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3章:「―広域防災演習と再会、そしてTS―」
12話:「―広域防災演習と思わぬ再開―」
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血侵が故郷である、十四國の郷最の地へ帰郷し過ごした数日が終わり。数ヵ月の時が経過した。
惑星ジア、世界は年を跨ぎ。厳しい冬を乗り越えて、暦は暖かな春を迎えていた。
話の舞台は、極東の真灼連島の地から移る。
惑星ジアで最も巨大な大洋である、中央海洋。
その赤道以北、日付変更線以東の一角に――〝ラインイースト地方〟と飛ばれる地域が在った。
広域に渡る地方にはいくつもの大小の島々が存在し、そこには共同体――中央海洋共栄圏に加盟する、いくつかの国家が存在して栄えている。
そのラインイースト地方の一角一部。〝ビーサイドフィールド〟と言う名の行政区域。
そここそ、現在血侵が住居を借りて構え、生活する地であった。
その地で血侵は、〝交通管理隊〟――高速道路パトロール隊員として勤め従事することで生計を立てている。
このビーサイドフォールドを縦貫するいくつかの〝基幹道路〟、自動車専用道路があり、それ等こそが血侵の職場。血侵の所属する、〝キャピタルビーチ交通管理隊〟の掌握管轄範囲であった。
そのキャピタルビーチ交通管理隊の事務所は、基幹道路路線上に存在する一つのIC。ハーバーノースICに隣接して設けられる、基幹道路管理会社の事業所内にある。
その交通管理隊の事務所内。
事務机や必要な一式が並び構成されるその内部の一角端に。一つのデスクを中心に、数名の雑把に立って並ぶ姿が在った。
立ち構えるは、血侵を筆頭に4名程の比較的若手の交通管理隊隊員。科学者(ヒト系)にゴブリンリーダー系、馬の獣人系などなど。それぞれの男女。
血侵はもちろん含め、皆その姿は青を基調として反射ラインの走った、交通管理隊の制服姿だ。そしてその姿で、特に肩を張るでもなく、気楽な様子で適当にそれぞれ立っている。
そして血侵筆頭に皆が視線を向けるは、相対する事務机に座す一人の人物。
比較的若手のそれぞれと異なり、壮年の見た目の男性の姿がそこにあった。
その正体は、このキャピタルビーチ交通管理隊の長である管区長。
その風貌一見、胡散臭そうで陰のある風体だが。その内にはキレ者のそれを宿す色が見える、隊員等から少なからず一目置かれる長であった。
「――広域防災演習ですか」
その管区長に向けて、立ち構え並ぶ各隊員から代表するように、血侵が一声を紡ぐ。
「あぁ、そうだ。ティークネスト基地で今月末に行われる。中央海洋共栄圏隊が主催して、あちこちから参加が在るデカめの演習だ。」
それに管区長は返し。
「それに、ウチからも出す事になった」
そして説明を紡ぎ始めた。
ティークネスト基地はこのビーサイドフィールドと隣接する行政区域に置かれる、中央海洋共栄圏、航空宇宙隊が所在使用する飛行場基地。すなわち空軍基地だ。
正確には航空宇宙隊の部隊以外にも、中央海洋共栄圏加盟国のいくつかの国の空軍組織部隊が所在する、共用基地である。
今回、そのティークネスト基地を開催の場として、広域防災演習が行われる事となったとの事であった。
中央海洋共栄圏、共栄圏交通省が主催し。
中央海洋共栄圏、地上隊、海洋隊、航空宇宙隊、多用途隊の4各隊。
加盟、友好国の各軍や隊。
そして近隣地方地域の警察や消防救急、行政組織。
さらにはインフラに関わる各企業会社組織などなど――
多方からの参加が在り、そして実施される大規模な防災演習であるとの事。
そして事情を明かせば、こういった大規模防災訓練は。
広域にその領土領地が及び、その内に多種の環境特性を有することから。様々な災害の発生が想定される中央海洋共栄圏では、珍しいものでは無かった。
そして今回。その広域防災演習に、キャピタルビーチ交通管理隊からも参加する事になったとの事であった。
「――代表者はウォーホール隊長代理に頼んである。それに、要員兼経験のためにお前等も行って来てくれ――」
そして説明の後にあったのは、管区長の告げる――言ってしまえば業務指示の言葉。
かくして。血侵等はその広域防災訓練に赴く事となった――
それから日は経過し、広域防災訓練の開催日を迎えた。
場所はその開催地である、航空宇宙隊の飛行場基地であるティークネスト基地へ。
本日演習に参加する血侵等は。
普段から交通管理業務で使用し、本日も演習で用いられるSUV巡回車と。その他の煩雑な業務作業で用いられている、会社の備品のステーションワゴンに分乗して。
基地に到着し、その敷地内へと入場を果たしていた。
「――壮観だな」
その内の巡回車で助手席に座す血侵は、その内より窓越しに見える光景に言葉を零した。
現在巡回車は基地の敷地内の、本日の演習のために解放された駐機場区画を走行し、事前に指示された所定の場所を目指して進んでいる。
その向こうに見えるは、多数の緊急自動車や特殊車両の数々だ。
警察の警邏車。
消防救急の消防車輛に救急車両、特殊車両。
各公共、行政機関やインフラ会社の保有する緊急車両である、公共応急作業車やまた特殊車両。
本日の広域防災演習に参加する、各組織の車輛。それらが一同に会する姿が見えた。
さらに視線を別方へ移し、むこうを望めば。
航空機を格納する格納庫施設の並ぶ区画の、その前には。
多数の航空機の駐機する姿が見えた。
中央海洋共栄圏の地上隊、海洋隊、航空宇宙隊、多用途隊の4組織が保有運用する航空機を始め。
各軍、隊組織や。また警察消防、行政機関の保有する各航空機が、この日のために基地へと飛来したもの。
戦闘機、偵察機、長距離作戦機、輸送機。
小型から大型までの。観測、偵察、連絡、救難、輸送、汎用、それぞれの役割を担う回転翼機。
それらがまた、並び翼を休めていた。
それらの光景は、昨年に故郷で訪れた航空祭の光景を思い起こさせたが。
本日のそれにあっては、賑やかで華やかなその時のものとは異なり。荘厳でどこか物々しい様子を醸し出していた。
キャピタルビーチ管理隊一行の巡回車とステーションワゴンは、指定された場所に到着。並ぶ各緊急車両の一角端に停車し、そこに姿を同じくした。
血侵始め、本日の管理隊からの参加者は4名。その各々が、それぞれ乗っていた車輛から降り立って一度集う。
「――さて、さっそく取り掛かりたい所だけど」
そこで音頭を取る様に、独特の重低音で発したのは。異様なまでの高身長と体躯を持つ存在――亜人のトロル系の男性隊員だ。
ウォーホール・FVと言う名の彼。彼こそ、キャピタルビーチ交通管理隊の隊長代行、副隊長に当たる人物であり。本日の演習参加に当たっての、管理隊の代表者で合った。
補足すると、血侵の管理隊での所属班の班長で、直接の上長でもあった。
「と言っても、ボク等の参加課程は後半になるそうだから。今はボクが運営本部に報告調整に行くだけなんだけどね」
続けしかし、ウォーホールは。その厳つく威圧感のある容姿顔に反した、穏やかな口調でそう説明の言葉を紡いだ。
「じゃあ、開会式まで待機ですかね?」
「何かお手伝いは?」
それに返したのは、二人の隊員。
一人は、全体的に尖った容姿シルエットが特徴の人物。ゴブリンリーダー系の女性隊員だ。
名は、ヘキサ ZLS ユレネンナカン。
32歳の血侵より年下だが、隊員としては血侵の先輩にあたる人物。その関係から、血侵とは互いに敬語で接しながらも、親しい関係となっている。
ゴブリンリーダー系の少し禍々しい容姿に反して、真面目で柔らかく。そして言ってしまうとメンタルも少し柔い人であった。
もう一人は、スラッとした印象の美青年。
艶やかな黒鹿毛――黒髪に映える、長めのショートカットの上に見えるは、同色の一対の馬の耳。
青年は、馬の獣人の男性隊員だ。
名は、センコウ・H・B・Dri。
彼に会っては今年の春にキャピタルビーチ交通管理隊に入隊し、つい最近独り立ちしたばかりの新隊員であり。血侵にとっては初の後輩に当たる人物でもあった。
「いや、今は特には無いかな。皆は取り合えず、待機しててよ」
そんな二人からのそれぞれの伺う言葉に、ウォーホールはそう解答を返す。
「了解です」
それには、血侵が他三名を代表するように了解の言葉を返した。
演習の運営本部へ報告に向かったウォーホールを見送り、血侵始め三名は待機する事となった。
「わー、ユランジェトからpA-83戦略爆撃機まで来たんだ」
基地の敷地の向こう、滑走路から響き聞こえる轟音を聞きながら。
それに混じり、ヘキサがどこかぬるい声で言葉を発する。
滑走上には、今まさに着陸アプローチから接地に入らんとする、巨大な航空機の機影が見える。
2発1組のジェットエンジンユニットを6機。計12発ものジェットエンジンを備える、巨大戦略爆撃機が飛来したのだ。
ちなみに今しがたヘキサが発したユランジェトと言うのは、中央海洋のど真ん中に存在する独立諸島国家であり。中央海洋共栄圏の発足を唱えた代表国家であり、そしてヘキサの生まれ故郷でもあった。
「規模は聞いてはいましたが。実際に来てみると、想定以上に圧巻されますね」
同じくそれを見つつ。センコウは血侵に向けて、そう声を掛け紡ぐ。
「防災演習の体だが、その実は軍事演習も兼ねてんだろう。関係の良くない各方に向けて、姿勢を示して牽制したい腹だろうな」
それに、淡々とそんな推察の言葉を返す血侵。
中央海洋共栄圏は、実の所いくつかの異なる国家勢力圏と、あまり良好とは言えない現状関係にあった。
そして血侵の推察は少なからず当たっていて。今回の防災演習はその内には軍事演習を兼ねるそれが含まれ、それは相反する国家勢力圏に対する牽制を一つの目的としたものであった。
そんな意図のある今回の防災演習に、少なからずのきな臭いものを感じつつ。
今現在も物々しい様子で動きを見せる、飛行場内を観察する各々。
「――おじ様?――おじ様!」
戦略爆撃機のジェットエンジンの轟音が収まりを見せたその所へ。
透る高い声で、そんな何者かを呼ぶ声が届き聞こえたのはその時だ。
「ッ」
そして、血侵はその声に聞き覚えが。いや、その正体に確信があった。
声を辿り、視線を動かし向ける血侵。
その向こに見えるは、こちらに向けて駆け寄ってくるフライトスーツ姿の人物。その姿が近づくにつれ、その人物が少女である事が分かる。
間違いなかった。その正体は、血侵が従兄弟姪――趣意の姿であった。
「趣意ッ?」
流石に血侵も、この場この状況での彼女との再会は想定外であり、若干の驚きの色をその顔に浮かべる。
「おじ様っ!びっくりです!」
しかしそんな血侵の内心をよそに、その趣意は駆け寄って来て相対すると。
その端麗で凛としながらも、どこか威厳すら感じる顔立ちに。しかし人懐っこい、まるで主人でも見つけた犬猫のような嬉しそうな様子で。そんな言葉を発して見せた。
「いや――マジで驚きだ」
それに、一方の血侵は驚き冷め止まぬ様子で返すが。
しかし同時に彼女の姿を見降ろし観察し、そこから察せる部分を見て、漠然とだが状況を推察できつつあった。
最初に見えた通り、趣意の格好は航空機パイロットの纏うものである、朱色掛かった茶色のフライトスーツ。それは彼女の帰属、所属する所である、真艶和皇国の海軍航空隊の操縦士に支給されるものであった。
そしてそのフライトスーツの襟に記されるは、皇国海軍にてその者が少尉の階級者である事を示す階級章であった。
「――神壬式少尉、どうした?」
予期せぬ唐突な従兄弟姪との再会に驚きつつ、推察を巡らせていた血侵だが。
そこへその趣意越しの向こうより、趣意の名字であるそれを呼ぶ、別の通る声が聞こえ届いたのはその時だ。
見れば、その向こうに見えたのは。趣意と同じく皇国海軍のフライトスーツを纏う、別の人物の姿だ。
その顔立ちは遠目にも分かる美女のもの。きめ細やかな間白い肌のその顔立ちを、美麗な長い黒髪が飾っている。
そして何より目立つは、その額から前髪を掻き分けて生える一対二本の立派な角と、エルフ系種族のように尖った長い耳。
それは、真灼連島に住まう白鬼系種族の女性であった。
「ぁ……す、すみません大尉っ!」
その軍人であろう白鬼の女性に対して、趣意は振り向くとまるではしゃぎ過ぎて叱られた子供のような色で、慌て謝罪の言葉を紡ぐ。
趣意の言葉にあった通り、その白鬼女性の襟には皇国海軍大尉の階級章が記されていた。
「こちらは、お知り合いか?」
歩み寄って来たその白鬼大尉は、血侵に軽く会釈をしつつ。その血侵の身の上詳細を趣意に向けて尋ねる。
「はい、おじ様――いえ、私の従兄弟伯父になる人です」
それに趣意は、少し畏まった様子で答える。
「少尉の従兄弟伯父様?」
それに白鬼大尉は、少し驚く様子で再び血侵を見た。
惑星ジア、世界は年を跨ぎ。厳しい冬を乗り越えて、暦は暖かな春を迎えていた。
話の舞台は、極東の真灼連島の地から移る。
惑星ジアで最も巨大な大洋である、中央海洋。
その赤道以北、日付変更線以東の一角に――〝ラインイースト地方〟と飛ばれる地域が在った。
広域に渡る地方にはいくつもの大小の島々が存在し、そこには共同体――中央海洋共栄圏に加盟する、いくつかの国家が存在して栄えている。
そのラインイースト地方の一角一部。〝ビーサイドフィールド〟と言う名の行政区域。
そここそ、現在血侵が住居を借りて構え、生活する地であった。
その地で血侵は、〝交通管理隊〟――高速道路パトロール隊員として勤め従事することで生計を立てている。
このビーサイドフォールドを縦貫するいくつかの〝基幹道路〟、自動車専用道路があり、それ等こそが血侵の職場。血侵の所属する、〝キャピタルビーチ交通管理隊〟の掌握管轄範囲であった。
そのキャピタルビーチ交通管理隊の事務所は、基幹道路路線上に存在する一つのIC。ハーバーノースICに隣接して設けられる、基幹道路管理会社の事業所内にある。
その交通管理隊の事務所内。
事務机や必要な一式が並び構成されるその内部の一角端に。一つのデスクを中心に、数名の雑把に立って並ぶ姿が在った。
立ち構えるは、血侵を筆頭に4名程の比較的若手の交通管理隊隊員。科学者(ヒト系)にゴブリンリーダー系、馬の獣人系などなど。それぞれの男女。
血侵はもちろん含め、皆その姿は青を基調として反射ラインの走った、交通管理隊の制服姿だ。そしてその姿で、特に肩を張るでもなく、気楽な様子で適当にそれぞれ立っている。
そして血侵筆頭に皆が視線を向けるは、相対する事務机に座す一人の人物。
比較的若手のそれぞれと異なり、壮年の見た目の男性の姿がそこにあった。
その正体は、このキャピタルビーチ交通管理隊の長である管区長。
その風貌一見、胡散臭そうで陰のある風体だが。その内にはキレ者のそれを宿す色が見える、隊員等から少なからず一目置かれる長であった。
「――広域防災演習ですか」
その管区長に向けて、立ち構え並ぶ各隊員から代表するように、血侵が一声を紡ぐ。
「あぁ、そうだ。ティークネスト基地で今月末に行われる。中央海洋共栄圏隊が主催して、あちこちから参加が在るデカめの演習だ。」
それに管区長は返し。
「それに、ウチからも出す事になった」
そして説明を紡ぎ始めた。
ティークネスト基地はこのビーサイドフィールドと隣接する行政区域に置かれる、中央海洋共栄圏、航空宇宙隊が所在使用する飛行場基地。すなわち空軍基地だ。
正確には航空宇宙隊の部隊以外にも、中央海洋共栄圏加盟国のいくつかの国の空軍組織部隊が所在する、共用基地である。
今回、そのティークネスト基地を開催の場として、広域防災演習が行われる事となったとの事であった。
中央海洋共栄圏、共栄圏交通省が主催し。
中央海洋共栄圏、地上隊、海洋隊、航空宇宙隊、多用途隊の4各隊。
加盟、友好国の各軍や隊。
そして近隣地方地域の警察や消防救急、行政組織。
さらにはインフラに関わる各企業会社組織などなど――
多方からの参加が在り、そして実施される大規模な防災演習であるとの事。
そして事情を明かせば、こういった大規模防災訓練は。
広域にその領土領地が及び、その内に多種の環境特性を有することから。様々な災害の発生が想定される中央海洋共栄圏では、珍しいものでは無かった。
そして今回。その広域防災演習に、キャピタルビーチ交通管理隊からも参加する事になったとの事であった。
「――代表者はウォーホール隊長代理に頼んである。それに、要員兼経験のためにお前等も行って来てくれ――」
そして説明の後にあったのは、管区長の告げる――言ってしまえば業務指示の言葉。
かくして。血侵等はその広域防災訓練に赴く事となった――
それから日は経過し、広域防災訓練の開催日を迎えた。
場所はその開催地である、航空宇宙隊の飛行場基地であるティークネスト基地へ。
本日演習に参加する血侵等は。
普段から交通管理業務で使用し、本日も演習で用いられるSUV巡回車と。その他の煩雑な業務作業で用いられている、会社の備品のステーションワゴンに分乗して。
基地に到着し、その敷地内へと入場を果たしていた。
「――壮観だな」
その内の巡回車で助手席に座す血侵は、その内より窓越しに見える光景に言葉を零した。
現在巡回車は基地の敷地内の、本日の演習のために解放された駐機場区画を走行し、事前に指示された所定の場所を目指して進んでいる。
その向こうに見えるは、多数の緊急自動車や特殊車両の数々だ。
警察の警邏車。
消防救急の消防車輛に救急車両、特殊車両。
各公共、行政機関やインフラ会社の保有する緊急車両である、公共応急作業車やまた特殊車両。
本日の広域防災演習に参加する、各組織の車輛。それらが一同に会する姿が見えた。
さらに視線を別方へ移し、むこうを望めば。
航空機を格納する格納庫施設の並ぶ区画の、その前には。
多数の航空機の駐機する姿が見えた。
中央海洋共栄圏の地上隊、海洋隊、航空宇宙隊、多用途隊の4組織が保有運用する航空機を始め。
各軍、隊組織や。また警察消防、行政機関の保有する各航空機が、この日のために基地へと飛来したもの。
戦闘機、偵察機、長距離作戦機、輸送機。
小型から大型までの。観測、偵察、連絡、救難、輸送、汎用、それぞれの役割を担う回転翼機。
それらがまた、並び翼を休めていた。
それらの光景は、昨年に故郷で訪れた航空祭の光景を思い起こさせたが。
本日のそれにあっては、賑やかで華やかなその時のものとは異なり。荘厳でどこか物々しい様子を醸し出していた。
キャピタルビーチ管理隊一行の巡回車とステーションワゴンは、指定された場所に到着。並ぶ各緊急車両の一角端に停車し、そこに姿を同じくした。
血侵始め、本日の管理隊からの参加者は4名。その各々が、それぞれ乗っていた車輛から降り立って一度集う。
「――さて、さっそく取り掛かりたい所だけど」
そこで音頭を取る様に、独特の重低音で発したのは。異様なまでの高身長と体躯を持つ存在――亜人のトロル系の男性隊員だ。
ウォーホール・FVと言う名の彼。彼こそ、キャピタルビーチ交通管理隊の隊長代行、副隊長に当たる人物であり。本日の演習参加に当たっての、管理隊の代表者で合った。
補足すると、血侵の管理隊での所属班の班長で、直接の上長でもあった。
「と言っても、ボク等の参加課程は後半になるそうだから。今はボクが運営本部に報告調整に行くだけなんだけどね」
続けしかし、ウォーホールは。その厳つく威圧感のある容姿顔に反した、穏やかな口調でそう説明の言葉を紡いだ。
「じゃあ、開会式まで待機ですかね?」
「何かお手伝いは?」
それに返したのは、二人の隊員。
一人は、全体的に尖った容姿シルエットが特徴の人物。ゴブリンリーダー系の女性隊員だ。
名は、ヘキサ ZLS ユレネンナカン。
32歳の血侵より年下だが、隊員としては血侵の先輩にあたる人物。その関係から、血侵とは互いに敬語で接しながらも、親しい関係となっている。
ゴブリンリーダー系の少し禍々しい容姿に反して、真面目で柔らかく。そして言ってしまうとメンタルも少し柔い人であった。
もう一人は、スラッとした印象の美青年。
艶やかな黒鹿毛――黒髪に映える、長めのショートカットの上に見えるは、同色の一対の馬の耳。
青年は、馬の獣人の男性隊員だ。
名は、センコウ・H・B・Dri。
彼に会っては今年の春にキャピタルビーチ交通管理隊に入隊し、つい最近独り立ちしたばかりの新隊員であり。血侵にとっては初の後輩に当たる人物でもあった。
「いや、今は特には無いかな。皆は取り合えず、待機しててよ」
そんな二人からのそれぞれの伺う言葉に、ウォーホールはそう解答を返す。
「了解です」
それには、血侵が他三名を代表するように了解の言葉を返した。
演習の運営本部へ報告に向かったウォーホールを見送り、血侵始め三名は待機する事となった。
「わー、ユランジェトからpA-83戦略爆撃機まで来たんだ」
基地の敷地の向こう、滑走路から響き聞こえる轟音を聞きながら。
それに混じり、ヘキサがどこかぬるい声で言葉を発する。
滑走上には、今まさに着陸アプローチから接地に入らんとする、巨大な航空機の機影が見える。
2発1組のジェットエンジンユニットを6機。計12発ものジェットエンジンを備える、巨大戦略爆撃機が飛来したのだ。
ちなみに今しがたヘキサが発したユランジェトと言うのは、中央海洋のど真ん中に存在する独立諸島国家であり。中央海洋共栄圏の発足を唱えた代表国家であり、そしてヘキサの生まれ故郷でもあった。
「規模は聞いてはいましたが。実際に来てみると、想定以上に圧巻されますね」
同じくそれを見つつ。センコウは血侵に向けて、そう声を掛け紡ぐ。
「防災演習の体だが、その実は軍事演習も兼ねてんだろう。関係の良くない各方に向けて、姿勢を示して牽制したい腹だろうな」
それに、淡々とそんな推察の言葉を返す血侵。
中央海洋共栄圏は、実の所いくつかの異なる国家勢力圏と、あまり良好とは言えない現状関係にあった。
そして血侵の推察は少なからず当たっていて。今回の防災演習はその内には軍事演習を兼ねるそれが含まれ、それは相反する国家勢力圏に対する牽制を一つの目的としたものであった。
そんな意図のある今回の防災演習に、少なからずのきな臭いものを感じつつ。
今現在も物々しい様子で動きを見せる、飛行場内を観察する各々。
「――おじ様?――おじ様!」
戦略爆撃機のジェットエンジンの轟音が収まりを見せたその所へ。
透る高い声で、そんな何者かを呼ぶ声が届き聞こえたのはその時だ。
「ッ」
そして、血侵はその声に聞き覚えが。いや、その正体に確信があった。
声を辿り、視線を動かし向ける血侵。
その向こに見えるは、こちらに向けて駆け寄ってくるフライトスーツ姿の人物。その姿が近づくにつれ、その人物が少女である事が分かる。
間違いなかった。その正体は、血侵が従兄弟姪――趣意の姿であった。
「趣意ッ?」
流石に血侵も、この場この状況での彼女との再会は想定外であり、若干の驚きの色をその顔に浮かべる。
「おじ様っ!びっくりです!」
しかしそんな血侵の内心をよそに、その趣意は駆け寄って来て相対すると。
その端麗で凛としながらも、どこか威厳すら感じる顔立ちに。しかし人懐っこい、まるで主人でも見つけた犬猫のような嬉しそうな様子で。そんな言葉を発して見せた。
「いや――マジで驚きだ」
それに、一方の血侵は驚き冷め止まぬ様子で返すが。
しかし同時に彼女の姿を見降ろし観察し、そこから察せる部分を見て、漠然とだが状況を推察できつつあった。
最初に見えた通り、趣意の格好は航空機パイロットの纏うものである、朱色掛かった茶色のフライトスーツ。それは彼女の帰属、所属する所である、真艶和皇国の海軍航空隊の操縦士に支給されるものであった。
そしてそのフライトスーツの襟に記されるは、皇国海軍にてその者が少尉の階級者である事を示す階級章であった。
「――神壬式少尉、どうした?」
予期せぬ唐突な従兄弟姪との再会に驚きつつ、推察を巡らせていた血侵だが。
そこへその趣意越しの向こうより、趣意の名字であるそれを呼ぶ、別の通る声が聞こえ届いたのはその時だ。
見れば、その向こうに見えたのは。趣意と同じく皇国海軍のフライトスーツを纏う、別の人物の姿だ。
その顔立ちは遠目にも分かる美女のもの。きめ細やかな間白い肌のその顔立ちを、美麗な長い黒髪が飾っている。
そして何より目立つは、その額から前髪を掻き分けて生える一対二本の立派な角と、エルフ系種族のように尖った長い耳。
それは、真灼連島に住まう白鬼系種族の女性であった。
「ぁ……す、すみません大尉っ!」
その軍人であろう白鬼の女性に対して、趣意は振り向くとまるではしゃぎ過ぎて叱られた子供のような色で、慌て謝罪の言葉を紡ぐ。
趣意の言葉にあった通り、その白鬼女性の襟には皇国海軍大尉の階級章が記されていた。
「こちらは、お知り合いか?」
歩み寄って来たその白鬼大尉は、血侵に軽く会釈をしつつ。その血侵の身の上詳細を趣意に向けて尋ねる。
「はい、おじ様――いえ、私の従兄弟伯父になる人です」
それに趣意は、少し畏まった様子で答える。
「少尉の従兄弟伯父様?」
それに白鬼大尉は、少し驚く様子で再び血侵を見た。
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ファンタジー
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東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
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