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Extra Ausgabe
出産狂想曲②~従軍記者ジェシカ
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「ああっ!どうすればいいでしょうか!?こんな時に!こんな大事な時にっ!」
執事は蒼白を通り越して、土気色になりもう倒れそうだ。
「……熊……閣下は帰ってるの?」
「いえ。恐らく次到着する列車で帰ってくる筈ですが……」
「そう……」
私は頭をフル回転させた。
まず第一に、クリスタ嬢に安全に出産して貰わなければならない。
母子ともに健康体で!だ。
これは、世界の平和の為に最低限必要なことである。
そうしないと熊……いや、閣下が間違いなく世界を滅ぼす。
そうさせないために、私の出来ること……それは……。
「ねぇ、この辺りにレスボン新聞社ってあったわよね?」
「あ、はい……そこの角を曲がって真っ直ぐ……」
執事の指差す方を見ると、カメラ機材を抱えた記者が見えた。
この事故の取材と撮影にやって来たんだろう。
その中の一人に見覚えがあった私は、執事に言った。
「私、なんとかしてここに近場から医術士を集めるわ!そしたら産科医の手が空くわよね?」
「え、ええ。まぁ、そうですが。しかし、どうやって?それに、車が動かないので屋敷まで行くことが出来ません」
「大丈夫、私に考えがあるわ!それよりも、閣下が来たら伝えて!《世界の平和とクリスタ嬢達はジェシカ・ハーネスが守る》って!だから、ここで救助活動を手伝ってって!」
「……は、はぁ……しかし……」
「何回か面識があるだけの女に、こんな大事ことを任せるのは心配でしょう。でもね、そんなこと言ってる時間はないの!クリスタ嬢、大変なんでしょう!?」
執事はぐっと拳に力を込め頷いた。
不本意だろうけど、事は一刻を争う。
子供は出てくるのを待ってはくれないんだから!
「じゃあ、よろしく頼むわね!」
「は、はい!」
私は、怪我した運転手を執事に任せ、直ぐ様走り出した。
レスボン新聞社の記者は、用意した大きなカメラを抱え、事故車両に近付いている。
その前に私は飛び出した。
「アンドレス!アンドレス・ツーリア!」
粋な帽子を被った丸眼鏡の男は、驚いてこちらを見る。
セントラルの新聞社で一時研修を共にしただけだったけど、覚えているだろうか?
だが、そんな不安はすぐ払拭された。
「……あっ!ジェシカ・ハーネス?久しぶりー!どうしたの?事故で身動きとれなくなった?」
「まぁね。それで、あなたレスボンにいるのよね?」
「うん、そうだけど……」
アンドレスは事故現場を窺いつつ、私に答える。
記者なら、スクープに食い付くのは当然でアンドレスもこの機を逃したくはない筈だ。
その証拠に少しイラついている。
しかし。
私は今、世界一の美少女、クリスタ嬢を助けるという使命を背負っている。
ついでに世界の平和もだ。
誰がこの崇高な使命を止められようか!
「アンドレス!レスボンの電信機、使わせてっ!」
「え?……え……なんで?君、今、軍部所属だよね?ザクセンへでも送るのかい?」
「いいえ。でも、非常事態なの!早くしないと、ここがこれ以上の焼け野原になるわよっ!」
「……えぇーー……何それ……」
アンドレスは俄には信じがたい、という顔をした。
当然だ。
明日の一面を飾る写真と記事を手に入れる方が、彼にとっては重要なのだから。
「アンドレス。ローラント・ハインミュラー閣下のことは知ってるわよね?」
「もちろん!何度も取材させて貰ってるからね!」
「彼の奥様、クリスタ嬢が今まさに、生きるか死ぬかの瀬戸際よ!私、クリスタ嬢を助ける為に動いているの!」
ちょっと大袈裟に言いすぎた……。
だけど、効果は抜群だった。
閣下の愛妻っぷりはここハインミュラー領、ひいてはザナリア全土に広まっている。
あの帝国を巻き込んだ名目上の軍事演習。
それが、クリスタ嬢を奪おうとした皇太子にキレた閣下の仕業だと、帝国民はわかっていたのだ。
アンドレスはあっという間に顔色を変え、カメラを落としそうなほど狼狽した。
「何だって!?大変だ!奥様に何かあれば……この世が終わる……」
「でしょ?貸してくれる?」
「もちろんだ!さぁ、いこう!あ、待って一枚だけ……」
アンドレスはさっと一枚写真を撮ると、新聞社へと私を引っ張って走った。
執事は蒼白を通り越して、土気色になりもう倒れそうだ。
「……熊……閣下は帰ってるの?」
「いえ。恐らく次到着する列車で帰ってくる筈ですが……」
「そう……」
私は頭をフル回転させた。
まず第一に、クリスタ嬢に安全に出産して貰わなければならない。
母子ともに健康体で!だ。
これは、世界の平和の為に最低限必要なことである。
そうしないと熊……いや、閣下が間違いなく世界を滅ぼす。
そうさせないために、私の出来ること……それは……。
「ねぇ、この辺りにレスボン新聞社ってあったわよね?」
「あ、はい……そこの角を曲がって真っ直ぐ……」
執事の指差す方を見ると、カメラ機材を抱えた記者が見えた。
この事故の取材と撮影にやって来たんだろう。
その中の一人に見覚えがあった私は、執事に言った。
「私、なんとかしてここに近場から医術士を集めるわ!そしたら産科医の手が空くわよね?」
「え、ええ。まぁ、そうですが。しかし、どうやって?それに、車が動かないので屋敷まで行くことが出来ません」
「大丈夫、私に考えがあるわ!それよりも、閣下が来たら伝えて!《世界の平和とクリスタ嬢達はジェシカ・ハーネスが守る》って!だから、ここで救助活動を手伝ってって!」
「……は、はぁ……しかし……」
「何回か面識があるだけの女に、こんな大事ことを任せるのは心配でしょう。でもね、そんなこと言ってる時間はないの!クリスタ嬢、大変なんでしょう!?」
執事はぐっと拳に力を込め頷いた。
不本意だろうけど、事は一刻を争う。
子供は出てくるのを待ってはくれないんだから!
「じゃあ、よろしく頼むわね!」
「は、はい!」
私は、怪我した運転手を執事に任せ、直ぐ様走り出した。
レスボン新聞社の記者は、用意した大きなカメラを抱え、事故車両に近付いている。
その前に私は飛び出した。
「アンドレス!アンドレス・ツーリア!」
粋な帽子を被った丸眼鏡の男は、驚いてこちらを見る。
セントラルの新聞社で一時研修を共にしただけだったけど、覚えているだろうか?
だが、そんな不安はすぐ払拭された。
「……あっ!ジェシカ・ハーネス?久しぶりー!どうしたの?事故で身動きとれなくなった?」
「まぁね。それで、あなたレスボンにいるのよね?」
「うん、そうだけど……」
アンドレスは事故現場を窺いつつ、私に答える。
記者なら、スクープに食い付くのは当然でアンドレスもこの機を逃したくはない筈だ。
その証拠に少しイラついている。
しかし。
私は今、世界一の美少女、クリスタ嬢を助けるという使命を背負っている。
ついでに世界の平和もだ。
誰がこの崇高な使命を止められようか!
「アンドレス!レスボンの電信機、使わせてっ!」
「え?……え……なんで?君、今、軍部所属だよね?ザクセンへでも送るのかい?」
「いいえ。でも、非常事態なの!早くしないと、ここがこれ以上の焼け野原になるわよっ!」
「……えぇーー……何それ……」
アンドレスは俄には信じがたい、という顔をした。
当然だ。
明日の一面を飾る写真と記事を手に入れる方が、彼にとっては重要なのだから。
「アンドレス。ローラント・ハインミュラー閣下のことは知ってるわよね?」
「もちろん!何度も取材させて貰ってるからね!」
「彼の奥様、クリスタ嬢が今まさに、生きるか死ぬかの瀬戸際よ!私、クリスタ嬢を助ける為に動いているの!」
ちょっと大袈裟に言いすぎた……。
だけど、効果は抜群だった。
閣下の愛妻っぷりはここハインミュラー領、ひいてはザナリア全土に広まっている。
あの帝国を巻き込んだ名目上の軍事演習。
それが、クリスタ嬢を奪おうとした皇太子にキレた閣下の仕業だと、帝国民はわかっていたのだ。
アンドレスはあっという間に顔色を変え、カメラを落としそうなほど狼狽した。
「何だって!?大変だ!奥様に何かあれば……この世が終わる……」
「でしょ?貸してくれる?」
「もちろんだ!さぁ、いこう!あ、待って一枚だけ……」
アンドレスはさっと一枚写真を撮ると、新聞社へと私を引っ張って走った。
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