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隠し子騒動④
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クリスタ達3人は、ブランケンハイム病院前からバスに乗り、ハインミュラー邸近くの停留所に降り立った。
近くといっても、そこから随分歩かないと目的地には着かない上に、緩やかな斜面が延々と続く徒歩には向かない道を見て、マリアがため息をついた。
「やっぱり車で来た方がよかったんじゃないかしら?」
「そうねぇ、まぁ、しょうがないわ。目立たないようにしなきゃ駄目だし……」
「はぁー………わかったわ、行きましょう!」
覚悟を決めたマリアは、先頭を立って歩き出したが、暫くしてハインミュラー邸への道を知らないことに気付き、そっとアイスラーの後ろに回った。
クリスタ、アイスラー、マリアの順で並んで斜面を黙々と登って行く。
しかし、3分の1程過ぎた時、一番若く元気なクリスタが、何故か真っ先にバテて座り込んだ。
「ごめんなさい、ちょっと休憩………」
「そうだね、そうしよう。あ、そこの店で飲み物買ってくるからちょっと休んでて」
アイスラーに気を使わせてしまったわ。
何故だか分からない体の不調にクリスタは少し不安に駆られていた。
「でもクリスタがバテるなんて珍しいわね。いつも誰よりも元気なのに」
「ええ、私も意外。こんなこと今までなかったことよ」
「具合でも悪い?大丈夫?」
マリアが手をクリスタの額に当てる。
「少し体温が高めかしらね。まぁ、このくらいは普通だけど」
「ふふ、大丈夫よ!なんともないわ、少し休んだらまた出発するわよー」
アイスラーから飲み物を渡され、一気に飲み干すとクリスタは立ち上がって大きく背伸びをした。
「さぁ、もうひと頑張り!」
3人は今度はアイスラー、クリスタ、マリアの順で歩き出した。
それから30分ほど歩き、沿道に欅並木が見えるとハインミュラー邸が美しい姿を現した。
初めて見るハインミュラー邸のあまりの美しさにマリアは言葉を失い、しばらくの後漸く絞り出した言葉はとても彼女らしいものだった。
「すごいわね、これ、建設費いくらかかるのかしら」
気になるのはやっぱりそこなのね……。
と、クリスタ必死で笑いを堪えた。
ハインミュラー邸に忍び込む段取りは、あらかじめ頭の中で組み立てていた。
みんながいるのはおそらく居間だ。
正面からこっそり入って、すぐに裏手の庭に回り込み居間の窓の外から様子を伺う。
クリスタ達がその手筈通り、居間を目指し裏庭に抜けようとした時、建物の裏口付近で怪しい男を発見した。
どこかの工場の作業服のようなものを着て、裏口の鍵をバールで壊そうとしている。
大声を出すことは出来なかったので、3人は互いに目配せをし、音を立てず慎重に男を囲むように背後に立つ。
男との距離は2メートルほど。
クリスタはゆっくり近付き、バールを持った方の手を掴んだ。
「なっ!誰だ!?」
「それはこっちのセリフです!何をしているの?泥棒かしら?」
男が怯んだ隙に、アイスラーがバールを取り上げマリアに手渡した。
「う、うるさいな!俺は……取り戻しに来たんだ……」
「取り戻す?何を?」
「…………子供………」
「子供??なんで、この館に子供を取り戻しに来るの?………わからないから、説明してくれない?」
執拗に食い下がるクリスタに苛立った男は掴まれた腕とは反対の腕で思い切り彼女を突き飛ばした。
幸いすぐ後ろにいたマリアに抱き止められ倒れることはなかったが、不意打ちを喰らって足が縺れ、その場にしゃがみこんでしまった。
「危ないわねっ!何するのよ!」
大分頭に来ていたマリアが大声で男を恫喝すると、男はそのまま裏庭へ逃げようとする。
その時、裏口の扉が急に開いてローラントが現れ、マリアに支えられているクリスタと、逃げようとする男を見ておおよそのことを理解した。
『この男は妻に害を成した』
それだけで十分駆逐する理由になる。
逃げる男より早く、その手が首元に延び襟を掴まれた男は容赦なく館の壁に叩きつけられた。
崩れ落ちる男の体を更に壁に押し付け、前髪を掴んでその目を覗き込む。
「す……すみ……ません……ごめ…んな…さい……ごめんなさい……」
無慈悲なその目に、恐怖を感じた男はローラントにただひたすら謝ったが、彼はその様子をせせら笑った。
「謝るな、無駄だぞ?どうせ許されない」
ダークブラウンの瞳が感情もなく見開かれ、掴まれた前髪が重力に逆らって上に引き上げられる。
地面から足が浮きちょうど悪魔のような瞳と視線が交わった時、男は死の淵を見た。
「待って!ローラント」
天使の声のような美しいソプラノが響くと、感情のない瞳に光が戻ったローラントは男を掴んだ前髪を無造作に離し、クリスタに駆け寄る。
「大丈夫か?何をされた?さぁ、おいで」
しゃがみこんだクリスタをそっと抱き上げて、魂が抜けたように放心状態の男に近寄るとゲシゲシと足で蹴って言った。
「お前、良かったな。命は助かったようだぞ。妻に礼を言っておけ」
「妻………」
男はクリスタを見上げ、懐かしむような目をすると誰に憚ることもなく声をあげて泣きじゃくる。
「ローラント、この人、子供を取り戻しに来たって。どういうことかわかる?」
ローラントに寄りかかりながら、クリスタはさっき男から聞いたことを告げた。
「子供!?子供ってあの赤ちゃんのことか!?」
「あの赤ちゃん??」
二人の眼下から、男が声を上げた。
「申し訳ありません!!それは俺の……子供です……本当にすみません、勝手なことをして……」
ローラントは腑に落ちたような顔をしているが、クリスタとマリアとアイスラーはわけがわからず首を傾げた。
「とりあえず中に入ろう。話はそこで」
近くといっても、そこから随分歩かないと目的地には着かない上に、緩やかな斜面が延々と続く徒歩には向かない道を見て、マリアがため息をついた。
「やっぱり車で来た方がよかったんじゃないかしら?」
「そうねぇ、まぁ、しょうがないわ。目立たないようにしなきゃ駄目だし……」
「はぁー………わかったわ、行きましょう!」
覚悟を決めたマリアは、先頭を立って歩き出したが、暫くしてハインミュラー邸への道を知らないことに気付き、そっとアイスラーの後ろに回った。
クリスタ、アイスラー、マリアの順で並んで斜面を黙々と登って行く。
しかし、3分の1程過ぎた時、一番若く元気なクリスタが、何故か真っ先にバテて座り込んだ。
「ごめんなさい、ちょっと休憩………」
「そうだね、そうしよう。あ、そこの店で飲み物買ってくるからちょっと休んでて」
アイスラーに気を使わせてしまったわ。
何故だか分からない体の不調にクリスタは少し不安に駆られていた。
「でもクリスタがバテるなんて珍しいわね。いつも誰よりも元気なのに」
「ええ、私も意外。こんなこと今までなかったことよ」
「具合でも悪い?大丈夫?」
マリアが手をクリスタの額に当てる。
「少し体温が高めかしらね。まぁ、このくらいは普通だけど」
「ふふ、大丈夫よ!なんともないわ、少し休んだらまた出発するわよー」
アイスラーから飲み物を渡され、一気に飲み干すとクリスタは立ち上がって大きく背伸びをした。
「さぁ、もうひと頑張り!」
3人は今度はアイスラー、クリスタ、マリアの順で歩き出した。
それから30分ほど歩き、沿道に欅並木が見えるとハインミュラー邸が美しい姿を現した。
初めて見るハインミュラー邸のあまりの美しさにマリアは言葉を失い、しばらくの後漸く絞り出した言葉はとても彼女らしいものだった。
「すごいわね、これ、建設費いくらかかるのかしら」
気になるのはやっぱりそこなのね……。
と、クリスタ必死で笑いを堪えた。
ハインミュラー邸に忍び込む段取りは、あらかじめ頭の中で組み立てていた。
みんながいるのはおそらく居間だ。
正面からこっそり入って、すぐに裏手の庭に回り込み居間の窓の外から様子を伺う。
クリスタ達がその手筈通り、居間を目指し裏庭に抜けようとした時、建物の裏口付近で怪しい男を発見した。
どこかの工場の作業服のようなものを着て、裏口の鍵をバールで壊そうとしている。
大声を出すことは出来なかったので、3人は互いに目配せをし、音を立てず慎重に男を囲むように背後に立つ。
男との距離は2メートルほど。
クリスタはゆっくり近付き、バールを持った方の手を掴んだ。
「なっ!誰だ!?」
「それはこっちのセリフです!何をしているの?泥棒かしら?」
男が怯んだ隙に、アイスラーがバールを取り上げマリアに手渡した。
「う、うるさいな!俺は……取り戻しに来たんだ……」
「取り戻す?何を?」
「…………子供………」
「子供??なんで、この館に子供を取り戻しに来るの?………わからないから、説明してくれない?」
執拗に食い下がるクリスタに苛立った男は掴まれた腕とは反対の腕で思い切り彼女を突き飛ばした。
幸いすぐ後ろにいたマリアに抱き止められ倒れることはなかったが、不意打ちを喰らって足が縺れ、その場にしゃがみこんでしまった。
「危ないわねっ!何するのよ!」
大分頭に来ていたマリアが大声で男を恫喝すると、男はそのまま裏庭へ逃げようとする。
その時、裏口の扉が急に開いてローラントが現れ、マリアに支えられているクリスタと、逃げようとする男を見ておおよそのことを理解した。
『この男は妻に害を成した』
それだけで十分駆逐する理由になる。
逃げる男より早く、その手が首元に延び襟を掴まれた男は容赦なく館の壁に叩きつけられた。
崩れ落ちる男の体を更に壁に押し付け、前髪を掴んでその目を覗き込む。
「す……すみ……ません……ごめ…んな…さい……ごめんなさい……」
無慈悲なその目に、恐怖を感じた男はローラントにただひたすら謝ったが、彼はその様子をせせら笑った。
「謝るな、無駄だぞ?どうせ許されない」
ダークブラウンの瞳が感情もなく見開かれ、掴まれた前髪が重力に逆らって上に引き上げられる。
地面から足が浮きちょうど悪魔のような瞳と視線が交わった時、男は死の淵を見た。
「待って!ローラント」
天使の声のような美しいソプラノが響くと、感情のない瞳に光が戻ったローラントは男を掴んだ前髪を無造作に離し、クリスタに駆け寄る。
「大丈夫か?何をされた?さぁ、おいで」
しゃがみこんだクリスタをそっと抱き上げて、魂が抜けたように放心状態の男に近寄るとゲシゲシと足で蹴って言った。
「お前、良かったな。命は助かったようだぞ。妻に礼を言っておけ」
「妻………」
男はクリスタを見上げ、懐かしむような目をすると誰に憚ることもなく声をあげて泣きじゃくる。
「ローラント、この人、子供を取り戻しに来たって。どういうことかわかる?」
ローラントに寄りかかりながら、クリスタはさっき男から聞いたことを告げた。
「子供!?子供ってあの赤ちゃんのことか!?」
「あの赤ちゃん??」
二人の眼下から、男が声を上げた。
「申し訳ありません!!それは俺の……子供です……本当にすみません、勝手なことをして……」
ローラントは腑に落ちたような顔をしているが、クリスタとマリアとアイスラーはわけがわからず首を傾げた。
「とりあえず中に入ろう。話はそこで」
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