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終章:「―任務完遂せよ―」

18話:「―エマージェンシー―」

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 ――翌日。
 舞台はラインイースト地方の主を形成する諸島群を離れ、そこより100krw以上もの距離ある洋上。その上空。
 大海原と大空の二つの広大なそれに挟まれた最中一点。

 そこに編隊を形成して飛ぶ、2機種4機の戦闘機の姿が在った。

 太拳の灼炎 地隊航空隊の、羅仏ZL-32戦闘投射機が2機。
 そしてその少し距離を開けた斜め後方に。真艶和皇国海軍 海軍航空隊の、方神九七式艦上戦闘機が2機。

 そしてそれぞれに登場して操るは。
 ぬらりひょんの三等地佐、善制と。修奈。
 そして白鬼の海軍大尉、志頭と。趣意であった。

《――直撃に至らなかったのは、幸いだったな》
《えぇ》

 無線通信越しに言葉を交わしたのは、善制と修奈。
 その二人の視線は、どちらもそれぞれの機体操縦室よりキャノピー越しに、斜め前方を見ている。
 その向こうに見えるは――巨大な魔力雲だ。

 青のような紫のような不気味な色の巨大な雲が、大空に寝そべる様に浮かび、ゆっくりと流れている。
 内包する魔力元素が暴走しているのだろう。内部周囲では通常の嵐雲と同じく強風が吹いて雨が落ち。
 しかし同時に。魔力雲の特徴の一つである魔力元素暴走による小爆発が、雲の中でいくつも起こっている様子が、雲の表面越しに見えるぼんやりとした発光から見て取れた。
 それから見て察せる通り、魔力雲とは危険な代物だ。

 二人の通信での会話は、そんな魔力雲がラインイーストの地に直撃しなかった事に、胸を一撫でするものだ。
 今の魔力雲は、昨日にLSR社から返る際に血侵等三名が遠くに見た魔力雲と同一もの。そしてラインイーストへの直撃が懸念されたそれは。
 だが幸いなことに風と気圧から、少し地方諸島の一部に掛かったものの大きくは反れ。そしてラインイースト地方を横目に通過して行ったのであった。

 善制筆頭の4機4名は現在。その通過の後の、この空域海域に被害にあった有人の島や船舶が無いかの被害確認と。並びに魔力雲の状態進路などの観測の任を帯びて、出動していたのだが。

 また幸いに被害船舶などの発見、入電も無く。現在は今飛行任務の最期に、魔力雲の観測を行っている最中であった。

《――シンラ1、三佐。ヨリシロ1です》

 善制の耳に。通信越しに志頭の声で、コールサインでの呼びかけが届いたのはその時。
 補足すると善制と修奈と。志頭と趣意は今しがたまで別々に飛び観測を行っており、ついさっき合流した所であった。

《方位300、魔力雲が少し流れてます。進路阻害の可能性》

 その志津から続け来たのは、そんな知らせ伝える言葉。
 その言葉が示す方位へ、善制と修奈はそれぞれ視線を向ければ。
 示しされたように確かに、巨大な魔力雲の端の一部が伸びて流れている様子が見えた。このまま行けば、編隊の直進コースと交差するだろう。

《了、各機020へ進路変更し回避。そして、このまま帰還しよう》

 状況報告を受けた善制は。それに指示と、そして促す言葉を通信で返す。
 それは編隊の進路変更により魔力雲との接触を回避し。そしてそのまま基地への帰途に着くことを促す物だ。

《シンラ2、了》
《ヨリシロ1も了解です》
《ヨリシロ2》

 それに善制の2番機を務める修奈が。そして志津の趣意の2機編隊からも了解の通信が返り。
 次には先頭の善制の気が、緩やかに旋回して進路変更を開始。
 修奈機、志津機、趣意機と順に緩やかな飛行行動でそれに続き。各機は帰還方向に進路を向ける。

 各機各員は。進路正面から外れて側方へ移った、大空に寝そべり横たわるような巨大な魔力雲を、視界の端で流し見る。


 ――その時であった。
 流れにより解れた魔力雲の表層雲の、その隙間。その向こうに。
――それ、が。
瞬く閃光のようなものと、そして何かのシルエットが微かにだが見えたのは。

《――!》

最初にそれに気づいたのは善制。

《!》
《今のはッ》

 一瞬遅れ、しかしほぼ同時に。他の各機それぞれも同じくそれを見止め気付く。
 魔力雲の向こう、中に見えたそれは。これまでも観測できていた、雲の中での魔力雷や小爆発とは明らかに異なるそれ。

《ッ、各機。さらに旋回し距離を――ッ》

 善制はその正体に思い当たる節があり、各機に指示を発する。
 しかし。
 唐突な状況変動による、強力な風の流れで。編隊を追って掛かるように側へと流れ来ていた魔力雲の端の、その影より。
 ――〝それは〟、姿を現した。

《――!》

 それは、編隊各戦闘機の数倍のあるシルエット。その全形はその全てが閃光のような、雷光のような光で形作られている。
 その光が形作るは――鳥、いや竜。
 閃光、雷光でシルエットを形作った巨大な竜のようなそれが。編隊の真横すぐ側に、魔力雲の中より突如として姿を現したのだ。

《――〝マギナ……ディラノゴルン〟……!?》

 そんな閃光の竜を目の当たりに。通信上に上がったのは志頭のものでの驚愕の声。
 紡がれたそれは、閃光の竜を表す名称だ。

 「マギナ・ディラノゴルン」。「魔力元素竜」とも訳されるそれ。

 その正体詳細を言えば。それは魔力元素、エネルギーが集合して巨大な流動体となった自然現象。
その集合体の全形がまるで竜のようである事からその名が付けられたが、生命体では無い――とされてはいる。
 しかし観測される舞に見られるその流れる――飛ぶ姿は。まるで意思をもっているようである事から、その可能性もまことしやかに囁かれていた。

 突如として編隊の前に現れたその存在――魔力竜、マギナ・ディラノゴルン。おそらく魔力雲の魔力の渦の中で発生、産まれたであろうそれ。
 そしてその巨大な体の軌道は。編隊の進行方向と交差し、覆いかぶさり妨害するかのようなものであった。
 まるで、己の住処である魔力雲に近づいた敵を。その巨体を持って墜とさんとするかのようなそれ。

《――ッゥ!全機、回避しろッ!》

 直後、瞬時に善制が通信に張り上げ発したのは、全機に回避を命じる言葉。
 それにすぐさま呼応し、編隊の4機は全機がバンクから旋回。同時にバーナーを吹かして魔力竜の攻撃範囲より急速離脱を試みる。
 即座の行動で、善制機、志頭機、修奈機の3機は間一髪の所で魔力竜の巨体より逃れる。

《――ッ!?》

 しかし。魔力竜はそこからさらなる動きを見せた。それは、光が形作る魔力竜の翼のような部位の、それを持っての大きな打つような一薙ぎ。
 それが、編隊の殿に位置していた趣意機へと襲い掛かったのだ。

 回避は間に合わない。
 それを一瞬の間にしかし察し。剥いた眼でキャノピーの向こうに、魔力竜の巨体を目の当たりにしながら。心内で一種の覚悟を浮かべる趣意――

 しかし。
 その趣意の目の前に、そして趣意機と魔力竜の間に。突如としてまた別の影が割り入ったの瞬間。

《――!》

 それは戦闘機のシルエットだ。機種をほぼ真上に上げた姿勢形態を取る、羅仏Z/L-32戦闘投射機。そしてその機体番号は、修奈機のもの。
 機体姿勢から察するに、コブラ機動をもっての急減速で割り入って来たのであろう。
 そして割り入って来た修奈機その姿状況は、趣意機を庇うようなそれ。そして――

 そして直後には、強くぶつかり打ち合うような衝撃音が。宙空に響き渡った。

《ッ!修奈ッ!?》

 目の当たりにしたものに、趣意は想わず叫びあげた。
 見えた物、そして響いた衝撃音。
 それは魔力竜の薙いだ翼のような部位が。趣意機に代わり庇い入った修奈機の機体を打ちぶつかるものであった。

 衝突後。
 修奈機は激しく歪に機体を震わせながら、さらなる減速で趣意機よりも後方へ後退飛び抜ける。
 そして、魔力竜にあっても。その衝突の衝撃にまったく無事では居られなかった様子だ。
 光で形作られた翼端を歪に崩し、そして跳ね退けられるように趣意機より若干離れていく。

《くッ!》

 一瞬魔力竜のそれを見た後、しかし趣意はすぐさま自機の後方へ視線を戻す。修奈機の容態をよりよく確認するためだ。
 その視線を送った後方で、修奈機は未だ歪な安定しない様子ながらも。しかし何とか姿勢を飛行航行のそれに復帰させる姿を見せていた。
 修奈機は魔力竜との衝突を覚悟して、構える態勢から割り入っての阻害衝突に臨んだため、幸いにも復帰に必要なだけの余力が残せたようだ。もし趣意機が奇襲から諸に魔力竜と衝突していたら、それすら叶わなかったかもしれない。

《!》

 さらに別方側方に、趣意は別の複数の気配を感じる。
 視線を送り見れば、反転し飛来して来たのであろう善制機と志頭機が。魔力竜のすぐそばを掠めるように交差し飛び抜け、そして魔力竜を翻弄するようにその周りを尖る機動で飛び回り始める姿が見えた。
 修奈機と趣意機を救うための、魔力竜の〝注意〟を引き付ける行動。
意思を持つかは都市伝説の域だが。少なくとも自然現象ではある魔力竜を、各機の衝撃気流をもっての攪乱を期待する行動であった。

《――ッ、修奈!》

 上官機等のそれを見た趣意は、次には自機を減速させて、修奈機に並ぶ。
 そして通信に修奈を呼ぶ声を発して呼びあげた。

《修奈、大丈夫か!?シンラ2、応答を!》

 さらに続け、並んだ修奈機の操縦席を注視しながら。通信に必死の声を張り上げ呼びかける趣意。
 修奈機には主翼の少なからずの変形。機体全体の歪な振動など、明らかなダメージの様子が見えた。

《――……ッ、大丈夫だ、とりあえず俺はな……ッ》

 一拍開けそして、通信上に修奈からの返答が上がる。
 それは少なくとも修奈自身は無事である事を示す返答であり。それを聞いた趣意はわずかだがホッとする。

《だが、左主機が出力大幅低下……ッ。HUDもノイズが走り表示が不安定、機体の振動してる……ッ》

 しかし続け寄こされるは、修奈機のステータス。衝突から機体は無事とはいかず、聞くに飛行するのもやっとの様子だ。

《ッ……――シンラ1、ヨリシロ1!善制三佐、志頭大尉ッ!》

 それに、自分を救うべく行われた行動からのそれに。趣意は苦く険しく、そして悲しみすら含まれた表情を浮かべる。
 そして次には、自分等の上官へ呼びかける声を上げた。

《了解、聞いていた。シンラ2はただちに空域を離脱しティークネスト基地へ帰還、緊急着陸しろ》

 それにはすぐさま、善制の声で返答と指示の声が寄こされる。言葉通りそれはただちにの帰還を命ずるもの。

《ヨリシロ2。シンラ2に同行し、帰還の援護補助に着け。我々は、これを放っておけない》

 続け、趣意にも帰還援護に着くよう指示が寄こされる。そして合わせての示す言葉。
 それは、今も善制機と志頭機が相手取り攪乱を続ける魔力竜を示すもの。
 魔力竜は行動の予測が困難な現象存在だ。このまま放っておいてどこかへ流れ飛べば、また別の航空機や船舶、地域に被害が出る可能性が在る。
 追撃監視の目を解くわけにはいかなかったのだ。

《了解で、そちらはお願いしますッ。ヨリシロ2はシンラ2の帰還援護に着きます!》
《申し訳ないです……ッ。シンラ2、帰還進路に着きます……ッ》

 それに趣意と修奈はそれぞれの声で返答了解。
 そして修奈機は慎重な飛行行動で進路を帰還コースへ向け。それを庇い護る様に趣意機が続き、両機は空域より離脱。
 緊迫の帰還行動を開始した。



《――修奈、貴様……いや君は。何故、私などを庇った……?》

 帰還に向けて飛行する修奈機と趣意機。
 趣意は、己を庇い傷ついた修奈機を、心の痛む心情で見守りながら。通信にてそんな尋ねる言葉を送る。
 それは。普段いがみ合い突っかかり合っていた自身を庇い救った、修奈の行動理由を尋ねるもの。

《……僚機、味方機を守るのは当たり前の事だろう》

 それに修奈から返って来たのは。いつもの同じようにと取り繕った、つっけんどんでバツが悪そうなそれ。
 だが。当たり前と言うが、実際に修奈が行って見せた行動は、並みの覚悟や心持でできるものではない。

《修奈……》

 趣意にいらぬ気を使わせまいと発されたその言葉。
 それに趣意はまた心に痛いものを覚えつつも、同時に今に在っては。
修奈に――意地を張りつつも、内心では気になってしまっていた人に対して、対して素直に感謝と誇らしい思いを浮かべていた。

《そろそろティークネスト管制と繋が――ッ!?》

 修奈にあってはそこで、間もなくティークネスト基地の管制との通信可能域に入る事を発し告げようとした。
 しかし――ガクン、と。
 修奈機が歪に姿勢を崩し高度を下げたのは、その瞬間だ。

《修奈ッ!?》
《ッ……左主機が完全に死んだ……ッ》

 また焦り修奈を呼ぶ趣意。
 それに修奈から返るは、そう伝える言葉。修奈の羅仏Z/L-32戦闘投射機は二機のジェットエンジンを備える双発機だが。その内のダメージを受けていた片方が、今完全に停止してしまったのだ。

《修奈、脱出をッ!》
《無理だ……さっき確認したが、射出座席が機能ダウンしてる。さっきので損傷したらしい……ッ》
《そんな……》

 それを目に見て、脱出を訴えた趣意であったが。無慈悲にも、修奈から告げられ来たのはそんな状況を伝える言葉。

《ッ……!――ティークネスト管制塔、応答願うッ!緊急事態ッ!》

 趣意は苦く一声を零すと。続け慌て焦る声で、修奈に代わって基地管制塔への通信を繋ぎ、呼びかけを始めた。

《――ティークネスト管制より、ヨリシロ2。どうぞ》
《こちらはヨリシロユニット、ヨリシロ2!同、行動中であったシンラユニットのシンラ2が、魔力雲観測中に魔力竜と遭遇、接触し損傷!》

 すぐ様管制よりは許可が来た。そして捲し立て、現在の状況を伝え送る趣意。

《現在、エンジンの片方が完全停止に陥った!なお、射出座席のも損傷し現在での脱出は不可能……同機の緊急着陸許可を願うッ!》

 さらに続け、剣幕を作り通信に向けて捲し立て。そして緊急着陸要請の言葉を送った。

《了解、ヨリシロ2。今しがた、近辺を飛行中だった広域管制機経由でそちらのリーダーからも同じ報が来た所だ。詳細は、こちらでも掌握している》

 それに管制からは帰って来たのは、了解の言葉を合わせての伝え返す言葉。
 どうやら別の通信経路で善制等の側より、状況がすでに伝えられていたようだ。

《では――》
《だが、すまない――ッ。こちらへの着陸は許可できないッ》

 しかし。次に管制より来たのは、そんな伝え断ずる言葉であった。

《ぇ――!?な、なぜ……ッ!?》
《落ち着くんだ。同存在かは不明だが、同じく魔力竜との接触被害にあった旅客機が、たったいま基地滑走路へ緊急着陸を実施した。
 乗員乗客に負傷者発生で救出活動中。そのため滑走路が塞がっている。当基地へは着陸不可能となっているッ》
《そんな……ッ》

 管制から告げられたのは、別の被害が在った旨を。それに伴いティークネスト基地の滑走路が使用不可能に陥っている事を告げる内容。
 しかしそれに。趣意は想わず狼狽える言葉を零す。

《シンラ2、ヨリシロ2。フォレストフォート基地のほうとの連絡調整が取れている。そちらへ向かう事はできないか?》

 続け管制から寄こされるは、そんな知らせ提案する言葉。
 その名の上がった基地は、同じくラインイースト地方に存在する。中央海洋共栄圏 地上隊と航空宇宙隊が合同で運用する飛行場基地。
 管制はそちらへの進路変更、緊急着陸の提案を寄こして来たのだ。

《……ダメだ。それは無理だ、ティークネスト管制……》

 しかし。趣意は一度キャノピーの向こうへ視線を向け。そして再び管制に、そう言葉返す。
 修奈機は、片肺――残る左側一機のエンジンで、なんとかその体を飛ばしている状況だ。
 その提案されたフォレストフォート基地は。すぐ直近のティークネスト基地とは違い少し離れた距離に存在し、そのいくらかの距離を飛行しなければならない。
 見るに今の修奈機に、それが不可能なことは目に見えて明らかであった。

《ッ……海上に胴体着水するしか無いか……》

 そこへ別に声を上げたのは、その当事者たる修奈。

《ッ……》

 しかしそれを聞き、趣意は難しい声を通信に零し上げる。
 専用の着水機構を持つ水上機や飛行艇でも無い限り。着水は機体を衝撃により破損する可能性のある、危険を伴う手段だ。
 そして魔力雲の過ぎ去ったばかりの現在の眼下海面は、波高く荒れていた。着水に試みるには大きなリスクのある環境と言って良かった。
 できる事なら回避したい手段だ。

《――いや。シンラ2、ヨリシロ2、少し待て》

 しかし。そんな所へ管制より、何か様相の異なる声色での言葉要請が寄こされたのはその時だ。

《了解、すでに調整中と……――シンラ2、ヨリシロ2ッ。進路を320に変更し、そのまま飛行せよ。緊急着陸に利用できる場所が在るッ》

 少し通信無線の向こうから言葉が零れ聞こえて来た後に。管制からそう要請の胸が寄こされたのはその直後だ。

《着陸可能な場所?》

 しかしその言葉に修奈は、趣意も訝しむ。
 二人の記憶によれば、指定された方位進路の方向に、基地はおろか飛行場施設は無いはずであった。

《道路――基幹道路だッ。3rd キャピタルビーチが航空機の緊急着陸を想定している。そちらを目指すんだッ》

 だが。続け寄こされた管制の言葉で、その詳細と示す所が明確となる。



 その要請指示に。そしてそのプランに。
 修奈と趣意の二人は、驚きハッとするように目を剥いた――
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