少将閣下の花嫁は、ちょっと変わった天才少女

藤 実花

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隠し子騒動⑤

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ローラントに抱かれて居間に入ると、騒ぎを聞きつけて急いで階下に降りたベアトリクス、ガブリエラ、イーリスとイレーネに抱っこされた小さな赤ちゃんがいた。
ベアトリクス達はクリスタの姿を目にすると、一様に青ざめてローラントを見る。

「まぁ、この子があなたの??」

クリスタが男に声をかけると、彼はイレーネに駆け寄り赤ちゃんの頭を優しく擦り、居間に揃った全員に聞こえるように大声で謝罪をした。

「本当に……すみませんでした!!俺は何てことを……あいつが残してくれた、たった一つのものを手放してしまうなんて……」

「と言うことは、この子はあなたの子供で間違いないのかしらっ!?」

ベアトリクスが食って掛かるように男に詰め寄り、ガブリエラと双子達も同じように一歩前に出ている。

「はっ、はい!そうです」

「………そう……そうなの……ああ、良かったわ……」

「大奥様!」

「良かったですね!大奥様!!」

何故か安堵の表情を浮かべるベアトリクス達と、自分の横で大きく息を吐いたローラントを見て、クリスタはハインミュラー家で起こっていたことをなんとなく把握した。

しかし、その件よりももっと重要な案件が今ここで発生している。
まずはそれから片付けるのが先だと、クリスタは男に尋ねた。

「あなた名前は?」

「カイです」

「そう。ねぇ、カイがブランケンハイム病院からその子を連れ出して、ここに連れてきたの?」

「……そうです」

「ふぅん、それは自分で育てられないと思ったから?」

「はい。出産の時あいつが……妻が……死んでしまってどうしていいかわからなくて……今の仕事じゃ全然稼げないし、蓄えなんて1銭もない。その上働きながら子供を育てるなんて……だから……ここで育てて貰おうと……ここなら、お金もあるし……この子も幸せになれると……」

「でも、思い直した……どうして?」

「忘れられなくて、最後にあいつが言った言葉が……この子をお願いって……言葉が……」

泣きじゃくり言葉に詰まるカイに、イレーネは子供を渡した。

「大変でしたけど、とても楽しかったですよ。ほら、お父さんを見て安心してる。ほんの5日だったけど、私結構この子の気持ちわかるんです」

イレーネと子供の顔を交互に見て、漸くカイは微笑んだ。

「ありがとう、本当に。もう二度と手放したりしません」

これで、警邏隊と病院に連絡すれば、新生児失踪案件は解決するが、根本的な問題は何も解決していないんじゃないかとクリスタは思っていた。
どうやらそれはマリアも同じだったらしく、人差し指をこめかみにあて、何かを必死に思案している。

「………うーん、いけるか、いけるわね……うん。あの、託児所を建てようと思うの」

思案の末、マリアが言った言葉は今のこの状況には全く関係ないように思えたが、クリスタはそれが根本的な問題を解決する手段だと知っていた。

「なるほど」

「え?何が『なるほど』なんだ?フローリア商会が新しく商売するのか?」

ローラントの不思議そうな声にクリスタとマリアは顔を見合せて頬笑む。

「ブランケンハイム病院の隣に託児所を建てます。そこで、働いている人達の子供を面倒見るの。もちろん、お金は頂くけどそれは個人の収入に応じて計算するわ。だから、低所得の人は少ない料金で預かることになる。それで、低所得の人の分の補填だけれど、国に不足分を補ってもらうことは可能かしら?」

と、マリアが言う。

「可能でしょう。議会を通すことになるけど、多分こういう社会保障的なことはジークが大好きな筈だから超高速でやってもらうわ。彼、国民からの称賛が大好きだもの」

と、クリスタが答える。

自国の法律に関わる案件を、二人の少女はたわいのないただのおしゃべりのような感じで話している。
そして、自国の皇太子を呼び捨てにしている上に、多少小馬鹿にもしているという不敬に、平民のカイは震え上がった。

「……あの、一体貴女は?」

「オレの妻だ」

「うちの嫁よ」

「あたしの親友よ」

「僕の………なんだろう?」

綺麗に落としたアイスラーは、皆が大笑いする様子に何が面白いのか分からず苦笑いをした。

「まぁ、これであなたも働きながら安心してこの子と暮らせるわね!暫く大変だけど頑張ってね、お父さん」

「ありがとうございます!何から何まで……もう、お礼の言い様がありません」

「いいのよ、ね、一つ聞きたいんだけど、お金持ちだからここに子供を連れてきたって言ったけど……ほんとはどうなの?」

クリスタが尋ねると、カイは答えにくそうに側のローラントを見た。

「あの………ここの旦那様は……女性関係が派手で……一人くらい隠し子がいてもわからないんじゃないかって……その……酒場で聞いて……」

「……………あぁ……」

その言葉を聞いて、ローラントが嘆息をもらした。

「まぁそんなことだろうと……。大体、様子がおかしかったのも隠し子云々のことでしょ?先に私に言えば良かったのに」

「言ったら……どうなるか……」

青ざめてクリスタを見るローラントは、今どう見ても大元帥とは思えない。

「大丈夫、完璧に把握しているわ」

「え………何を?」

「実は私、グリュッセル家の手帖を見たのよ。だから、あなたの過去から今現在に至るまで把握してます。確かに2年前からそういう女性はいなかったわ。だから聞いてくれれば違うと………どうしたの?」

グリュッセル家の手帖……あの全てが書かれた悪魔の手帖を……読んだ……
ローラントは茫然自失となった。

「それで……君は……それを……」

「凄い人数だったわね!でも、それには嫉妬しないわよ。だって私のこと一番愛してるでしょ?」

「………ああ、もちろん!君だけを愛してる」

たったそれだけの言葉で自信を回復させる彼女を、ローラントは心の底から凄いと思い、また心の底から愛していると思った。


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