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Extra Ausgabe
アンナとヴィクトールと迷惑な夫婦①
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「凄いです!凄いですぅ!ああ、美少年ですよ!」
アンナ・オズワルド少佐は興奮している。
それもそのはず、目の前に自分好みの美少年が微笑んでいるのだから!
その正体はクリスタ・ルイス様、いや今はクリス・オズワルド伍長だ。
「ほんと?似合ってる?」
「おおおおー!そりゃあもう!あ、ですが言葉使いをもうちょっと男っぽくしましょうか?」
クリスタ、いやクリスは意地悪そうにニヤリと笑い、ジリジリと壁に追い詰めた長身の私を見上げて言った。
「知ってるんだよ、アンナが僕のこと好きだってこと」
ひょええええええーーありがとうございます!
一体どんなシチュエーションか知らないけど、好きです!ええ、好きです!
たまらん、もう抱いて!
今にも垂れそうなヨダレを拭きつつ、かろうじて正気を保ちながら本来の目的に戻る。
どうしてこんな事態になっているかと言うと、閣下の誕生日である明日、奥方様からの『バースデーサプライズをしたい!』という無茶ぶりの片棒を担いだからである。
その為に奥方様はわざわざ1週間も休みを取り、念入りな下準備を行った。
首都へ行き、知り合いのショコラティエの所でチョコレートケーキの作り方を習い、閣下のボロボロになっていたショルダーホルスターを見て、新しいのをプレゼントしようと専門店を見て回ったそうだ。
そして何かもっと驚かせたい、ということでこの男装プレイである。
小さめの男性用軍服を用意し、身分はバレそうにない伍長、私の甥ということにすれば問題はない。
あとは、目立ってしょうがない黄金の髪。
これは奥方様が首都で友人から借りたという被り物を用意した。
そして、独特の瞳の色をほんのりレンズに色が入ったメガネでごまかすと、癖のある赤毛で色白で小柄なクリス・オズワルド伍長が出来上がった。
とても美少年である。
いろんな意味で、男だらけの中に放り込んではいけない気がする………。
ザクセン基地女子棟で支度を済ませ、私とクリスは本部へ向かった。
「ローラン……あ、と、閣下の様子はどうです?機嫌悪くなってませんか?」
たった一週間、奥方様が休みを取るというだけで閣下は鬼のように反対し、自分も休みを取らせろと総務部に殴り込んだ。
いや、正確には殴り込む前に奥方様にしこたま怒られ、総務部はかろうじて壊滅を免れたのだ。
「めちゃめちゃ機嫌悪いですよ。イライラしてて、こっちにまで被害が及んでます」
「…………あー、それは大変ご迷惑を………」
そういいながらも顔が笑っているクリスは心底今の状況を楽しんでいるんだと思った。
本部に入ると行き交う人が(全部男)皆クリスを見る。
まぁしょうがない。
こんな美少年滅多にお目にかかれないからね。
出来るなら、私だってクリスを人目に晒したくないし監禁しときたい。
はっ!これじゃあ閣下と同じじゃないか!
暴走し始める欲望と妄想をなんとか押し留めながら、努めて冷静にクリスに話しかける。
「とりあえずなんか食べましょうか?お昼も近いですし?」
「そうね………ああっと、そうですね、御一緒させて下さい!伯母上!」
「………伯母上はやめて下さい……」
萎えるので……。
「おっと…申し訳ありません!少佐!」
どちらからともなく大きな笑い声が漏れた。
お昼の食堂は非常に男くさい。
まぁ9割が男だし、しょうがないんだけどね。
私達は配給の食事を受け取り、なるべく目立たない後ろの端の方に座った。
今日の食事はビーフステーキとパンとコーンスープ、トマトサラダにコーヒーだった。
「いつもながら、この量は凄いですよね。まぁこれくらいじゃないと男の人は足りないな」
目の前に配給のトレイを置き、クリスは完璧にマスターした言葉をうまく操りながら私に話しかける。
確かにいろいろ量が多い。
肉なんてもう噛みきれるのかってくらいの分厚さだ。
クリスが肉を器用に切り分け、小さい口を目一杯開けてほおばっている様子を見ていると、もう可愛くていつまでも見ていられるなと思ってしまう。
「オズワルド、ここいいか?」
食堂もだんだん混んできたようで、私達の前の席にはテオドア少佐とフェリクス中佐がトレイを置き腰をかけた。
「また今日は可愛いのを連れてるな」
フェリクス中佐の目がクリスを捉えている。
「ええ、甥なんですよ。クリス・オズワルド伍長です。クリス、こちらは(知ってると思うけど)テオドア少佐とフェリクス中佐だ」
クリスは立ちあがり上司に挨拶をした。
「クリス・オズワルド伍長であります!」
「ああ、楽にして。メシ喰ってる時くらいはな」
テオドア少佐の目が優しい……。
おのれ、美少年好きか?!
少佐も中佐もクリスに釘付けで、食べながらチラ見を繰り返している。
それにしても、いつも見てるのに全く気付かないって凄いな。
「失礼ですが質問を宜しいですか?」
「もちろん、かまわないとも」
クリスの突然の質問に、フェリクス中佐が答えテオドア少佐も頷き、目を皿のようにして次の言葉を待っている。
「中佐殿と少佐殿は元帥閣下のことをどう思われますか?」
えーーーー………それ聞いちゃう??
案の定、二人とも微妙な顔をしている。
「………あーーー、そうだな、仕事の出来る人?」
「うん、若いのに優秀な人……かなぁ」
当たり障りのない答え、ありがとう。
「そうですか。何か不満はありませんか?」
それは言えない、思ってても言えない。
「な、ないぞ。うん、ない」
フェリクス中佐の言葉にテオドア少佐も頷いている。
その時、食堂の雰囲気がガラッと変わった。
これは………うん、いるね。
肩越しにチラリと後ろを確認するとやはり閣下が食堂にいた。
仏頂面で何故か親の敵のように肉を二枚重ねて豪快に食べている。
野獣のようだな……。
クリスもどうやら気付いたらしく私と顔を見合わせてふっと笑った。
「うわー、今日も沢山食べますねぇ?肉二枚って……でも、なんで怒りながら食べてるんでしょうね?」
クリスは目を細めてバレないように眺めている。
「じ、じゃあ俺達は行くよ。またなクリス!」
「なんかあったら来いよ。何でも相談に乗るぜ」
逃げやがったな!
まぁ機嫌の悪い閣下に絡まれたら困るからね。
「はい!ありがとうございます」
大きく返事をするクリスの声に、閣下の肩がピクッと動くのが見えた。
バレた?!
顔を上げ辺りを隅から隅まで見回すと、びくびくしている私とクリスを見た。
いや、私とは目が合ったがクリスは後頭部しか見えてないはずだ。
私を見ると、次に隣のクリスを見る。
非常に執拗に。
そして、首をかしげるとまた肉に食らいついた。
「バレた!?」
「いえ、多分大丈夫そうです」
ホッと肩を撫で下ろすと今度は更に面倒くさいやつが来た。
「おう!オズワルド!ここ座ってもいいか?」
シュライヒ准将………、閣下の所に行けばいいのに。
機嫌が悪いのを察知したか!
相変わらず抜け目のない……。
「あー……ええ。で、何かご用でしょうか?」
「お前、ひどいね。上司にその態度………ん?」
准将はクリスを見た。
それこそ穴が空くほど見た。
「クリス………ングッ」
ああ、咄嗟にパンを押し込んでしまった。
懲戒ものかな?まあいいか。
そのやり取りを見つめる後ろからの視線を感じ、そろりと振り返ると、閣下の物凄く据わった目がそこにあった。
ヤバい!
これは退散した方が良い。
「准将、逃げますよ。このままだと閣下に絡まれます!」
「ゲホッ………ん、それはヤバい。ええと、この……」
「クリスと呼んで下さい!准将」
クリスの言葉に准将は顔を赤らめている。
いや、早く逃げないと……。
「オレがクリスを隠しながら行くから、お前は食器片付けといて。後で、第二会議室で落ち合おう」
「了解です、では!」
私達3人は脱兎のごとく逃げた。
閣下の横を通りすぎる時、准将はクリスを反対側に移動させその目に触れないようにしたが、その間も閣下の視線はクリスを追っていた。
バレてるんじゃないかと思うくらいに。
アンナ・オズワルド少佐は興奮している。
それもそのはず、目の前に自分好みの美少年が微笑んでいるのだから!
その正体はクリスタ・ルイス様、いや今はクリス・オズワルド伍長だ。
「ほんと?似合ってる?」
「おおおおー!そりゃあもう!あ、ですが言葉使いをもうちょっと男っぽくしましょうか?」
クリスタ、いやクリスは意地悪そうにニヤリと笑い、ジリジリと壁に追い詰めた長身の私を見上げて言った。
「知ってるんだよ、アンナが僕のこと好きだってこと」
ひょええええええーーありがとうございます!
一体どんなシチュエーションか知らないけど、好きです!ええ、好きです!
たまらん、もう抱いて!
今にも垂れそうなヨダレを拭きつつ、かろうじて正気を保ちながら本来の目的に戻る。
どうしてこんな事態になっているかと言うと、閣下の誕生日である明日、奥方様からの『バースデーサプライズをしたい!』という無茶ぶりの片棒を担いだからである。
その為に奥方様はわざわざ1週間も休みを取り、念入りな下準備を行った。
首都へ行き、知り合いのショコラティエの所でチョコレートケーキの作り方を習い、閣下のボロボロになっていたショルダーホルスターを見て、新しいのをプレゼントしようと専門店を見て回ったそうだ。
そして何かもっと驚かせたい、ということでこの男装プレイである。
小さめの男性用軍服を用意し、身分はバレそうにない伍長、私の甥ということにすれば問題はない。
あとは、目立ってしょうがない黄金の髪。
これは奥方様が首都で友人から借りたという被り物を用意した。
そして、独特の瞳の色をほんのりレンズに色が入ったメガネでごまかすと、癖のある赤毛で色白で小柄なクリス・オズワルド伍長が出来上がった。
とても美少年である。
いろんな意味で、男だらけの中に放り込んではいけない気がする………。
ザクセン基地女子棟で支度を済ませ、私とクリスは本部へ向かった。
「ローラン……あ、と、閣下の様子はどうです?機嫌悪くなってませんか?」
たった一週間、奥方様が休みを取るというだけで閣下は鬼のように反対し、自分も休みを取らせろと総務部に殴り込んだ。
いや、正確には殴り込む前に奥方様にしこたま怒られ、総務部はかろうじて壊滅を免れたのだ。
「めちゃめちゃ機嫌悪いですよ。イライラしてて、こっちにまで被害が及んでます」
「…………あー、それは大変ご迷惑を………」
そういいながらも顔が笑っているクリスは心底今の状況を楽しんでいるんだと思った。
本部に入ると行き交う人が(全部男)皆クリスを見る。
まぁしょうがない。
こんな美少年滅多にお目にかかれないからね。
出来るなら、私だってクリスを人目に晒したくないし監禁しときたい。
はっ!これじゃあ閣下と同じじゃないか!
暴走し始める欲望と妄想をなんとか押し留めながら、努めて冷静にクリスに話しかける。
「とりあえずなんか食べましょうか?お昼も近いですし?」
「そうね………ああっと、そうですね、御一緒させて下さい!伯母上!」
「………伯母上はやめて下さい……」
萎えるので……。
「おっと…申し訳ありません!少佐!」
どちらからともなく大きな笑い声が漏れた。
お昼の食堂は非常に男くさい。
まぁ9割が男だし、しょうがないんだけどね。
私達は配給の食事を受け取り、なるべく目立たない後ろの端の方に座った。
今日の食事はビーフステーキとパンとコーンスープ、トマトサラダにコーヒーだった。
「いつもながら、この量は凄いですよね。まぁこれくらいじゃないと男の人は足りないな」
目の前に配給のトレイを置き、クリスは完璧にマスターした言葉をうまく操りながら私に話しかける。
確かにいろいろ量が多い。
肉なんてもう噛みきれるのかってくらいの分厚さだ。
クリスが肉を器用に切り分け、小さい口を目一杯開けてほおばっている様子を見ていると、もう可愛くていつまでも見ていられるなと思ってしまう。
「オズワルド、ここいいか?」
食堂もだんだん混んできたようで、私達の前の席にはテオドア少佐とフェリクス中佐がトレイを置き腰をかけた。
「また今日は可愛いのを連れてるな」
フェリクス中佐の目がクリスを捉えている。
「ええ、甥なんですよ。クリス・オズワルド伍長です。クリス、こちらは(知ってると思うけど)テオドア少佐とフェリクス中佐だ」
クリスは立ちあがり上司に挨拶をした。
「クリス・オズワルド伍長であります!」
「ああ、楽にして。メシ喰ってる時くらいはな」
テオドア少佐の目が優しい……。
おのれ、美少年好きか?!
少佐も中佐もクリスに釘付けで、食べながらチラ見を繰り返している。
それにしても、いつも見てるのに全く気付かないって凄いな。
「失礼ですが質問を宜しいですか?」
「もちろん、かまわないとも」
クリスの突然の質問に、フェリクス中佐が答えテオドア少佐も頷き、目を皿のようにして次の言葉を待っている。
「中佐殿と少佐殿は元帥閣下のことをどう思われますか?」
えーーーー………それ聞いちゃう??
案の定、二人とも微妙な顔をしている。
「………あーーー、そうだな、仕事の出来る人?」
「うん、若いのに優秀な人……かなぁ」
当たり障りのない答え、ありがとう。
「そうですか。何か不満はありませんか?」
それは言えない、思ってても言えない。
「な、ないぞ。うん、ない」
フェリクス中佐の言葉にテオドア少佐も頷いている。
その時、食堂の雰囲気がガラッと変わった。
これは………うん、いるね。
肩越しにチラリと後ろを確認するとやはり閣下が食堂にいた。
仏頂面で何故か親の敵のように肉を二枚重ねて豪快に食べている。
野獣のようだな……。
クリスもどうやら気付いたらしく私と顔を見合わせてふっと笑った。
「うわー、今日も沢山食べますねぇ?肉二枚って……でも、なんで怒りながら食べてるんでしょうね?」
クリスは目を細めてバレないように眺めている。
「じ、じゃあ俺達は行くよ。またなクリス!」
「なんかあったら来いよ。何でも相談に乗るぜ」
逃げやがったな!
まぁ機嫌の悪い閣下に絡まれたら困るからね。
「はい!ありがとうございます」
大きく返事をするクリスの声に、閣下の肩がピクッと動くのが見えた。
バレた?!
顔を上げ辺りを隅から隅まで見回すと、びくびくしている私とクリスを見た。
いや、私とは目が合ったがクリスは後頭部しか見えてないはずだ。
私を見ると、次に隣のクリスを見る。
非常に執拗に。
そして、首をかしげるとまた肉に食らいついた。
「バレた!?」
「いえ、多分大丈夫そうです」
ホッと肩を撫で下ろすと今度は更に面倒くさいやつが来た。
「おう!オズワルド!ここ座ってもいいか?」
シュライヒ准将………、閣下の所に行けばいいのに。
機嫌が悪いのを察知したか!
相変わらず抜け目のない……。
「あー……ええ。で、何かご用でしょうか?」
「お前、ひどいね。上司にその態度………ん?」
准将はクリスを見た。
それこそ穴が空くほど見た。
「クリス………ングッ」
ああ、咄嗟にパンを押し込んでしまった。
懲戒ものかな?まあいいか。
そのやり取りを見つめる後ろからの視線を感じ、そろりと振り返ると、閣下の物凄く据わった目がそこにあった。
ヤバい!
これは退散した方が良い。
「准将、逃げますよ。このままだと閣下に絡まれます!」
「ゲホッ………ん、それはヤバい。ええと、この……」
「クリスと呼んで下さい!准将」
クリスの言葉に准将は顔を赤らめている。
いや、早く逃げないと……。
「オレがクリスを隠しながら行くから、お前は食器片付けといて。後で、第二会議室で落ち合おう」
「了解です、では!」
私達3人は脱兎のごとく逃げた。
閣下の横を通りすぎる時、准将はクリスを反対側に移動させその目に触れないようにしたが、その間も閣下の視線はクリスを追っていた。
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