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当主の妻の条件③
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さて、会議室に向かうかな。
と、クリムが司令官室を出ると、曲がり角の向こうでサッと身を隠した何かを見つけた。
見覚えがあるその髪色にクリムは足音を消して近づく。
「何か用かな?」
「ふえっ!?」
長身の体を出来るだけ小さくして、オズワルドはクリムを見上げていた。
「監視するならもっと気配を消さなくてはな」
「いえ!監視ではありません。私は……クリム様を助けに行こうかと……思いまして……」
「助けに?何でかな?」
「閣下に絡まれては大変だと……まぁ、その心配はなかったようですが……」
オズワルドは立ちあがりながら、恥ずかしそうに笑う。
「それは……どうも……だが、君はさっき面白がっていたのではないか?」
「ええ、確かに……。ですが、せっかくお越しになったのに当たり散らされたのでは、クリム様も嫌な思いをするでしょうし、何より繊細なクリム様に閣下の相手は酷かと思いまして……」
オズワルド少佐は、私をどんな人間だと思っているんだ?!
何か言われたら砕け散るような、ガラスのハートを持った純粋な男に見えるのか!?
「心遣い感謝するが、私は大丈夫だ。元帥の扱いも案外わかってきたし、その……君が思うように繊細でもない」
「そうでしょうか??」
「そもそも、何故君は私を繊細だと思うんだ?」
クリムは少しイライラして言った。
陰険だの冷酷だのは良く言われていることだが(主にクライン)、繊細などとは言われたことがない。
「あのですね、私首都で暫くクリム様と行動を共にして気付いたことがあります。クリム様は全員のバランスをとるのが凄く上手くて、常に状況を正しく判断しているんです。そんなこと、繊細じゃないと出来ませんよ」
「…………………」
「どうかされました?」
キョトンとしてクリムを見る薄茶の瞳が、なぜだかとても美しく見えた。
長身で栗色の髪、すらりと伸びた長い手足に抜群のプロポーション。
この時、クリムは、アンナ・オズワルドに恋を………………
すると思うか!?
おいおい、このクリム・グリュッセルをその辺の男と一緒にしないで貰いたい!!
いや、決してオズワルド少佐に魅力がないと言っているわけじゃなく、これは私の矜持の問題だ。
グリュッセル家の当主を継ぐ私が、そう簡単に恋などしてたまるか。
クリムは一度咳払いをすると、オズワルドに向かってにっこりと微笑んだ。
「ははっ!そんな風に言ってもらえて嬉しいよ。でも、繊細というのはやはり少し違うかな?」
「クリム様は奥方様と一緒でとても強情だ。でも、そこが私は好きですけどね」
「……………………」
「クリム様??」
……………私は断じて恋などしていないっ!
そうだとも!
ああ………そうだ、会議に行かなくては。
少し頭を整理して、落ち着いて考えればこの馬鹿げた考えも消え去るだろう。
「いや、何でもない。そろそろ私は会議に行くとするよ。いろいろ心配してくれてありがとう、オズワルド少佐」
「あっ、はい!では、これで」
踵を返して、颯爽と去り行くオズワルドの後ろ姿をクリムはぼーっと見ていたが、急に後ろに気配を感じて振り返る。
そこには、ニヤリと笑うヴィクトールが立っていた。
「いやいや、寒くなって来ましたね」
「あ?え?ええ、そうですね」
「こう寒いと、あれですよね。人恋しくなるというかなんというか?」
「は?何を言っているんですか?」
「恋とは……知らずに落ちてしまうものだよ」
また何を言い始めたんだ!?
イライラが募るクリムを面白がるように、ヴィクトールは腕を組んでその様子を眺めている。
「シュライヒ准将には………そんな経験が?」
「………まぁね、報われなかったけど」
そう言うと、またニヤリと笑いクリムの背中をポンと叩く。
「オズワルドは変態だが、愚直で誠実だよ。お似合いだと思うけど……」
「なっ、何をバカなことを!!」
フフフ、と意味深な笑いを残してヴィクトールは楽しそうに会議室に消えていった。
そして一人になったクリムは、さっき自分で言った言葉を言い聞かせるように心の中で繰り返す。
何をバカなことを!!
私は……私は………恋などしていないっ!
と、クリムが司令官室を出ると、曲がり角の向こうでサッと身を隠した何かを見つけた。
見覚えがあるその髪色にクリムは足音を消して近づく。
「何か用かな?」
「ふえっ!?」
長身の体を出来るだけ小さくして、オズワルドはクリムを見上げていた。
「監視するならもっと気配を消さなくてはな」
「いえ!監視ではありません。私は……クリム様を助けに行こうかと……思いまして……」
「助けに?何でかな?」
「閣下に絡まれては大変だと……まぁ、その心配はなかったようですが……」
オズワルドは立ちあがりながら、恥ずかしそうに笑う。
「それは……どうも……だが、君はさっき面白がっていたのではないか?」
「ええ、確かに……。ですが、せっかくお越しになったのに当たり散らされたのでは、クリム様も嫌な思いをするでしょうし、何より繊細なクリム様に閣下の相手は酷かと思いまして……」
オズワルド少佐は、私をどんな人間だと思っているんだ?!
何か言われたら砕け散るような、ガラスのハートを持った純粋な男に見えるのか!?
「心遣い感謝するが、私は大丈夫だ。元帥の扱いも案外わかってきたし、その……君が思うように繊細でもない」
「そうでしょうか??」
「そもそも、何故君は私を繊細だと思うんだ?」
クリムは少しイライラして言った。
陰険だの冷酷だのは良く言われていることだが(主にクライン)、繊細などとは言われたことがない。
「あのですね、私首都で暫くクリム様と行動を共にして気付いたことがあります。クリム様は全員のバランスをとるのが凄く上手くて、常に状況を正しく判断しているんです。そんなこと、繊細じゃないと出来ませんよ」
「…………………」
「どうかされました?」
キョトンとしてクリムを見る薄茶の瞳が、なぜだかとても美しく見えた。
長身で栗色の髪、すらりと伸びた長い手足に抜群のプロポーション。
この時、クリムは、アンナ・オズワルドに恋を………………
すると思うか!?
おいおい、このクリム・グリュッセルをその辺の男と一緒にしないで貰いたい!!
いや、決してオズワルド少佐に魅力がないと言っているわけじゃなく、これは私の矜持の問題だ。
グリュッセル家の当主を継ぐ私が、そう簡単に恋などしてたまるか。
クリムは一度咳払いをすると、オズワルドに向かってにっこりと微笑んだ。
「ははっ!そんな風に言ってもらえて嬉しいよ。でも、繊細というのはやはり少し違うかな?」
「クリム様は奥方様と一緒でとても強情だ。でも、そこが私は好きですけどね」
「……………………」
「クリム様??」
……………私は断じて恋などしていないっ!
そうだとも!
ああ………そうだ、会議に行かなくては。
少し頭を整理して、落ち着いて考えればこの馬鹿げた考えも消え去るだろう。
「いや、何でもない。そろそろ私は会議に行くとするよ。いろいろ心配してくれてありがとう、オズワルド少佐」
「あっ、はい!では、これで」
踵を返して、颯爽と去り行くオズワルドの後ろ姿をクリムはぼーっと見ていたが、急に後ろに気配を感じて振り返る。
そこには、ニヤリと笑うヴィクトールが立っていた。
「いやいや、寒くなって来ましたね」
「あ?え?ええ、そうですね」
「こう寒いと、あれですよね。人恋しくなるというかなんというか?」
「は?何を言っているんですか?」
「恋とは……知らずに落ちてしまうものだよ」
また何を言い始めたんだ!?
イライラが募るクリムを面白がるように、ヴィクトールは腕を組んでその様子を眺めている。
「シュライヒ准将には………そんな経験が?」
「………まぁね、報われなかったけど」
そう言うと、またニヤリと笑いクリムの背中をポンと叩く。
「オズワルドは変態だが、愚直で誠実だよ。お似合いだと思うけど……」
「なっ、何をバカなことを!!」
フフフ、と意味深な笑いを残してヴィクトールは楽しそうに会議室に消えていった。
そして一人になったクリムは、さっき自分で言った言葉を言い聞かせるように心の中で繰り返す。
何をバカなことを!!
私は……私は………恋などしていないっ!
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