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隠し子騒動⑥
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事態が収まったのを見て、ベアトリクスはルドガーに警邏隊と婦人科のフィーネを呼びに行かせ、一同は漸く居間で寛ぐことが出来た。
今、赤ちゃんは、女性陣の間で取り合いとなっていて、誰が次に抱っこするかで静かな争いが起きている。
「そう言えば名前はあるの?女の子よね?」
クリスタはカイに尋ねた。
「そうです……まだ、名前は無いんです……あ、もしよければ、貴女の名前をつけてもいいですか?貴女のように美しい女性になるように」
「まぁ!!もちろんよ、私、クリスタ・ルイス……あ、ルイスは余計ね」
「クリスタ……美しい名前ですね」
「ふふっ、じゃあクリスタちゃん、次はお姉ちゃんが抱っこちまちゅよー」
そう言ってクリスタちゃんを抱っこするクリスタを、ローラントは眩しそうに眺めた。
「皆さん、熱いお茶とミートパイはいかがですか??」
ガブリエラがトレイに出来たてのミートパイを載せてやって来た。
「あら、さすがガブリエラ!お腹空いてたのよねー。ほら、クリスタも」
クリスタは赤ちゃんをイーリスに渡し、ベアトリクスが寄越したミートパイを受け取ると、ひとくち口に含んだ。
「………うっ……」
ミートパイの匂いが鼻につき、胃から何かが込み上げてくる。
「クリスタ!!どうした?」
ローラントが背中を擦りながら、ベアトリクスを睨んだ。
「ひょっとして、このミートパイは母上が!?」
「ちっ、違うわよ!!ガブリエラが作ったのよ。私……私じゃないわ」
「そうですよ!大奥様に料理なんて、そんな恐ろしいこと……あ、失礼しました」
ガブリエラは口に手をあて失言を悔いたが、ベアトリクスはじとっとした目で執拗にガブリエラを見ている。
「とにかくっ!ミートパイのせいではないとすると?クリスタの体調が悪いと言うことかしら?」
「そうだわ!ここに来る時も、少し調子が悪そうだったわね」
そう言ってマリアとアイスラーは頷きあう。
「そうなのか!?無理するな、ここで休め」
ローラントはクリスタをソファーに横たわらせ、その側に座って頭を優しく撫でた。
「ごめんなさい、ミートパイが悪いわけじゃないのよ……私の体調のせい。何だか最近だるくってしょうがないの」
「そうか……とにかく動くな。何もせずにここにいればいいから」
「ええ、ありがとう」
頬笑むクリスタの額に手をのせたローラントは、いつになく暖かいその温度に違和感を覚えた。
「どーもー、失礼しますー」
居間の扉が勢いよく開き、満面の笑みのフィーネがやって来ると、部屋の密度が一気に濃くなった。
「もー、困るよお父さん!!ほんとなら警邏隊に捕まえて貰うんだけど、今回は特別に聴取だけで済ませていいって!良かったね」
カイは涙ぐんで謝った。
「すみません……あ、じゃあ警邏隊の方のとこに行ってきます、少しクリスタを見てて貰えますか?」
「え?クリスタ?………う、うん、いいよ」
フィーネは何故赤ちゃんの父親が、クリスタを見ててといったのかわからなかったが、まぁいいやとクリスタの方に向かった。
そしてクリスタの横たわるソファーに近づき、ローラントの方を見て尋ねる。
「クリスタ、調子悪いの?」
「そうなんだ……さっきも吐きそうになっていたし、微熱もあるみたいでだるいって」
「………ちょっと見せて」
フィーネはクリスタの額に手をあて、それから脈を計り、最後に質問をした。
「凄くダルくて、眠い?食べ物に好き嫌いが出来たり、匂いに敏感?」
「ええ、そんな感じ」
フィーネは軽く頷くと、クリスタの耳元でこっそりと言った。
「生理は来た?暫く来てないんじゃない?」
目を丸くしたクリスタにフィーネはいつものおどけた感じで、茶目っ気たっぷりに笑う。
「おめでと!」
「あ………うん、ありがと……」
「え………え?」
顔を赤くして俯くクリスタと、それを幸せそうに見るフィーネの横で、良くわかっていないローラントは狼狽している。
「鈍いなぁ、妊娠だよ!おめでとう、ローラント様とハインミュラーのご家族様」
フィーネの大きな声は館中に響き渡り、放心状態だったローラントは、やがて事実を飲み込むと俯く妻の額に軽く口付けた。
「凄いな……君は……本当に。どれだけオレを幸せにする気なんだ?」
「ローラント、幸せ?」
「ああ、世界で一番幸せだ」
気付くと、いつの間にか回りを皆に囲まれていて、一人一人がお祝いの言葉を掛けてくれる。
嬉しさと、恥ずかしさが交互にやって来て、クリスタの顔はずっと赤いままだった。
「あ、そうだ、今あんまり無理するんじゃないよ!安定期に入るまでは無理は禁物!わかったね?」
「はーい、フィーネ先生」
威張って言うフィーネ先生は、満足そうに大きく頷いた。
今、赤ちゃんは、女性陣の間で取り合いとなっていて、誰が次に抱っこするかで静かな争いが起きている。
「そう言えば名前はあるの?女の子よね?」
クリスタはカイに尋ねた。
「そうです……まだ、名前は無いんです……あ、もしよければ、貴女の名前をつけてもいいですか?貴女のように美しい女性になるように」
「まぁ!!もちろんよ、私、クリスタ・ルイス……あ、ルイスは余計ね」
「クリスタ……美しい名前ですね」
「ふふっ、じゃあクリスタちゃん、次はお姉ちゃんが抱っこちまちゅよー」
そう言ってクリスタちゃんを抱っこするクリスタを、ローラントは眩しそうに眺めた。
「皆さん、熱いお茶とミートパイはいかがですか??」
ガブリエラがトレイに出来たてのミートパイを載せてやって来た。
「あら、さすがガブリエラ!お腹空いてたのよねー。ほら、クリスタも」
クリスタは赤ちゃんをイーリスに渡し、ベアトリクスが寄越したミートパイを受け取ると、ひとくち口に含んだ。
「………うっ……」
ミートパイの匂いが鼻につき、胃から何かが込み上げてくる。
「クリスタ!!どうした?」
ローラントが背中を擦りながら、ベアトリクスを睨んだ。
「ひょっとして、このミートパイは母上が!?」
「ちっ、違うわよ!!ガブリエラが作ったのよ。私……私じゃないわ」
「そうですよ!大奥様に料理なんて、そんな恐ろしいこと……あ、失礼しました」
ガブリエラは口に手をあて失言を悔いたが、ベアトリクスはじとっとした目で執拗にガブリエラを見ている。
「とにかくっ!ミートパイのせいではないとすると?クリスタの体調が悪いと言うことかしら?」
「そうだわ!ここに来る時も、少し調子が悪そうだったわね」
そう言ってマリアとアイスラーは頷きあう。
「そうなのか!?無理するな、ここで休め」
ローラントはクリスタをソファーに横たわらせ、その側に座って頭を優しく撫でた。
「ごめんなさい、ミートパイが悪いわけじゃないのよ……私の体調のせい。何だか最近だるくってしょうがないの」
「そうか……とにかく動くな。何もせずにここにいればいいから」
「ええ、ありがとう」
頬笑むクリスタの額に手をのせたローラントは、いつになく暖かいその温度に違和感を覚えた。
「どーもー、失礼しますー」
居間の扉が勢いよく開き、満面の笑みのフィーネがやって来ると、部屋の密度が一気に濃くなった。
「もー、困るよお父さん!!ほんとなら警邏隊に捕まえて貰うんだけど、今回は特別に聴取だけで済ませていいって!良かったね」
カイは涙ぐんで謝った。
「すみません……あ、じゃあ警邏隊の方のとこに行ってきます、少しクリスタを見てて貰えますか?」
「え?クリスタ?………う、うん、いいよ」
フィーネは何故赤ちゃんの父親が、クリスタを見ててといったのかわからなかったが、まぁいいやとクリスタの方に向かった。
そしてクリスタの横たわるソファーに近づき、ローラントの方を見て尋ねる。
「クリスタ、調子悪いの?」
「そうなんだ……さっきも吐きそうになっていたし、微熱もあるみたいでだるいって」
「………ちょっと見せて」
フィーネはクリスタの額に手をあて、それから脈を計り、最後に質問をした。
「凄くダルくて、眠い?食べ物に好き嫌いが出来たり、匂いに敏感?」
「ええ、そんな感じ」
フィーネは軽く頷くと、クリスタの耳元でこっそりと言った。
「生理は来た?暫く来てないんじゃない?」
目を丸くしたクリスタにフィーネはいつものおどけた感じで、茶目っ気たっぷりに笑う。
「おめでと!」
「あ………うん、ありがと……」
「え………え?」
顔を赤くして俯くクリスタと、それを幸せそうに見るフィーネの横で、良くわかっていないローラントは狼狽している。
「鈍いなぁ、妊娠だよ!おめでとう、ローラント様とハインミュラーのご家族様」
フィーネの大きな声は館中に響き渡り、放心状態だったローラントは、やがて事実を飲み込むと俯く妻の額に軽く口付けた。
「凄いな……君は……本当に。どれだけオレを幸せにする気なんだ?」
「ローラント、幸せ?」
「ああ、世界で一番幸せだ」
気付くと、いつの間にか回りを皆に囲まれていて、一人一人がお祝いの言葉を掛けてくれる。
嬉しさと、恥ずかしさが交互にやって来て、クリスタの顔はずっと赤いままだった。
「あ、そうだ、今あんまり無理するんじゃないよ!安定期に入るまでは無理は禁物!わかったね?」
「はーい、フィーネ先生」
威張って言うフィーネ先生は、満足そうに大きく頷いた。
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