上 下
42 / 114
チャプター7:「Raid/Interception」

7-4:「強襲打撃殲滅」

しおりを挟む
 時間は少し遡る。

「――あれだな」

 野盗の待ち伏せを撃退し、森の中を進み続けた制刻等は、野盗達の根城へと辿り着いた。制刻が木立の先に見えた開けた空間と、そこに並び立つ掘っ立て小屋の群れを視認し、声を上げる。

「展開しろ」

 そして制刻が指示を張り上げ、各員は縦隊を解いて周辺に展開。木立や茂みの影に身を隠し、各装備火器を構える。
 制刻は近くに位置した多気投の背中の大型無線機から再びマイクを取り、木立に身を隠すと通信を開いた。

「全ユニットへ、こちらジャンカー4。森のど真ん中で、奴等の拠点と思しき場所を見つけた」
《了解ジャンカー4。こちらはすでに次の砲撃に備えている》

 制刻の呼びかけに、森の外の陣地から、砲撃支援準備が整っている旨が返って来る。

「自由さん――」

 そこへ、策頼が何かを訴えるように制刻へ呼びかける。

「あぁ、大丈夫だ策頼。――パワーネスト、砲撃は控えてください――」

 制刻は策頼へ宥めるように言葉を掛けると、無線に向けて再び発し始める。
 制刻は、先に発見した野盗の被害者と思しき遺体の存在から、野盗の拠点内に他にも生存者が囚われている可能性を説明し、迫撃砲による砲撃を控えるよう要請する。そして同様の観点から、早急に野盗の拠点を制圧する必要がある旨を、訴えた。

《ジャンカー4。増援の到着にはまだ時間がかかるぞ、そちらだけでは危険ではないか?》

 訴えに、陣地の麻掬から懸念する言葉が返って来る。

《各ユニットへ、こちらハシント》

 しかしそこへ別の通信が割り込む。森の外周を索敵していた指揮通信車からだ。

《こちらはここの野党達の使用していると思しき、隠蔽された道を見つけました。おそらくこれを辿って行けば、その拠点に――そしてジャンカー4の元へ合流できると思います》
「そいつぁいい。パワーネスト、装甲車輛とその搭載重火器の支援があれば、奴等を無力化する事は可能でしょう」

 指揮通信車からの通信を聞いた制刻は、陣地の麻掬へ向けて再び訴える。

《――了解ジャンカー4。ただし決して無理はするな》

 やがて少しの沈黙の後に、麻掬から念を押す言葉と共に許可が下りた。

「了解、ではこれより仕掛けます。ジャンカー4終ワリ」

 それを聞いた制刻は、最後に一言伝えた後に、通信を終える。そして展開する各員に向き直る。

「いいか。まずは奴等をいくらかいぶり出して、ここで蹴散らす。その後に、二手に分かれて突入するぞ」
「へーへー」
「おっぱじめよぅぜぇ」

 制刻の説明の言葉に、各々はそれぞれ返す。

「――丁度出て来たな」

 そして制刻が木立の向こうへ視線を向けると、そこから見える掘っ立て小屋の合間から、数名の野盗と思しき人影が出て来る。騒ぎに感づいたのか、あるいは逃げ帰った野盗から話を聞いたのか、一様に警戒の色が見て取れる。

「策頼。まず一発、ぶっ飛ばせ」
「了」

 指示を受け、策頼はサスペンダーから下がる手榴弾を掴み取り、ピンを引き抜く。そしてそれを投擲。放り投げられた手榴弾は放物線を描いて飛び、木立を抜け、そして出て来た野盗達の足元へと落ちる。

「あ――ぎぇッ!?」

 ――そして炸裂。
 数人の野盗達を爆音と共に吹き飛ばした。

「な、何だ!?」

 直後。炸裂音を聞きつけた別の野盗の一団が、先と同様に掘っ立て小屋の合間から駆け出て来る。

「やれ」

 それを目視確認した制刻が、指示の声を発する。それを合図に、各員の構える装備火器が、一斉に唸り始めた。

「ぎゃッ!?」
「な――うぎぇッ!?」

 飛び出て来た野盗達は恰好の的であった。各員の火器から撃ち出された銃火が野盗達に集中。駆け出て来た彼等を状況の把握をさせる間もなく、蜂の巣にしてゆく。

「玄関口のお掃除完了ォ!」
「踏み込むぞ」

 崩れ落ちて行った野盗達の姿を見ながら、竹泉が悪態染みた声を上げる。それを横に聞きながら、制刻は指示の声を発する。そして各員は遮蔽物から飛び出し、開けた空間へと踏み込んだ。

「投、俺と左っ側だ!策頼と竹泉は右手から回れ」
「了!」

 駆けながら各員に指示を送る制刻。
 右手へ回り込む役割を策頼と竹泉に任せ、制刻と多気投は左手へと走る。そして視線の先に建つ掘っ立て小屋や、停め置かれた荷車の影へと、それぞれ飛び込みカバーした。掘っ立て小屋の影にカバーした制刻がそこから先を覗けば、その先の比較的開けた空間を、騒ぎを聞きつけたらしい数人の野盗達が駆けて来る姿が見える。

「投」
「ヘイヨォッ!」

 制刻に促され、多気投は荷車を土台にMINIMI軽機を構える。そして駆けてくる野盗達に銃口を向けて引き金を引いた。

「ぐぁッ!?」
「な――ぐぇッ!」

 接近していた野盗達はMINIMI軽機による銃撃を正面から諸に受け、先頭から次々に崩れ倒れてゆく。

「う、うわぁ!?何が――ぎぇッ!?」

 そして辛うじて軽機の銃撃から漏れた野盗にも、制刻の小銃による銃撃が襲った。

「一丁上りィッ!」

 集団一つの無力化を終え、多気投が陽気な声を上げる。しかし野盗の出現は、それだけに留まらなかった。銃撃音と悲鳴が新たな者達を呼び寄せ、視線の先に立ち並ぶ掘っ立て小屋の各所から、野盗達が姿を現す。

「ウォゥッ!追加注文だなぁッ!」

 ふざけた声を上げながら、多気投は再び軽機の引き金を引く。銃火は現れた野盗の内の二人程を仕留める。しかしその直後、別の野盗達がクロスボウによる応射を行い、数本の矢が制刻等の側や頭上を飛び抜け、そして身を隠す小屋や荷車に突き刺さった。

「ウォウチッ!?」

 襲い来た矢に、咄嗟に身を隠し、独特の驚きの声を上げる多気投。

「ふっざけんなよッ!」

 多気投は発しながら、再びMINIMI軽機を構えて発砲する。しかし狙った野盗は小屋の影に身を隠し、銃撃は命中弾を出さずに終わった。

「アーォ!ビビリ共、隠れちまったッ!」

 口を尖らせ、声を上げる多気投。野盗達は自分達を襲う攻撃がどんなものであるかを、漠然とではあるが察したのであろう。周辺の遮蔽物に身を隠し出していた。

「誘い出す。そこを仕留めろ」

 そんな多気投に向けて、制刻が一言促す。促した直後に制刻は掘っ立て小屋の影を飛び出した。その制刻を狙い、一人の野盗からクロスボウを構えて遮蔽物から身を乗り出す。しかし瞬間、制刻の後方から発砲音が響き、同時にその野盗が倒れ崩れた。

「やった、命中はいったぞッ!」

 多気投による銃撃だ。
 その多気投の陽気な声を背後に聞きながら、制刻は視線の先に積まれていた木箱へと駆け、その影へと滑り込んだ。

「オラァッ!」

 その刹那。側面から一人の野盗が制刻に肉薄。その手には斧が握られ、振り上げられている。

「呼んでねぇぞ」

 しかし制刻は淡々と言い放つと同時に、小脇に抱えていた小銃を発砲。撃ち出された5.56㎜弾は野盗の顔面に命中し、野盗は「ギュブッ」という鈍い悲鳴を上げてもんどり打ち、その場に崩れ落ちた。

「あの辺だな」

 野盗を撃退し、遮蔽物にカバーした制刻はすかさず、その先に積み上げられた荷物に隠れている、数名の野盗達を見止める。そして手榴弾を繰り出すと、見止めた野盗達目がけて高い角度で投擲した。
 投擲された手榴弾は野盗達の足元に落ちて炸裂。数名を直接炸裂の餌食とし、残りを荷物の影からいぶり出す。そしていぶり出された野盗達へは、多気投のMINIMI軽機の銃火が襲った。

「や、やべぇよコイツ等ッ!」
「ひ、引け!引けぇッ!」

 そして野盗の側からそんな声が上がり聞こえ来る。そして残存していた数名の野盗達は、掘っ立て小屋の合間を縫い、奥へと逃げ去って行った。

「ヨォ、逃げちまうぜぇ?」
「再編成する気か、もしくは狭所での戦いに持ち込む気か」

 面白くなさそうな声での多気投の声。それを背後に聞きながら、制刻は相手側の考えを予測し、発する。

「何にせよ、追う必要がある。投、近接戦に備えろ」

 そして制刻は多気投に向けて促すと、片脇に小銃を構え直し、そして利き手で弾帯から鉈を引き抜いた。

「第2ラウンドだなぁッ!」

 それに対して多気投は上機嫌な声を上げ、答える。
 そして二人は遮蔽物へのカバーを解除。逃げ込んで行った野盗達を追い、掘っ立て小屋の密集する狭所へと踏み入る。
 ――踏み入って数歩の所で、早速襲撃があった。
 立ち並ぶ小屋の一つ。その影から一人の野盗が飛び出してくる。振り上げられたその手には剣が握られ、今まさに制刻目がけて振り下ろされようとする。

「邪魔だ」

 しかし直前。制刻の発した言葉と同時に、その片腕に構えられた小銃が唸った。三点制限点射で撃ち出された5.56㎜弾が野盗の体を撃ち抜き、野盗はその手の剣を振り降ろす事無く、その場に倒れ込んだ。
 直後、制刻は自らに向けられる別の害意を感じ取る。少し先の掘っ立て小屋の影には、クロスボウを構え制刻を狙う、別の野盗の姿がある。野盗の指は、今まさにクロスボウの引き金を引こうとしていた。
 だがその前に、クロスボウ持ちの野盗は「ごぅッ」という鈍い悲鳴と共にもんどり打った。見れば、その前頭部には鉈が深々と刺さっている。そして鉈の軌道を辿れば、その先に投擲直後の腕を形作る制刻の姿がある。制刻はクロスボウを持つ野盗の存在を感じ取った瞬間に、その手に持った鉈を投げ放ったのだ。

「させねぇよ」

 再び呟いた制刻は、崩れた野盗の体に近づき、その頭部に刺さった鉈を回収する。

「――オラァァッ!」

 その背後、上空にまた別の人影が現れたのは、その瞬間であった。
 掘っ立て小屋の屋根の上に身を潜めていたのであろう野盗が、そこから飛び降り掛かって来た。その手には斧が握られ、宙空からの降下の勢いを乗せて、制刻目がけて振り下ろされる。

「ぁ――!?」

 しかし野盗は、突如として目標を目の前から失った。目標の体が掻き消え、野盗は目を剥き、そして振り下ろされたその一撃は空振りに終わる。
 野盗の目標――すなわち制刻の体は、野盗の真横にあった。制刻は野盗の得物が振り下ろされる直前、片脚を軸にその身を捻り、攻撃を回避して見せたのだ。

「――ごぶッ!?」

 そして野盗の腹部に鈍痛が走った。見れば野盗の腹部には、蹴り上げられた制刻の片膝が入っており、野盗の口から苦し気な悲鳴が零れ出る。そして野盗はその体をくの字に曲げ吹き飛び、近くの小屋の壁に叩き付けられて崩れ落ちる。

「ごッ……!?」

 止めに、その野盗の脳天に刃が落ちる。それは野盗が持っていた得物の斧だ。そして反対側には先と同様の投擲後の姿の制刻。野盗の手を離れ、奪い取れた斧を利用して、制刻は野盗に止めを刺したのであった。

「オウッ!」

 その時、背後から声が聞こえ届く。後続の多気投の物だ。
 制刻がそちらに視線を向ければ、一歩引いた姿の多気投。そして多気投の体の前には、斧を振り降ろした直後と思われる、野盗の姿があった。
 おそらく制刻と同様に、小屋の上から襲い掛かって来た野盗を、多気投が回避してみせたのであろう。

「ッ!」

 初撃が空振りとなった野盗は、その顔を顰めながらも追撃の態勢に移ろうとする。

「おっとぉ」

 しかしそれよりも速く、多気投はその常人離れいた巨体に似合わぬ俊敏さを見せ、野盗の背後を取る。

「な!?――ぐぅッ!?」
「おいたはダメだぜぇ」

 多気投は言いながら驚く野盗を捕まえてその巨体に寄せ、その太い腕で野盗の首を締め上げる。そして空いたもう片方の手で野盗の頭頂部を鷲掴みにすると、それを思い切り捻じ曲げた。

「こぇッ」

 野盗の首が、本来の人間の可動範囲ではありえない角度まで捻じ曲がり、そしてその口からは悲鳴とも付かない声が零れ聞こえる。
 多気投がその腕を緩めて野盗の体を解放すると、野盗の体はずるりと地面へと崩れ落ちた。

「熱い歓迎だなぁ!」

 自分を襲った野盗を排除し、陽気な声で言って見せる多気投。

「だな。行くぞ」

 そんな多気投に制刻は一言だけ返し、そして進行を再開。
 そこ後も同様に死角から攻撃を仕掛けて来る野盗達を退け、排除し、やがて二人は密集する掘っ立て小屋を抜け、開けた場所へと出た。

「おおっとぉ」

 抜けた先で、多気投は声を零す。
 制刻等が進入した地点から見て、空間の反対側と思われるその場は、いくらか開けた場所となっており、そしてその場には十人以上の野盗達の姿があった。

「うわ!や、ヤツ等だッ!」
「ば、化け物だ……!に、逃げろ!」

 鉢合わせた野盗達の中から声が上がる。おそらく先に制刻等と相対した者なのだろう、彼等からは動揺の声や、逃走を促す声が聞こえ来る!

「ふざけんな!たった二人だぞ、やっちまうんだ!」

 しかし直後、野盗達の中からそんな声が上がった。上がった鼓舞の声が伝播し、野盗達は戦意を持ち直してその視線を制刻等へと向ける。

「ヘイ、バンディット共ォ!大人しくするんだずぇッ!」

 野盗達が害意を持った事を感じ取り、多気投はMINIMI軽機を向けて警告の言葉を発する。

「「「おらぁぁッ!」」」

 しかし野盗達はそれを聞き入れる事無く、それぞれの持つ得物を振りかぶり、制刻等へと向かって来た。

「チッ」

 舌打ちを打ちながら、制刻は構えた小銃の引き金に力を込めようとする。
 ――しかしその瞬間、制刻や多気投の耳が異音を捉えた。唸り声のようなその音は次第に大きくなる。そして同様にその音を聞いた野盗達は、攻撃の姿勢を止めて周囲を見渡し出す。
 そして制刻等や野盗達の側面から、茂みを掻き分け踏み倒し、82式指揮通信車が姿を現し、空間へと乗り込んで来た。

「う、うわぁッ!?」
「な、なんだコレ!?」
「化け物だぁッ!」

突然現れた指揮通信車――野盗達にとっては正体不明の物体の出現に、彼等から狼狽える声が上がる。

「いいタイミングだな」

 一方、指揮通信車の姿に視線を送りながら、一言呟く制刻。そんな制刻のインカムに、通信が飛び込んで来た。

《ハシント矢万だ。そこに居るのは制刻か?状況を教えてくれ》

 通信は指揮通信車車長の矢万からだ。状況報告を求める声が、インカム越しに制刻へ届く。

「ハシント。固まってるのは全員敵だ、構わん弾いてくれ」
《了解》

 制刻が発した要請の言葉に、了承の返事が返って来る。そして同時に、指揮通信車の搭載火器であるMINIMI軽機と、12.7㎜重機関銃が唸り声を上げた。

「ぎゃッ!」
「げぇッ!?」

 野盗達へと襲い来た銃火は、固まっていた彼等をいとも容易く貫き、粉砕して行く。
 その間に、指揮通信車の後部ハッチが開かれ、搭乗していた増強戦闘分隊の一組が降車。指揮通信車の両翼に展開し、指揮通信車の搭載火器が撃ち漏らした野盗達を、各員が各個射撃で仕留めてゆく。
 さらには制刻等の側からも銃撃が加えられ、野盗達は十字砲火に晒され打倒されてゆく。

「に、逃げ――ぎゃぁッ!?」

 ついに野盗達は戦意を完全に喪失し、逃走を図ろうとしたが、苛烈な十字砲火の中ではそれも叶わず、ついにその場にいた野盗達は一人残らず地面に屍を晒した。

「――クリアだ」

 周辺に動く敵の姿が無くなった事を確認し、制刻は声を上げる。

「結ぇっ局全部攫えるハメんなったなぁ」

 そしてその横で、MINIMI軽機を降ろした多気投が、口を尖らせ呟いた。
 そんな二人の側へ、指揮通信車がゆっくりと前進してきて停車する。

「矢万、いいタイミングだった」
「そりゃ良かった。で、次は?」

 指揮通信車のターレット上の矢万を見上げて、制刻は発する。それを受けた矢万は一言返し、そして次に取るべき行動を尋ねる。

「奴等を徹底的に瓦解させる――」

 制刻は指揮通信車と増強戦闘分隊に、この場と広場の反対側に配置して、逃走もしくは再編を図ろうとする敵の阻害を要請。そして自分等は、別行動中の策頼と竹泉に合流して、戦闘行動を続ける事を伝えた。

「了解。増強2分隊!聞いてくれ――」

 矢万は車上から増強戦闘分隊に指示を送り、各員は行動へと移ってゆく。

「おぉし、投。俺等は、策頼と竹泉の所に行くぞ」
「オーイェイ、あいつ等寂しくしてるだろうよぉ!」

 それを見ながら制刻と多気投は言葉を交わし、そして策頼等と合流すべく行動を開始した。



 森の中の空間の西手。そちら側に周った策頼と竹泉もまた、掘っ立て小屋の密集する空間で、野盗達を相手に戦闘を行っていた。

「に、逃げろぉ!」

 少なくない数の野盗を退け倒し、やがて生き残った者達が逃走を始める姿が見える。

「はッ、奴等逃げてくなぁ」

 小銃の照準の向こうに逃走して行く敵の姿を見ながら、どこか安堵の色の含まれた声を発する竹泉。

「逃がしはしない――」

 しかし一方の策頼は、静かに、だが怒気の含まれた言葉で零す。そしてショットガンを構えて遮蔽物から飛び出すと、逃げて行った野盗達を追って駆け出した。

「あ、おい!」

 制止の言葉を掛ける竹泉だが、策頼の脚は早く、直後に彼は掘っ立て小屋の影へと駆け消えてしまった。

「ったく、やだねぇ。頭に血が登ってやがる!」

 悪態を吐きながら、竹泉は自身も遮蔽物を出て、策頼を追いかけようとした。――だがその竹泉の進路を遮るように、傍にあった掘っ立て小屋の影から、ヌッと巨大な影が現れたのは次の瞬間であった。

「――はぁ!?」

 思わず声を上げる竹泉。現れたのは巨大な体躯の大男。その肩には巨大な大斧が担がれている。

「ッ――!オォラァァッ!」

 そしてその大男は竹泉の姿を見るなり、手にした大斧を掲げ上げ、そして竹泉目がけて振り下ろした。

「ッ!」

 それを目にした竹泉は、咄嗟に横へと飛ぶ。直後、それまで竹泉が場所に、大斧が叩き下ろされ突き刺さった。

「――オイ、洒落になんねぇぞ!?」

 飛び退き回避した先でそれを見た竹泉は、顔を若干青くして言葉を零す。

「野郎ぉ……ッ!」

 一方の大男は竹泉を目で追いながら忌々し気に零し、そして地面に突き刺さった大斧を引き抜こうとする。

「カスがッ!」

 竹泉はその大男の姿を隙と見止め、咄嗟に小銃を構えて、大男に向けて発砲した。――しかし直後に、驚くべき光景が竹泉の目に飛び込んだ。

「うがッ!?」

 丁度引き抜かれた大斧が射線上に重なり、三点制限点射で撃ち出された5.56㎜弾の群れが阻害されたのだ。弾が大斧を叩いた衝撃で、大斧の向こうからは大男の声が聞こえ来たが、大男への実害が無いのは明らかであった。

「な――ありえねぇだろッ!」

 竹泉は困惑の声を上げながらも、大男の無防備な部分を探し、再び銃撃を試みようとする。

「痛ってぇ……グォラァァァッ!」

 だが竹泉が引き金を引くよりも早く、大男は大股で竹泉の前へと踏み込み、そしてその手の大斧を横へ薙いだ。

「ッ――」

 発砲しても大斧は防げない――そう判断した竹泉は発砲を中断。身を屈め、そして再び横へと飛んだ。
 飛び退いた先で体を起こし、竹泉は大男へと振り返る。
 しかしそこで竹泉は目を剥く。先程大斧を薙ぎ終えたばかりの大男は、しかしすでに竹泉へと向き直り、またも大斧を振り降ろそうとしている。竹泉が一撃を回避する事を見越しての、連撃であった。

(ヤベェ――!)

 内心で声を上げる竹泉。今現在の体勢は飛び退いた直後で不安定であり、再び体勢を取り直して飛び退くよりも前に、大斧は竹泉の体を切り裂くであろう。

「ッ!」

 瞬間。竹泉は咄嗟の思い付きで、小銃を両手で掲げ上げた。大斧の軌道上に掲げられたそれは、直後に振り降ろされた大斧と接触。鈍い衝突音が響き渡った。

「ヅッ!」

 同時に小銃を通して竹泉の両腕に、衝撃が伝わる。小銃はどうにか大斧の振り降ろしに耐えたが、その威力により銃身は湾曲し、最早本来の銃としての役割は果たさないであろう。

「ウガァァァッ!」
「あぁ、チクショ――ッ!」

 両者はそのまま鍔競り合い状態に陥る。大男は握る大斧に力を込め、竹泉は懸命にそれを押し返そうとする。

「オラァァ!死ねやぁぁ!」
「ヅッ……コイツうぜぇ……ッ!」

 しかし体躯、質量では大男が勝り、竹泉は不利な状況にあった。大男から浴びせかけられる言葉に悪態を零しながらも、竹泉は少しづつ押されてゆく。

「――!」

 しかしその時、竹泉は大男の体越しにわずかに見える背後の景色の中に、何かを見る。そして竹泉は直後、大男の腹部に蹴りを入れた。突然の蹴りに男はわずかに体勢を崩す。その隙を突いて竹泉は鍔競り合いを解き、横へと飛び退いた。

「ッ――ヤロォ……そんなモン利くかよぉォッ!」

 武泉の咄嗟の蹴りは、一瞬大男の態勢を崩した物の、それ以上の効果は成さずに大男はすぐに立ち直る。怒りの声を上げながら大男は竹泉の姿を追う。一方の竹泉は、飛び退いた直後の無防備な状態にあった。

「ガハハッ!死ねやぁぁッ!」

 その竹泉の姿に、大男は勝利を確信。そして笑い声を上げ、大斧を振りかぶる――


「ウワァーォゥッ!!」


「――ぎゃげぇッ!?」

 が――突如掛け声が響くと共に、大男の体躯をさらに超える巨大な存在がその場に襲来。
 大男に背後から激突した。

「ぎぇぇッ!?」

 突然の背後からの凄まじい衝撃に、大男は受け身を取る事もままならずに地面へと叩き付けられる。
 そして先程まで大男が立っていた場所に、別の存在が立ち構える。

「イェーイッ!俺様参上だずぇッ!拍手喝采で迎えてくれよなぁッ!」

 その正体は他でも無い多気投であった。
身長200㎝越え、体重100㎏以上。――異質なまでに常人離れしたその存在の衝突には、流石の大男も一たまりもなかった。

「フゥーウィーッ!」

 ポーズを決めながら陽気な掛け声を上げる多気投。
 そしてそんな彼の横を、別の人影が駆け抜けて来る。

「げぇ、がぁ……!?なぁ……!?」

 一方の大男は、不自然な体勢で地面に叩き付けられ体の各所を強打したせいか、倒れたその巨体をビクつかせていた。それでも尚、懸命に藻掻き、立ち上がろうとする様子が見て取れる。

「ぐげッ――」

 しかし直後、その大男の首に戦闘靴が叩き込まれ、大男はまるでカエルのような声を上げ、そして気絶した。

「無力化した」

 そして足元に大男を見ながら静かに発したのは、多気投の横を駆け出て来た人影――策頼であった。

「竹泉、大丈夫か」

 大男の無力化を確認した後に、策頼は竹泉へ視線を向けて尋ねる言葉を掛ける。

「ッ――あぁ、おかげ様でなぁ、オメェがとっとと行っちまわなけりゃぁ、もちっとスマートに済んだだろぉよッ!」

 それに対して竹泉は返し、そして策頼が先行して行ってしまった事に対して、文句の言葉を上げる。

「あぁ、すまなかった」

 竹泉の文句の言葉を受けた策頼は、しかし変わらぬ静かな口調で端的な返事を返して見せた。

「ったく――それと多気投!オメェ、俺に気付かずに突っ込んで来やがっただろ!?」

 そして竹泉は相手を多気投へと移し、言葉を投げ掛ける。

「ハハァッ!ソーリィだぜ、このデカブツの影に隠れて見えなかったんだぁッ!」

 言葉に反して悪びれなく返す多気投。

「ま、無事だったようで何よりだ」

 そこへさらに声が割り込む。各員が声の方向へ視線を向ければ、そこに制刻の姿がある。さらに制刻の片腕には、その腕で首を締め上げられた野盗の体が見えた。

「――ったく、どいつもこいつも……ッ」

 その光景、そして立て続いた事象の数々に、竹泉は疲れ呆れた様子で吐き捨てた。

「自由さん。この男を見てください」

 一方、大男の姿へ視線を降ろしていた策頼は、そこで制刻を呼ぶ。

「どうした?」
「この男、他の野盗とは様相が違うようです」

 近づき横に立った制刻に、説明の言葉を発する策頼。

「あぁ、ホントでけぇよなぁ。最初はゴリラかなんかかと思ったずぇ」
「はッ。オメェと比べりゃコレもカワイイお人形だよッ」

 背後からは多気投の声や竹泉の皮肉が聞こえてくるが、制刻と策頼はそれには取り合わずに会話を続ける。

「巨体もですが、身に着けた装飾が多いのも気になります」

 策頼は大男の体や、横に転がった大男の使用していた大斧を指し示しながら発する。言葉通り、大男の体には装飾品などが目立ち、大斧にも意匠が施されている様子が見えた。

「ここの頭かもしれません」
「成程な。で、コレはまだ生きてんのか?」
「一応は」
「そんじゃ、拘束して監視しとく必要があるな」

 制刻は発すると、足元に転がる大男の首根っこを掴み、乱雑に持ち上げる。

「一度コレをシキツウのトコまで引きずってって、拘束しよう。監視を矢万達に任せて、俺等は戦闘索敵を続行する」
「やれやれ……」

 そして制刻は各員にその後の動きを説明。それを聞いた竹泉は、倦怠感を露わにして呟いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

カサノヴァとネロに溺愛されて調教されてます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:494

世界異世界転移

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:63

帰ってきた勇者 並行世界に転移して無双する(R18異世界編)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:506

家の猫がポーションとってきた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:918

【完結】雇われ勇者の薬草農園 ~チートスキルで薬草栽培始めます~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:213

巨大生物現出災害事案

SF / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:4

努力でチートをその手に〜スキルと身に付けた魔法で無双する。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:320

追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:149pt お気に入り:4,032

処理中です...