少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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Extra Ausgabe

伯爵令嬢はまだ恋を知らない⑧

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「キャーーーーー!!」

私の渾身の告白に被せるように、後ろから黄色い声が機関銃の一斉掃射のように飛んでくる。
また何事だ!?
真っ赤な顔をしたクリム様も気になるところだが、まずはこの一斉掃射を確認しなくては!!
大事が起こっていては困る。
そう思い後ろを振り向くと、顔の前で指を組みぽーっと頬を赤らめた年若い女性達が私とクリム様を囲むように立っている。
何故かその中にはエミーリアの姿もあり、私は彼女を手招きして呼び寄せた。

「あの、何、これ??」

「まぁ!アンナお姉様ご存知ないの?!」

エミーリアが「お姉様」と言うのを皆に聞こえるように強調して言うと、周りの女性が一斉に羨ましそうに見た。

「ご存知ないです。一体何なんだよー」

「これですわ!」

と、エミーリアが差し出したのは、雑誌の切り抜き。
そこには

『男装の麗人、アンナ・オズワルド少佐  その美しき姿』

と書いてあり、何故か壁に手をあて悩ましげな視線をカメラに向ける自分の写真が写っている。

「誰が男装の麗人だ!!軍服だし、男装じゃないしぃーー!」

「まぁ、お姉様ったら。そんなのどっちでも宜しいのよ。今首都の女子の間では空前の軍部麗人ブームが来ておりますの。お姉様はその筆頭!あ、ちなみにこれはただの切り抜きですけど、今月末にはお姉様だけの特集が組まれた雑誌が出るんですのよ」

出るんですのよって…………。
誰だ!人に黙ってそんなの出してるのは!!
はっ!そういえば……ジェシカがこの間、軍部の女性の地位向上のために、特集を組むから撮影させてくれとザクセンに来ていたな。
これか!このことか!
やたら変なポーズをとらされると思ったんだ!!
くそぅ………
自分の趣味びょうきをこじらせやがって!!
空前の軍部麗人ブームもあいつの仕業だな!

「エミーリア……それと、ここの皆さんは一体どうしたのかなぁ?」

女性達はまだ私を取り囲む包囲網を解こうとはしない……。

「私、軍事演習の時の事を弟に聞きまして、それを皆様にお伝えしたら、ほらこの通り。んー、なんて言うのかしら。信徒?信者?熱烈なお姉様の信奉者なのですわ!」

信徒って……ザナリア国教会が怒ってくるぞ。

「あの、どこがいいのかな?私の。珍しくも何ともないよ」

「何を仰るのですか!!お姉様は私達の希望の星!私達の道標、ポラリスなのですっ!」

ポ、ポラ………何だって!?
えーと、結局私は何なんだ?
何の希望で、どこに導けばいいんだ?
ふと、周りを見回すと取り囲んだ女性達も同じような顔をして呆けている。
その集団催眠のような怪しげな雰囲気を終わらせたのはクリム様の言葉だった。

「素敵なお嬢さん方。大変申し訳ないが、君達のポラリスを少し借りてもいいかな?」

……ポラリスって呼ばないで下さい………

「まぁ、クリム様っ!?もちろんでございます。どうかお姉様を宜しくおねがい致します」

エミーリア以下信徒の皆様は、素敵な笑顔のクリム様に私を託して、邪魔にならないところまで行き散り散りになって解散した。
どうやら、エミーリアが中心になって指示をしているようでその動きは見事なものだった。
軍部に取り入れてもいいくらいだな。
検討しよう。

「それではポラリス、行こうか」

「……はい」

あ、返事しちゃったよ……。

言われるままに手をとられ、クリム様と共に中庭に出ると、月は天空の高い所で静かに輝いていた。
そして、金と碧の色彩の噴水の前で、同じ色彩の美しい人は静かに話始める。

「今日はどうしてここに?」

「あ、あの、とある人からお招きを受けまして……」

「そうか……でも、何故ドレスじゃないんだ?」

うっ!
それは………

「着てはいたんですが、途中で破れてしまいまして………そこにたまたま軍服があって……」

苦しいな………
クリム様にこの言い訳は通用しない。
そして、嘘もつきたくはない。

「……すみません!!実は……」

「いいよ。言わなくていい。私は君を信じる。だから言う必要はない」

クリム様は全てわかっているんじゃないだろうか………。
そんな気がしてならない。
グリュッセル家の方々の考えることなど、到底私には考え付かないものだ。
例え神のように全てを見通していたとしてもなんの不思議はない。

「それでだ、さっきの君の告白に私も答えようと思う」

「…………答え………あっ!」

勢い余って叫んだあの言葉。
よくよく考えてみれば、すごいことを言ってる。
まるで、プロポーズじゃないか!!

「その前に一つ聞くが、君は、私が君に好意を持っていることを知っていたのか?」

「え?クリム様が私に??そうなんですか!?知りませんでした!そんなことあるはずはないと………」

「待て、じゃあ何の確証もなしに君は私に公衆の面前で求婚をしたのか!!」

「あっ!?」

そうだ………そういうことだ………。
しかも、私が好きだと思っただけで、クリム様もそうだとは限らなかったのだ。
そんなことも考えなかったとは!!
アホだ………私は。

「くっ、くくっ、あははははははは!き、君は、本当に阿呆だな………くっ……腹がいたい……ふっ、ははははは!」

「アホは認めますが、笑いすぎでは!?」

でも、笑いすぎるクリム様、素敵です。

「ああ、くっ……悪い悪い……はぁ……うん、もう大丈夫だ。落ち着いた」

落ち着いたクリム様も素敵です。

「アンナ・オズワルド伯爵令嬢、どうか私と結婚してくれ」

まるで息をするように自然に語られる言葉に、私は一瞬夢を見ているのかと思った。
夢じゃないと思ったのは、クリム様のとても綺麗なブルーの瞳がすごく近くにあって、そのはるか上に確かに輝く北極星が見えたから。









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