少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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Extra Ausgabe

伯爵令嬢はまだ恋を知らない⑤

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男達の後をつけて行くと、招待客達の車が停めてある広い駐車場に出た。
その中の一番奥、皇家や公爵家が停める屋根付のガレージに彼らは入っていく。

歩きにくいドレスを限界までたくしあげ、いろんなところに引っ掛かっては歩みを止めさせるレース生地にイライラしながら、私は更に彼らの後を追った。

招待客が何でこんな所に用が?!
忘れ物かな………いや、それなら自分が取りに来る必要などない。
誰かに言付ければ済むことだ。

駐車場もガレージも、巡回の兵士がいないのかひっそりと静まり返っていて、自分の荒い息遣いがとても大きく聞こえる。

男達の姿を確認出来る所で身を潜め、その行動を見ていると、ある一台の車の前で3人が止まった。
そして、男達のうち2人は車体の下に入り込み、もう一人は周囲を警戒し、あからさまに怪しい行動を取り始める。

息を飲み監視を続けていると、風にのって漂う空気に、微かに火薬の匂いが混じっているのを感じとった。
となれば、彼ら………いや、奴らのやっていることはわかる。
車に爆薬を仕掛けている……暗殺か。
相手は3人、訓練された兵士でないなら余裕で倒せる。
しかし、一体誰を暗殺など………。
と思った瞬間、周囲を警戒する男が持つライトが、その車の紋章を映し出した。
………………私は、その紋章に見覚えがあった。
片翼を広げる梟とタワーシールドを型どった紋章。
『賢人と守人』を表すザナリア守護者の証。
それと共に浮かんだのは、美しいブロンドで淡いブルーの………。

内腿に忍ばせた銃を取り出そうとし、咄嗟に止め、代わりにふくらはぎに添わせたサバイバルナイフを手に取った。

「おい!まだか??早くしろ!」

「……っ待て!上手く繋がらないんだ!」

私はライトを持つ男の後ろから静かに近づくと、躊躇することなく渾身の力で後頭部を殴る。

「ぐあっ…………」

前のめりに倒れていく男を、更に足で踏み倒して車のボンネットに叩き付けると、大きな音とうめき声に驚いた他の男達が、慌てて両サイドから体を出し、私を見て怪訝な顔をする。

「なっ、なんだ、女か?……舞踏会の招待客だろう!?なんでこんな所に!」

「……………………」

「おい!なんとか言え!」

「………お前達、誰を吹き飛ばそうとしてた??」

「は?知らんな、吹き飛ばすって何のことだ!?」

せせら笑う目の前の男に、ゆっくりとナイフを突きつけると、男はそれを見て馬鹿にするように言う。

「お嬢さん、手が震えてるぜ!やり慣れないことをするもんじゃない。さぁ、ナイフをこっちに渡せ」

手を差し伸べる男の手のひらを、私は容赦なく掻き切った。
声もなく手のひらを抑え、静かにこちらを睨む男を今度はこちらがせせら笑ってやる。

手が震えている?
ああ!これは……

「武者震いだよ!誤解させて悪いね。さぁて、どうしようか。殺してはまずいな。でも、個人的にはもう殺っちゃいたいんだけどなぁー」

「チクショウ!このアマっ!」

「黙れ!このゴミ野郎ども!それは、お前達のような輩が触れてもよい紋章ではない。それがわからぬような手など、あっても意味ないだろう??私が切り落としてやろう」

手を切られた男は顔を真っ青にしたが、それでも多少のプライドはあったらしく、意を決して私に向かって飛びかかってきた。

「くそうっ!このっ………」

遅い、遅い。
そんなハエが止まりそうな動きで来られても、楽しくもなんともないよ。
肩を掴もうとする腕の腱を切り、鳩尾に一発膝を叩き込むと、男は糸の切れた人形のように簡単に崩れ落ちた。

「ひいっ!」

その様子を見たもう一人の男が、一目散に逃げ出すのを追いかけようとした私は、ドレスを車のミラーに引っかけてしまい初動が遅れてしまった。
グリュッセル家のミラーを破損させるわけにもいかず、絡まって取れないドレスを引きちぎっていると、突然逃げた男が動きを止めゆっくりとこちらを振り返る。

なんだ?
様子がおかしい………。

良く見ると、男の胸からは鈍い銀色の物が突き出ていて、ぱくぱくと魚のように開く口からは一筋、血が流れ落ちている。

「一人でいいんだ。残すのは。後はいらん。わかったか?オズワルド少佐」

「あ……………」

崩れ落ちる男の向こうで、ニヤリと笑っていたのは私を今日ここへ導いた人だった。



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