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Extra Ausgabe
クリスタ・ルイスはかく語れり③ クリスマスSS
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ルドガーを駅前で待たせたまま、見知った商店街の一角を抜けて行くローラントと私。
良く行くカフェの三つ隣、あるのは知っていたけど、入ったことがない『アルバートン宝飾店』の扉をローラントはスイッと入って行く。
「いらっしゃいませ!あ、これはハインミュラー様!!」
店員?いえ、恐らく店主ね。
恰幅が良く、年は40半ばくらいの男は朗らかな笑みを浮かべてローラントに近づいて来る。
「これは奥様!初めまして、私、クレスト・アルバートンと申します。ようこそお出でくださいました!」
この状態を見て、良く普通に接客出来るわね?
まったく顔色を変えないわ、さすがプロフェッショナル!!
「どうもこんにちは!クリスタです」
軽く挨拶をすると「ささ、どうぞ」と、奥の応接間に通されたの。
ソファーを勧められたローラントは、私を横抱きのまま腰かけましたよ。
隣に下ろしてくれればいいものを、どう考えても、これ、おかしいわよね!?
「ご注文の品、出来上がっておりますよ」
ご注文の、品??
ローラント何か買い物を?
え、ローラントが!?宝石を!?
そんな一番縁遠いものを買うなんて、どうしたのローラントーー!
私が溢れ落ちそうな目でローラントをガン見すると、彼はとても優しく目尻を下げた。
そして、言ったの!!
「約束してた結婚指輪。やっと渡せることになったよ」
「けっ?…………ゆっ?」
「ん?」
忘れていました…………。
そういえば役所に言ったときに、そういう約束をしましたね!
興味がないので頭から消えていたわ!
「まぁ……ローラント。良く覚えていたわね?」
「君との約束をオレが忘れると思うのか?例えヴィクトールの祝祭日休暇の承認印を忘れたとしてもこれは忘れない!!」
悪魔の所業!!
それ、あんまりじゃないの!?
そりゃあ、未だにヴィクトールは一人者で特に予定も無さそうだけど、祝祭日くらい休ませてあげなさいよー。
「……あ、うん。そうなのね」
悪いわね、ヴィクトール。
今度、埋め合わせはするからっ!
と、私は気の毒なヴィクトールのことを考えるのを止めてしまった。
目の前ではクレストさんが5センチ四方の小さな箱を、ローラントの前に差し出しているわ。
一つ頷いたローラントを見て、クレストさんが箱をゆっくりと開けると。
中から出てきたのは深い蒼の宝石がついた指輪。
その周りには、ほぼ透明に近い不思議な輝きの石が、不揃いな大きさでちりばめられている。
これは……クレセントナイト!!
「どう??」
ローラントの問いかけに、私は言葉をなくしてすぐには答えられなかったのよ。
だって、あまりに素晴らしいんですもの!!
値段とか石の品質の問題ではありません。
中央の石はお義母様のネックレスのもの、そして、周りのクレセントナイトはファルタリア鉱山で採れたもの。
そして、このデザイン……。
これはきっと。
「………とても素晴らしいわ……デザインを考えたのはローラント、あなた?」
「わかるか?」
「わかるわ!!」
蒼い石が私だとすれば、すぐそばの一番大きいクレセントナイトがローラント。
大きさを変えて、マリア、ヴィクトール、アイスラー、アーベル、オズワルド少佐にレオン……。
その他私に関わる全ての人をこの指輪で表したのね。
これはもう、私の宝物だわ!!
「こんなデザインを思い付くのはあなただけだもの。一番私を理解して、一番私の近くにいる。そして、私が一番喜ぶことを知っている」
「当たり前だ。この世でオレが一番君を愛しているからな」
ローラントは寒さも吹っ飛ぶような蕩ける笑みを私に向けてきた。
ええ、私としても良くできたこの旦那様へのご褒美を考えなくてはならないのだけど。
それよりもまず、プロフェッショナルの仮面が剥がれかかっているクレストさんのことも考えなければ!
今にも顔を寄せて来ようとするローラントをなんとか押し留め、私はクレストさんに言ったわ。
「素敵に仕上げて下さってありがとう!クレストさん」
「あ、あ、いえ!とんでもございません。ハインミュラー様のお仕事をさせてもらえるなんて光栄なことです。今回はそれにもましてクレセントナイトを扱うことが出来たんですから。職人冥利につきるというものです」
クレストさんは感無量というように右手で胸を押さえた。
ザナリアではクレセントナイトはあまり流通していないものね。
ザックス達が頑張っているとはいえ、まだまだ採掘量は少ないの。
しかも、加工は熟練の職人のみで……。あら?クレストさんは加工出来たのかしら?
「つかぬことをお伺いするけど、クレストさんはクレセントナイトの加工が出来るの?あれは、ファルタリアの職人でないと難しいとか……」
「ええ!そうなんです!ですから、フローリア商会の方から職人を派遣してもらいまして、手解きを受けながら頑張りました!いやぁ、筋が良いと言われましたよ」
なるほど。
さすがフローリア商会だわ。
クレセントナイトを売り、加工の為に職人を派遣して更に儲ける。
もう、笑いが止まらないわね!
「そうですの?どちらにしろとても良い仕上がりで大満足ですわ!これは、首都の方でも大いに宣伝しないといけませんね!」
私がニッコリと微笑むと、クレストさんは商売人らしく、揉み手で身を乗り出した。
「おお!それはありがたい!どうぞ、クライムシュミットのアルバートン宝飾店の名前も一緒にお願いします!」
「もちろんですわ!兄も近々婚約する予定ですからね。よーく言っておきますね」
と、極上の笑みで答えておいた。
そうそう、地域には還元しないとね!
私も頑張りますよ、このハインミュラー領の為にね!
良く行くカフェの三つ隣、あるのは知っていたけど、入ったことがない『アルバートン宝飾店』の扉をローラントはスイッと入って行く。
「いらっしゃいませ!あ、これはハインミュラー様!!」
店員?いえ、恐らく店主ね。
恰幅が良く、年は40半ばくらいの男は朗らかな笑みを浮かべてローラントに近づいて来る。
「これは奥様!初めまして、私、クレスト・アルバートンと申します。ようこそお出でくださいました!」
この状態を見て、良く普通に接客出来るわね?
まったく顔色を変えないわ、さすがプロフェッショナル!!
「どうもこんにちは!クリスタです」
軽く挨拶をすると「ささ、どうぞ」と、奥の応接間に通されたの。
ソファーを勧められたローラントは、私を横抱きのまま腰かけましたよ。
隣に下ろしてくれればいいものを、どう考えても、これ、おかしいわよね!?
「ご注文の品、出来上がっておりますよ」
ご注文の、品??
ローラント何か買い物を?
え、ローラントが!?宝石を!?
そんな一番縁遠いものを買うなんて、どうしたのローラントーー!
私が溢れ落ちそうな目でローラントをガン見すると、彼はとても優しく目尻を下げた。
そして、言ったの!!
「約束してた結婚指輪。やっと渡せることになったよ」
「けっ?…………ゆっ?」
「ん?」
忘れていました…………。
そういえば役所に言ったときに、そういう約束をしましたね!
興味がないので頭から消えていたわ!
「まぁ……ローラント。良く覚えていたわね?」
「君との約束をオレが忘れると思うのか?例えヴィクトールの祝祭日休暇の承認印を忘れたとしてもこれは忘れない!!」
悪魔の所業!!
それ、あんまりじゃないの!?
そりゃあ、未だにヴィクトールは一人者で特に予定も無さそうだけど、祝祭日くらい休ませてあげなさいよー。
「……あ、うん。そうなのね」
悪いわね、ヴィクトール。
今度、埋め合わせはするからっ!
と、私は気の毒なヴィクトールのことを考えるのを止めてしまった。
目の前ではクレストさんが5センチ四方の小さな箱を、ローラントの前に差し出しているわ。
一つ頷いたローラントを見て、クレストさんが箱をゆっくりと開けると。
中から出てきたのは深い蒼の宝石がついた指輪。
その周りには、ほぼ透明に近い不思議な輝きの石が、不揃いな大きさでちりばめられている。
これは……クレセントナイト!!
「どう??」
ローラントの問いかけに、私は言葉をなくしてすぐには答えられなかったのよ。
だって、あまりに素晴らしいんですもの!!
値段とか石の品質の問題ではありません。
中央の石はお義母様のネックレスのもの、そして、周りのクレセントナイトはファルタリア鉱山で採れたもの。
そして、このデザイン……。
これはきっと。
「………とても素晴らしいわ……デザインを考えたのはローラント、あなた?」
「わかるか?」
「わかるわ!!」
蒼い石が私だとすれば、すぐそばの一番大きいクレセントナイトがローラント。
大きさを変えて、マリア、ヴィクトール、アイスラー、アーベル、オズワルド少佐にレオン……。
その他私に関わる全ての人をこの指輪で表したのね。
これはもう、私の宝物だわ!!
「こんなデザインを思い付くのはあなただけだもの。一番私を理解して、一番私の近くにいる。そして、私が一番喜ぶことを知っている」
「当たり前だ。この世でオレが一番君を愛しているからな」
ローラントは寒さも吹っ飛ぶような蕩ける笑みを私に向けてきた。
ええ、私としても良くできたこの旦那様へのご褒美を考えなくてはならないのだけど。
それよりもまず、プロフェッショナルの仮面が剥がれかかっているクレストさんのことも考えなければ!
今にも顔を寄せて来ようとするローラントをなんとか押し留め、私はクレストさんに言ったわ。
「素敵に仕上げて下さってありがとう!クレストさん」
「あ、あ、いえ!とんでもございません。ハインミュラー様のお仕事をさせてもらえるなんて光栄なことです。今回はそれにもましてクレセントナイトを扱うことが出来たんですから。職人冥利につきるというものです」
クレストさんは感無量というように右手で胸を押さえた。
ザナリアではクレセントナイトはあまり流通していないものね。
ザックス達が頑張っているとはいえ、まだまだ採掘量は少ないの。
しかも、加工は熟練の職人のみで……。あら?クレストさんは加工出来たのかしら?
「つかぬことをお伺いするけど、クレストさんはクレセントナイトの加工が出来るの?あれは、ファルタリアの職人でないと難しいとか……」
「ええ!そうなんです!ですから、フローリア商会の方から職人を派遣してもらいまして、手解きを受けながら頑張りました!いやぁ、筋が良いと言われましたよ」
なるほど。
さすがフローリア商会だわ。
クレセントナイトを売り、加工の為に職人を派遣して更に儲ける。
もう、笑いが止まらないわね!
「そうですの?どちらにしろとても良い仕上がりで大満足ですわ!これは、首都の方でも大いに宣伝しないといけませんね!」
私がニッコリと微笑むと、クレストさんは商売人らしく、揉み手で身を乗り出した。
「おお!それはありがたい!どうぞ、クライムシュミットのアルバートン宝飾店の名前も一緒にお願いします!」
「もちろんですわ!兄も近々婚約する予定ですからね。よーく言っておきますね」
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