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Extra Ausgabe
伯爵令嬢はまだ恋を知らない⑦
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「お……………………」
お。ってなんだ………。
でも、それしか言葉が出ない。
クライン様は子供にもわかるようにハッキリと言った。
さすがに迂闊な私にもこれはわかる。
だけど、これってこれって………
「あんたはまだ自覚してないのか。めんどくさいな」
「あのっ!自覚とは?……私は、クリム様のことを好きなんでしょうか??」
「それをオレに聞くか!?アホじゃねーか!?」
「アホなんですっ!だから……わからないから聞いてるんでしょーが!あ、すみません………」
クライン様は助手席から降りると、車のトランクから布に包まれた何かを取り出し、後部座席に放り込む。
「それを確かめてこいよ。アイツは舞踏会に来てる。行っていろいろ済ませてこい」
「いろいろ?」
「着替えて早く行けバカ!」
アホとかバカとか酷いなーー。
まぁ否定は出来ないけど。
それに、着替えて行けって言われても替えの服が……あ、さっきのやつ。
放り込まれた物を広げてみると、それはいつも着ている私物の軍服だった。
なんで、そんなに都合良く??
もしかして、実家にいたときから全てが折り込み済みだとでも??
有りうるな……。
クライン様ならやりかねん。
私は車内のカーテンをさっと引き、着なれた服をいつものように短時間で着込んでいく。
うん、やっぱりこれじゃないとな!
「クライン様ーー?どうもありがとうござ……………あれ?」
車から出ると、そこにはもう誰の姿もなく、3人の男の姿も消え、しかも、大量の血飛沫すら1滴の痕跡も残さず消えていた。
「………クライン様と争うのだけは避けよう、うん、そうしよう」
そう呟くと、私は元来た道を走り始める。
急ぐ必要は全然なかったのに、何故か心が急いた。
ホールに着くともうすでに招待客の紹介が終わったのか、奥の一段高い所で皇太子殿下が和やかに談笑する姿が見える。
そして、踊る人々の中にファデラーとエミーリアを見つけ、更に視線を彷徨わせると一際華やかな人だかりを発見した。
色鮮やかな令嬢達のドレスのその向こうには、探していた輝くブロンドの人がいた。
黒の燕尾服に身を包み、その場の誰よりも美しい淡いブルーの瞳の人は、令嬢達にぐいぐいと迫られ、迷惑そうにあしらっている。
どくん。
………不整脈………?
いや………違う。
いつも、こうなるときは、あの鮮やかな色彩を思い浮かべたとき。
私は……………私は………………。
足は引き寄せられるように、真っ直ぐにそこに向かう。
まるで、光に引き寄せられる虫のように真っ直ぐに。
そして、あと2メートルほどの所で、令嬢達の輪の中から弾き出されるように倒れてきた女性とぶつかった。
「あ、大丈夫??怪我はない?」
肩を抱きそう声をかけると、女性は目を見開き口を押さえて黙ってしまった。
そして、何故か顔が真っ赤だ。
人だかりに逆上せてしまったんだろう。
全く、こんな場所で群がるなんてどうかしてる。
……いや………これは、断じて嫉妬などではない!
って、誰に言っているんだ私は!
「立てるか?さぁ、この茶番を終わらせよう」
女性に声をかけ、手を貸し立ち上がらせるとハイエナ達の戦場へ乗り込む。
一人また一人と群がる女性をちぎっては投げ………優しく押し退けて行くと、驚くブルーの瞳が私を捉えた。
「オズワルド……少佐……」
「はい。お待たせしました。あ、待ってないか。僭越ながら、お困りかと思いまして……」
その言葉が終わらないうちに、身分もプライドもドレスも高そうな令嬢が私の肩をドンと押した。
「ちょっと!あなたどこのどなた!?クリム様に馴れ馴れしいんじゃなくって!」
「ああ、これは失礼。私は陸軍所属、アンナ・オズワルド少佐だ」
「まぁ、そんな格好で来るくらいだから軍人でしょう。マナーも何もわからない人達ですものね」
はぁ!?何て言った、お前!!
と、思ったがその言葉を飲み込んだ。
今それを言うと、クリム様の立場が………。
「軍人の何が悪い?マナーがそれほど大切か?」
クリム様!?
「は?あの…………」
クリム様が何に腹を立てているのかわからず、令嬢は固まっている。
そして、私もわかっていない。
「誰がこの国を守っていると思ってるんだ!?彼女達軍人が体を張って頑張ってくれているんだ。それをわからぬとは阿呆もここに極まれりだな」
ううっ、クリム様、さすがわかっていらっしゃるっ!
アンナはとても感激しております!
そんな私の横で名も知らぬ令嬢は、ブルブルと体を震わせ、その取巻き達も分が悪いと見たのか、一人また一人と離脱していく。
「私が世の中で一番嫌いなものは阿呆だ!さっさと私の前から消えてくれ、不愉快だ!」
えっ!?
アホは………嫌い……不愉快……
それは、散々アホと呼ばれた私も……ですね…………
声を荒らげて恫喝された令嬢と共に、クリム様の前から去ろうとすると、後ろから慌てた声に引き留められる。
「……なんでだ!?」
「は?あの、アホは消えてくれと」
「…………君はいい……」
「そうなんですか?アホですよ?いいんですか?」
「特別枠だ………」
クリム様の白く美しい肌がほんのりと朱に染まってとても悩ましい。
そういや、どこかでこれと似たような光景を見たような気がする。
その時もかじりつきたいと思ったんだけど、今もすごくそう思う。
でも、かじりつく前に言うことがある。
「クリム様!」
「ん?何だ?」
「好きです!大好きです!あなたのことを私は一生をかけて守りたいっ!」
お。ってなんだ………。
でも、それしか言葉が出ない。
クライン様は子供にもわかるようにハッキリと言った。
さすがに迂闊な私にもこれはわかる。
だけど、これってこれって………
「あんたはまだ自覚してないのか。めんどくさいな」
「あのっ!自覚とは?……私は、クリム様のことを好きなんでしょうか??」
「それをオレに聞くか!?アホじゃねーか!?」
「アホなんですっ!だから……わからないから聞いてるんでしょーが!あ、すみません………」
クライン様は助手席から降りると、車のトランクから布に包まれた何かを取り出し、後部座席に放り込む。
「それを確かめてこいよ。アイツは舞踏会に来てる。行っていろいろ済ませてこい」
「いろいろ?」
「着替えて早く行けバカ!」
アホとかバカとか酷いなーー。
まぁ否定は出来ないけど。
それに、着替えて行けって言われても替えの服が……あ、さっきのやつ。
放り込まれた物を広げてみると、それはいつも着ている私物の軍服だった。
なんで、そんなに都合良く??
もしかして、実家にいたときから全てが折り込み済みだとでも??
有りうるな……。
クライン様ならやりかねん。
私は車内のカーテンをさっと引き、着なれた服をいつものように短時間で着込んでいく。
うん、やっぱりこれじゃないとな!
「クライン様ーー?どうもありがとうござ……………あれ?」
車から出ると、そこにはもう誰の姿もなく、3人の男の姿も消え、しかも、大量の血飛沫すら1滴の痕跡も残さず消えていた。
「………クライン様と争うのだけは避けよう、うん、そうしよう」
そう呟くと、私は元来た道を走り始める。
急ぐ必要は全然なかったのに、何故か心が急いた。
ホールに着くともうすでに招待客の紹介が終わったのか、奥の一段高い所で皇太子殿下が和やかに談笑する姿が見える。
そして、踊る人々の中にファデラーとエミーリアを見つけ、更に視線を彷徨わせると一際華やかな人だかりを発見した。
色鮮やかな令嬢達のドレスのその向こうには、探していた輝くブロンドの人がいた。
黒の燕尾服に身を包み、その場の誰よりも美しい淡いブルーの瞳の人は、令嬢達にぐいぐいと迫られ、迷惑そうにあしらっている。
どくん。
………不整脈………?
いや………違う。
いつも、こうなるときは、あの鮮やかな色彩を思い浮かべたとき。
私は……………私は………………。
足は引き寄せられるように、真っ直ぐにそこに向かう。
まるで、光に引き寄せられる虫のように真っ直ぐに。
そして、あと2メートルほどの所で、令嬢達の輪の中から弾き出されるように倒れてきた女性とぶつかった。
「あ、大丈夫??怪我はない?」
肩を抱きそう声をかけると、女性は目を見開き口を押さえて黙ってしまった。
そして、何故か顔が真っ赤だ。
人だかりに逆上せてしまったんだろう。
全く、こんな場所で群がるなんてどうかしてる。
……いや………これは、断じて嫉妬などではない!
って、誰に言っているんだ私は!
「立てるか?さぁ、この茶番を終わらせよう」
女性に声をかけ、手を貸し立ち上がらせるとハイエナ達の戦場へ乗り込む。
一人また一人と群がる女性をちぎっては投げ………優しく押し退けて行くと、驚くブルーの瞳が私を捉えた。
「オズワルド……少佐……」
「はい。お待たせしました。あ、待ってないか。僭越ながら、お困りかと思いまして……」
その言葉が終わらないうちに、身分もプライドもドレスも高そうな令嬢が私の肩をドンと押した。
「ちょっと!あなたどこのどなた!?クリム様に馴れ馴れしいんじゃなくって!」
「ああ、これは失礼。私は陸軍所属、アンナ・オズワルド少佐だ」
「まぁ、そんな格好で来るくらいだから軍人でしょう。マナーも何もわからない人達ですものね」
はぁ!?何て言った、お前!!
と、思ったがその言葉を飲み込んだ。
今それを言うと、クリム様の立場が………。
「軍人の何が悪い?マナーがそれほど大切か?」
クリム様!?
「は?あの…………」
クリム様が何に腹を立てているのかわからず、令嬢は固まっている。
そして、私もわかっていない。
「誰がこの国を守っていると思ってるんだ!?彼女達軍人が体を張って頑張ってくれているんだ。それをわからぬとは阿呆もここに極まれりだな」
ううっ、クリム様、さすがわかっていらっしゃるっ!
アンナはとても感激しております!
そんな私の横で名も知らぬ令嬢は、ブルブルと体を震わせ、その取巻き達も分が悪いと見たのか、一人また一人と離脱していく。
「私が世の中で一番嫌いなものは阿呆だ!さっさと私の前から消えてくれ、不愉快だ!」
えっ!?
アホは………嫌い……不愉快……
それは、散々アホと呼ばれた私も……ですね…………
声を荒らげて恫喝された令嬢と共に、クリム様の前から去ろうとすると、後ろから慌てた声に引き留められる。
「……なんでだ!?」
「は?あの、アホは消えてくれと」
「…………君はいい……」
「そうなんですか?アホですよ?いいんですか?」
「特別枠だ………」
クリム様の白く美しい肌がほんのりと朱に染まってとても悩ましい。
そういや、どこかでこれと似たような光景を見たような気がする。
その時もかじりつきたいと思ったんだけど、今もすごくそう思う。
でも、かじりつく前に言うことがある。
「クリム様!」
「ん?何だ?」
「好きです!大好きです!あなたのことを私は一生をかけて守りたいっ!」
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