少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

文字の大きさ
上 下
8 / 59
Extra Ausgabe

隠し子騒動⑥

しおりを挟む
事態が収まったのを見て、ベアトリクスはルドガーに警邏隊と婦人科のフィーネを呼びに行かせ、一同は漸く居間で寛ぐことが出来た。

今、赤ちゃんは、女性陣の間で取り合いとなっていて、誰が次に抱っこするかで静かな争いが起きている。

「そう言えば名前はあるの?女の子よね?」

クリスタはカイに尋ねた。

「そうです……まだ、名前は無いんです……あ、もしよければ、貴女の名前をつけてもいいですか?貴女のように美しい女性になるように」

「まぁ!!もちろんよ、私、クリスタ・ルイス……あ、ルイスは余計ね」

「クリスタ……美しい名前ですね」

「ふふっ、じゃあクリスタちゃん、次はお姉ちゃんが抱っこちまちゅよー」

そう言ってクリスタちゃんを抱っこするクリスタを、ローラントは眩しそうに眺めた。


「皆さん、熱いお茶とミートパイはいかがですか??」

ガブリエラがトレイに出来たてのミートパイを載せてやって来た。

「あら、さすがガブリエラ!お腹空いてたのよねー。ほら、クリスタも」

クリスタは赤ちゃんをイーリスに渡し、ベアトリクスが寄越したミートパイを受け取ると、ひとくち口に含んだ。

「………うっ……」

ミートパイの匂いが鼻につき、胃から何かが込み上げてくる。

「クリスタ!!どうした?」

ローラントが背中を擦りながら、ベアトリクスを睨んだ。

「ひょっとして、このミートパイは母上が!?」

「ちっ、違うわよ!!ガブリエラが作ったのよ。私……私じゃないわ」

「そうですよ!大奥様に料理なんて、そんな恐ろしいこと……あ、失礼しました」

ガブリエラは口に手をあて失言を悔いたが、ベアトリクスはじとっとした目で執拗にガブリエラを見ている。

「とにかくっ!ミートパイのせいではないとすると?クリスタの体調が悪いと言うことかしら?」

「そうだわ!ここに来る時も、少し調子が悪そうだったわね」

そう言ってマリアとアイスラーは頷きあう。

「そうなのか!?無理するな、ここで休め」

ローラントはクリスタをソファーに横たわらせ、その側に座って頭を優しく撫でた。

「ごめんなさい、ミートパイが悪いわけじゃないのよ……私の体調のせい。何だか最近だるくってしょうがないの」

「そうか……とにかく動くな。何もせずにここにいればいいから」

「ええ、ありがとう」

頬笑むクリスタの額に手をのせたローラントは、いつになく暖かいその温度に違和感を覚えた。


「どーもー、失礼しますー」

居間の扉が勢いよく開き、満面の笑みのフィーネがやって来ると、部屋の密度が一気に濃くなった。

「もー、困るよお父さん!!ほんとなら警邏隊に捕まえて貰うんだけど、今回は特別に聴取だけで済ませていいって!良かったね」

カイは涙ぐんで謝った。

「すみません……あ、じゃあ警邏隊の方のとこに行ってきます、少しクリスタを見てて貰えますか?」

「え?クリスタ?………う、うん、いいよ」

フィーネは何故赤ちゃんの父親が、クリスタを見ててといったのかわからなかったが、まぁいいやとクリスタの方に向かった。

そしてクリスタの横たわるソファーに近づき、ローラントの方を見て尋ねる。

「クリスタ、調子悪いの?」

「そうなんだ……さっきも吐きそうになっていたし、微熱もあるみたいでだるいって」

「………ちょっと見せて」

フィーネはクリスタの額に手をあて、それから脈を計り、最後に質問をした。

「凄くダルくて、眠い?食べ物に好き嫌いが出来たり、匂いに敏感?」

「ええ、そんな感じ」

フィーネは軽く頷くと、クリスタの耳元でこっそりと言った。

「生理は来た?暫く来てないんじゃない?」

目を丸くしたクリスタにフィーネはいつものおどけた感じで、茶目っ気たっぷりに笑う。

「おめでと!」

「あ………うん、ありがと……」

「え………え?」

顔を赤くして俯くクリスタと、それを幸せそうに見るフィーネの横で、良くわかっていないローラントは狼狽している。

「鈍いなぁ、妊娠だよ!おめでとう、ローラント様とハインミュラーのご家族様」

フィーネの大きな声は館中に響き渡り、放心状態だったローラントは、やがて事実を飲み込むと俯く妻の額に軽く口付けた。

「凄いな……君は……本当に。どれだけオレを幸せにする気なんだ?」

「ローラント、幸せ?」

「ああ、世界で一番幸せだ」

気付くと、いつの間にか回りを皆に囲まれていて、一人一人がお祝いの言葉を掛けてくれる。
嬉しさと、恥ずかしさが交互にやって来て、クリスタの顔はずっと赤いままだった。

「あ、そうだ、今あんまり無理するんじゃないよ!安定期に入るまでは無理は禁物!わかったね?」

「はーい、フィーネ先生」

威張って言うフィーネ先生は、満足そうに大きく頷いた。



しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

処理中です...