靡く。
そして……音もなく降り立った彼女は、渾身の脳天蹴りをラティーフにかましたのだった。
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