上 下
44 / 56
Chapter6:「ストライク TS ガールズ」

Part42:「予期せぬ決着」

しおりを挟む
「どうぞ……って?」
「FLHはあなた方に接触し、回収される事を望んでいたようです。ですので、あなたにお引渡しします」

 少し、いや多分に困惑しつつ、今も呆け気味の声で返した星宇宙に。ラグラデオスが回答したのはそんな説明の言葉。

「え……あの……俺たちと、戦わないの……?」
「はい、戦闘となる可能性も有していましたが。私にあってはその選択を排除致しました」

 続け、探る様に尋ねた星宇宙の言葉に。ラグラデオスが返したのは、シンプルなあっけないまでの、戦闘を否定する回答であった。

「なんで……?」

 ひとまず引き渡してくれると言うFLHを受け取るべく、同時にラグラデオス自身に近寄るためもあって。数歩歩み出つつまた尋ねる一言を返す。

「あなたの先の選択回答は、合理性には欠けるものと判別できます――しかし。現在のこの世界の有する、いくつかの好意的な面に強い価値を見出す判断と価値観。そして私の戦闘と言う多大なリスクを冒してまで、それを優先した判断――人の感情ですか。私の内に、それの経過を観測するという選択が生じました」

 その星宇宙に、お堅い言葉を並べてそんな説明をするラグラデオスだが。

「言い換えれば――「あなたに興味が沸いた」、と表現できます」

 次には、そんな柔らかく表現した言葉を紡いで見せた。

「え、俺に……?君が……?」
「はい、私としても予期していなかった選択取得です。現在の私も少し「驚いている」と表現できるかもしれません。推測すると、MODの影響でこの人の形態を有した影響なのかもしれません」

 また続け、回答説明を寄越すラグラデオス。

 解釈すれば。MODの影響か、ラグラデオスにも感情的なものが生まれ、星宇宙の今の回答選択がその「興味」を引いたらしい。
 それがラグラデオスに戦闘の選択を回避させたと言うのだ。

「こ、これは……ひょっとして、〝スピーチチャレンジ成功〟ってコトなん……?」
「この「世界」がゲームシステムを模している事を鑑み判断するならば、その表現解釈も正しさに近いものかもしれません」

 星宇宙が思わずゲーム的に解釈した言葉に。それにすら、端的な色で肯定を寄越したラグラデオス。

「えぇ……」

 苛烈な戦闘への覚悟を決めていた所への、しかし思わぬ形でのそれに。星宇宙は最早そんな言葉を零すしかできなかった。


「――んん……」

 呆れに近い困惑にまた持っていかれていた星宇宙だったが。そこへ収容モジュール内で眠る少女、FLHが。意識を取り戻したのか、微かな動きを見せたのはその時だ。

「っ!」

 それに気づき、ひとまず困惑を抑えてそれに駆け寄る星宇宙。背後からはモカとファースモ同じように駆けよって来た。

「君っ、えっと……FLHさんっ?大丈夫っ?」

 駆け寄って覗き込んだモジュール内で、FLHはか弱い様子で眼を緩慢に開く。
 それに星宇宙は、ひとまずは呼びかける声を掛ける。

「んっ……大丈夫だ……すまない希望の星、手数を掛けた……」

 呼びかけに、FLHである少女は緩慢な様子でしかしまず星宇宙と視線を合わせ。
 返事を返すと合わせて、一番にまずはそんな詫びる言葉を寄越して来た。

「っ……」
「とっとっ……っ」
「あわわっ」

 そしてスリープから目覚めたばかりで、まだ完全では無い様子の体を。しかし起こしてモジュールより這い出ようとする。
 星宇宙はそれに慌て手を貸してFLHの身を支え、さらに背後から駆け付けたモカも手を貸す。

「――全容は、今にラグラデオスが伝えた通りだ」
「私は、ラグラデオスの計画の阻止のために呼び寄せた」
「〝希望の星〟――君と。‶生の祝福〟――RPの彼をだ」

 星宇宙等に支えられながら、ここまでの一連の内容を肯定と補足する言葉をまずは紡ぐFLH。
 星宇宙とそれにヴォートの事を示すらしい、特異な形容表現でもって。

「しかし、これにあっては予想に反した」
「君の決断にラグラデオスが興味を示し、戦闘を回避するとは――」
「――驚きだ」
「――改めて感謝を」

 そしてしかし。同時にラグラデオスの予想外の賛同、戦闘の回避に驚く思いを示し。
 そして、FHLは星宇宙にそんな感謝の一言を紡いだ。

(FLHさん……コマンド文を打ち込むのと同じように、なんかパツパツ区切って喋るんだな……)

 腕中に支える、少女の姿のFLHからの言葉を聞きつつ。
 しかし星宇宙にあってはFLHの独特な話し方に気が行き、そんな少し反れたことを考えていたが。

「……一体どういう?戦闘を回避できたのか……?本当に、何がなにやら……っ」

 その背後から、声を寄越したのはファース。
 星宇宙等の背後を守って一応の警戒をするファースは。戦闘が回避に至った事を察しつつも、しかしそれ以上の解決しない数々の疑問に、困惑の言葉を寄越す。

「ええっと……説明したいのは山々なんだけど、どっから話したらいいんだ……?」

 それに、一応の全容は知るに至った星宇宙は。
 複雑すぎるそれを、ゲーム中のキャラ――から改めこの世界宇宙の人であるファースに、何からどう説明すべきかまた困惑の声を零す。

「希望の星。恐れ入りますが、今はその時間猶予は無いようです」

 しかし。
 真上から引き続き宙にある、ラグラデオスより言葉が割り込まれたのは直後だ。

「え?」
「あなた方の別働の味方チームによって、この艦の動力に破壊工作が施されました。まもなく艦は爆発自壊します、早急な退避が必要と進言します」

 また呆け疑問の声を返した星宇宙に、ラグラデオスから伝えられたのはそんな知らせと進言。

 そして次には、今のメインコンピューター区画中に。警報警告の赤い光の点滅と、けたたましい警報音が鳴り響き始めた。

《――キャプテン・ファース、聞こえますかァ!仕事屋ズでもいい!艦の動力を暴走させた、爆発自壊まであと数分だッ!》

 そして重ねてその事実を知らせるように、無線通信に飛び込んだのは破壊工作に向かったオックスからの知らせる言葉。
 今にあってちょうど、向こうのチームの役割が成功完了したようであった。

「!」
「しまっ……!なんとか中止を……!」
「それは不可能です、そして推奨しません」

 それを聞きファースや星宇宙は目を剥き、そして破壊工作中断の旨を発し掛けるが。
 それはまたラグラデオスの言葉に遮られた。

「すでに艦の動力暴走は停止不可能状態にあります。合わせて、私はあなたとの戦闘を望まない選択を取りましたが、この艦に駐留配備されるParty部隊にあっては敵対を解かない可能性が大です」
「え」

 そして告げられたその理由に、星宇宙はまた思わず声を零した。

「あ……!そうかPartyは!」
「はい。あくまで相互協力関係であり、私は意見方針のアドバイスと言う形を取っていたに過ぎず、Partyは私の指揮下にあるわけではありません。私のバックアップを失った後には、彼らは独自判断で艦を戦力として占拠接収、そして独自行動に移ることが予想されます」

 そして次には、星宇宙はラグラデオスとPartyの関係性を思い出し。ラグラデオスはそれを補足。

「したがって、Party部隊の戦力を削いでおくためにも。艦はこのまま爆破処分する事を推奨します」

 最後にはラグラデオスは、自分の居座る場所だと言うのに、他人事のようにそんな事を推奨する言葉を寄越して見せた。

「え……――ちょちょちょっ!じゃあ君はどうなるの!?」

 その事を知らされ、星宇宙は慌て尋ねる言葉を紡ぎ向ける。それはラグラデオスの身に関する質問。
 TDWL5のストーリー上では、ラグラデオスAIの提案を拒絶した場合には。彼女は戦闘ないし、今あるように艦の爆破によって破壊されてしまう結末を辿るのだ。

「〝お願い〟をさせていただけば、私も連れ出していただけるとありがたいです。無論あなたがそれを煩わしいと拒絶させるのであれば、私は艦と共に爆破処分を迎えます。あなたの選択の行く末を、観測できないのは残念ですが――」

 それにラグラデオスが返したのはそんな説明。
 下手をすれば自分の最期の可能性もあるというのに、その様相はどこまでの他人事のようなそれだ。

「わぁぁっ!そんな事はしないし、できない!連れてくから!――え、ど、どうすればいいの……っ!?」

 それに慌て、連れて行く選択を決めて返しつつ。
 実際にどうラグラデオスを連れ出せばいいのかを、星宇宙は「彼女」の体を右に左に見回しながら急き尋ねる。

「接続を外しますので、この人間体の体をそのまま連れて行ってください。どうにもMODの影響で、私のコアがこの人間体へと変換されたようです」

 それにまた他人事のようにラグラデオスは告げると。次には機械音を立てて彼女の身を宙吊りにして支えていたアームが、その接続を解除解放。

「あっ、っとぉ!」

 瞬間、落下して来た少女の体のラグラデオスを。星宇宙は驚き慌て、しかしなんとかお姫様抱っこでキャッチした。

「すみません、ありがとうございます。それと、中央の格納ポートを」

 受け止めてもらった礼をまた端的に告げるラグラデオスは。床に降ろされ脚を着きながら、続けて空間の中心部、すぐそこに置かれる機械的な台座を示して促す。

「あ……これは……!」
「はい、〝ユートピア・デバイス〟です」

 台座の蓋が自動で開き、そこから一つの何らかの機器がせり上がり星宇宙に差し出される。
 大きな水筒のような、円柱状の機器装置。
 それこそ、この巨大航空戦艦「エクログロフス」を強襲した目的。この世界の汚染されてしまった土地を浄化するアイテム――ユートピア・デバイスであった。

「っと」

 ここまでの怒涛の展開に気が持っていかれてしまっていたが、それこそ一番の重要目標であるアイテム。それに歩み寄り手を伸ばし、星宇宙はその手中に掴み抱える。

「なんか……大変だったんだか、あっけなかったんだか」

 そして確かに手中のものとなったその重要アイテムに視線を落とし。しかし星宇宙はここまでの予測してなかった経緯からのそれに、疲れたような言葉を零した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

TS陸上防衛隊 〝装脚機〟隊の異世界ストラテジー

EPIC
SF
陸上防衛隊のTS美少女部隊(正体は人相悪い兄ちゃん等)と装脚機(ロボット歩行戦車)、剣と魔法とモンスターの異世界へ―― 本編11話&設定1話で完結。

TS転生したけど、今度こそ女の子にモテたい

マグローK
ファンタジー
秋元楓は努力が報われないタイプの少年だった。 何をやっても中の上程度の実力しかつかず、一番を取ったことは一度もなかった。 ある日、好きになった子に意を決して告白するもフラれてしまう。 傷心の中、傷を癒すため、気づくと川辺でゴミ拾いのボランティアをしていた。 しかし、少しは傷が癒えたものの、川で溺れていた子供を助けた後に、自らが溺れて死んでしまう。 夢のような感覚をさまよった後、目を覚ますと彼は女の子になっていた。 女の子になってしまった楓だが、女の子にモテることはできるのか。 カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

らふ☆スケッチ! 女の子のカラダを無断コピーするのはイケナイことですよ!

矢的春泥
ライト文芸
最後に触った人のカラダをコピーして、自分の体にペーストして変身できる能力を身につけたタカヤ。 能力のことを友達の陽一郎に知られしまい、陽一郎の描く人物画のモデルをすることに。 これは、校内の女の子に変身したタカヤを陽一郎がスケッチする物語である。 全9話+エピローグ らふスケッチされる人 第1話 保健の先生 第2話 隣りの席の子 第3話 委員長 第4話 中二病の子 第5話 アイドル 第6話 陸上部の子 第7話 文学少女 第8話 転校生 第9話 妹

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

声楽学園日記~女体化魔法少女の僕が劣等生男子の才能を開花させ、成り上がらせたら素敵な旦那様に!~

卯月らいな
ファンタジー
魔法が歌声によって操られる世界で、男性の声は攻撃や祭事、狩猟に、女性の声は補助や回復、農業に用いられる。男女が合唱することで魔法はより強力となるため、魔法学園では入学時にペアを組む風習がある。 この物語は、エリック、エリーゼ、アキラの三人の主人公の群像劇である。 エリーゼは、新聞記者だった父が、議員のスキャンダルを暴く過程で不当に命を落とす。父の死後、エリーゼは母と共に貧困に苦しみ、社会の底辺での生活を余儀なくされる。この経験から彼女は運命を変え、父の死に関わった者への復讐を誓う。だが、直接復讐を果たす力は彼女にはない。そこで、魔法の力を最大限に引き出し、社会の頂点へと上り詰めるため、魔法学園での地位を確立する計画を立てる。 魔法学園にはエリックという才能あふれる生徒がおり、彼は入学から一週間後、同級生エリーゼの禁じられた魔法によって彼女と体が入れ替わる。この予期せぬ出来事をきっかけに、元々女声魔法の英才教育を受けていたエリックは女性として女声の魔法をマスターし、新たな男声パートナー、アキラと共に高みを目指すことを誓う。 アキラは日本から来た異世界転生者で、彼の世界には存在しなかった歌声の魔法に最初は馴染めなかったが、エリックとの多くの試練を経て、隠された音楽の才能を開花させる。

処理中です...