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隠し子騒動①
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クリスタとローラントがザクセンに来て半年、漸く難民の完全受け入れ体制が整ってきた冬の初めに、ハインミュラー家のベアトリクスから届いた手紙は元帥閣下の顔を真っ青にさせていた。
「ど、どういう……ことだ……」
ベアトリクスの手紙にはこう書かれていた。
『あなたの子供がハインミュラー家にいます。すぐに帰ってきなさい!クリスタには絶対に知られないように!』
たった三行の手紙には、詳しい内容は何も書かれておらず、とにかく怒りに任せて殴り書きしたのがわかる字面になっている。その三行にはベアトリクスの怒りが存分に詰め込まれていた。
全く身に覚えがない……とは言えない……。
言えないが、そういうことには人一倍気を使っていたので、滅多なことにはならないと思っていた。
それに、兄と弟が亡くなりハインミュラーの当主になってからは誰ともそういう関係になってはいない。
ハインミュラーの当主となれば、必然と金目当ての輩が増え、そういうのに巻き込まれでもすれば自分だけの問題では済まなくなる。
うっかり子供など作ってしまえばいい餌食だと、細心の注意を払っていたのだが。
子供が何歳かにもよるが、おそらくオレの子ではないだろう。
そうすると考えたくはないが、誰かの策略の可能性もなくはない。
本当はこういうことを、一番解決する能力を持つクリスタに、相談した方がいいに決まっているんだが……。
なんて言えばいいんだ?
『オレの子供かもしれない子供がハインミュラー家に来ていて、陰謀かもしれないので解決に協力して下さい』
うーん………………。
『ハインミュラー家にオレの子供を名乗る者がいるみたいで怪しいから、力を貸して下さい』
あー…………。
どうしても『オレの子供』という核心部分に触れなければならないし、内容が内容だけに相談しづらい。
下手をすれば、クリスタが毎日いてくれる夢のような生活が壊れるかもしれない。
今度こそ、彼女は去ってしまうかもしれない。
ダメだ!!それだけは絶対ダメだ!
やはり、母の手紙の通りクリスタに内緒でハインミュラーに帰り、自分で事態を収拾するしかない!
収拾する自信は皆無だが、オレはオレの幸せを自分で守らなくてはならない!
ローラントが決意も新たに、隠し子の解決に向けて顔を上げたのと同時に、回診に行っていたクリスタがいきなり執務室の扉を開けた。
「わっ!ク、クリスタ!」
何かの紙を握りしめ、大きく後ろに跳ねたローラントをクリスタは訝しげに見た。
「なぁに?ちゃんとノックしたわよ?」
「え?あ、そうか?少し考え事をしていて気づかなかったよ……」
紙を握りしめたまま、目を泳がせる夫をあからさまに怪しい!と思ったクリスタだが、まぁそんなに大したことではないだろうとすぐに頭を切り替えた。
「ふーん。あ、患者さんたちの体調も良くなってきてるわ。来週にはみんな普通の生活に戻れそうよ」
「そうか!それは良かった、いや、本当に良かった」
「………………………」
『大したことない』と思っていたクリスタは、またすぐに自分の考えを改める。
ローラントの様子をみるに、少なくとも彼にとっては、大変な事態になっているのかもしれないと注意深く観察した。
挙動不審なローラントは、クリスタが問い詰めればきっと何秒も持たずにあっさり自白するだろう。
手に持って離さない手紙が原因だということもクリスタは気づいている。
しかし、彼女に何もかもを曝け出すローラントが、そうまでして隠したくなるような秘密に、どうしても興味が湧いてしかたなかった。
「そうだ、明日からしばらくハインミュラーの方へ帰るよ」
「じゃあ私も………」
「いや!!オレ一人で行くから!」
「……………………あ、そう、お義母様によろしくね」
「ああ!言っておくよ………じゃあオレは休暇部に総務願いを出しに………」
休暇部?総務願い?………逆だわね。
そして扉を出ていくローラントの右手と右足は同時に出ており、おかしな歩き方になっていた。
「さぁて、何を隠しているのやら?」
ローラントの大きな後ろ姿を見送って、クリスタは不敵に笑った。
「ど、どういう……ことだ……」
ベアトリクスの手紙にはこう書かれていた。
『あなたの子供がハインミュラー家にいます。すぐに帰ってきなさい!クリスタには絶対に知られないように!』
たった三行の手紙には、詳しい内容は何も書かれておらず、とにかく怒りに任せて殴り書きしたのがわかる字面になっている。その三行にはベアトリクスの怒りが存分に詰め込まれていた。
全く身に覚えがない……とは言えない……。
言えないが、そういうことには人一倍気を使っていたので、滅多なことにはならないと思っていた。
それに、兄と弟が亡くなりハインミュラーの当主になってからは誰ともそういう関係になってはいない。
ハインミュラーの当主となれば、必然と金目当ての輩が増え、そういうのに巻き込まれでもすれば自分だけの問題では済まなくなる。
うっかり子供など作ってしまえばいい餌食だと、細心の注意を払っていたのだが。
子供が何歳かにもよるが、おそらくオレの子ではないだろう。
そうすると考えたくはないが、誰かの策略の可能性もなくはない。
本当はこういうことを、一番解決する能力を持つクリスタに、相談した方がいいに決まっているんだが……。
なんて言えばいいんだ?
『オレの子供かもしれない子供がハインミュラー家に来ていて、陰謀かもしれないので解決に協力して下さい』
うーん………………。
『ハインミュラー家にオレの子供を名乗る者がいるみたいで怪しいから、力を貸して下さい』
あー…………。
どうしても『オレの子供』という核心部分に触れなければならないし、内容が内容だけに相談しづらい。
下手をすれば、クリスタが毎日いてくれる夢のような生活が壊れるかもしれない。
今度こそ、彼女は去ってしまうかもしれない。
ダメだ!!それだけは絶対ダメだ!
やはり、母の手紙の通りクリスタに内緒でハインミュラーに帰り、自分で事態を収拾するしかない!
収拾する自信は皆無だが、オレはオレの幸せを自分で守らなくてはならない!
ローラントが決意も新たに、隠し子の解決に向けて顔を上げたのと同時に、回診に行っていたクリスタがいきなり執務室の扉を開けた。
「わっ!ク、クリスタ!」
何かの紙を握りしめ、大きく後ろに跳ねたローラントをクリスタは訝しげに見た。
「なぁに?ちゃんとノックしたわよ?」
「え?あ、そうか?少し考え事をしていて気づかなかったよ……」
紙を握りしめたまま、目を泳がせる夫をあからさまに怪しい!と思ったクリスタだが、まぁそんなに大したことではないだろうとすぐに頭を切り替えた。
「ふーん。あ、患者さんたちの体調も良くなってきてるわ。来週にはみんな普通の生活に戻れそうよ」
「そうか!それは良かった、いや、本当に良かった」
「………………………」
『大したことない』と思っていたクリスタは、またすぐに自分の考えを改める。
ローラントの様子をみるに、少なくとも彼にとっては、大変な事態になっているのかもしれないと注意深く観察した。
挙動不審なローラントは、クリスタが問い詰めればきっと何秒も持たずにあっさり自白するだろう。
手に持って離さない手紙が原因だということもクリスタは気づいている。
しかし、彼女に何もかもを曝け出すローラントが、そうまでして隠したくなるような秘密に、どうしても興味が湧いてしかたなかった。
「そうだ、明日からしばらくハインミュラーの方へ帰るよ」
「じゃあ私も………」
「いや!!オレ一人で行くから!」
「……………………あ、そう、お義母様によろしくね」
「ああ!言っておくよ………じゃあオレは休暇部に総務願いを出しに………」
休暇部?総務願い?………逆だわね。
そして扉を出ていくローラントの右手と右足は同時に出ており、おかしな歩き方になっていた。
「さぁて、何を隠しているのやら?」
ローラントの大きな後ろ姿を見送って、クリスタは不敵に笑った。
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