少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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当主の妻の条件⑤

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「だから、オレは関係者だって!クリスタの兄だよ!」

「バカをいえ!そんな筈があるか!騙されると思うのか!?」

なんだ?
うちの野猿と…………ワインレッド色のドレスを着た、女……?

ドレスの女は栗色の豊かな髪をサイドで結い上げ、長めの裾をたくしあげて野猿と対峙している。

あれは……オズワルド少佐か!?
全く、あいつ、何をやらかしたんだ?

「私は今日、この教会の警備を任されている。不審者は一人も入れない。なぜクリム様に変装しているのかは知らないが、そんなものすぐに偽物とバレるぞ!」

は?何がどうなって………?

「だからー、オレはー……」

「黙れ!偽物め!」

偽物?………ん?そう言えば……。
オズワルド少佐は、クラインと会ったことがあったか?
首都でも私とは面識があったが、クラインとはなかったかもしれない。
だが、いくらなんでも双子だと知らないなんてことは……。
待てよ、フローリア邸でそういうやり取りがあったじゃないか!
あの時、確かにオズワルド少佐はいた……いたが、そうだ、ポカンとしていた……
覚えている。
あの顔は話について行けず、でも、それについて聞いていいのかわからず、結局無かったことにした、そういう顔をしていたぞ。
その時は、コイツちょっと阿呆なのか、と思ったんだが…………。

「あのさぁ、なんで、オレが偽物だっての?」

「お前はクリム様と雰囲気がまるで違う!見ればすぐにわかるんだ!」

「へぇ、すぐにわかったんだ?凄いな、オレ達が見分けられたの初めてかもな」

……………見分けた?
そんなこと………。
今まで私達が入れ替わっていることが、他人にバレることはなかった。
本気で似せようと思えば、父さんもクリスタもラングですら気付かない。
身内でそれだ、他人に見分けなどつく筈がない!

「凄くはない。何て言うのか……クリム様と違ってお前は……いろいろ混ざってる気がする。本質が見えない」

「間違っちゃいねーけど、なんか酷くね?あのさぁ、オレも急いでんだ。通してくれねーんなら、力ずくで通るぜ?」

「望むところだ」

そう言ってオズワルドは太股に忍ばせた二丁の拳銃を取り出した。

ボニーとクライド!!
持ってきてたのか!?
いや、それどころではない。
いくらなんでもクラインとやり合うのは分が悪すぎる。
あの野猿はローラントとでもいい勝負をするだろう。
各国を回り、体を張って覚え込んだ技は、並の人間では見る前に勝負がついてしまう。
しかも、迅速に仕留めるために、狙うのは全て急所だ。
オズワルド少佐もただでは済まない!
そう思った途端、体は動いていた。

「おい!ちょっと待て!!」

「あっ!クリム様!今出てきてはいけません!!」

オズワルドはクリムの前に出、クラインとの間に体を滑り込ませる。

「おーい、クリムよぉー。ちゃんと説明しとけよなー」

「………ん、ああ、悪い……」

二人の様子を見て、オズワルドは目を向いて驚き、そのままクリムを見て黙って説明を求めた。

「あのな、オズワルド少佐は知らなかったようだが、私達は双子だ。その野猿……男は兄のクラインだ……」

「なっ…………なん…………」

オズワルドはクリムとクラインの間を行ったり来たりして、舐めるように其々を見た。

「はぁぁぁぁーーー!やっちゃった……ヤバい、これ、ヤバすぎるっ!!クリム様の兄上にケンカ売っちゃったーーあーーーもう、やだぁーーーー」

「あ、わかってもらえた??良かったよー、オレ蜂の巣になりたくねーもん」

嘘つけ!
蜂の巣になる前に仕留めてたろうが!

膝から崩れ落ちるオズワルドを支えながら、クリムは飄々としたクラインを睨んだ。

「申し訳ありませんっ!兄上様とは知らずご無礼をっ!!」

「あんたさぁ、双子かもっていう可能性は考えなかったのか?」

「はぁ……全く。余りの怪しさに排除という選択しか浮かびませんでした。でも、あのままやり合えば、私は死んでいたでしょうね」

「…………それでも、向かってきたのは何でだ?」

クラインは顔つきを一気に変え、普段とは違う真面目な顔で尋ねた。

「私は私の大切な人達を守るために、職務を遂行します。それだけです。そして一度その命令を頂いたからには、死んでもそれを全うします」

その真摯で揺るぎない心からの言葉に、クリムもクラインも一瞬息を飲む。

「………頑固だな。そして、不器用だ。それは普通に生きていくには向いてないが、ある一定の職業には需要があるかもしれんな」

クラインはくくっと笑うと、クリムの側まで来てすれ違い様に呟いた。

「出てくんのが遅いんだよ!バーカ!」

馬鹿はお前だ!
と言ってやりたかったが、今回ばかりはそれは言えなかった。
馬鹿は私だな。

「……悪かった……。ちゃんと言っておけば良かったよ」

「は?何でクリム様が謝るんです??」

「その………怖くはなかったか?クラインと対峙して……」

「めちゃめちゃ怖かったですよぉーー!絶対死んだ、と思いましたもん。何ですかあれは!閣下と同じくらいの怪物ですね……あ、すみません」

「いや、いいんだ。間違ってない。それと、だな。妹の家族や皆を守ろうとしてくれて……ありがとう」

「とんだ勘違いでしたけどね……」

「そんなことはない。不測の事態が起こった時の行動としては最適解だ。ただな………」

クリムはきちんとオズワルドを立たせ、ドレスの土を軽く払うと、その瞳を真っ直ぐ見て言った。

「簡単に命を投げ出すような行動は良くない。例え最適解であっても、君がいなくなって悲しむ者のことを考えてみてくれ」

「誰か……悲しむのでしょうか?」

「ここにいる全員が悲しむ。……私も含めて……な」

「…………………………」

俯かれてしまった………。
ちょっと説教臭かっただろうか?
ありがとう、助かったよ!と軽く言えば良かったか?
職務に忠実な彼女にとって、ダメ出しをされたみたいなものだからな……。

「あの、オズワルド少佐?」

「………私は……」

「ん?」

「………私は、昔からとても強くて、背も高くて、こんな性格ですから、誰からも心配されたことがありませんでした。なので、今、クリム様に心配してもらって、猛烈に猛烈にっ!………感動していますっっ!」

「あ、うん……」

………そうか、感動してたのか………。
泣いてたんじゃなくて良かった。

キラキラした瞳でオズワルドはクリムを見上げている。
少し潤んだその薄茶色の瞳には、顔を赤くして困惑した様子のブロンドの男が写っていた。



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