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2章:「―航空祭とTS―」

11話:「―祭典の終わりと、美少女TSおやぢへの恋煩い―」

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 航空祭のプログラムは滞りなく進み、現在は一番の盛り上がりの時を迎えていた。
 現在、宿音基地の上空では。複数機からなるジェット戦闘機の編隊が、繊細でしかしダイナミックな機動飛行を展開している。
 別基地より飛来した、特技研究飛行チームによる曲技飛行展示だ。
 本日の航空祭のパフォーマンスの目玉でもあった。

 そんな華麗かつインパクト満載の展示を、大空を舞台に魅せる特技研究飛行チームの姿を上空に見つつ。
 血侵と修奈は、基地施設の一つの建物の影で、一時の休息を取っていた。
 そこは展示区画や出店の許可された区画からは少し外れ、特段催しは無い静かな場所。
 施設建物の影という事もあって、喧騒を離れての一時を過ごすには都合が良かった。

「はぁ」

 自動販売機で所望した、暖かい珈琲飲料を啜り、ホッとした一息を吐く血侵。
 修奈も少し姿勢を楽にして建物に背を付け、同じく珈琲を啜っている。
 ちなみに今も二人は変わらず、アーミーorエアフォースバニーガールの美女と美少女姿だ。

「意外と、同期さん等と楽しそうにやってるようで安心した」
「ん?」

 おもむろに、血侵がそんな言葉を零したのはその最中。
 それに修奈は少し伺うように反応を返す。

「お前さんの性格から、変にぶっきらぼう振りまいて孤立してやしないかと、少し心配してたんだ。だが、それは無さそうだな」

 それにまた紡ぐ血侵。
 本日一日で観察したところの修奈の様子は。なんだかんだ渋りつつも催し事に同期友人等と参加し、時にその同期友人らと不愛想ながらも険悪では無い交友を交わす姿を見せていた。
 それらから、修奈が悪くはない隊での生活を送っている事を察し。安心した事を告げるものであった。

「まったく。それを確かめにわざわざ基地まで来たのか」

 そんな、お節介な従兄弟伯父のそれに。
 修奈はまた渋く呆れた色を、今は美女のものであるその顔に作る。

「さっきも言ったが、おせっかいおやじを親戚に持った事を呪え」
「まったくだよ」

 揶揄うようにそんな皮肉の言葉を飛ばす血侵。
 それに修奈はまたぶっきらぼうに返し、背を預けていた施設建物の壁からその体を放そうとした。

「――ッ!」

 しかし。その修奈がガクンと落下するように、態勢を崩したのはその直後瞬間。
 見れば、修奈の足元にはアスファルト舗装の剥離の影響でできた、数crw程の深さの穴、段差があった。
 それはすでに長い年月が経ち新しいとは言えない宿遠基地の、各所に見える老朽化箇所の一つ。修奈はそれに脚を取られたのだ。

(まず――ッ)

 そのまま前傾する形に態勢を崩す修奈。
 軸を外れバランスを失い、すでに復帰、持ち直しは困難。
 修奈は自身の身がそのまま地面に叩きつけられる事を覚悟する――

 しかし――
 その覚悟想定よりも早くに。修奈の身は何かにぶつかった――否、受け止められた感覚を覚えた。
 少し荒々しくも、修奈の身を守った物である事が直感で分かるそれ。
 そして同時に、修奈が覚えたのは――何か、フワリともムニュリとも表現できる触感が、自身の胸に伝わる感覚。
 同時に、自身の今はたわわな乳房が、やんわりと何かに押し潰される感触だ。

「――?」

 不可解で想定していなかったそれに、一瞬訝しむ思考を脳裏に走らせた修奈。

「……!」

 そして次に、少し落ちていた自身の視線に先に見えた物に。修奈は目を微かに見開いた。
 そこに見えたのは――やんわりとぶつかり互いを柔らかくも潰し合う、二組四つの豊満な乳房。
 それぞれ緑と青のバニー衣装に支えられるそれらは、しかし互いを圧する影響で零れ溢れんばかりの様相を見せている。

「――大丈夫か?」

 まだ理解の追い付いていない修奈に、間近から透る声が掛けられる。
 視線を少し上げて見れば、そこに。文字通り修奈の目と鼻の先にあったのは、自身と似る所のある、凛とした美少女の少し真剣な表情。
 他でもない、血侵の姿と顔であった。

「っ!」

 改めて見降ろし確認すれば、修奈の身体は。その前に立った血侵の、僅かに小柄な身体に支えられていた。
 そう。血侵は咄嗟の反応で、身を崩した修奈の前に回り出て。修奈の身体を抱き留め支えたのであった。
 今は血侵の細腕が修奈の肩を、身を留めて抱き。
 そしてその姿勢位置関係から、互いのたわわな乳房がこれ見よがしに押し潰し合う状態となっていたのだ。

「……っ!」

 そのなかなかに色艶を醸す自分等の状況。そして自身をまっすぐ見つめる、今は凛々しい血侵の美少女顔。
 それぞれの前に、修奈の頬は赤く染まった。

「修奈?」
「ッ!――すまない、大丈夫だッ」

 すぐに反応返答の無かった修奈に、血侵が再度心配し尋ねる言葉を掛け。そこでようやく修奈は状況を掌握し切り、慌てて大事無い旨を返す。
 そして自分で態勢を取り直し、慌てどこか逃げるように、血侵から体を離した。
 そこで互いを潰し合っていたそれぞれの乳房が、程よい弾力で揺れて元の形に復帰する。

「ッ、悪い……不注意だった」

 そして未だその美女顔の頬を染めつつ。視線を逸らしながらも謝罪の言葉を紡ぐ修奈。

「構わねぇ、地面に突っ込む前に支えられてよかった」

 それに対して、血侵は構わぬ旨を返す。

「アスファルト剥離か。宿遠基地も、古い基地だからな」

 そして、修奈の転倒の原因となった足元の剥離部分をしげしげと見つつ。そんな言葉を零す血侵。

「……悪い、俺は先に戻ってる」

 そんな所へ。修奈がおもむろにそんな告げる言葉を寄こしたのはその時であった。

「おん?あぁ、マジで大丈夫か?脚、捻ったりしてねぇか?」

 それに血侵はしかし、修奈の性格から勘繰り。負傷を隠してはいないかを問い確認する。

「問題無い……!少し、別件があるだけだ……!」

 しかし修奈は何かまた慌てるように。そして問題ない旨を証明するように、足先で地面をカツンと踏んで鳴らすと。

「すまなかった……アンタはゆっくりしててくれ……ッ」

 そしてぶっきらぼうに、一応の配慮の言葉を告げると。
 修奈は身を翻して。その際バニー耳とバニー尻尾が反して可愛らしく揺れ。一人先にその場を離れ、立ち去って行った。

「マジで大丈夫だろうな?チト、注意して見とくか」

 そんな修奈の姿を見送りつつ、血侵は訝しみそして案ずる旨を呟き。そしてそんな留意の必要性を、自身に念を押すように零した。



「――まったく……厄介な人だ……ッ」

 展示区画へ通じる基地内の道路通路を。修奈は何やら自身の何かを紛らわす様子で、早歩きで歩んでいる。
 修奈はの心情は、狼狽え――ドギマギしたそれに苛まれていた。
 それは想像に難く無く、今しがたの出来事が原因。

 暴露しよう。
 修奈は表立っては血侵につっけんどんな態度を取っているが。幼少の頃は血侵に懐いており、そして実の所それは今にあっても変わっては居なかった。
 否。むしろそれは少し厄介な形で、修奈の中で拡大膨張していた。
 ――それは、恋心だ。
 それもそれは。
 本来の男性性として、魅惑の血侵の美少女姿に惚れこむ面もあるが、それだけではなく。
 女性性にもなれる身として、血侵の本来のおやぢ姿にもまた、深く惚れこむものであった。
 修奈の性格柄。そして何より従兄弟伯父と従兄弟甥という関係から、修奈はそれを表に出すことを控えていたが。
 そんな気持ちをつゆ知らず、お節介なおじさんムーブで接し面倒を見て来る血侵の存在は。修奈にとって大変に悩ましいものであったのだ。

 そんな恋焦がれる存在である血侵との、予期せぬ急接近と接触は。まだ若い身空の修奈を惑わせ狼狽させるには、毒の域であるまでに十分過ぎた。

「こっちの気も知らずに……!」

 そんな恋焦がれる。悩ましく、一種恨めしいまでの存在である己が従兄弟伯父――血侵を脳裏心内に浮かべつつ。
 修奈は呪詛の言葉を零すのであった。


 そんな悩ましい美少女変貌従兄弟伯父と美女変貌従兄弟甥の関係性をよそに。
 本日の宿遠基地航空祭は、大成功と言える内に幕を閉じたのであった――



 航空祭が無事終わった翌日。
 郷最市の中心部である郷最駅のプラットホーム。
 そこには真灼連島の主たる地域を繋ぎ結ぶ、主要幹線鉄道の列車が停車していた。
 その内の一両の指定席客車の傍にホーム上に、相対する二人の姿が在る。
 それは他ならぬ、血侵と趣意。一昨日に一日を過ごした、従兄弟伯父と従兄弟姪の二人だ。
 血侵は今日に在っては、本来の印象の良くないおやぢ姿に戻っている。
 
 本日は、趣意が故郷である真艶和皇国に。学び過ごす皇国軍女学校へ帰るために立つ日であった。
 血侵は、その趣意の見送りに来たのであった。

「おじ様、すみません。わざわざお見送りなんて」

 そんな血侵を前に、趣意はうれしそうながらも、少し申し訳なさそうな色で紡ぐ。

「自分が好き好んで来たんだ、なんも気にするこたねぇ」

 それに、そう何の遠慮も必要ない事を示し返す血侵。

 本心の所。
 一昨日には互いの関係に、一線を引かなければならない事を話し合った二人であったため。
 血侵はそこから趣意が、抱え込んでいないかと心配する所があった。
 今の所、表立って気落ちしている様子は見せていないが。趣意もまた己の弱さを表には出さないタイプだ。表面だけでは判断決定はできない。

「趣意――」

 そんな従兄弟姪に、思うところあり言葉を掛けようとした血侵。
 しかし――それを無慈悲にも遮る様に、ホーム上に出発を告げるベルが鳴り響いた。

「っと。いけねぇ」

 それに、発そうとしていた言葉を止める血侵。
 趣意を幹線列車に乗せなければならない。

「――おじ様」

 一度、ベルに注意が向いて視線を少し上げていた血侵へ、傍の趣意から一声が掛かったのはその時。

「おん?どうし――」

 それに尋ねつつ視線を降ろし戻しかけた血侵。

 ――血侵の扱けた頬に。
なにか控えめながらも柔らかく、そしてしっとりした感触が走ったのは瞬間であった。

「ッ」

 微かに目を目を剥く血侵。
 見れば視界の端の、しかしすぐ傍に。黒寄りの茶髪と健康的な肌の凛々しい顔――趣意の顔が在る。
 いや、二人のそれぞれは触れ合っている。
 ――接吻――キス。
 趣意は、血侵の頬に口づけをかましていた。

「!――趣意ッ、おまッ」

 すぐさまそれに気づき。そして血侵は、驚きと同時にそれを咎めなければと考えを浮かべ、少し大きい声量で趣意を呼ぶ。
 しかし見れば直後には、趣意は離れて身を翻し。まるで逃げるようにパタパタと自身の乗る客車へと駆けていた。
 そして乗降口よりデッキに軽やかに乗り込み、そこで振り返り血侵を見る趣意。

「ふふっ」

 その趣意から聞こえ来たのは微かな微笑。その顔には「してやったり」と言う様な、悪戯が成功した子供のような笑みが浮かんでいた。

「おじ様。私、諦めがすごく悪いんです」

 そしてその調子で、続け発し寄こされたのはそんな言葉。

「絶対におじ様を手に入れて見せますから――カクゴしていてくださいねっ」

 そして、そんな宣告の言葉を紡ぎ寄こした趣意。
 その直後には、乗降口の扉がゆっくりと締まり。同時にホームに列車より距離を離すようにとのアナウンスが響く。
 そして幹線列車は、ゆっくりと動き走り始める。
 その動き始めた幹線列車の、乗降扉に設けられる窓の向こうでは。
 引き続きの悪戯っぽい笑みを浮かべ。別れ、いや再開を楽しみにしているとでも言った様子で、小さく手を振る趣意の姿が在った。
 そしてそんな趣意を乗せ運び、幹線列車はホームを離れ、その軌道の導く向こうへと去って行く。

「――ったく。とんだ爆弾土産を残して行きやがった」

 未だ驚き残る内心のまま、それを見送った血侵は。
 我が従兄弟姪の残して行った特大の土産に、呆れた様子でそんな表現の言葉を紡ぎ。
 そして「やれやれ」と言った様子で、去っていく幹線列車に小さく手を振るうのであった――
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