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チャプター9:「草と風の村、燃ゆる」

9-2:「接触から車輛機動戦闘」

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 偵察捜索隊は、件の邦人とチナーチ達の商隊一行が別れたという風精の町を発見、通過し、現在は紅の国内を東に進路を取り行程を進めていた。

「日が暮れて来たな」

 偵察捜索隊の車列の先頭を行く小型トラック上の助手席で、河義が呟く。
 隊の観測している時間は1800に近くなり、太陽はその姿を地形の向こうに半分以上埋め、周囲は薄暗くなり始めていた。

「策頼、ライトを」
「は」

 河義の指示の声に応じた運転席の策頼が、小型トラックのライトを点灯。煌々と灯されたヘッドライトのビームが進路上を照らす。

「ジャンカー4ヘッドより各車。視界が悪くなってきた、警戒してくれ」
《ハシント、了解》
《ジャンカー4-2》

 続けて河義はインカムを用いて、後続の2輌に要警戒の旨を発報。2輌からはそれぞれ返答が返って来る。

「策頼、超保、お前等もな」
「了」
「了解」

 続けて河義は同乗している運転席の策頼と、荷台で据え付けられたMINIMI軽機に着く超保に促す。それを受けた両名からは、淡々とした返答が返ってくる。

「――といっても、あまり硬くもなり過ぎないようにな。もちろん、竹泉や多気投レベルにはっちゃけられるのは困るが」

 そこへ河義は両名に向けて口調を砕き、そんな軽口を飛ばす。必要以上に緊張しないようにと、河義なりの配慮の元での台詞であった。

「了」
「えぇ、了解」

 しかし策頼、超保の両名からは、再びそんな淡々とした業務的な返答が返って来ただけで、車上は再び沈黙。
 ここまでの道中の間、河義等の乗る小型トラック上はほぼずっと沈黙に包まれていた。時折それを解きほぐそうと河義は軽口を飛ばしたが、両名からは今の調子で淡々とした返答が返されるのみで、それ以降会話に繋がる事はなかった。

(……これはこれでやりにくいぞ)

 普段、制刻等の弾けた言動に手を焼いている河義であったが、今はそれとはまた別種の気苦労に苛まれ、河義は若干渋い顔を浮かべ、そして内心でそんな思いを浮かべた。

「はぁ……」

 河義はため息を吐きながら、胸元から地図を取り出して広げる。

「――もうすぐ集落が見えるな」

 そしてその地図に視線を落とし、言葉を零した。
 偵察捜索隊は邦人と勇者一行が辿ると思われるルートを予測し、そのルート上に存在する各町や集落をチェックポイントとしていた。河義が今確認した近づきつつある集落は、その内の一つであった。

「――河義三曹、9時の方向」

 後席で軽機に着く超保が声を上げたのは、その直後であった。
 報告の声に河義がまず反射で背後を振り向けば、荷台の超保はすでにMINIMI軽機を旋回させ、その視線と銃口を該当方向に向けている。それを追いかけ、河義も小型トラックの9時方向に視線を向ける。

「あれは――?」

 河義は該当方向の先、200m程離れた位置にいくつかのシルエットを見止めた。遠く、そして夕暮れの環境もある事から細部までは分からないが、それは数頭の馬――騎兵のシルエットと思われた。

「馬か?こっちに向かっている――?」

 シルエットを目に収め、推測の言葉を零す河義。
 ――小型トラックの側面や各所を複数の何かが叩き、金属のぶつかり合う音が響いたのはその次の瞬間であった。

「ヅッ!?――何だ!?」

 突然の事態に声を上げる河義。

《――4ヘッド!攻撃された、ハシントは攻撃された!》

 直後にインカムに通信から飛び込む。後続の82式指揮通信車の矢万からの物だ。指揮通信車にも同様の現象が襲った旨の報告であった。

「一体何の――ヅッ!?」

 現象の正体を探ろうとする河義だったが、再び先と同様の現象が襲い来る。

《4ヘッド、攻撃許可を》

 そこへ今度は最後尾の小型トラックの制刻から、要請の無線が飛び来る。

「ッ、待つんだ!」

 しかし河義はそれにそう返すと、傍に置いておいた拡声器を手に取り、声を上げた。

《――こちらは、日本国陸隊です!そちらとの交戦を望む者ではありません!攻撃を中止してくださいッ!》

 拡声器越しに、攻撃中止を相手に向けて要請する河義。
 しかし聞く耳など持たない事を示すように、次の瞬間には三度攻撃が注ぎ、小型トラックの側面を叩いた。

《4ヘッド》

 そして、再び制刻からの攻撃許可を要請する声が聞こえ来る。

「ッ――仕方がない、許可する!対応しろッ!」

 その要請に、河義は決断を下し、インカムに向けて指示の声を発する。
 各小型トラックと指揮通信車に搭載されているMINIMI軽機、そして指揮通信車のターレット搭載の12.7㎜重機関銃。それぞれの火器は、すでに現象の発生源と思われる騎兵のシルエットに、その銃口を旋回させ向けていた。
 そして河義の指示の声と同時に、各火器は一斉に唸り声を上げた。
 走行中の各車から吐き出された5.56㎜弾と12.7㎜弾は、並走しながら徐々に距離を詰めつつあった馬のシルエットの群れに注ぎ込まれる。そして各車各員の眼は、シルエットの群れが集中砲火を受けて倒れてゆく姿を見た。

「全車停車!全車停車しろッ!」

 敵性分子と思しきシルエットの無力化を確認した河義は、インカム越しに各車に向けて叫ぶ。河義の指示により、車列は速度を落して停車。

「各ユニット、被害報告しろ!」
《ハシント、被害ありません》
「4-2、そっちは!?」
《えぇ、無事です》

 河義は続いて各車に被害状況を求める言葉を叫ぶ。各車各員からは、被害の無い旨が返されて来た。

「了解――」

 脅威の排除と各方の無事の確認が取れ、ひとまずの事態は凌いだと判断し、河義は微かな安堵の声を零す。

「しかし、今のは一体……」

 そして次に河義は、今しがた自分等を襲った現象の正体を勘繰る。

「河義三曹、これを」

 そんな河義に、回答を示して見せたのは運転席の策頼だ。策頼の手には、50㎝程の長さの、黒光りするツララのような物が持たれていた。

「それは――」

 それは先に襲い来た現象の正体であり、小型トラック内に飛び込んで来た物であった。そして河義等は、そのツララのような物体に見覚えがあった。

《河義三曹》

 そこへインカムから声が割り込む。最後尾の小型トラックの制刻からだ。

《これは、山で賊を相手した時に出くわした、摩訶不思議でしょう》
「あぁ――」

 そして寄越された答えの言葉に、河義も同調の声を零す。
 この黒光りするツララ――大きな針状の鉱石は、五森の公国で隊が対応した、山賊達の中に混じっていた魔法能力者が使用して来た物と、同種の物であった。

《しかし、突然襲ってくるたぁ――また賊の類か?》

 現象の正体が発覚した所で、指揮通信車の矢万が通信に割り行って言葉を寄越し、残るもう一つの疑問について言及する。

「かもしれない――彼等を検分しよう。各車警戒を怠るな」

 そして河義は、決定を下し、指示の言葉を各車各員へ向けて発した。



 偵察捜索隊は遭遇し攻撃を行って来た、正体不明の襲撃者達の検分に掛かった。
 指揮通信車と各小型トラック、増強戦闘分隊が展開して周辺を警戒し、普通科4分隊が地面に転がった馬やその主達を調べている。

「今までの賊とはちと違うな。少し装備がいい」

 竹泉が一体の襲撃者の死体を足元に見ながら発する。
 竹泉の言う通り、周辺に亡骸となり転がる襲撃者達の装備出で立ちはある程度統一され、そしてこれまで遭遇して来た山賊や野盗達の物と比べて、いくらか上質な物と見受けられた。

「統制された武装組織――それが何の理由があって、私達を襲って来たんだ……?」
「この辺に、何ぞ都合の悪ぃモンでもあるのかもな」

 続けて発された鳳藤の言葉に、制刻がそんな推測の言葉を返す。

「――東側、丘の方から影!」

 そんな所へ声が響き渡ったのはその時であった。声の主は、指揮通信車のターレット上で警戒に付いている矢万だ。聞こえ来た声に合わせて、各員の視線は該当方向へと向く。
 偵察捜索隊の現在地から東方向少し先には、小高い丘が聳えている。その稜線の向こうから、一騎の馬が姿を現す様子が見えた。
 新手の敵性分子である事を警戒し、各車輛の搭載火器がそれぞれの銃口を、その一騎へと集中させる。

「――待て、まだ撃つな!」

 しかしそこで河義が制止の声を張り上げた。

「何か様子が違う」

 その一騎が襲撃者と様相が違う事に気付き発し、各員の発報を押し留める河義。
 現れた一騎は、何か焦れた様子で丘を下り駆けている。その一騎の後方、稜線の向こうから、別の複数の騎兵が姿を現したのはその直後であった。

「あれは――」

 何かを察し、河義は双眼鏡を繰り出し構えて覗く。
 まず先に双眼鏡越しに捉え見たのは、先んじて現れた一騎。馬上に見えた男性は、この世界の猟師やスティルエイト家の面々も着用していた、ある程度の軽い活動に適した服装装具を纏っている。そしてその彼は、何か酷く切迫した様子で手綱を操っていた。
 そして次に河義は後続の騎兵の群れを捉える。その装具出で立ちは今先程検分した襲撃者達と同様の物であり、そして次の瞬間には、騎兵達は先を行く男性に向けて、矢や鉱石の魔法攻撃を放つなどの、攻撃行為を行う様子を見せた。

「追われている」

 河義は先の光景の状況を察し、言葉を零す。

「どうします!?」

 同様にその光景を見ていた指揮通信車上の矢万が、指示を求める言葉を発する。

「――逃げているあの人を救う。各員、後ろの集団へ発砲しろ!」

 河義は決断し、指示の言葉を下す。それを合図に、各車輛の搭載火器が、一斉に照準を騎兵達へと合わせ、唸り声を上げた。



「ッ……はッ!」

 村長セノイの命により草風の村を飛び出し発した村人イノリアは、必死の形相で手綱を操り、馬を走らせていた。

「ッ……!」

 一度背後を振り向くイノリア。彼の後方からは、4騎の騎兵が追いかけて来る姿があった。
 ――村へ襲撃を仕掛けて来た武装集団は、十中八九商議会が雇い入れ差し向けて来た傭兵であろうと思われた。その目的は明白。魔王軍と商議会のつながりを知り、その上での企みの障害と成り得る村長セノイと、村長の支持者である村人達の口を封じるためであろう。
 魔王軍と商議会のつながり、企みを隣国月詠湖の国へ持ち込み伝えるべく村を飛び出したイノリア。まだ不完全であった傭兵の包囲の隙を突き、なんとか突破に成功した所までは良かったが、傭兵達は彼を追撃。現在イノリアは追われる身となり、そして追撃の傭兵達からの攻撃に晒されていた。

「くッ……!」

 イノリアの後方からは、矢や魔法により生成された鉱石針が襲い着て、彼の側を掠めてゆく。それ等を受けながらも、イノリアは前を見てひたすらに馬を走らせる。

「――!」

 しかしそんな彼の眼が、直後に進行方向の先に異質な光景を捉えた。
 先に見えたのは、何か荷車のような物と、複数の車輪を持つ不可解な物体。そしてその周辺には、何者かが複数名展開している。

「ッ、監視か……!?」

 不可解な物体についてはよく分からなかったが、イノリアは前方に展開するそれ等も傭兵の一派と考え、その表情を苦く染める。
 しかし直後には意を決し、突破を試みるべく跨る馬の腹を蹴ろうとした。
 ――彼の耳に、何かが爆ぜるような音が聞こえ届いたのは、その瞬間であった。

「ッ――!」

 突如響き出した連続的な破裂音。そして同時に、日が暮れ薄暗くなった空間の中に、光の線のようなものが瞬き走り、イノリアの側面や頭上を飛び抜けて行く。それらの現象に、反射で身を竦めるイノリア。

「がッ!?」
「ごッ!」

 しかし直後に、イノリアは背後に悲鳴のような物を聞く。

「……え?」

 そして背後を振り向き見たイノリアは、思わず呆けた声を上げてしまう。彼を後ろから追撃していた傭兵達の、落馬し地面に倒れた姿がそこに見えたからだ。呆けるイノリアをよそに再び破裂音が響き、閃光が飛び抜けてゆく。そしてイノリアの目は今度は、その閃光が傭兵達の元へ飛び込み、そして馬上の傭兵達がまるで何かに打ち飛ばされるように吹き飛び、落馬する様子を捉えた。

「何が……」

 突然の不可解な事態に、イノリアは零しながらも馬を停止させる。そしてもう一度後ろを振り向けば、そこには今さっきまで自分を追いかけていたはずの傭兵達の、おそらく亡骸となった姿。

「……あれが……やったのか?」

 そしてイノリアは視線を戻し、進行方向を見る。
 その先に見えるは、依然として居座る不可解な物体と、一連の出来事から正体不明となった者達。状況、位置関係的に傭兵達を倒したのは彼等であると推察し、言葉を零すイノリア。
 そんな彼の目に、さらに異様な光景が立て続き飛び込んでくる。先に展開する不可解なそれ等の内の、荷車のような一台が走り出し、こちらへと向かって来たのだ。引く馬も無しに動き接近するそれを前に、イノリアは逃げるべきかと手綱を握る手を動かし掛ける。

「……え?」

 しかしイノリアの眼は直後に、思わぬものを捉えた。近づく荷車に乗る人物の、こちらに向けて手を振る姿が見えたのだ。周囲には彼等とイノリア自身以外誰もおらず、それがイノリアへ向けられた物である事は明確であった。
 どう対応するべきか決めかねている内に、不可解な荷車は近づき、異質な唸るような音が聞こえ来る。やがて荷車はイノリアの目先まで来て止まる。

「――大丈夫ですか?」

 そして荷車に乗っていた、同じく不可解な姿格好の者達の内の一人が、イノリアに向けてそんな第一声を投げかけた。



 偵察捜索隊の各車輛は、搭載火器を用いて武装集団を撃退無力化。そして河義は小型トラックに飛び乗り発進させ、追われていた一人の人物に接触を試みる。

「大丈夫ですか?」

 小型トラックでその人物の元まで乗り付け、河義は車上から安否を尋ねる声を掛ける。しかし馬上の人物――イノリアは、河義等や小型トラックを前にたじろぎ、そして警戒の色を見せた。

「あぁ、心配しないでください。私達は、危害を加える者ではありません」

 それを察した河義は、イノリアに向けて、お決まりの文言を述べて見せる。

「……今のは、あんた等が……?」

 対するイノリアは、しかし依然として警戒の色を浮かべたまま、質問の言葉を返す。

「えぇ、あなたが武装集団に追われているとお見受けして、介入させていただきました」
「そ、そうか……」

 河義の説明に、戸惑う様子で声を返すイノリア。

「――あの、大丈夫ですか?何か顔色が……」

 そこで河義は、そのイノリアの顔色が酷く優れない物である事に気付く。

「大丈夫だ……それより――」

 河義に返し、何かを発しかけたイノリア。しかし馬上の彼の体がフラリと崩れ、そして彼が落馬したのは次の瞬間であった。

「ッ!どうしました!?」

 唐突に崩れ落馬したイノリアを目にし、河義は慌てて小型トラックから飛び降り、彼の元に駆け寄る。

「これは!」

 そして河義はイノリアが崩れた原因に気付く。うつ伏せに倒れたイノリアの背中には、30㎝程の長さと思われる一本の鉱石の針が突き刺さっており、纏う衣服には流れ出た多量の血が染み出していた。

「負傷者発生だ!誰か衛生器材を持って来いッ!」

 河義はインカムに向けて叫ぶと、イノリアの元に寄り屈む。

「……頼む、助けを……村が、襲われた……!」

 その河義に対して、イノリアの口から掠れた声色で、そんな訴える言葉が紡ぎ出された。

「村――この先にある集落ですね?あなたはそこの方なんですね?」

 イノリアの言葉に河義は先程地図上に確認した、チェックポイントの集落の存在を思い出し、イノリアに向けて尋ねる言葉を掛ける。

「襲われたというのは、あの追撃していた集団にですか?」
「奴等は……商議会の雇った……傭兵!商議会は、魔王軍と……繋がっている!」

 続き尋ねた河義に、イノリアの口からそんな言葉が紡がれる。

「魔王軍?」
「それを知った我々の、口封じに……あの野郎共……ッ!」

 紡がれ聞こえたワードに疑問の声を零す河義。一方のイノリアは、語尾を荒くして憎々し気な言葉を吐き上げる。
 そんな所へ河義の背後からエンジン音が聞こえ来た。振り向けばもう一輌の小型トラックがその場に到着して乗り付け、車上から制刻や鳳藤等四名が降車して来る姿が見える。

「おまたせしました!」
「この人に応急処置を、出血が酷い!」

 降車した四名の内、竹泉と多気投が周辺警戒に入る。そして河義の訴えを受け、制刻と、衛生器材を肩から下げていた鳳藤がイノリアの元に駆け寄る。

「酷い……!」
「この摩訶不思議鉱石は抜かねぇ方がいい。そのまま止血だ」
「あぁ、分かっている」

 イノリアの傷口を目にし、言葉を交わす制刻と鳳藤。鳳藤は衛生器材を広げ、イノリアの背の傷口周りへ止血処置を施し始める。

「伝えなければ……!村が……国、この大陸が……ッ!」

 そんな中でイノリアは苦し気なその声色にしかし怒気を込め、訴える言葉を零し上げている。

「分かりました。ですからもう喋らないで、出血が酷くなります」

 そんなイノリアに河義は宥めるように言葉を掛け、それ以上の発言を控えさせる。

「何です?」
「よくは分からない……どうにもこの先の集落が、襲われたようだ」

 そこへ尋ねる言葉を発した制刻に、河義は訝しむ表情を浮かべて返す。

「そして、〝商議会が魔王軍と繋がっている〟、そんな事を訴えていた。さらに村を襲ったのは、その商議会が雇った傭兵だとも――」
「魔王軍だぁ?」

 そして続け発された河義の言葉に、警戒の片手間にそれを聞いていた竹泉から声が上がった。

「おーん、良く分かんねぇぜぇ?商議会ってなぁ、確かここのお偉いさんの集まりなんだろぉ?それがマモー君とやらとグルまでは分かるが、なんで国ん中の村を襲うんだぁ?」
「魔王軍だろヴォケ、どんな聞き間違いだ」

 多気投のふざけているのか本気なのか不明なそれに、竹泉が呆れた声で返す。

「口封じ――この人はそんな事を言っていた」
「ヨォヨォ、良くは知らんがなんぞ臭ぇ話が飛び込んできたぞぉ?」

 そこに河義が補足の言葉を入れ、竹泉は一連の説明に顔を顰めて言葉を零す。

「詳細は不明だが、まずはその集落を確認する必要がある――」

 河義は先に聳える小高い丘へ視線をやり、そう呟いた。



 イノリアを応急処置を施した後に指揮通信車へと収容した偵察捜索隊は、先に聳える小高い丘へ登り周辺を観測。丘より東方の少し先に存在する、件の物と思しき集落は容易に目に留めることが出来た。

「ッー……」

 丘の上に乗りつけた各車輛の内、小型トラック上で河義は双眼鏡を覗きながら苦い様子で口を鳴らす。
 確認した双眼鏡越しに見える集落は、その各所から火の手と煙が上がっていた。

「どーしてこう、行く先々で厄介ごとにぶち当たるかねぇ?」

 その横、降車展開している制刻等の中から、竹泉の皮肉気な悪態が上がる。

「でぇ、どうします?」

 そして制刻が河義にどう出るかを尋ねる。

「――少なくとも素通りするわけには行かない、邦人が滞在している可能性もある。――待機中の小隊に、追走展開の要請を送れ!」

 それに対して河義は返す。そして同時に、河義は事態が自分達だけでの対処は困難と判断。国境線付近で現在も待機中の呼応展開小隊に合流応援を要請すべく、指揮通信車に指示の言葉を送る。

「――集落の南と西の入り口付近に、それぞれ2個分隊規模か」

 河義は再び双眼鏡を構え、集落のそれぞれの入り口付近に視線を向け、そして零す。河義の言葉通り、先に見える集落の各入り口付近には、計2個分隊、20名弱程度の武装集団――イノリアの口からは傭兵と零された者達が、包囲警戒のためか布陣している姿が見えた。

「よし――当隊はこれより彼等を、民間人に害意を持つ集団と見止め、これの対応に当たる」

 そし河義は各員に聞こえる声で、決断の言葉を発した。

「はぁ?ちょーい待ち!増援を待たずに俺等だけで突っ込むって言うんでぇ?」

 しかしそこですかさず、皮肉気な声色で異議の声が上がる。声の主は他でも無い竹泉だ。

「集落は現在も襲われている、助けを求めている人がいるかもしれない。その可能性を放置し、傍観している事はできない」

 そんな竹泉の異議の言葉に、河義は説き言い聞かせる言葉を返す。

「まずは集落周りの彼等を無力化する。車輛により彼等の周辺に展開、包囲してこれを試みる。――各員いいか?」
「了」
《了解》

 そして発された河義の指示と確認の言葉。それに対して各員から了解の返事が返る。

「また面倒だぜ……!」
「よぉ竹しゃん、気合だ気合」

 竹泉だけは悪態を零したが、それに多気投は茶化すように言葉を掛ける。

「開始する。各員搭乗しろ!」

 河義の車輛への登場を指示する声が響く。それに応じて各員は各車輛に搭乗。そして3輌の各車はエンジンを唸らせ、斜め陣形を組んで丘を下り、傭兵隊に向けて攻撃を開始した。



 草風の村の西側入り口では、包囲及び警戒を任された騎兵を中心とする10名弱程の傭兵達が、布陣待機している。

「見張りとは、退屈な役割の振られたな」
「気を抜くな、まだ戦いの音が聞こえて来る。村の奴等、思った以上に抵抗しているようだ」

 その一角に、軽口を叩く傭兵と、それを咎める傭兵の姿がある。包囲及び警戒を命じられた傭兵達であったが、村への襲撃開始以降彼等が戦いに遭遇する事は無く、彼等の緊張感はいささか緩みつつあった。

「しかし――逃げたヤツを追った隊が戻って来ないな」

 そんな中で、咎める声を上げた傭兵が、続けて訝しむ言葉を上げる。少し前に、村人の一人が包囲を突破して逃走を図り、傭兵の内一隊がそれを追いかけ発していた。

「外周の連中と挟み撃ちできるはず……とうに戻って来てもいい頃だが」
「外周の連中と一緒にサボってるんじゃないのか?今回は、そんなに気張る仕事でもないんだしよ」

 追撃に向かった一隊が未だ戻らぬ事に懸念を零す傭兵。それに対して咎める声を上げた傭兵が、先と変わらぬ様子で軽口を叩く。

「お前は……ん?」

 仲間の傭兵の軽口に呆れた声を零したその傭兵は、しかしその直後、逃走者や追撃の傭兵達が発して行った、集落西側の小高い丘に向けていたその眼に、動く何かを捉えた。

「あれは……何だ?」
「ん?」

 咎める声を上げた傭兵の、何かに気付き訝しむ言葉に、軽口の傭兵もその視線を追う。二人は視線の先、薄暗い丘の斜面上に瞬く、不可解な複数の光を見止めた。

「な、なんだありゃ?」
「追撃隊じゃない……いや、そもそも何だあれは?」

 唐突に出現した正体不明の光に、二人の口から困惑の声が零れる。

「こっちに来るぞ……一体――」

 狼狽えの度合いを増し、声を発しかける軽口の傭兵。

「――がッ!?」

 しかし、その光の方向から何か爆ぜるような音が聞こえ届き、同時に軽口の傭兵から悲鳴が零れ、彼が何かに叩き飛ばされるように馬上から落馬したのは、その瞬間であった。

「――な!?」

 事態に気付き、そして驚きの声を上げる相方の傭兵。そして彼が再び丘の方向へ視線をを向ければ、唸り声を上げ光を瞬かせて接近する三つの不可解な物体が、その目に飛び込んで来た。



 偵察調達隊を構成する3輌の車輛は、丘を下りそして集落の南西側へと駆けこみ乗り込んだ。3輌の内、82式指揮通信車はその場で停止し、搭乗していた増強戦闘分隊の一組が降車展開。集落の南、西側両入り口に布陣する傭兵達へ、搭載の12.7㎜重機関銃とMINIMI軽機、そして各員の装備火器による、各方へ火力投射を開始した。
 同時に2輌の普通科4分隊の小型トラックは、南、西の各方へ展開。82式指揮通信車からの火力投射と合わせて十字砲火を形成すべく、各方に布陣する傭兵達の反対側側面へ回り込む事を試みる。車上の河義が出したハンドサインを合図に、両小型トラックは各方へ割れる。
 2輌の内、制刻や鳳藤等の登場する小型トラックは、南側入り口への回り込みを担当していた。入り口付近に布陣する傭兵達の前を、速い速度で大きく迂回。そして車上からは搭載のMINIMI軽機が竹泉の操作で火を吹き、走行中の車上から布陣した傭兵達へと注ぎ込まれてゆく。
 掃射の餌食となり何人かの傭兵が倒れ崩れる様子を横目に見ながら、制刻等の乗る小型トラックは布陣する傭兵達の反対側側面に到達。搭載のMINIMI軽機の掃射に加え、各員が装備火器を構えて傭兵達に向けて発砲を開始した。

「命中(はい)った」
「一名排除!」

 制刻や鳳藤の用いる小銃からの発砲が、点在する傭兵達を一人一人撃ち抜き無力化して行く。

「FooooooWuuuuuu!」
「死んでろ!」

 そして竹泉の操る搭載軽機と、多気投の装備火器の軽機が、傭兵達をそれぞれ端から舐めてゆく。さらに82式指揮通信車側からの銃撃もそれに加わり、成された十字砲火に晒され傭兵達は次々に倒れてゆく。
 車輛による機動と、その上での各火器のからの攻撃を前に、各方に布陣していた傭兵達は、禄な対応を取る事もままならないまま餌食となって行き、そして程なくして無力化。周辺に動く者の姿は無くなった。

《――各ユニット報告してくれ》
《ハシント、アクティブな敵影無し》
《ケンタウロス2-1、同じ》

 無線での河義の報告を求める声に、各車各隊から同じく無線による報告が上がり聞こえる。

「ジャンカー4-2、全部弾いた」

 そして制刻もインカムに向けて、傭兵を全て無力化した旨を発し上げた。

《了解――南側入り口に集合してくれ。再編成する》

 各方からの報告を聞いた河義から、集合の指示が発せられる。そして指示の通り、各車各隊は位置取った場所を離れ移動し、集落の南側入り口付近で合流した。

「各員、問題無いか?」
「ナシ」
「えぇ、ありません」

 集合し、小型トラック上から発せられた河義の声に、指揮通信車上に身を置く矢万や、小型トラック上の制刻は被害の無い旨を報告する。

「ヨシ――これより集落に入る。4分隊各員は降車しろ」

 各員の安否を確認した河義は、4分隊各員に命じ、そして次の動きを説明する。
 集落内では狭所戦が予想される事から、車輛は装甲戦力である82式指揮通信車のみを入れ、小型トラック2輌は置いて行き、4分隊と増強戦闘分隊はこれ以降は徒歩で行動戦闘を行う事を河義は告げた。
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異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

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元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

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令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

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