少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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Extra Ausgabe

伯爵令嬢、奮闘中《1》あれから

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輝く月の夜、私はクリム様の素敵なプロポーズに返事をした。
だが、その返事と来たら………。
『はいいっっ!喜んでーー!』
と敬礼をしてしまう……という色気のないものとなった。
それなのにクリム様は、麗しく笑って抱き締めてくれたりなんかしたりして………ふふ……ふふふふ。
あ、いかん!また口許が緩む……。
油断すると、つい気持ち悪く笑ってしまう。
それほど、この時の私は舞い上がっていたのだ!

それから次の日の朝、オズワルド伯爵家に使いがやって来た。
もちろん、グリュッセル公爵家から。
そして、経緯を父に報告すると、婚約の承諾を取り付けたのだ。
父は二つ返事で了承した。
そうだよね、だって、薄々知ってたんだろうから。
一応『婚約期間』を儲けたのは、奥方様の出産を見越してのことだ。
出産後、ハインミュラー家が落ち着けば、こちらの結婚式を執り行う手筈になっている。
奥方様にも閣下にも、ハインミュラー家の人にも来て貰う予定だ。
後の問題は仕事の件。
私はてっきり軍を辞めなくてはいけないんだと思っていた。
でも、クリム様は辞めなくてもいいって言ったんだよね。
これにはもうびっくりした!
だって、あの!天下のグリュッセル家の当主の妻ですよ!?
当然、仕事なんてやってる暇ない!と思うじゃないですか!?
やれパーティーだ、どこそこのなんちゃら婦人のサロンだと、わけのわからない会合に出席しなければいけないのだと戦々恐々としていたのだが……。
どうもその考えは間違っていたようだ。
舞踏会や晩餐会、サロンやパーティーは事前に精査され、政治的思惑の絡んだもの以外は出席しない。
つまり、大事なもの以外は出ない!ということだ。
本当に助かった!そんなものにばっかり出ていたら、私、絶対心労で禿げる。
世の奥方連中は、良く禿げないものだと感心するよ。

さて、仕事をやめなくて済んだのは上々だけど問題はまだある。
勤務地の問題だ。
ザクセンまで毎日通勤は無理だし、かといって遠距離婚約なんて絶対嫌だ!
そう思っていたら!なんと!
私は本部に異動になり、ついでに昇進もした!
私は………中佐になった!!
今は、オズワルド中佐だが、結婚後はグリュッセル中佐だ!
グリュッセル中佐……うん、いい響き!!
とても強そうな名前だ!
ザクセンからの昇進は、軍人のテンプレエリートコースなのだが、私はどうもそれだけではないと睨んでいる。
きっと、クリム様&グリュッセル家の仕業だろう。
ザクセンに閣下と准将、本部に私とレオン大佐、この主軸で軍部を押さえるつもりであるのはだいたいわかる。
グリュッセル家が、単に権力だけを求めるものならば、私はそんな思惑にのりはしない。
だが、彼らは全員が体を張ってこの国を守っている。
その一員になり、クリム様をお守りすること、それが今の私の誇りなのだ。

そして、グリュッセル家から結婚の申し込みをされたオズワルド家は、当然のように首都グノーセントで噂の的になった。
軍人一家の伯爵家。
その武骨な家の男のような娘が、なんと、数ある公爵家でもその筆頭、グリュッセル家の当主の妻である。
この両家の婚姻の話は、瞬く間に首都グノーセントから地方へと広まった。
すると、見たこともない親戚がやたらと増えたり、普段は全く交流もない、遠くの親戚も用もないのにやってきたりする。
そういった現象に、父も母もほとほと疲れ果てていた。
それでも、兄ファデラーと私の結婚が同時期に決まったことに2人ともほっとしていたようだ。
特に私に関してはそうだったと思う。
きっと独身で一生を過ごすんだと思っていたはずだ。
当の私でさえ、そう考えていたのだから。
人生何が起こるかわからない。
クリム様は一体私のどこが良かったのか?
取り立てて、銃の扱い以外に秀でた所もないし、アホとか変態とか言われることの方が多い。
そんな女で良いというのだから……もう幸せすぎて死ぬ。
あの美しいクリム様が旦那様で、麗しい奥方様が妹。
クライン様………は、まぁ置いといて、素敵なオジサマのノイラート様がお義父様。
これで、ルイーシャ様がいらっしゃればどんなに華やかになったことか……。
それだけが悔やまれてならない。
奥方様に良く似たルイーシャ様。
一度お義母様と呼びたかった………。
と、私は感慨深く目を閉じた。



「はぁ…………現実逃避も大概になさい」

ん?空耳かな?

「何を一人で回想シーンに入ってるのか知りませんがね、ステップの1つでもまともにこなせているんですか!?」

何で回想しているのがバレたんだ!?

「私、生まれてこの方、あなたのように物覚えの悪い人は初めて見ました。これでは……皇帝陛下主宰の舞踏晩餐会には間に合いませんよ??」

うぅ……そこまで言わなくても……。

「クリム様に恥をかかせてもよろしいので?」

それは駄目だっ!!
それだけは!!

「すみません……もう一度最初から……お願い……します……」

私はのそのそ立ち上がり、グリュッセル家の遊戯室で、執事のラングに懇願した。
一週間後に迫った皇帝陛下の舞踏晩餐会に、クリム様と行くことになったのだ。
婚約者として!!
だが、はっきり言って私のダンスは酷い。
もう、見れたもんじゃない。
見かねたラングが指導を申し出てくれたのだが。
この執事、とんでもなく鬼だったのである。

「よろしい!!では曲の頭から」

ラングはパンパンと手を叩き、グリュッセル家お抱え楽団に指示を出した。
私だけの為に、お抱え楽団を呼んだのである。
いくら本番と同じようにとはいえ、グリュッセル家、楽団持ってるなんて凄すぎる。

「さぁ、それでは、どうぞ」

鬼ラングは私に手を差し出した。
私もその手を取る。

ああ………グリュッセル家の当主の妻って……結構大変だ………。










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