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1章:「―帰郷から始まるTS―」

2話:「―TSから喫茶店デートと色々―」

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 それからさほど掛からずに。血侵と趣意は、その趣意のオススメであるという喫茶店へと辿り着いた。
 街並みの一角の、広くは無い敷地に小じんまりと建つ。派手過ぎず地味過ぎない外観の、上品で落ち着いた印象を受ける、お手本のような喫茶店。
 初見で入るには少し敷居が高そうだなと、血侵は思ったが。先を任せていた趣意は、物怖じせずにその入り口扉に手を掛け開いた。
 扉に付けられたベルが、店の内へと来客を告げる。

「――いらっしゃぁい――あら?」

 ベルに続いて聞こえたのは、そんな何か艶めかしく、しかし低い声量での来客を迎える声。入ってすぐに見えるカウンター席の向こうに、その声の主の姿はあった。
 長身で、一目見てもイケメンと評せる容姿の男性。店の従業員であろうその男性は、次に趣意の姿を見止めると、何か少し驚くように目を見開き、言葉を零した。

「マスター、お久しぶりです」
「あらあら、趣意ちゃんじゃなぁいっ。久しぶりねぇ~」

 趣意はそんな色を見せる男性に、店内へと歩み入りながら挨拶の声を紡ぐ。それに対して男性は、またも艶めかしい女口調で、再開を喜ぶ物であろう言葉を紡ぎ返す。
 先のマスターという呼称から、彼がこの店の主なのであろう。

(濃い人が出て来たな)

 趣意に続き店内に踏み入った血侵は、真っ先に遭遇したその〝オネェ〟らしき店主を見て。そんな事を思う。
 そして一度店内へと視線を走らせる血侵。店の内装は、外観のイメージを損なう事の無い、似通った上品で落ち着いた物であった。
 客入りは閑古鳥が鳴くという程ではないが、御昼時の飲食店にしては控えめだ。

「こっちに帰ってきてたのねぇ」
「はい、軍学校もお休みで、それを利用して父の実家に顔を出しに来たんです。マスターのお店にも久しぶりにお伺いしたくて」
「あっらぁ、うれしいわぁ。正直心配してたのよぉ?でも、元気そうで良かったわぁ」

 一方の趣意とマスターは、再開の会話で盛り上がりを見せている。

「ところで、そちらはお友達ぃ?」

 かと思っていた直後。マスターの視線と言葉は、唐突に血侵へと向けられた。

「ん?いんや、自分は――」

 唐突に自分にフォーカスが当たり血侵は少し目を剥いたが、すぐにマスターの疑問を否定し、自分の正体を正直に説明しようとした。

「えぇっ。軍学校の先輩で友人、そして――〝私のお姉様〟ですっ」

 しかし、血侵のその言葉は趣意の台詞に遮られた。
 趣意はそんな血侵の説明を阻む言葉と同時に、くるりと血侵の背後へと回り。そして血侵の両肩に自分の両腕を乗せて、まるで血侵を自慢するように示し紹介して見せた。

「――何を言ってんだお前は」

 そんな趣意の行為に。
 血侵は少し困惑で言葉を詰まらせた後に。呆れ顰めた色を今の美少女顔に作って、そんなツッコミの言葉を入れた。
 そんな趣意は、「ニシッ」とでも聞こえてきそうな悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「あらあらぁ」

 そんな言葉表現を受けた一方のマスターは、その口に片手を当て、驚きしかし興味深そうな顔色を浮かべている。

「趣意ちゃんも、大人の階段を上ったのねぇ」

 そしてそのイケメン顔にニヤニヤと笑みを浮かべ、また彼も揶揄う様な言葉を投げて寄こした。

「真に受けるな、真に受けるな」

 血侵はそんなマスターに向けても、弁明を含めたツッコミの言葉を端的に飛ばす。

「いらん誤解と手間が増える事を言うな」
「えー、おじ様ノリが悪い」

 そしてまた趣意の悪戯じみた振る舞いに向けて、淡々と苦言の言葉を紡ぐ血侵。それに対して趣意は、頬を膨らませて不服の色を零した。

「うふふっ、なかなかご馳走様な光景ねぇっ」

 そんな二人のやり取りにクスクスと茶化す言葉を寄こすマスター。

「おじ様――という事は、あなたが噂の趣意ちゃんのおじ様?」

 しかし直後。マスターは少し妖しい笑みで何か見抜いたように、そんな言葉を血侵へと寄こした。

「あぁ――自分を知ってんのか?」

 対して血侵は、まずはその事実を肯定。そしてしかし、自分を知るらしいマスターに疑問の言葉を返しぶつける。

「えぇ、お噂はかねがねっ。趣意ちゃん最推しのおじ様の事は、よぉく話に聞いてるわぁ」

 対してマスターは引き続きの妖しい笑みで、そんな回答の言葉を返す。

「前に見せてもらった写真姿はなかなかインパクトのあるものだったから、まさかそんなカワイク変身した姿で初めましてするコトになるとは、ちょっと意外だったけどネ」

 続けて紡いで見せるマスター。
 どうにも話ばかりでなく、美少女に性転換する前の元の姿まで知られているらしかった。

「なんだって自分の事なんぞ、見せて言いふらし回ってんだ」

 その元凶。犯人であろう隣に立つ趣意に視線を向け、血侵は呆れ交じりの問う言葉を投げる。

「えぇ?だって自分の推しの事は、皆に知って欲しいと思うものでしょう?」
「お前が本当につくづく理解わからん」

 割と本気そうに不思議な色を浮かべて、言葉を返して来る趣意。
 それに対して血侵は、最早ぶん投げる域で淡々とそんな言葉を吐いた。

「うふっ。少なくとも、良い相方っぷりみたいねぇ」

 そんな二人のやり取りに、マスターはそれまでの妖しい笑みを解し。変わって朗らかな表情を見せて、そんな評する言葉を寄こした。



 それから二人はマスターに促され、空いている席の内から適当な所を選んで、向かい合い席に着いた。
 そしてメニューをそれぞれ手に取り、吟味を開始。
 趣意によれば、食事の類はどれもマスターの手製で、個人経営の小さな店の物とは侮れぬ品々ばかりであるらしい。
 趣意は目映している様子を見せながらも。血侵は今の気分に率直にあまり迷う事なく。それぞれが頼むべき品を定め、オーダーを出した。

「――そんで、軍学校ではうまくやれてんのか?」

 オーダーが、厨房にてマスターの手で形になるのを待つ間。二人はまた身の上話に興じる。
 血侵が発し尋ねたのは、趣意の皇国軍女学校での諸々の状況を尋ねる物。

「はい。自尊となってしまいますが、順調と思っています」
「気が参っちまったり、付き合いに面倒は起こってねぇか?軍ってのは、一癖あるヤツ等が面を合わせるからな」

 質問に肯定の回答を返した趣意に、しかし血侵はさらに突き込んで問う。

「――正直にお答えすれば、やはり軍隊という特性環境上。辛く思う事もあれば、時に諍いもあります」
 血侵の再びの問いに、趣意は今度はそう言葉を紡ぐ。


 ――皇国軍女学校は、ただでさえ敷居の高くそして狭き門。皇国軍の中核を担う将来の士官を育てる目的から、その訓練教育の厳しさも並々ならぬ物であると聞く。さらに皇国皇室、軍中枢、財閥の息も掛かり。それ等に縁ある者達も、生徒として多数所属しているという。派閥争いの類も、生半可な物ではないであろう。
 さらに明かせば、趣意の母は遠い血ではあるが、皇国皇族に縁ある者なのだ。その事から、趣意は軍学校で良くも悪くも注目されていた。

 ――そしてしかしもう一つ。趣意の父、すなわち血侵の従弟――あっては血侵の家系にも言及しておくべきことがあった。
 血侵の住まう自由藩県体は、100年以上前に皇国より分離独立した国であるが。その独立を成しえた際の重要人物、功労者、今では自由藩県体側の歴史の教科書にも出て来るレベルの偉人等がいるのだが――その内の一名が、血侵等の先祖に居るのだ。
 血侵から見れば、祖父の曽祖父まで遡る。
 そして、自由藩県体側すれば偉人であるその人々だが、当時の皇国側から見れば、反逆者そのものであった。

 ――そう、趣意はその相反するとも言える二つの血を引いているのだ。
 現在は双方への態度は軟化し、互いへの理解も進んだ皇国と自由藩県体だが。それでも内心でその独立の功労者等を、気に入らなく思っている皇国国民は存在する。
 そんな身の上の趣意の皇国軍女学校への入学が、波紋を呼び、面倒な出来事の渦中になっている事は想像に難くない。
 血侵としても、その事は気にかかっていたのだ。


「――ですが」

 しかし、少し難しい色を見せた趣意は、次にはその色を凛と変える。

「安からぬ道と営みであれど――良き仲間に恵まれ、日々切磋琢磨し会えていると、自負しています」

 それまで見せていた人懐こい少女の顔とは打って変わった、武と覚悟を知る者の顔立ちで。確たる自信を持ち、趣意はそう紡ぎ放って見せた。

「――んなら、自分が首を突っ込むのは余計なお世話か」

 その言葉、その瞳の色から、それが嘘偽り無いものである事は嫌でも理解できた。
 それを受け、血侵はいつもの淡々とした口調で。今は相対する従弟姪と瓜二つとなっているその美少女顔に、皮肉気な笑みを浮かべて言った。



 引き続き注文の品を待つ二人。
 今は血侵は、趣意より受け取った彼女の物である携帯端末を、借り受け眺めている。
 血侵が指先で画像をスライドさせ眺めるは、写真フォルダに格納された写真の数々。それはどれも、趣意の軍学校生活の一幕を写した物。
 営内での何気ないワンシーンから、訓練空けと思しき物。どれも同期であろう少女達と共に移り、時に手を取り方を組合い、時にふざけ合っている。厳しくも充実した日々を送っている様子が、伝わって来た。

「――おじ様、今度はおじ様のお話が聞きたいです」

 そんな途中で、趣意から唐突にそう言葉が紡がれ来た。
 それは、血侵の身の近況や上話を求める物だ。

「おん?自分のか?」

 掛けられた言葉に、血侵は少し意の他だという様な様子で視線を起こす。

「はい。おじ様は夏から中央海洋に出られて、基幹道路のパトロール隊員になられたんですよね?」

 血侵が最近、交通管理隊隊員になったという事は、趣意も聞き及んでいるようであった。

「あぁ、前々からちょいと興味があってな。もう歳もギリだからな、最期の挑戦と思って、動いてみたんだ」

 趣意の尋ねる言葉に、血侵は自分の行動理由をシンプルにまとめて告げる。

「写真などは無いのですか?」
「いや――自分では撮ってないが、ちょうどHPのがある」

 「見たいか?」と聞こうとしたが、尋ねるまでも無く趣意は興味津々と言った表情を見せていた。血侵は借り受けていた携帯端末を弄り、会社のHPにアクセス。交通管理隊部署の紹介広報ページを表示させ、携帯端末を趣意に渡し返す。
 HPは先日リニューアルされたばかりで、そこには最近の交通管理隊の活動の様子が、写真として掲載されていた。

「これがおじ様ですか?」
「あぁ」

 いくつかの写真には制服姿の血侵の姿も映っており、趣意それを見つけながら、視線を走らせる。

「こういった活動をなさっているんですね――」

 そして目を端末に落としつつ、関心したように言葉を零す。

「私も、おじ様がパトロール隊になられたと聞いて、少しですが調べました――危険の伴う仕事とお伺いしています」

 続け趣意は、自身の管理隊についての認識について述べる。その言葉には同時に、血侵の身を案ずる感情が含まれていた。

「まぁ、確かに危険はあるし、ボサッとしてりゃどやされる仕事だ」

 そんな趣意に対して、血侵は淡々とまずは肯定の言葉を紡ぐ。

「だが、何も故意に命を取られに来る仕事じゃねぇ。変に心配するコトはねぇよ」

 しかしそれ以上深く言及する事はせず、血侵は趣意に向けてそう促す言葉を紡ぐ。

「強いて言えば――32、いい歳こいて新隊員だ。その辺ちょいと難儀してるくらいか」

 そして少し言葉の色を皮肉気に変え、そんな事を発して見せる。

「ふふっ、その可憐な姿には不釣り合いな台詞ですね」

 そんな血侵の言葉に、趣意も心配の表情を解して。
 そして今は美少女である血侵の、その姿と台詞の不釣り合いさに微笑んで見せた。



 それぞれの身の上話に興じている間に待ち時間はすぐさま経過し。テーブルにマスターお手製の品々が届けられた。
 血侵の注文品は、チリコンカンを溢れるほど乗せたホットドッグ。
 趣意の方は、チーズとマカロニたっぷりのグラタン。
 どちらもなかなかにボリューミーだ。
 そしてこれまたマスターお手製のフルーツジュースがそれぞれ。
 せっかくなので二人は、これを互いに少しづつシェア。
 趣意がワンカット譲られたチリコンカンドッグを口に運ぶのに苦労したり。
 趣意が自分のグラタンを、ふーふーからのあーんで血侵に差し出し、血侵がこれを呆れ苦い色を作りつつも受け入れたりと。
 そんな様子で昼食の時を過ごし終えた。



 先程「金は無い」等と冗談を飛ばした血侵であったが。大人であり一応の今の保護者である身として、支払いは持つことを申し出た。
 それを申し訳なく思ったのだろう、割り勘を申し出た趣意を説き。出発前にお手洗い等済ませておけと促し立たせ、その間に感情を済ませるべく会計前に立つ血侵。

「ありがとう、美味かったよ」
「それは何よりだわぁ」

 支払いの金額を渡しながら、マスターに向けてお愛想の言葉を紡ぐ血侵。それにマスターは決まり文句で返す。

「――そしてもう一つ何よりなのは、噂のおじ様が悪くはない人みたいだったコトね」

 しかしそして。マスターは続け、そんな言葉を紡ぎ寄こして見せた。

「気を悪くしないでね?人のご家庭に首を突っ込むような事はお上品じゃないとは分かってるけどぉ、正直少し心配だったのよぉ。趣意ちゃんが、イケナイおじさんに誑かされるんじゃないかって」

 マスターは、頬に手を当ててそんな本音を血侵に暴露する。

「まぁ、噂とこっちの見てくれだけ知らされてたら、それが当然の反応だな」

 それに対して血侵は気を悪くする様子は見せず、皮肉気にしかし当然の事だと言うように返す。

「でも、今日見させてもらった限り――あなた達、本当にお互いを思い合ってるようね。安心したわぁ」

 しかし対してマスターは、そんな本当に安堵するような様子で言って見せる。

「――ふふっ。赤の他人のオカマが、何を偉そうにってカンジよねぇ」

 そしてそれから自嘲するように、片手をおばちゃん動作で振るいながら笑って見せた。

「いんや。アンタみたいな気に掛けてくれる大人が他にもいると分かって、こっちもチョイト安心した」

 しかしそれに対して、血侵も同じ評し感謝する言葉を、紡ぎ返して見せた。



「――ん」

 そんな会話がてら支払いを済ませ、財布をセーラー服のポケットに仕舞って居た時。
 何気なく走らせた血侵の視線は、カウンターの向こうの壁。そこに飾られた、一枚の写真に気付く。

「〝近中〟――」

 そして目にした物に、血侵は思わずそんな何かの言葉を呟く。

「ん?あぁ」

 血侵の視線を追って振り向き、零されたワードの理由を理解したマスターは、そんな一言を零す。

「〝航隊〟に居た頃の写真よ、懐かしいわぁ――」

 そしてそんなワードと共に、写真を見て懐かしむように紡いだ――


 中央海洋に存在する各国により結成された連合体、中央海洋共栄圏――Center Ocean Co-Prosperity Sphere、略称CO.CO-PS。
その中央海洋共栄圏の元には、加盟各国の保有する軍事組織とはまたまったく別に、独立して存在運用される実力行動組織――事実上の軍隊が存在する。

 一つは、〝中央海洋共栄圏 地上隊〟――CO.CO-PS Ground Power、略称GP。
 諸外国における陸軍に値する組織。
 
 一つは、〝中央海洋共栄圏 海洋隊〟――CO.CO-PS Ocean Fleet、略称OF。
 諸外国における海軍にあたる組織。

 そして一つ、〝中央海洋共栄圏 航空宇宙隊〟――CO.CO-PS Air and Space Wing、略称ASW。
 諸外国における空軍、そして宇宙分野を担当する組織。

 さらに一つ、〝中央海洋共栄圏 多用途隊〟――CO.CO-PS Utility Unit、略称UU。
 諸外国における内務軍、統合軍の性格機能を有する他、他三隊のいずれにも該当しない任務を担う組織。

 以上の四組織が存在し、共栄圏防衛を始めとする、各種任務役割を担っていた。
 全体としては、中央共栄圏隊、中央隊、共栄圏隊等、いくつかの呼称で呼ばれる。


 マスターが発した航隊とは、四組織の内の航空宇宙隊を表す、いくつかある略称の一つだ。
 写真に映るは、青系統の色合いで荒い迷彩柄を描く、戦闘作業服――航空宇宙隊で運用、隊員への着用が指定されている被覆――を纏う数名の隊員等。
 科学者※から、ゴブリンにミュータント等々。この世界に存在する様々な種族が、隊員として同じ隊に会する姿だ。
 その背後には、同じく航空宇宙隊で配備運用される、高性能40mrw口径防空機関砲システムの武骨な姿が鎮座している。
 さらによく見れば、映る隊員の内の一人がマスターであった。

「隊員だったのか」

 引き続き写真を見上げ、呟く血侵。

「えぇ、もう五年も前に辞めちゃったけど。どうしても自分のお店を開く夢を諦めきれなくてねぇ」

 懐かしみながら、しかし少し小恥ずかしそうに話すマスター。

「ところで、もしかしてひょっとしてあなたも〝元〟?」

 そしてしかし、マスターは視線を降ろし戻して血侵を見ると、そんなような尋ねる言葉を向けてきた。
 それは、現役の中央共栄圏隊隊員、あるいは元隊員が、同じく相手を元隊員かと尋ねる時の言葉。

「ごめんね。近中って呼び方は、あんまり部外の人はしないから」

 続けマスターは、他意は無い事を断る旨を。合わせて、血侵を元隊員と思った理由を述べる。
 先に血侵が発した、近中――とは近中射中隊(近及び中距離防空射撃中隊の略称)を表す言葉であり。航空宇宙隊において航空団の内などに編成され。機関砲やミサイル等を運用し、飛行場や基地、施設を敵性航空機より守る事を役目とする防空高射装備部隊だ。

「――」

 それを受けた血侵はほんの僅かにだが、「失言だった」と言う様な苦い色をその美少女顔に浮かべる。

「――あぁ」

 しかし同時に、ごまかすのも見苦しく億劫と言った様子で。マスターの言葉を肯定した。
 ――実は血侵も、その経歴を辿れば、航空宇宙隊の隊員であった時期があったのだ。

「あらぁ、また妙な縁ね。どこに居たの?アタシは今言ってくれた通り、4空団の近中射中隊に居たんだけど」

 マスターはまたわずかに驚きつつ、血侵に在籍時の詳しい所属を尋ねる言葉を。そして補足で自身の所属を答える言葉を紡ぐ。

「14飛団の司令部、しがない雑用事務だった」

 マスターの問いかけに対し、血侵は端的にそして皮肉気に答える。

「おまけに一年足らずで辞めた、ハンパモンさ」

 そして続け、また皮肉気にそして自身をあからさまに卑下する言葉で紡ぐ。血侵は多くを紡ごうとはしないが、彼にとってあまり誇れる経歴ではなかったのだ。

「あらら……ちょっと変なコト聞いちゃったかしら」

 そんな血侵の様子に、マスターは少し困った様子を浮かべ零す。
 マスター自身も、航空宇宙隊でののっぴきらない色々な事柄は見てきた身であり、血侵のそれを察したのだ。

「いや、俺の落ち度だ。気にしないでくれ、二等曹殿」

 しかし血侵はそれに、マスターに非は無い旨を返す。そしてその美少女顔に少し悪い笑みを浮かべ、ごまかしふざけるようにそんな呼称でマスターを呼ぶ。
 写真の戦闘作業服姿のマスターの着ける階級章を見て知った、当時のマスターの階級であった。

「――盗み聞してたようで悪いけど、あなたも今はまたやりたいと思った仕事をしてるんでしょ?」

 しかしそんな血侵に、マスターはまだ終わっていないと言葉を紡ぎ、尋ねる。
 先に血侵と趣意の会話を、聞き及んでいたようだ。

「あぁ、まぁ――先は分からないが、ここ最近はちょっと悪くないとは思えてる」

 そんなマスターの言葉に、血侵は曖昧ながらも肯定の言葉を返す。

「なら、それでヨシよぉッ」

 その回答を受け。マスターは最早多くは紡がず、ガッツリと良い笑顔を作り、ただシンプルにヨシとする言葉を血侵へと送った。

「――どうも」

 それに、血侵は少し呆れしかし少し笑いを零しながら。そんな返事を返した。



「おまたせしましたっ」

 そんな所へ、お手洗いに立たせていた趣意が戻って来た。

「?、おじ様とマスター、何かお話されてたんですか?」

 戻って来た趣意は、何か意味ありげに笑みを交わす二人を見て、仄かに察しそんな言葉を紡ぎ尋ねる。

「大人の話よぉ」
「おっさんの話だ」

 それに対して、見た目はイケメン、中身は乙女のマスターと。
 見た目は現在美少女、中身はおやぢの血侵は。
 同時にそんな言葉を発した。

「えぇー?なんですそれ?」

 それに対して仲間外れ&子供扱いされた趣意は。不服そうに言葉を零した。



「また来てねぇ」
「ごちそうさまでした」
「ありがとう」

 そしてマスターの見送りを受け。
 それに返しながら血侵と趣意は、店を後にした。
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