少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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Extra Ausgabe

伯爵令嬢、奮闘中《10》平穏を切り裂くもの

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ブルブルと足の震えが止まらない私を、クリム様はヒョイとお姫様のように持ち上げた。

「ダメです!重いですから!クリム様の腰が大変なことになりますよ!」

「……また、君は……私はそんなにヤワでもなければ、繊細でもない。どちらかというと面の皮は厚い方だし、人より鍛えているんだが?」

「しかし……」

「あのな、ローラントやレオン、ヴィクトール等とは比べてくれるなよ?あいつらは化け物だからな。私はあれらと比べると一般的だが、それでもアンナを抱き上げるくらい容易いことなのだがね」

クリム様の少し拗ねたような顔。
それが堪らなく可愛いと思ってしまった。
容易い……か。
それでもこんな風に、か弱い女性扱いされるのは……とても、恥ずかしいものなのです。

「で、では、足が元に戻るまで……お願い致します」

「ああ。問題ない」

私はクリム様に抱かれたまま、ダンスの輪を外れた。
殿下に離して貰えないリリアンヌ様が、不屈の精神力で3曲目を踊っている。
それを尻目に、私達は会場の外、三日月の見える庭に移動した。
前に見たときは、満月だった。
その時よりも光は弱いが、控えめな輝きがクリム様の美しさをより際立たせている。

「もう、大丈夫です」

誰も見てないし、もう少しこうしていたい。
本当はそう思っていたが、クリム様が疲れてはいけない。

「誰も見てないし、もう少しこのままでいよう、嫌か?」

嫌だなんてーーー!!
私も今そう思ったんですよ!!
すごーい!以心伝心!?
テレパシー??
脳内で暴れだす、いろんなものを押さえ込み、私はやっと一言、口に出したのだ。

「はい」

その返事に、クリム様は満足そうに頷いた。


いくらか時間が経ち、会場内は4曲目が終わったところだ。
クリム様と私は、噴水の前で、大切なことからほんのつまらないことまで、思い付くままに語り合った。
考えてみると、こんなに長くお喋りをするなんて、初めてではないだろうか?
お忙しいクリム様は、舞踏晩餐会も仕事の一環で来ているから、本来ならこんな風に、私に付きっきりなのはまずいのだと思う。
だけど、楽しくて。
楽しくて私は、自分からそれを言い出そうとはしなかった。
もう少し、もう少し。
クリム様を独り占めしても、いいだろうか?
そんな思いが胸を埋め始めた時ーー。

舞踏会場内に異変が起こった。


6曲目を奏でていた楽団の演奏が突然止まる。
曲の終わりでならそれもわかるが、始まってものの数秒である。

「クリム様……音楽が……」

「ああ……」

私達は座った噴水の前から、急ぎ会場まで向かった。
そして、音をたてずに、そっと窓に近付き様子を窺う。
窓際には、たくさんの人が押し寄せ、出来るだけ中央から離れたい、というように身を屈めたり、しゃがんだりしていた。

「何でしょうか……」

「アンナ、外から2階に回ろう。ここからじゃ見えない」

「はい」

クリム様は、勝手知ったるかのように最短ルートを選び城の2階に回り込んだ。
先程、陛下と殿下に挨拶した場所の窓から忍び込み、そっと大階段へと向かう。
大理石の太い柱に隠れながら進み、クリム様はサッと手で合図を送った。

(そこで待機。下を見ろ)

その軍隊式の合図を見て、私は頷き、言われた通りに下を確認する。

舞踏会場内には、中央に3人がいて、それを囲むように近衛兵が剣を構えていた。
……その3人の内、2人は男、1人は女性でどこかの姫君だろうか……人質になっているようだ。
男の1人は女性の首を自分の腕で絞め、ナイフを突きつけている。
そして、もう1人の男は……なんだ……あれは!?
男の体には10センチ四方の何かが、上半身びっちりと張り付けられている。
私はクリム様を見た。
クリム様は私の表情を見て、何が言いたいのか、わかったようだ。

「男の体に巻かれているのは、爆薬だな……ざっと見て……軽くこの建物を破壊するくらいの威力がある」

極小さい声でクリム様が囁く。

「……なんてこと……一体何者でしょう……どうしてこんなことを」

私も小声で尋ねる。

「イライジャを……知ってるか?」

「南方の国、たしか、皇太子が暗殺されたとかいう……?」

「そうだ。男達の肩口に見える紋章、あれはイライジャで反乱を起こした武装組織ジャビールザハ。過激なテロリストどもだ」

「テロリスト……目的は?」

「……さぁ……それは良くわからないが……」

嘘だ。
私は、クリム様の答えに少しの躊躇いを感じた。
《良くわからない》じゃなく、それは、かなりの機密事項だったのではないか?























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