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隠し子騒動②
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翌日、朝早く基地を出ていくローラントにバレないように距離を取り、クリスタはこっそり跡をつけている。
総務部に貸しのあるクリスタの休暇願いは、前日申請にも関わらず簡単に受理された。
同じホームで列車を待つのはマズいので、後ろの方で様子を伺いローラントが乗り込んでから、列車に飛び乗る。
そして、彼の座る一等席から一番離れた三等席に乗り込み、少し軋む座席に座るとふーっと大きく息を吐いた。
このドキドキする状況をクリスタは非常に楽しんでいたのだが、一等席の男はまた別の意味でドキドキしていた。
ローラントは朝から謎の胃痛に悩まされ、心配したクリスタから渡された胃薬を握りしめ、祈るように顔を伏せていた。
自分の子ではないというのはわかっている。
それでも、万が一………。
そう考えると昨日食べたものが、逆流してきそうな気がして必死で口を覆った。
考えすぎるのは良くないな。
そう考えて水とともに胃薬を流し込んだ。
正反対の表情の二人を乗せた列車は、軽快に快走し、ほぼ定刻にクライムシュミットに到着した。
一等席のローラントは優先的に降りることが出来たが、三等席のクリスタは一等二等の客が降りるまで待たなければならなかった。
その為ローラントを見失ってしまったが、ここまで来ればもう自分の庭のようなものなので、なんとでもなる。
あとは、ハインミュラー家に行ってこっそり裏から真相を探るまで!!
駅から出て、暫く歩くと懐かしいブランケンハイム病院の看板が見えた。
時間もあることだし、マリアやアイスラーに会っていこうと思ったクリスタはくるりと向きを変え、病院に向かって歩き始めた。
正面玄関から一階のロビーを抜け、ちょうど婦人科に差し掛かったとき、二人の警邏隊員とすれ違い、その後ろからフィーネが現れた。
「フィーネ!!久しぶりね!」
明るく声をかけたクリスタは、いつも割りと元気なフィーネが疲れた顔をしているのを見て驚いた。
「あら?クリスタじゃない!ほんと、久しぶりねぇ、元気だった?」
「ええ、私は元気だけど……ねぇ、何かあったの?さっき警邏隊ともすれ違ったし……」
「あー………うん、まぁクリスタだから話すけどさ、実はね、病院から新生児が一人いなくなっちゃって……」
「いなくなる?なぜ?連れ去られたの?」
「連れ去られた可能性が高いって……実は犯人もわかってるんだ」
「誰なの!?」
「赤ちゃんの父親……これがちょっと複雑でね……彼の奥さん、隣町の病院で出産したんだけど、どうやら出産時にお母さんが亡くなったらしいんだ。もともと、持病があったらしくて体も弱ってたそうだよ。そして、いろいろ扱いに困った隣町の病院が、設備の整ったうちに新生児を送ってきてね」
「ええ、それで?」
「うん、そこのうちはあまり家計に余裕がなくて……病院の支払いも出来ないって悩んでたらしい……加えて、奥さんの死だ。思い詰めたのかもしれないね。で、5日前に二人で姿を消したんだ」
フィーネの表情がだんだんと暗くなっていく。
「姿を消した?どうして?どこに行ったの?」
「わからない。だけど、最悪な結果は無理心中だ。そうならないために、警邏隊に探してもらってるんだけど……まだ……」
「そうなのね……」
あの明るいフィーネの辛そうな顔を初めて見たクリスタは胸が詰まる思いがした。
「ああ、ごめんね。クリスタは気にしないで!そのうち見つかるさ!」
そう言って無理に笑うフィーネに、クリスタは自分に何か出来ないか必死に考えたが、いい答えは見つからなかった。
フィーネと別れ一階のロビーのソファーに座り込んでいると、正面玄関からマリアとアイスラーが仲良く会話しながらやって来るのが見えた。
二人はクリスタを見つけると足早にやって来て、両脇のソファーを陣取り満面の笑みを見せる。
「クリスタ!半年ぶりかしらね!もう!来るなら言ってよー」
マリアがクリスタの手を取り拗ねたような声を出すと、懐かしさに自然と顔が綻ぶ。
「ごめんなさい、急だったの。休暇申請を出したのだって昨日なのよ」
「そうなんだ、でもなんでまた急に??」
アイスラーが、黒縁メガネをくいっとあげながら、何か楽しいことを見つけるように探ってくる。
この二人になら喋ってもいいか、と、クリスタは基地での挙動不審なローラントのことを話した。
「なるほどねー、そりゃ、なんかあるね」
「ね?そう思うでしょ?」
「で、それを探るのね?今から」
「そうよ」
三人はロビーの一番目立つところで、目立たないように小さく輪になって会話している。
「わかった。僕も行く!」
「あたしも!」
「は?何いってんの?仕事は?!」
アイスラーとマリアは顔を見合わせてクスリと笑った。
「私達、今日昼から休みなのよねー」
「ねー」
ねー、って何?!
なんだか知らないけど……イラっとしたわ!
「まぁ……いいけど、邪魔しないでよね」
「もちろんっ!」
こうしておかしな3人組の探偵は、好奇心たっぷりでハインミュラー邸に向かうのであった。
総務部に貸しのあるクリスタの休暇願いは、前日申請にも関わらず簡単に受理された。
同じホームで列車を待つのはマズいので、後ろの方で様子を伺いローラントが乗り込んでから、列車に飛び乗る。
そして、彼の座る一等席から一番離れた三等席に乗り込み、少し軋む座席に座るとふーっと大きく息を吐いた。
このドキドキする状況をクリスタは非常に楽しんでいたのだが、一等席の男はまた別の意味でドキドキしていた。
ローラントは朝から謎の胃痛に悩まされ、心配したクリスタから渡された胃薬を握りしめ、祈るように顔を伏せていた。
自分の子ではないというのはわかっている。
それでも、万が一………。
そう考えると昨日食べたものが、逆流してきそうな気がして必死で口を覆った。
考えすぎるのは良くないな。
そう考えて水とともに胃薬を流し込んだ。
正反対の表情の二人を乗せた列車は、軽快に快走し、ほぼ定刻にクライムシュミットに到着した。
一等席のローラントは優先的に降りることが出来たが、三等席のクリスタは一等二等の客が降りるまで待たなければならなかった。
その為ローラントを見失ってしまったが、ここまで来ればもう自分の庭のようなものなので、なんとでもなる。
あとは、ハインミュラー家に行ってこっそり裏から真相を探るまで!!
駅から出て、暫く歩くと懐かしいブランケンハイム病院の看板が見えた。
時間もあることだし、マリアやアイスラーに会っていこうと思ったクリスタはくるりと向きを変え、病院に向かって歩き始めた。
正面玄関から一階のロビーを抜け、ちょうど婦人科に差し掛かったとき、二人の警邏隊員とすれ違い、その後ろからフィーネが現れた。
「フィーネ!!久しぶりね!」
明るく声をかけたクリスタは、いつも割りと元気なフィーネが疲れた顔をしているのを見て驚いた。
「あら?クリスタじゃない!ほんと、久しぶりねぇ、元気だった?」
「ええ、私は元気だけど……ねぇ、何かあったの?さっき警邏隊ともすれ違ったし……」
「あー………うん、まぁクリスタだから話すけどさ、実はね、病院から新生児が一人いなくなっちゃって……」
「いなくなる?なぜ?連れ去られたの?」
「連れ去られた可能性が高いって……実は犯人もわかってるんだ」
「誰なの!?」
「赤ちゃんの父親……これがちょっと複雑でね……彼の奥さん、隣町の病院で出産したんだけど、どうやら出産時にお母さんが亡くなったらしいんだ。もともと、持病があったらしくて体も弱ってたそうだよ。そして、いろいろ扱いに困った隣町の病院が、設備の整ったうちに新生児を送ってきてね」
「ええ、それで?」
「うん、そこのうちはあまり家計に余裕がなくて……病院の支払いも出来ないって悩んでたらしい……加えて、奥さんの死だ。思い詰めたのかもしれないね。で、5日前に二人で姿を消したんだ」
フィーネの表情がだんだんと暗くなっていく。
「姿を消した?どうして?どこに行ったの?」
「わからない。だけど、最悪な結果は無理心中だ。そうならないために、警邏隊に探してもらってるんだけど……まだ……」
「そうなのね……」
あの明るいフィーネの辛そうな顔を初めて見たクリスタは胸が詰まる思いがした。
「ああ、ごめんね。クリスタは気にしないで!そのうち見つかるさ!」
そう言って無理に笑うフィーネに、クリスタは自分に何か出来ないか必死に考えたが、いい答えは見つからなかった。
フィーネと別れ一階のロビーのソファーに座り込んでいると、正面玄関からマリアとアイスラーが仲良く会話しながらやって来るのが見えた。
二人はクリスタを見つけると足早にやって来て、両脇のソファーを陣取り満面の笑みを見せる。
「クリスタ!半年ぶりかしらね!もう!来るなら言ってよー」
マリアがクリスタの手を取り拗ねたような声を出すと、懐かしさに自然と顔が綻ぶ。
「ごめんなさい、急だったの。休暇申請を出したのだって昨日なのよ」
「そうなんだ、でもなんでまた急に??」
アイスラーが、黒縁メガネをくいっとあげながら、何か楽しいことを見つけるように探ってくる。
この二人になら喋ってもいいか、と、クリスタは基地での挙動不審なローラントのことを話した。
「なるほどねー、そりゃ、なんかあるね」
「ね?そう思うでしょ?」
「で、それを探るのね?今から」
「そうよ」
三人はロビーの一番目立つところで、目立たないように小さく輪になって会話している。
「わかった。僕も行く!」
「あたしも!」
「は?何いってんの?仕事は?!」
アイスラーとマリアは顔を見合わせてクスリと笑った。
「私達、今日昼から休みなのよねー」
「ねー」
ねー、って何?!
なんだか知らないけど……イラっとしたわ!
「まぁ……いいけど、邪魔しないでよね」
「もちろんっ!」
こうしておかしな3人組の探偵は、好奇心たっぷりでハインミュラー邸に向かうのであった。
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