少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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Extra Ausgabe

クリスタ・ルイスはかく語れり② クリスマスSS

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ルドガーの運転で、クライムシュミット駅に着いたのは、列車が到着する定刻5分ほど前だったかしら。
到着アナウンスで、あと10分ほど遅れると聞いた私は、その辺をルドガーと少し散策することにしたの。
いえね、別に一人でも良かったのだけど、ハインミュラー家の鉄の掟に「クリスタを絶対に一人にするな」という文言が付け加えられたらしいのよ。
どういうことかしらね?
これ、何するかわからないから見張っとけっていうことかしら!?
………そんなわけで、ルドガーと私は、先に駅の近くの酒屋で、お義母様の用事を済ませることにしたのです。

「ごめんくださーい!」

酒屋に入りカウンターを挟んだ事務所に声をかけながら私はぐるっと辺りを見回した。
一面の棚に、色んな種類のお酒があるのよ。
中には可愛いピンクの小瓶のお酒もあったりして、なかなか楽しいものだったわ。

「はいはい、あ、ハインミュラー様のお使いかね?」

「はい、そうです」

出てきたのは店主のような初老の男性。
ルドガーよりも少し年上くらいかしら?

「まぁ可愛いメイドさんだねぇ。しかも妊婦さんなのかい!」

後ろのルドガーが思いっきり不快な顔をしてる。
訂正しようと口を挟もうとしたルドガーを私はサッと手で制したわ。

「ええ。そうなんです!今日は大奥様からの注文がありまして。いつものワインを10本と、あと、頼んでいたものをと……」

「おっ!そうかそうか!ちょっと待ってな」

酒屋の店主は事務所の奥に一度こもると、その手にワインボトルを持って出て来た。

「これだよ。今年出来た新作ワインでね。稀少種のブドウを使っているから数があまりないんだ。これを含めて5本しかないんだよ」

「へぇ!そうなの?あら?でもこれ、ラベルがないわ。どうして?」

店主は何故だかふふん、と笑って私にそれを差し出した。

「それはね、このワインの名前がこれから付くからさ」

「これから……?」

これから名前が付くワイン?
試作品って所かしら?
私はそれを受け取り、ルドガーに渡した。
ルドガーは一度それを頭の上に掲げると、感慨深そうに微笑み、忠誠を誓うように恭しく頭を下げたの。
ワインに頭を下げるなんて、どうかしたのかしら?と、少し不思議に思ったけど、そんな考えはすぐに消えてなくなったわ。
そう、店主が私が思うことと一緒のことを言ったからよ。

「後のワインは夕方届けさせるよ。そうだ、大奥様に樽で買った方が安いよって伝えておいてくれないか?」

やっぱりそうよねっ!!
安いかどうかは別として、湯水のようにワインを消費するなら、樽の方がいいわよ!絶対!

「わかりました!よーく、言っておきますね!では、ごきげんよう」

と、言って私達は酒屋を後にした。


駅に着くと、ちょうど列車がホームに滑り込んだ所だった。
本当に危なかったわ、お迎えが遅れるとプリプリ怒るんだもの。
そんなプリプリ大魔王を、一等席車両の前で私とルドガーは待っていた。
様々な人が降りてくるなかで、ローラントだけは簡単に見つけることが出来るの。
そりゃそうよ。
あんなデカい人、そうそういたら世の中暑苦しくってしょうがない。
いえ、これは失言ね。
聞き流してちょうだい。

「クリスタ!!」

ローラントは黒い軍服を翻し、勢いよく駆け寄って来たわ。

「お帰りなさい、ローラン……ふぐっ…」

はい、お約束。
結構長い羞恥タイムの始まりです。
人目のあるところではやめなさいって言ってるのに聞きやしないわ!!
ルドガーもガン見するの止めてくれない?
「見守っているのです!」といい笑顔で言ってたけど、それ、本当??
約2分ほどのなっがいキスの後、ローラントは荷物をルドガーに預け、ひょいと私を抱っこするの。
ええ、羞恥タイムは継続中です。

「疲れただろ?歩くことはないからな。ずっと抱いててやるから」

「疲れてないし歩けるわ?過保護過ぎるの良くないわよ」

「ははっ!そうか。うん、ずっと抱いててやるからな」

聞いてない、そして、会話になっていない!
いつものこととはいえ、これでは少し心配になるわよ?
あ、お仕事の方がね?
それでなくても、週に一度は沢山のお土産と一緒に帰って来るんだから、軍の方に迷惑かけてないかが心配だわ……。

「さてと、少し寄りたいところがあるんだが……いいか?」

「え?ええ、もちろん構わないけど、余り遅くなるのも困るわよ。教会で待合せしてるでしょ?」

そう今日はシェーレンベルグ教会で、大規模な祝祭のミサがあるの。
イレーネは朝からアーベルの手伝いに行ってもらってるし、マリアとアイスラーも仕事が終わったら手伝いに来るって言ってたわね。
孤児院の子供達の劇とか歌とかもあってね、凄く楽しみなのよ。

「そんなに時間はかからないよ」

「そう、ならいいわよ!」

彼の首に手回し、私達は駅の改札を抜けて商店街へと向かった。
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