少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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Extra Ausgabe

伯爵令嬢、奮闘中《2》レッスン

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「あー……今日も疲れたーー……」

ふかふかベッドに体を預け、その心地よさに目を瞑る。
仕事終わりの憩いの一時。
夕食まではまだ時間があるな、と私はベッドの上で伸びをした。

ここはグリュッセル邸。
私、アンナ・オズワルドが与えられた私室である。
昇進し、異動になった私は、ここから軍中央本部まで通っている。
実家よりも遥かに近いから、というのは建前。
この婚約期間中になんとか公爵夫人としての最低限の教養を身につけさせようとする鬼ラングの提案である。
もちろん、麗しきクリム様はそんなことにこだわらない。

『特に何もしなくても、アンナは素敵だよ』

とあまーく、言ってくれるのだ!!
その度に私は床に倒れ込み、のたうち回りたい衝動と必死で戦っている。
何故ならば!本当にのたうち回ると、背後から鬼がやって来て、手刀を食らわせてくるからだ。
さすが、クライン様の元上司、鬼は気配を全く感じさせず近付いてくる。
伝説級の暗殺者だというのも、ウワサではないかもしれない。
私はこのラングとの戦いを勝手に『鬼ごっこ』と命名している。
いかに彼から逃げ、心の平安を保つか、が重要なのだ!
……じゃないとやってられない……

週のうち5日は朝から夕方まで本部勤務。
グリュッセル邸に帰ってからマナーとダンスのレッスンをする。
それがだいたい夜遅くまでつづく。
仕事が休みの日にはまず暗記。
主に貴族名鑑に載っている人の名前と顔を頭に叩き込むのだ。
軍部畑の私は、貴族の顔や名前なんてほとんどわからない。
どれも同じ人間に思えるし、全員カボチャに見えてしまう。
………いや、それは言い過ぎかも。
とにかく、一から覚えなくてはならないから大変だ。
次は、グリュッセル家の歴史の授業。
代々の当主がどういった仕事をしたのかを学ぶ。
これは、書物では残していない為、ラングが口伝で教えてくれる。 
何故だろうと思ったが、それは学んだ内容を知ると納得した。
世間で言う裏の権力者、その力を遺憾無く発揮した闇仕事のオンパレード。
こんな物騒なこと文書で残したら、えらいことになる!
そういう理由があってのことだったのだ。
最後は、鬼ラングと体術や護身術の手合わせをする。
これは得意分野だし、日頃の鬱憤を晴らすことのできるいい機会だ。
しかし……鬼は容赦なかった。
全力で私の背後を取ると、まるで遊んでいるかように翻弄し最後には本気の拳を振るってくる。
それを避けるのに必死で、なかなか有効な一打を与えられないのがつらい……。
鬱憤晴らすどころか、溜まりまくりだよ……。
教養を詰む前に、命が摘まれそう。

それでもここにいて楽しいこともたくさんある。
まず、ご飯がウマイ!!
軍の、こってり油の大量スタミナ飯も良かったけど、グリュッセル家の健康に配慮した食事はさすが一流。
美味しい上に、体にいいなんてね!
出来るだけ自然栽培で、化学肥料を使わない……なんてったっけ?えーと。
あ、有機栽培(オーガニック)!!
そう、有機栽培(オーガニック)の食品を使っているのだ!
これは邸の裏手の温室で栽培されている。
管理は徹底され、鍵のかかった温室は研究主任と世話係りの人、グリュッセル家の筆頭料理人とラングしか入れない。
実はこれも、暗殺防止の為だったりする。
その昔、まだザナリアが権力派閥闘争に明け暮れていた頃、間者として入り込んだ料理人が家族に毒を盛るという事件が多発した。
するとグリュッセル家は、いち早く自邸に菜園を作り、料理人と世話係を徹底的に吟味した。
家族構成、生い立ち、趣味、趣向、借金の有無等全てを。
今グリュッセル家にいる使用人達は、そういったものを全てクリアしている、ある意味エリート。
中には親や、祖父母の代からお仕えしているという人もいるくらいだ。
それを考えるとオズワルド家なんてザルだねザル……。
たぶん誰かが入り込んでいても気づかないんじゃないかな?
うん、あの家ならありそうだな……。
……あれ?でもそんなに警戒心が強い家に、私、よく認められたよね?
よく考えたらこれ、すごいことなんじゃ……。
……ちょっと怖くなってきたぞ……。

































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