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伯爵令嬢はまだ恋を知らない③
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「母さまは何か聞いていますか?」
夕食の仕度を仕切る母の横で、私は腕を組んで投げなりに質問した。
「あー、あれねぇ……それがさぁ」
と、母アマリエは私の腕を取り、回りをキョロキョロと確認すると居間に引っ張って行く。
「これ、ユリウスに私が言ったって言わないでね!」
「はい、もちろんです」
母は私に念を押すと、お喋り好きな令嬢のように目を輝かせて話始めた。
「実はファデラーとエミーリアは一年も前から恋仲でね、どちらかというとエミーリアの方が熱を上げてた感じなの」
なんと!!
やるな兄上!甲斐性なしとか言ってごめん!
「でもほら、あっちは腐っても公爵家じゃない?結婚は許さないーって言ってたのよ」
「まぁ、そうでしょうね。それがなんでまた?」
「そこなのよ……、あなたが帰ってくる少し前、身なりのとてもいい方がユリウスに会いに来たの。そしたら急にファデラーとエミーリアの結婚が決まってね……」
「………変ですね……」
「でしょう?まあね、それはそれで良かったのだけど、問題はほら、あなたの舞踏会の件……おかしいのはむしろこっちじゃない?招待状もその身なりのいい方が持ってきたし、エミーリアがあなたに会いたいって言ったらしいけど、銃に名前まで付けてる変態に憧れるなんて普通の令嬢なら考えられないわよ」
母、それ酷くない?
「ユリウスの訳のわからない主張だってそう!軍人史上主義のあの人が、唯一の出世頭であるあなたからその道を奪うなんてありえないわ」
その点に関しては私も激しく同意する。
あの父が、同僚が娘とヴァージンロードを歩いて羨ましいなんてアホな理由で、私を軍部から遠ざける訳がない。
「だからね、何かあるわ」
「何か……とは?」
小柄な母は私の胸倉をぐいっと掴むと、目一杯背伸びをしそのまま耳元で囁いた。
「こ・い・の・よ・か・ん」
コイノヨカン?
こいのよかん………鯉の世、缶……??
人生で一度も聞いたことのない言葉に私は困惑した。
「鈍い子ね!……やんごとなきお方に見初められたんじゃないかって言ってるのよ!きっとサプライズなんだわ!最近何かいつもと違うことなかった?」
やんごとなきお方ってどんな方だ!?
そして、サプライズって何の!?
「えーと……違うこととは?」
「うーん、それは色々だけど。新しく誰かと出会ったり、その人と何か……そうね、きっかけとしては、ちょこっとケンカしちゃったりとか?そして、そこからお互いを意識しちゃっていい仲に……」
新しく誰かに出会ったり?
ちょこっとケンカしちゃったり?
あ……………。
私の顔が青ざめていくのを、母は何を勘違いしたのか嬉しそうに見つめている。
「身に覚えがあるのねっ!そう、そうなの………ふふ、ふふふ……素敵ね!その方に見初められて……舞踏会で……告白されたり……」
いや、そんな……まさか!
兄上様は……まだ私を恨んでいたのだろうか…………。
とすると、舞踏会は口実できっと私に何か仕返し、若しくは恥をかかせるために仕組んだことか?
「ちょっと、アンナ!聞いてるの?」
「え!?ええ、勿論ですよ!!」
どうしよう、こんなことになるなんて!
とりあえず誰かに相談……あーー、誰もいない……。
ここは基地じゃないし、閣下や准将に相談は出来ない。
奥方様のいるハインミュラー領までは遠すぎるっ!
そして、父のいう舞踏会は明日だ………。
ダメだ………詰んだ………。
……………………………。
「母さま、私、舞踏会がんばります。前に作ったドレスありましたよね?」
「えっ?ええ、もちろん。いつでも着れるようにちゃんと手入れをしてありますよ」
「そうですか……どうもありがとうございます………」
そう言って私は居間を後にした。
「ちょっと、アンナ!えー、もうどうしちゃったのよぅ!」
母の不満げな声を聞きながら、普段使わない頭をフル回転させなから必死に知恵を絞る。
グリュッセル家の長男、クライン・グリュッセル。
情報部特殊潜入捜査課のトップであり、暗殺裏工作専門、あまり表に出てこない為本当の彼を知るものはほとんどいない。
だが、仕事は完璧にやりこなし、自身の痕跡を全く残さない得体のしれない男。
もし兄上様が私を陥れようとするなら、人に任せたりせずきっと自分で手を下す。
ただの勘だが、そういう気がしていた。
そして、私の勘は外れない。
ええい!やってやろうじゃないか!
どんな罠が待っているかはわからないが、
このままやられっぱなしなんて悔しい!
それならば、蹴りの一つでも入れてやる。
ま、その瞬間私の命は消えるな、たぶん……。
夕食の仕度を仕切る母の横で、私は腕を組んで投げなりに質問した。
「あー、あれねぇ……それがさぁ」
と、母アマリエは私の腕を取り、回りをキョロキョロと確認すると居間に引っ張って行く。
「これ、ユリウスに私が言ったって言わないでね!」
「はい、もちろんです」
母は私に念を押すと、お喋り好きな令嬢のように目を輝かせて話始めた。
「実はファデラーとエミーリアは一年も前から恋仲でね、どちらかというとエミーリアの方が熱を上げてた感じなの」
なんと!!
やるな兄上!甲斐性なしとか言ってごめん!
「でもほら、あっちは腐っても公爵家じゃない?結婚は許さないーって言ってたのよ」
「まぁ、そうでしょうね。それがなんでまた?」
「そこなのよ……、あなたが帰ってくる少し前、身なりのとてもいい方がユリウスに会いに来たの。そしたら急にファデラーとエミーリアの結婚が決まってね……」
「………変ですね……」
「でしょう?まあね、それはそれで良かったのだけど、問題はほら、あなたの舞踏会の件……おかしいのはむしろこっちじゃない?招待状もその身なりのいい方が持ってきたし、エミーリアがあなたに会いたいって言ったらしいけど、銃に名前まで付けてる変態に憧れるなんて普通の令嬢なら考えられないわよ」
母、それ酷くない?
「ユリウスの訳のわからない主張だってそう!軍人史上主義のあの人が、唯一の出世頭であるあなたからその道を奪うなんてありえないわ」
その点に関しては私も激しく同意する。
あの父が、同僚が娘とヴァージンロードを歩いて羨ましいなんてアホな理由で、私を軍部から遠ざける訳がない。
「だからね、何かあるわ」
「何か……とは?」
小柄な母は私の胸倉をぐいっと掴むと、目一杯背伸びをしそのまま耳元で囁いた。
「こ・い・の・よ・か・ん」
コイノヨカン?
こいのよかん………鯉の世、缶……??
人生で一度も聞いたことのない言葉に私は困惑した。
「鈍い子ね!……やんごとなきお方に見初められたんじゃないかって言ってるのよ!きっとサプライズなんだわ!最近何かいつもと違うことなかった?」
やんごとなきお方ってどんな方だ!?
そして、サプライズって何の!?
「えーと……違うこととは?」
「うーん、それは色々だけど。新しく誰かと出会ったり、その人と何か……そうね、きっかけとしては、ちょこっとケンカしちゃったりとか?そして、そこからお互いを意識しちゃっていい仲に……」
新しく誰かに出会ったり?
ちょこっとケンカしちゃったり?
あ……………。
私の顔が青ざめていくのを、母は何を勘違いしたのか嬉しそうに見つめている。
「身に覚えがあるのねっ!そう、そうなの………ふふ、ふふふ……素敵ね!その方に見初められて……舞踏会で……告白されたり……」
いや、そんな……まさか!
兄上様は……まだ私を恨んでいたのだろうか…………。
とすると、舞踏会は口実できっと私に何か仕返し、若しくは恥をかかせるために仕組んだことか?
「ちょっと、アンナ!聞いてるの?」
「え!?ええ、勿論ですよ!!」
どうしよう、こんなことになるなんて!
とりあえず誰かに相談……あーー、誰もいない……。
ここは基地じゃないし、閣下や准将に相談は出来ない。
奥方様のいるハインミュラー領までは遠すぎるっ!
そして、父のいう舞踏会は明日だ………。
ダメだ………詰んだ………。
……………………………。
「母さま、私、舞踏会がんばります。前に作ったドレスありましたよね?」
「えっ?ええ、もちろん。いつでも着れるようにちゃんと手入れをしてありますよ」
「そうですか……どうもありがとうございます………」
そう言って私は居間を後にした。
「ちょっと、アンナ!えー、もうどうしちゃったのよぅ!」
母の不満げな声を聞きながら、普段使わない頭をフル回転させなから必死に知恵を絞る。
グリュッセル家の長男、クライン・グリュッセル。
情報部特殊潜入捜査課のトップであり、暗殺裏工作専門、あまり表に出てこない為本当の彼を知るものはほとんどいない。
だが、仕事は完璧にやりこなし、自身の痕跡を全く残さない得体のしれない男。
もし兄上様が私を陥れようとするなら、人に任せたりせずきっと自分で手を下す。
ただの勘だが、そういう気がしていた。
そして、私の勘は外れない。
ええい!やってやろうじゃないか!
どんな罠が待っているかはわからないが、
このままやられっぱなしなんて悔しい!
それならば、蹴りの一つでも入れてやる。
ま、その瞬間私の命は消えるな、たぶん……。
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