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チャプター1:「異世界への降着 ―異質な〝ヤツ〟と中隊―」
1-3:「ファーストコンタクト 後編」
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「あれがさっきの正体か」
攻撃に失敗した火球の主は、屋根の向こうへと引いて行く。
制刻は、そんな彼の姿に視線を向けつつ呟く。最初に飛来した火球を放ったのも、外ならぬ彼であった。集落の奥に位置する家屋に陣取り、こちらを狙っていたようだ。
「自由!彼女が!」
「あ?あぁ、そっちも逃げたか」
背後で剱の声が響く。彼女の目線を追って制刻が視線を動かすと、先の斧女が家屋の屋根の上を逃げてゆく姿が見えた。
制刻の注意が反れた隙に、屋根の上へと逃れたのだろう彼女は、そのまま奥へと姿を消した。
「にしても、あいつもこいつも妙な喚き方しやがる」
彼らは皆、独特の掛け声や叫び声を口にしていた。それを疑問に思いつつも、他にもこちらを狙う存在がいないか周囲を見渡し、ひとまずその場をやり過ごしたことを確認した制刻。
「制刻!」
そこへ背後から制刻を呼ぶ声。
振り返れば、河義が周囲を警戒しつつ、こちらへと駆け寄って来る姿が見えた。
「お前、大丈夫なのか!?」
「ええ、なんとか」
先の一連の出来事は当然河義も目撃しており、河義は自分の分隊員の安否を血相を変えて尋ねる。一方、当人である制刻は普段と変わらぬ調子で淡々と返事を返した。
「鳳藤、お前は!?」
「私は大丈夫です、しかし……信じられない。あんな巨大な斧を振り回して、おまけに飛び回ってた……」
剱は青ざめた顔で呟きながら、家屋の影から周囲を見回し警戒している。
「ドッキリにしても度が過ぎてるな。河義三曹、一応さっきはビビらすだけに留めましたが、連中の出方次第じゃぁ手加減も難しいかと」
「ッ、あぁ、分かってる……」
制刻の進言に対して、苦々しい表情で返す河義。
襲撃者の驚異度は想定を超えており、手段を限定しての対応はもはや危険であった。
だが、いよいよ殺傷を伴う実力行使に頼らねばならない事態を前に、河義の首筋には一筋の汗が伝う。
《川越14、小笠原22です!村から発砲音のような物が聞こえましたが、そっちで何が起こってるんですか!?》
そんな所へ、各員の装着するインカムに、新好地からの通信が飛び込んで来た。
「新好地士長か、丁度いい。こちらは現在、凶器を持った人物の襲撃を受けた。正体は不明」
《襲撃ですって……!?》
無線からでも、新好地の驚く様子が河義に伝わって来る。
「すまんが今、詳しく説明する余裕は無い。新好地士長、そこから村全体が見えるな?俺達は今、集落の中ほどにいる。接近する人影が見えたら、その都度報告して欲しい」
《……分かりました……!》
通信を終えると、河義は一度小さく息を吐いてから、制刻と剱に視線を向ける。
「制刻、鳳藤、とりあえず一度集落から出るぞ。態勢を立て直す」
「待ってください、河義三曹!」
両者に後退の指示を出した河義だが、剱が声を上げた。
「どうした?」
「先ほど襲撃者の一人に子供が連れていかれるのを見ました。その子の安否が気がかりです!」
「子供ぉ!?」
剱は焦燥と困惑に染まる顔に、どうにか凛とした色を取り繕いながら河義に進言をする。常識外れの事態の連続に腰が引けている様子の剱だったが、そんな最中でも子供を放ったままこの場を後にする事は、彼女の正義が許さないようだった。
「ッ、厄介だな……だが今の我々では深追いは危険――」
《河義三曹、人影です!西側、すぐそこの家屋の上ッ!》
しかしその時、河義の声を遮り、各員の装着するインカムに新好地の声が響いた。先の斧女が再び姿を現したのは、それとほぼ同時だった。
先ほど彼女が姿を消した家屋とは、道を挟んで反対側に位置する家。おそらく集落を回り込んできたのであろう斧女は、屋根を踏み切って飛び、またしても襲い掛かって来た。
「懲りねえな」
斧女の標的は、制刻だ。
制刻は跳躍後の軌道が自分に向いていることを瞬時に判別した 中空に身を投げ出した彼女を狙い、三点制限点射で発砲した。
「リュォッ!?」
しかし、銃口を向けられた瞬間に本能的に危険を感じ取ったのか、斧女は手にしていた斧を自分の体の前にかざした。そして撃ち出された5.56㎜弾は、盾となった巨大な斧に弾き返され、斧女の体を貫くことは叶わなかった。
「マジか」
制刻は若干の驚きと、関心が混じりの呟き声を発する。
斧女は、自らの得物を持ち直すと、制刻を狙ってその巨大な得物を振り降ろした。
「うぉっとぉ」
しかし制刻は先程同様、軽やかに回避して見せた。
回避された斧女は、先ほどのように追撃はせず、制刻の脇を通り抜けて言った。膝蹴りを警戒したのだろう、少し距離を取った後に跳躍、近場の家屋の屋根へと着地する。
しかしその瞬間、女の足元で突然瓦が弾け出した。
「リャッ!?」
突然の事態に、斧女は叫び声と思われるものを上げて飛び退く。
彼女を襲った物の正体は、小型トラックでMINIMI軽機に着いた策頼による銃撃だ。
「リャーッ!?パウッ、ヴューネィッ!?」
襲い来る銃撃に彼女は叫びながらも、しかし飛ぶように家屋の屋根を伝い走り、これを回避し続ける。
策頼は軽機を旋回させて斧女を追いかけながら引き金を引き続け、立て続けに排出される薬莢が、小型トラックの荷台に落ちて乾いた音を上げる。
しかし追撃の成果は無く、斧女は再び屋根の死角へと姿を消した。命中を確認できないまま対象に逃走され、策頼は「チッ」と小さく舌打ちをした。
「弾をはじく上に、銃撃を避けるか」
「人間ワザじゃねぇぞ……どうなってんだ!」
一方の制刻と河義は、斧女の立ち振る舞いに対する感想を各々吐き出しつつ散会、それぞれ近くの家屋の影へと身を隠し、壁に背を預ける。
「得体は知れませんが、なんにせよ簡単に逃がしてくれる気はねぇようだ」
「勘弁しろよッ……集落に隠れている方に告ぎます!こちらは日本国陸隊、北部方面隊です!攻撃を止めてください!」
河義は望み薄とは分かっていたが、集落全体に響く声で、攻撃停止の勧告を張り上げる。しかし河義の願いも空しく、襲撃者からの返答は何もなかった。
《14!今度は集落の奥、左側の屋根の上ッ!》
そしてインカムへ、再び新好地からの敵の位置情報が飛び込んで来る。位置情報を頼りにそちらへ視線を向けると、そこに先ほどの火球の主の姿があった。
彼は位置を変えた上で、再度の攻撃を試みようとしていた。彼の両腕の間では、火球が形成されつつある。
「糞ッ!」
それを視認した河義はとっさに自身の小銃を構え、引き金を数回引く。そして安全装置が単発に合わせられた小銃から、数発の弾が放たれた。
「ッ!?ネィトゥッ……!」
またしても彼の足元で弾が弾け、瓦が破損。今度は破損し飛び散った瓦の欠片が、彼の身を微かにだが傷つける。そして集中が解けたせいか、彼の手の平で形成されつつあった火球が、その瞬間霧散するように掻き消えた。
再び攻撃を阻害された彼は、表情に苦々しさを浮かべつつも、またも即座にその場から引いて行った。
「繰り返します!こちらは日本国陸隊、北部方面隊です!直ちに攻撃を中止しなさいッ!――聞いてねぇのかよ糞がッ!」
言い回しを命令口調に変え、もやは怒号に近い声で勧告の声を発する。しかしやはり応答は無く、河義は最後には悪態を吐き出す。
「ひょっとしたら言葉が通じてねぇかもしれません」
「何だと?」
そこへ発せられた制刻の言葉に、河義は怪訝な声を返す。
「さっきから、日本語と思えねぇ妙な言葉を叫んでます」
「どういうことだよ……外国系のカルト集団の拠点にでも、踏み込んじまったのか?」
相手の正体はますます予測が付かなくなり、河義の苛立ち交じりの困惑にさらに拍車がかかる。
《今度は背後側の屋根です!》
しかし考える暇もなく、新好地からインカムを通して敵の位置情報が飛び込んでくる。
「そこかしこから顔を出すな、ヤツは屋根をうまくアクセスにしてんのか。戦いに慣れてやがるな」
「なんでお前はそんなに冷静なんだよッ!?」
必死の形相で周囲を見渡していた剱が、遮蔽物の影から制刻に向けて叫ぶ。
しかし当人が返事を返す前に、またしても斧女が舞い戻った。
三度、家屋の屋根より姿を現した彼女は、西側の家屋近くにいた制刻に向けて飛び掛かり、家の壁際に追い詰める格好で、斧を振り下ろす。
だが制刻はまたも自身を襲った斧を、軽やかに避けて見せた。
一方の斧女は、攻撃が空振りに終わった事を察した瞬間、後退の姿勢には入り、背後へ跳躍し、そのまま家屋の屋根へと退避。
唐児は再び逃げていく斧女にたいしてMINIMI軽機による攻撃を試みたが、斧女は銃撃に追い立てられながらも、またも家屋の向こうへと逃げ去って行った。
「大丈夫か、お前を狙ってるみたいだぞッ!」
「あぁ、懐かれたみてぇです」
執拗に狙う斧女の様子に、河義は制刻の身を案ずるの声を上げるが、対する制刻は涼しい顔で答えて見せた。
「膝蹴りなんか食らわすからだッ!クソ……なんとか彼らと意思疎通はできないのか!?」
「だいぶ頭に来てるようだ。いや、焦ってるのかもな。どっちにせよ、少なくとも冷静にさせない限り対話は無理だな」
剱の意見に制刻は淡々と返し、最後に、「まぁそれ以前に、相手に友好的に接する気がなきゃ、どうしようもねぇがな」と付け加えた。
「策頼!」
制刻は振り向き、小型トラックで軽機に着く唐児に呼びかける。
「また奴が来たら、俺に襲い掛かって来た瞬間を狙え」
「制刻さんに当たる危険が」
「構うな、やれ」
策頼は懸念の言葉を告げるも、制刻は一切の躊躇を見せずに言った。
四度目の襲撃があったのは、その瞬間だった。
「後ろ!」
剱が叫ぶと同時に、御多分に漏れずに家屋の屋根から姿を現した斧女は、射撃を警戒してか、斧を盾にしながら飛び掛かって来る。そして間近まで迫った瞬間に、斧を持ち直して振り上げる。
しかしそのタイミングを待ち構えていた、MINIMI軽機の掃射が斧女を襲った。
「ッ……!?」
弾幕が斧女を襲い、放たれた弾頭の一部が女の脚に命中し、損傷させた。走った痛みに女は手元をしくじり、斧は空を切る。そして傷ついた脚での着地はままならずに、女は地に足を着いた瞬間、その場にガクンと崩れ落ちた。
「とぉ」
着地をしくじり、砂埃を立てて倒れ込んだ斧女を、制刻は一歩後退して避ける。
「ッ……」
斧女は痛みに表情を歪めながらも、上体を起こして目の前に落とした斧へ手を伸ばす。しかし彼女の手が斧の柄を掴む前に、斧は制刻によって蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされた斧は宙を舞い、背後へと落下。
「わぁッ!?」
そして剱の近くの地面へと突き刺さり、背後から彼女の悲鳴が聞こえた。
「策頼、でかした――で、おめぇはなんだ?」
制刻は足元の斧女に言葉を投げかけるも、彼女は睨み上げるだけで返答を返そうとはしなかった。仕方ないと制刻は女の身柄を確保しにかかろうする。
「ッ!」
しかしその時、制刻は別方向からの殺気を感じた。そして制刻はとっさに半身を捻る。その次の瞬間、直前まで立っていた場所を〝何か〟が掠めて行った。その〝何か〟は、少し先の地面に突き刺さって止まり、その正体が鮮明になる。それは槍だった。それも細長い円錐状の形状を持ち、長さは人の身長を優に超える騎乗槍だ。
「んだこりゃ」
突然飛来した槍に訝しみ、その軌道を視線で辿ろうとする。
「自由、真上!」
「あ?」
しかしそれより前に、背後から剱の警告の叫び声が上がる。彼女の言葉が示す通り、制刻は真上へと視線を向ける。
「――リャアアアアッ!」
そこで目に映ったのは、雄たけびを上げながら宙を降下する少年の姿だった。
その少年は、先程男の子を連れ去った人物に他ならなかった。彼の手には、その体躯と不釣り合いなまでの大きな剣が握られている。
そしてその大剣は、まだ体勢の安定しきっていない制刻目がけて、振り降ろそうとしていた。
「チ」
回避は間に合わない、そう判断した制刻は腰の後ろで弾帯に挟んでおいた鉈を繰り出して頭上へと翳す。その次の瞬間、少年の握る大剣が思い切り振り下ろされた。
「――っとぉ」
両者の得物がぶつかり合い、金属音が響き渡り、火花が散り、衝撃が鉈を通じて制刻の手に伝わる。
目と鼻の先に迫った、少年の体躯は小柄で、華奢とすら言える程であり、淡い金髪の下に覗くその顔立ちは、あどけなさを残しつつも可憐さを醸し出し、その容姿はまるで少女と見間違える程だ。
しかし、そんな少年の腕で振るわれた剣撃は信じられない程重々しく、まるで巨木が倒れて圧し掛かって来たかのような衝撃が襲った。
「ッ――アインプ!フレォッ!」
「……!」
未だ中空に身を置く美少年は、斧女に目配せをして何かを叫ぶ。すると、それを聞いた斧女は手負いの体を強引に起こすと、そして背後へと飛んだ。足を負傷しているため、斧女は当然のごとく着地の際に大きく体制を崩す。しかし、その斧女が体を地面へと横たえる前に。その体を何者かが受け止めた。
「リャジャ!エシュケッフ!」
そこには、重々しい甲冑で頭部以外の全身を包んだ騎士が立ち構えていた。おそらく先の槍を放ったのもこの騎士だろう。
騎士は斧女の体を抱きとめると、彼女を抱えたまま背後へと跳躍。少年や斧女のような屋根まで飛び上がるものではないが、しかし全身を甲冑で覆われている人間とは思えない、軽快な跳躍を繰り返し、離れていった。
「お前もかまって欲しいのか」
制刻は逃げていく騎士たちに一瞥をくれるが、すぐさま相対する少年の相手に集中。皮肉気に呟きながら、鉈で大剣を押し返して少年を振り払う。
振り払われた少年は、しかし押し返しの力には逆らわずに飛び退き、空中で綺麗な一回転を描いて着地してみせる。そしてすかさず地面を踏み切り、弧を描く軌道で制刻へと迫る。
「野郎」
一方、小型トラックの上で軽機に着く策頼は、制刻へと迫る少年を阻止するべく、軽機を少年に向けて旋回させ、引き金を引いた。軽機の銃口を飛び出した弾頭群は、少年の体へと襲い掛かる。
しかし次の瞬間、少年が体の横で剣を大きく薙いだ。そして少年の持つ剣から、金属音と微かな火花が上がった。
「ッ!………ふざけてる」
一瞬、不可解な現象に策頼は目を見開くが、直後に何が起こったのかを理解し、忌々し気に呟く。
少年は大剣の一閃で、弾頭を弾いて反らしたのだ。
それを証明するように、弾かれた弾頭はてんでバラバラの方向へ飛び散り、周囲の家屋や地面等ちぐはぐな場所を破壊した。銃撃を悠々と凌いで見せた少年は、そのまま制刻に向けて肉薄し、制刻の胴を狙って大剣を横に大きく薙いだ。
「っとぉ」
一歩だけ後退してそれを避ける制刻、大剣の剣先は、制刻の腹筋ギリギリの所を掠めてゆく。
少年の初撃は空振りに終わったが、しかし少年は体をくるりと回転させ、二撃目を薙いだ。
制刻もまた、体を反らしてまたしても剣撃を回避して見せるが、立て直すの隙をあたえまいと、剣を振るった腕を引き戻し、三度目の剣撃を制刻に向けて繰り出す。
「激しいアプローチだな」
幾度も繰り出される少年の剣撃を、制刻は呟きながらも、一歩、一歩と後退を繰り返しながら回避してゆく。
「うまく避けてるが……あのままじゃ……!」
だが、回避こそ悠々と行いながらも、逃げの一方である制刻の姿に、鳳藤は困惑の声を上げる。しかしその直後、再び金属のぶつかり合う音が響き渡った。
「――ッ!」
「その軌道が狙いだった」
少年は目を見開き、対する制刻は不気味な笑みで呟く。
縦に振り降ろされた大剣は、その軌道を遮るように繰り出された鉈に、浅い角度で衝突していた。そして制刻は手首の動きで鉈を器用に操り、少年の大剣はその勢いを保ったまま、明後日の方向へと逃された。
制刻は、少年が都合のいい角度で切り込んでくる瞬間を狙っていたのだ。
意図しない方向へと剣を逃がされ、その勢いに釣られて少年は体勢を崩す。制刻は体勢を崩した少年の体に向けて、左手だけで持った小銃を突き出し、引き金を絞る。
「ッ――リォッ!」
しかし弾が飛び出る直前、直感で身の危険を感じた少年は、その上体を無理やり反らした。そしてその瞬間撃ち出された銃弾を、みごとに回避して避けて見せた。
かろうじて銃撃を回避した少年は、反らされた大剣を片手で引き寄せると、同時に身を捻って側転し、制刻の真正面から退避する。
「これも避けるか、やべぇな」
制刻は少年の動きに感心しながら、得物を構え直しつつ彼の姿を追う。
「テュゥッ……!」
一方、一瞬遅れれば身を貫かれていたかもしれない事実に、少年は首元に一筋の冷や汗を流す。
「テティ レージェ エミィ……ッ――グンッ!」
しかしそれで彼の戦意が鈍る事は無く、彼は何かを呟くと同時に地面蹴って肉薄。制刻に向けて再び剣を振るった。
「ッ――ちょこまかと……」
策頼は苛立ちの言葉を零しながら、据え付けのMINIMI軽機をしきりに動かし、照準で少年を追い続けていたが、しかしその姿は制刻とかぶり続け、撃てるタイミングは一向に現れないでいた。
「冗談だろ……」
「こんな……」
そして河義や鳳藤は、紙一重の連続である制刻と少年の激突に、肝を冷やしながらもその目を離せないでいた。
正体不明の少年は、まるで漫画アニメのようにその体躯に似合わぬ大剣を振るい、対する制刻は不気味な外観に似合わぬ軽やかな動きで、そんな少年を翻弄していた。
「!」
二人の戦いに目を奪われていた河義は、しかしその時遠方での動きに気が付いた。
集落の奥、今までとはまた別の屋根に人影が見える。これまで火球を放ってきた青年だ。その青年の手の中では、今までよりも大きな火球が、今まさに形成を完了した所だった。
「まずいッ!」
河義は咄嗟に小銃を構え、引き金を引く。発砲音が響くと同時に弾が撃ち出されたが、しかし火球はすでに主である青年の手を離れていた。
入れ違いに小銃弾が屋根で弾け、青年は慌てて屋根の向こうへと退いて行ったが、煌々と燃える火球は、まっすぐにこちらへ迫っていた。
数回に渡り、互いの得物を交え合う制刻と少年。
「キリがねぇ」
その最中で面倒くさそうに呟く制刻。両者は互いに相手に決定打を許さず、状況は膠着に陥りかけていた。
だがそれを動かす事態が訪れた。
「制刻ッ!北側から火球が来るぞッ!」
背後から河義の警告の声が響く。
丁度、何度目かも知れぬ少年からの剣撃を受け止めた瞬間だった制刻は、その体勢を維持したまま警告された方向へと視線を向け、こちらへと飛来する火球の姿を確認した。
「まーたか」
鉈で大剣を退け、後ろへ飛ぶ。
当然、少年も仲間の放った火球の存在は把握していたのだろう、彼は自身を跳ね除けようとするその力に抗わずに、逆に利用して背後へと飛んだ。両者がその場から飛び退いた直後、間に火球が飛び込み、燃え上がり、視界を遮った。
「逃げたか?」
少し間が空き、警戒を向けるが、周囲から少年が炎に乗じて後退したのかと勘繰る。
「――いや、違ぇな」
しかしその考えを否定する。
その次の瞬間、突如突風が吹き、上がる炎を中心から真っ二つに割った。そして割れた炎の間から、突貫の姿勢を取り、大剣を振り上げた少年の姿が現れる。さらに、少年の手により振り上げられた大剣の刃には、なにか淡い炎のような発光体が、纏わりつき揺らめいていた。
「ほぅ、やろうってか」
少年のその姿には、これまでとは段違いの破壊の意思が宿っている。これまでの素早さを武器に隙を突こうとする攻撃ではなく、全身全霊の力を持って、真正面からぶつかる気だ。
神秘的で、しかし獰猛さを感じさせる少年の姿。
だが対する制刻は、そんな少年の姿に動じることなく鉈を持つ腕を前方に掲げる。
今度はただ受け止めるだけでなく、少年の剣撃を迎え撃ち、そして突き崩し、少年自身を両断する意思をその腕に込める。
両者の破壊を実行する意思が重なり、それぞれの破壊の意思の込められた得物が、再びぶつかろうとする――
――不可解な現象が起こったのは、その瞬間だった。
「――あ?」
宙空を降下し、一瞬の後には制刻の目と鼻の先に迫っていたであろう少年の体は、しかし次の瞬間、まるで液体に突っ込んだかのように目に見えて速度を落とした。そしてほんの数秒だけ、スローモーションのように緩慢で微弱な動きを見せた後に、少年の体は中空で完全に制止した。
変化は少年だけではない。
視線を動かせば、背後の河義等隊員、いや人物はおろか揺らめいていた炎や、少年の起こした風圧で跳ね上げられた小石や砂に至るまで、制刻を除いた確認できるすべてのものが、その場で動きを止めていたのだ。
そして同時に、周囲の景色は塗り替えられるように、気味の悪く悪趣味な色彩の光景へと変わってゆく。
そして制刻が横を見ると、ツナギ姿の人物が、奇妙な背景から水面をくぐるように姿を現した。
「ごめんごめん、自由さん。言語の適応を処理してるモジュールが、今からって所で不具合を吐き出して、修繕に少し時間が掛かっちゃった。今、機能を有効にしたから、自由さんも他の人も、これで彼らと会話ができるようになるよ」
周囲を軽快に歩き回りながら、一方的に説明する。
「おい、オメェ――」
制刻が作業服と白衣の人物に問いただそうとしたが、彼はそれを遮るように言葉を続ける。
「まだ自動ツールが随時更新してる状況だから、時々言い回しとか固有名詞で不便を感じるかもしれないけど、そこは慣れて。あ、今からまた周りが動き出すから気を付けてね――じゃあ、ご健闘を――」
一方的にふざけた説明を終えた人物は、後ろ歩きで奇妙な背景の中へと消えてゆく。
そして同時に攻界は、また塗り替えられるように元の色彩を取り戻し、そして再び動き出した――
「――だぁぁぁぁッ!!」
攻界が完全に元の状態を取り戻すのと同時に、高く通る声での雄叫びが制刻の耳に届く。そして金属音が響き渡り、半端なものではない衝撃が、右腕を通して制刻の全身を襲った。
「っとぉ」
制刻は衝撃に呟き声を零しつつ、視線を正面へと戻す。
見れば自身の構える鉈と相対していた少年の大剣が接触し交差しており、鍔迫り合いの状態となっていた。制刻は先に起こった奇妙な現象に疑念を覚えながらも、切り替えて意識を正面に向ける。
「ッぅ……!?これでも押し切れないのか……ッ!」
「あん?」
その時少年の口から、聞きなれた言葉が発せられたのを制刻は聞き逃さなかった。
「ッ!それに、剣に纏わせた魔法が……?」
何らかの不測の事態があったのか、表情を歪めた少年の口からそんな言葉を発せられる。
見れば、大剣の刃を覆っていた炎のような発光体が消失していた。
制刻は不可解な事態の連鎖を訝し気に思いながらも、無意識的に鉈に力を込めて少年の大剣を押し返す。
「ぐッ……! 」
押し返しの力に少年の体は足裏を擦って、ジリジリと強制的に後退させられる。それでも少年は全身に力を込めて制刻の押し返し懸命に耐えている。
「こ、この……バケモノめぇ……ッ!」
憎々し気な目で制刻を睨み上げ、そして言葉を絞り出した。
「愉快じゃねぇ事をほざく。バケモノ呼ばわりたぁ心外だ」
「ッ!」
そんな少年に対して言葉を返す制刻。当人からすれば何気なく発した一言だったが、少年の顔に驚きの色が刻まれたのはその時だった。
「言葉が……?今まで何を喋っているのか分からなかったのに……?」
何か驚きに飲まれかけた様子の少年は、しかしそこで表情を再度険しくして制刻を睨む。
「ッ――君は一体何者だ!目的はなんだ?この村には奪える物など何もないぞ!村の人達の攫う気ならば、容赦はしないッ!」
そして少年はそのような旨の問いかけをし、最後に警告の言葉を発した。
「何を懸念してるのか知らねぇが、こっちは物取りや人さらいの類じゃねぇぞ」
「………何?」
「さっきの坊主には、ちと物を聞こうとしただけだ。ビビらせちまったのは悪かったがな。別に荒事をやらかそうってつもりじゃねぇ。まぁ、そっちが殺りあおうってんなら、こっちも加減はしねぇがな」
「………」
制刻の不躾な弁明の言葉に、少年は得物を交わした体制のまま、少しの間何かを考える様子を見せる。
少年は剣で鉈を軽く押し、反動で飛び退いて制刻と距離を取った。
「本当なのかい……?」
警戒の姿勢を取り、疑惑の念の籠る言葉で尋ねる少年。
「……この村に危害を加えるつもりはないと言うのかい?……信用できるのか?」
「んなもんお前さんの勝手だ。ただ、俺は事実を述べてる。厄介ごとになったが、少なくとも殺しだの、強奪だの、物騒なのは俺等の目的じゃねぇ」
言いながら制刻は証拠を示すように、鉈を持つ自身の腕を気だるげに降ろして見せる。
「って事は………まさか僕の早とちり……!?」
警戒の体勢こそ保っているが、少年からの攻撃の気配は収まり、そして少年の顔はみるみる青ざめてゆく。
「なんてことだ……す、すまない!てっきり君たちが村を狙って来た野盗の類かと……そこへ子供と遭遇したことに、焦って対応を違えてしまったようだ……」
そして少年はそれまでの警戒に満ちた態度を解き、慌てて謝罪と弁明の言葉を紡いだ。
言葉使いこそやや堅苦しいが、その姿はまるで悪戯がばれた子供のようで、どこか可愛らしくすらあった。
「なるほど、そういうことか。そいつぁ、死人が出る前に誤解が解けたようで何よりだ」
対する制刻は驚きも安堵の様子も無く、シレッとした様子でそんな言葉を返した。
「ああ、そうだね……しかし、それなら君たちは一体何者なんだい?その……失礼かもしれないが、君たちはいろいろと異質に見える。よければ教えてくれないか」
「まぁいいだろう。だが正直、こっちもアンタ等を妙に思ってるって点では一緒だ。ここは互いに、自己紹介といこうぜ」
提案をすると、制刻はあまり機敏さを感じない軽い敬礼と共に、先んじて言葉を発する。
「〝日本国陸隊〟。北部方面隊、方面直轄、第54普通科連隊の第2中隊所属。制刻 自由陸士長だ」
制刻の名乗りを聞き届けた少年は、手にしていた大剣を背負っていた鞘に納めると、幼さの残る顔立ちに凛とした表情を浮かべ、口を開く。
「僕の名はハシア・リアネイテス、〝栄と結束の王国〟の勇者だ。国より〝君路の勇者〟の称号を授かり、魔王を討つべく旅をしている」
互いに相手を尊重して名乗りを全て聞いた後に、少しの沈黙が訪れる。
「あぁ?」
「ん?な、なんだって……?」
そして二人は互いに怪訝な顔を浮かべた。
攻撃に失敗した火球の主は、屋根の向こうへと引いて行く。
制刻は、そんな彼の姿に視線を向けつつ呟く。最初に飛来した火球を放ったのも、外ならぬ彼であった。集落の奥に位置する家屋に陣取り、こちらを狙っていたようだ。
「自由!彼女が!」
「あ?あぁ、そっちも逃げたか」
背後で剱の声が響く。彼女の目線を追って制刻が視線を動かすと、先の斧女が家屋の屋根の上を逃げてゆく姿が見えた。
制刻の注意が反れた隙に、屋根の上へと逃れたのだろう彼女は、そのまま奥へと姿を消した。
「にしても、あいつもこいつも妙な喚き方しやがる」
彼らは皆、独特の掛け声や叫び声を口にしていた。それを疑問に思いつつも、他にもこちらを狙う存在がいないか周囲を見渡し、ひとまずその場をやり過ごしたことを確認した制刻。
「制刻!」
そこへ背後から制刻を呼ぶ声。
振り返れば、河義が周囲を警戒しつつ、こちらへと駆け寄って来る姿が見えた。
「お前、大丈夫なのか!?」
「ええ、なんとか」
先の一連の出来事は当然河義も目撃しており、河義は自分の分隊員の安否を血相を変えて尋ねる。一方、当人である制刻は普段と変わらぬ調子で淡々と返事を返した。
「鳳藤、お前は!?」
「私は大丈夫です、しかし……信じられない。あんな巨大な斧を振り回して、おまけに飛び回ってた……」
剱は青ざめた顔で呟きながら、家屋の影から周囲を見回し警戒している。
「ドッキリにしても度が過ぎてるな。河義三曹、一応さっきはビビらすだけに留めましたが、連中の出方次第じゃぁ手加減も難しいかと」
「ッ、あぁ、分かってる……」
制刻の進言に対して、苦々しい表情で返す河義。
襲撃者の驚異度は想定を超えており、手段を限定しての対応はもはや危険であった。
だが、いよいよ殺傷を伴う実力行使に頼らねばならない事態を前に、河義の首筋には一筋の汗が伝う。
《川越14、小笠原22です!村から発砲音のような物が聞こえましたが、そっちで何が起こってるんですか!?》
そんな所へ、各員の装着するインカムに、新好地からの通信が飛び込んで来た。
「新好地士長か、丁度いい。こちらは現在、凶器を持った人物の襲撃を受けた。正体は不明」
《襲撃ですって……!?》
無線からでも、新好地の驚く様子が河義に伝わって来る。
「すまんが今、詳しく説明する余裕は無い。新好地士長、そこから村全体が見えるな?俺達は今、集落の中ほどにいる。接近する人影が見えたら、その都度報告して欲しい」
《……分かりました……!》
通信を終えると、河義は一度小さく息を吐いてから、制刻と剱に視線を向ける。
「制刻、鳳藤、とりあえず一度集落から出るぞ。態勢を立て直す」
「待ってください、河義三曹!」
両者に後退の指示を出した河義だが、剱が声を上げた。
「どうした?」
「先ほど襲撃者の一人に子供が連れていかれるのを見ました。その子の安否が気がかりです!」
「子供ぉ!?」
剱は焦燥と困惑に染まる顔に、どうにか凛とした色を取り繕いながら河義に進言をする。常識外れの事態の連続に腰が引けている様子の剱だったが、そんな最中でも子供を放ったままこの場を後にする事は、彼女の正義が許さないようだった。
「ッ、厄介だな……だが今の我々では深追いは危険――」
《河義三曹、人影です!西側、すぐそこの家屋の上ッ!》
しかしその時、河義の声を遮り、各員の装着するインカムに新好地の声が響いた。先の斧女が再び姿を現したのは、それとほぼ同時だった。
先ほど彼女が姿を消した家屋とは、道を挟んで反対側に位置する家。おそらく集落を回り込んできたのであろう斧女は、屋根を踏み切って飛び、またしても襲い掛かって来た。
「懲りねえな」
斧女の標的は、制刻だ。
制刻は跳躍後の軌道が自分に向いていることを瞬時に判別した 中空に身を投げ出した彼女を狙い、三点制限点射で発砲した。
「リュォッ!?」
しかし、銃口を向けられた瞬間に本能的に危険を感じ取ったのか、斧女は手にしていた斧を自分の体の前にかざした。そして撃ち出された5.56㎜弾は、盾となった巨大な斧に弾き返され、斧女の体を貫くことは叶わなかった。
「マジか」
制刻は若干の驚きと、関心が混じりの呟き声を発する。
斧女は、自らの得物を持ち直すと、制刻を狙ってその巨大な得物を振り降ろした。
「うぉっとぉ」
しかし制刻は先程同様、軽やかに回避して見せた。
回避された斧女は、先ほどのように追撃はせず、制刻の脇を通り抜けて言った。膝蹴りを警戒したのだろう、少し距離を取った後に跳躍、近場の家屋の屋根へと着地する。
しかしその瞬間、女の足元で突然瓦が弾け出した。
「リャッ!?」
突然の事態に、斧女は叫び声と思われるものを上げて飛び退く。
彼女を襲った物の正体は、小型トラックでMINIMI軽機に着いた策頼による銃撃だ。
「リャーッ!?パウッ、ヴューネィッ!?」
襲い来る銃撃に彼女は叫びながらも、しかし飛ぶように家屋の屋根を伝い走り、これを回避し続ける。
策頼は軽機を旋回させて斧女を追いかけながら引き金を引き続け、立て続けに排出される薬莢が、小型トラックの荷台に落ちて乾いた音を上げる。
しかし追撃の成果は無く、斧女は再び屋根の死角へと姿を消した。命中を確認できないまま対象に逃走され、策頼は「チッ」と小さく舌打ちをした。
「弾をはじく上に、銃撃を避けるか」
「人間ワザじゃねぇぞ……どうなってんだ!」
一方の制刻と河義は、斧女の立ち振る舞いに対する感想を各々吐き出しつつ散会、それぞれ近くの家屋の影へと身を隠し、壁に背を預ける。
「得体は知れませんが、なんにせよ簡単に逃がしてくれる気はねぇようだ」
「勘弁しろよッ……集落に隠れている方に告ぎます!こちらは日本国陸隊、北部方面隊です!攻撃を止めてください!」
河義は望み薄とは分かっていたが、集落全体に響く声で、攻撃停止の勧告を張り上げる。しかし河義の願いも空しく、襲撃者からの返答は何もなかった。
《14!今度は集落の奥、左側の屋根の上ッ!》
そしてインカムへ、再び新好地からの敵の位置情報が飛び込んで来る。位置情報を頼りにそちらへ視線を向けると、そこに先ほどの火球の主の姿があった。
彼は位置を変えた上で、再度の攻撃を試みようとしていた。彼の両腕の間では、火球が形成されつつある。
「糞ッ!」
それを視認した河義はとっさに自身の小銃を構え、引き金を数回引く。そして安全装置が単発に合わせられた小銃から、数発の弾が放たれた。
「ッ!?ネィトゥッ……!」
またしても彼の足元で弾が弾け、瓦が破損。今度は破損し飛び散った瓦の欠片が、彼の身を微かにだが傷つける。そして集中が解けたせいか、彼の手の平で形成されつつあった火球が、その瞬間霧散するように掻き消えた。
再び攻撃を阻害された彼は、表情に苦々しさを浮かべつつも、またも即座にその場から引いて行った。
「繰り返します!こちらは日本国陸隊、北部方面隊です!直ちに攻撃を中止しなさいッ!――聞いてねぇのかよ糞がッ!」
言い回しを命令口調に変え、もやは怒号に近い声で勧告の声を発する。しかしやはり応答は無く、河義は最後には悪態を吐き出す。
「ひょっとしたら言葉が通じてねぇかもしれません」
「何だと?」
そこへ発せられた制刻の言葉に、河義は怪訝な声を返す。
「さっきから、日本語と思えねぇ妙な言葉を叫んでます」
「どういうことだよ……外国系のカルト集団の拠点にでも、踏み込んじまったのか?」
相手の正体はますます予測が付かなくなり、河義の苛立ち交じりの困惑にさらに拍車がかかる。
《今度は背後側の屋根です!》
しかし考える暇もなく、新好地からインカムを通して敵の位置情報が飛び込んでくる。
「そこかしこから顔を出すな、ヤツは屋根をうまくアクセスにしてんのか。戦いに慣れてやがるな」
「なんでお前はそんなに冷静なんだよッ!?」
必死の形相で周囲を見渡していた剱が、遮蔽物の影から制刻に向けて叫ぶ。
しかし当人が返事を返す前に、またしても斧女が舞い戻った。
三度、家屋の屋根より姿を現した彼女は、西側の家屋近くにいた制刻に向けて飛び掛かり、家の壁際に追い詰める格好で、斧を振り下ろす。
だが制刻はまたも自身を襲った斧を、軽やかに避けて見せた。
一方の斧女は、攻撃が空振りに終わった事を察した瞬間、後退の姿勢には入り、背後へ跳躍し、そのまま家屋の屋根へと退避。
唐児は再び逃げていく斧女にたいしてMINIMI軽機による攻撃を試みたが、斧女は銃撃に追い立てられながらも、またも家屋の向こうへと逃げ去って行った。
「大丈夫か、お前を狙ってるみたいだぞッ!」
「あぁ、懐かれたみてぇです」
執拗に狙う斧女の様子に、河義は制刻の身を案ずるの声を上げるが、対する制刻は涼しい顔で答えて見せた。
「膝蹴りなんか食らわすからだッ!クソ……なんとか彼らと意思疎通はできないのか!?」
「だいぶ頭に来てるようだ。いや、焦ってるのかもな。どっちにせよ、少なくとも冷静にさせない限り対話は無理だな」
剱の意見に制刻は淡々と返し、最後に、「まぁそれ以前に、相手に友好的に接する気がなきゃ、どうしようもねぇがな」と付け加えた。
「策頼!」
制刻は振り向き、小型トラックで軽機に着く唐児に呼びかける。
「また奴が来たら、俺に襲い掛かって来た瞬間を狙え」
「制刻さんに当たる危険が」
「構うな、やれ」
策頼は懸念の言葉を告げるも、制刻は一切の躊躇を見せずに言った。
四度目の襲撃があったのは、その瞬間だった。
「後ろ!」
剱が叫ぶと同時に、御多分に漏れずに家屋の屋根から姿を現した斧女は、射撃を警戒してか、斧を盾にしながら飛び掛かって来る。そして間近まで迫った瞬間に、斧を持ち直して振り上げる。
しかしそのタイミングを待ち構えていた、MINIMI軽機の掃射が斧女を襲った。
「ッ……!?」
弾幕が斧女を襲い、放たれた弾頭の一部が女の脚に命中し、損傷させた。走った痛みに女は手元をしくじり、斧は空を切る。そして傷ついた脚での着地はままならずに、女は地に足を着いた瞬間、その場にガクンと崩れ落ちた。
「とぉ」
着地をしくじり、砂埃を立てて倒れ込んだ斧女を、制刻は一歩後退して避ける。
「ッ……」
斧女は痛みに表情を歪めながらも、上体を起こして目の前に落とした斧へ手を伸ばす。しかし彼女の手が斧の柄を掴む前に、斧は制刻によって蹴り飛ばされた。蹴り飛ばされた斧は宙を舞い、背後へと落下。
「わぁッ!?」
そして剱の近くの地面へと突き刺さり、背後から彼女の悲鳴が聞こえた。
「策頼、でかした――で、おめぇはなんだ?」
制刻は足元の斧女に言葉を投げかけるも、彼女は睨み上げるだけで返答を返そうとはしなかった。仕方ないと制刻は女の身柄を確保しにかかろうする。
「ッ!」
しかしその時、制刻は別方向からの殺気を感じた。そして制刻はとっさに半身を捻る。その次の瞬間、直前まで立っていた場所を〝何か〟が掠めて行った。その〝何か〟は、少し先の地面に突き刺さって止まり、その正体が鮮明になる。それは槍だった。それも細長い円錐状の形状を持ち、長さは人の身長を優に超える騎乗槍だ。
「んだこりゃ」
突然飛来した槍に訝しみ、その軌道を視線で辿ろうとする。
「自由、真上!」
「あ?」
しかしそれより前に、背後から剱の警告の叫び声が上がる。彼女の言葉が示す通り、制刻は真上へと視線を向ける。
「――リャアアアアッ!」
そこで目に映ったのは、雄たけびを上げながら宙を降下する少年の姿だった。
その少年は、先程男の子を連れ去った人物に他ならなかった。彼の手には、その体躯と不釣り合いなまでの大きな剣が握られている。
そしてその大剣は、まだ体勢の安定しきっていない制刻目がけて、振り降ろそうとしていた。
「チ」
回避は間に合わない、そう判断した制刻は腰の後ろで弾帯に挟んでおいた鉈を繰り出して頭上へと翳す。その次の瞬間、少年の握る大剣が思い切り振り下ろされた。
「――っとぉ」
両者の得物がぶつかり合い、金属音が響き渡り、火花が散り、衝撃が鉈を通じて制刻の手に伝わる。
目と鼻の先に迫った、少年の体躯は小柄で、華奢とすら言える程であり、淡い金髪の下に覗くその顔立ちは、あどけなさを残しつつも可憐さを醸し出し、その容姿はまるで少女と見間違える程だ。
しかし、そんな少年の腕で振るわれた剣撃は信じられない程重々しく、まるで巨木が倒れて圧し掛かって来たかのような衝撃が襲った。
「ッ――アインプ!フレォッ!」
「……!」
未だ中空に身を置く美少年は、斧女に目配せをして何かを叫ぶ。すると、それを聞いた斧女は手負いの体を強引に起こすと、そして背後へと飛んだ。足を負傷しているため、斧女は当然のごとく着地の際に大きく体制を崩す。しかし、その斧女が体を地面へと横たえる前に。その体を何者かが受け止めた。
「リャジャ!エシュケッフ!」
そこには、重々しい甲冑で頭部以外の全身を包んだ騎士が立ち構えていた。おそらく先の槍を放ったのもこの騎士だろう。
騎士は斧女の体を抱きとめると、彼女を抱えたまま背後へと跳躍。少年や斧女のような屋根まで飛び上がるものではないが、しかし全身を甲冑で覆われている人間とは思えない、軽快な跳躍を繰り返し、離れていった。
「お前もかまって欲しいのか」
制刻は逃げていく騎士たちに一瞥をくれるが、すぐさま相対する少年の相手に集中。皮肉気に呟きながら、鉈で大剣を押し返して少年を振り払う。
振り払われた少年は、しかし押し返しの力には逆らわずに飛び退き、空中で綺麗な一回転を描いて着地してみせる。そしてすかさず地面を踏み切り、弧を描く軌道で制刻へと迫る。
「野郎」
一方、小型トラックの上で軽機に着く策頼は、制刻へと迫る少年を阻止するべく、軽機を少年に向けて旋回させ、引き金を引いた。軽機の銃口を飛び出した弾頭群は、少年の体へと襲い掛かる。
しかし次の瞬間、少年が体の横で剣を大きく薙いだ。そして少年の持つ剣から、金属音と微かな火花が上がった。
「ッ!………ふざけてる」
一瞬、不可解な現象に策頼は目を見開くが、直後に何が起こったのかを理解し、忌々し気に呟く。
少年は大剣の一閃で、弾頭を弾いて反らしたのだ。
それを証明するように、弾かれた弾頭はてんでバラバラの方向へ飛び散り、周囲の家屋や地面等ちぐはぐな場所を破壊した。銃撃を悠々と凌いで見せた少年は、そのまま制刻に向けて肉薄し、制刻の胴を狙って大剣を横に大きく薙いだ。
「っとぉ」
一歩だけ後退してそれを避ける制刻、大剣の剣先は、制刻の腹筋ギリギリの所を掠めてゆく。
少年の初撃は空振りに終わったが、しかし少年は体をくるりと回転させ、二撃目を薙いだ。
制刻もまた、体を反らしてまたしても剣撃を回避して見せるが、立て直すの隙をあたえまいと、剣を振るった腕を引き戻し、三度目の剣撃を制刻に向けて繰り出す。
「激しいアプローチだな」
幾度も繰り出される少年の剣撃を、制刻は呟きながらも、一歩、一歩と後退を繰り返しながら回避してゆく。
「うまく避けてるが……あのままじゃ……!」
だが、回避こそ悠々と行いながらも、逃げの一方である制刻の姿に、鳳藤は困惑の声を上げる。しかしその直後、再び金属のぶつかり合う音が響き渡った。
「――ッ!」
「その軌道が狙いだった」
少年は目を見開き、対する制刻は不気味な笑みで呟く。
縦に振り降ろされた大剣は、その軌道を遮るように繰り出された鉈に、浅い角度で衝突していた。そして制刻は手首の動きで鉈を器用に操り、少年の大剣はその勢いを保ったまま、明後日の方向へと逃された。
制刻は、少年が都合のいい角度で切り込んでくる瞬間を狙っていたのだ。
意図しない方向へと剣を逃がされ、その勢いに釣られて少年は体勢を崩す。制刻は体勢を崩した少年の体に向けて、左手だけで持った小銃を突き出し、引き金を絞る。
「ッ――リォッ!」
しかし弾が飛び出る直前、直感で身の危険を感じた少年は、その上体を無理やり反らした。そしてその瞬間撃ち出された銃弾を、みごとに回避して避けて見せた。
かろうじて銃撃を回避した少年は、反らされた大剣を片手で引き寄せると、同時に身を捻って側転し、制刻の真正面から退避する。
「これも避けるか、やべぇな」
制刻は少年の動きに感心しながら、得物を構え直しつつ彼の姿を追う。
「テュゥッ……!」
一方、一瞬遅れれば身を貫かれていたかもしれない事実に、少年は首元に一筋の冷や汗を流す。
「テティ レージェ エミィ……ッ――グンッ!」
しかしそれで彼の戦意が鈍る事は無く、彼は何かを呟くと同時に地面蹴って肉薄。制刻に向けて再び剣を振るった。
「ッ――ちょこまかと……」
策頼は苛立ちの言葉を零しながら、据え付けのMINIMI軽機をしきりに動かし、照準で少年を追い続けていたが、しかしその姿は制刻とかぶり続け、撃てるタイミングは一向に現れないでいた。
「冗談だろ……」
「こんな……」
そして河義や鳳藤は、紙一重の連続である制刻と少年の激突に、肝を冷やしながらもその目を離せないでいた。
正体不明の少年は、まるで漫画アニメのようにその体躯に似合わぬ大剣を振るい、対する制刻は不気味な外観に似合わぬ軽やかな動きで、そんな少年を翻弄していた。
「!」
二人の戦いに目を奪われていた河義は、しかしその時遠方での動きに気が付いた。
集落の奥、今までとはまた別の屋根に人影が見える。これまで火球を放ってきた青年だ。その青年の手の中では、今までよりも大きな火球が、今まさに形成を完了した所だった。
「まずいッ!」
河義は咄嗟に小銃を構え、引き金を引く。発砲音が響くと同時に弾が撃ち出されたが、しかし火球はすでに主である青年の手を離れていた。
入れ違いに小銃弾が屋根で弾け、青年は慌てて屋根の向こうへと退いて行ったが、煌々と燃える火球は、まっすぐにこちらへ迫っていた。
数回に渡り、互いの得物を交え合う制刻と少年。
「キリがねぇ」
その最中で面倒くさそうに呟く制刻。両者は互いに相手に決定打を許さず、状況は膠着に陥りかけていた。
だがそれを動かす事態が訪れた。
「制刻ッ!北側から火球が来るぞッ!」
背後から河義の警告の声が響く。
丁度、何度目かも知れぬ少年からの剣撃を受け止めた瞬間だった制刻は、その体勢を維持したまま警告された方向へと視線を向け、こちらへと飛来する火球の姿を確認した。
「まーたか」
鉈で大剣を退け、後ろへ飛ぶ。
当然、少年も仲間の放った火球の存在は把握していたのだろう、彼は自身を跳ね除けようとするその力に抗わずに、逆に利用して背後へと飛んだ。両者がその場から飛び退いた直後、間に火球が飛び込み、燃え上がり、視界を遮った。
「逃げたか?」
少し間が空き、警戒を向けるが、周囲から少年が炎に乗じて後退したのかと勘繰る。
「――いや、違ぇな」
しかしその考えを否定する。
その次の瞬間、突如突風が吹き、上がる炎を中心から真っ二つに割った。そして割れた炎の間から、突貫の姿勢を取り、大剣を振り上げた少年の姿が現れる。さらに、少年の手により振り上げられた大剣の刃には、なにか淡い炎のような発光体が、纏わりつき揺らめいていた。
「ほぅ、やろうってか」
少年のその姿には、これまでとは段違いの破壊の意思が宿っている。これまでの素早さを武器に隙を突こうとする攻撃ではなく、全身全霊の力を持って、真正面からぶつかる気だ。
神秘的で、しかし獰猛さを感じさせる少年の姿。
だが対する制刻は、そんな少年の姿に動じることなく鉈を持つ腕を前方に掲げる。
今度はただ受け止めるだけでなく、少年の剣撃を迎え撃ち、そして突き崩し、少年自身を両断する意思をその腕に込める。
両者の破壊を実行する意思が重なり、それぞれの破壊の意思の込められた得物が、再びぶつかろうとする――
――不可解な現象が起こったのは、その瞬間だった。
「――あ?」
宙空を降下し、一瞬の後には制刻の目と鼻の先に迫っていたであろう少年の体は、しかし次の瞬間、まるで液体に突っ込んだかのように目に見えて速度を落とした。そしてほんの数秒だけ、スローモーションのように緩慢で微弱な動きを見せた後に、少年の体は中空で完全に制止した。
変化は少年だけではない。
視線を動かせば、背後の河義等隊員、いや人物はおろか揺らめいていた炎や、少年の起こした風圧で跳ね上げられた小石や砂に至るまで、制刻を除いた確認できるすべてのものが、その場で動きを止めていたのだ。
そして同時に、周囲の景色は塗り替えられるように、気味の悪く悪趣味な色彩の光景へと変わってゆく。
そして制刻が横を見ると、ツナギ姿の人物が、奇妙な背景から水面をくぐるように姿を現した。
「ごめんごめん、自由さん。言語の適応を処理してるモジュールが、今からって所で不具合を吐き出して、修繕に少し時間が掛かっちゃった。今、機能を有効にしたから、自由さんも他の人も、これで彼らと会話ができるようになるよ」
周囲を軽快に歩き回りながら、一方的に説明する。
「おい、オメェ――」
制刻が作業服と白衣の人物に問いただそうとしたが、彼はそれを遮るように言葉を続ける。
「まだ自動ツールが随時更新してる状況だから、時々言い回しとか固有名詞で不便を感じるかもしれないけど、そこは慣れて。あ、今からまた周りが動き出すから気を付けてね――じゃあ、ご健闘を――」
一方的にふざけた説明を終えた人物は、後ろ歩きで奇妙な背景の中へと消えてゆく。
そして同時に攻界は、また塗り替えられるように元の色彩を取り戻し、そして再び動き出した――
「――だぁぁぁぁッ!!」
攻界が完全に元の状態を取り戻すのと同時に、高く通る声での雄叫びが制刻の耳に届く。そして金属音が響き渡り、半端なものではない衝撃が、右腕を通して制刻の全身を襲った。
「っとぉ」
制刻は衝撃に呟き声を零しつつ、視線を正面へと戻す。
見れば自身の構える鉈と相対していた少年の大剣が接触し交差しており、鍔迫り合いの状態となっていた。制刻は先に起こった奇妙な現象に疑念を覚えながらも、切り替えて意識を正面に向ける。
「ッぅ……!?これでも押し切れないのか……ッ!」
「あん?」
その時少年の口から、聞きなれた言葉が発せられたのを制刻は聞き逃さなかった。
「ッ!それに、剣に纏わせた魔法が……?」
何らかの不測の事態があったのか、表情を歪めた少年の口からそんな言葉を発せられる。
見れば、大剣の刃を覆っていた炎のような発光体が消失していた。
制刻は不可解な事態の連鎖を訝し気に思いながらも、無意識的に鉈に力を込めて少年の大剣を押し返す。
「ぐッ……! 」
押し返しの力に少年の体は足裏を擦って、ジリジリと強制的に後退させられる。それでも少年は全身に力を込めて制刻の押し返し懸命に耐えている。
「こ、この……バケモノめぇ……ッ!」
憎々し気な目で制刻を睨み上げ、そして言葉を絞り出した。
「愉快じゃねぇ事をほざく。バケモノ呼ばわりたぁ心外だ」
「ッ!」
そんな少年に対して言葉を返す制刻。当人からすれば何気なく発した一言だったが、少年の顔に驚きの色が刻まれたのはその時だった。
「言葉が……?今まで何を喋っているのか分からなかったのに……?」
何か驚きに飲まれかけた様子の少年は、しかしそこで表情を再度険しくして制刻を睨む。
「ッ――君は一体何者だ!目的はなんだ?この村には奪える物など何もないぞ!村の人達の攫う気ならば、容赦はしないッ!」
そして少年はそのような旨の問いかけをし、最後に警告の言葉を発した。
「何を懸念してるのか知らねぇが、こっちは物取りや人さらいの類じゃねぇぞ」
「………何?」
「さっきの坊主には、ちと物を聞こうとしただけだ。ビビらせちまったのは悪かったがな。別に荒事をやらかそうってつもりじゃねぇ。まぁ、そっちが殺りあおうってんなら、こっちも加減はしねぇがな」
「………」
制刻の不躾な弁明の言葉に、少年は得物を交わした体制のまま、少しの間何かを考える様子を見せる。
少年は剣で鉈を軽く押し、反動で飛び退いて制刻と距離を取った。
「本当なのかい……?」
警戒の姿勢を取り、疑惑の念の籠る言葉で尋ねる少年。
「……この村に危害を加えるつもりはないと言うのかい?……信用できるのか?」
「んなもんお前さんの勝手だ。ただ、俺は事実を述べてる。厄介ごとになったが、少なくとも殺しだの、強奪だの、物騒なのは俺等の目的じゃねぇ」
言いながら制刻は証拠を示すように、鉈を持つ自身の腕を気だるげに降ろして見せる。
「って事は………まさか僕の早とちり……!?」
警戒の体勢こそ保っているが、少年からの攻撃の気配は収まり、そして少年の顔はみるみる青ざめてゆく。
「なんてことだ……す、すまない!てっきり君たちが村を狙って来た野盗の類かと……そこへ子供と遭遇したことに、焦って対応を違えてしまったようだ……」
そして少年はそれまでの警戒に満ちた態度を解き、慌てて謝罪と弁明の言葉を紡いだ。
言葉使いこそやや堅苦しいが、その姿はまるで悪戯がばれた子供のようで、どこか可愛らしくすらあった。
「なるほど、そういうことか。そいつぁ、死人が出る前に誤解が解けたようで何よりだ」
対する制刻は驚きも安堵の様子も無く、シレッとした様子でそんな言葉を返した。
「ああ、そうだね……しかし、それなら君たちは一体何者なんだい?その……失礼かもしれないが、君たちはいろいろと異質に見える。よければ教えてくれないか」
「まぁいいだろう。だが正直、こっちもアンタ等を妙に思ってるって点では一緒だ。ここは互いに、自己紹介といこうぜ」
提案をすると、制刻はあまり機敏さを感じない軽い敬礼と共に、先んじて言葉を発する。
「〝日本国陸隊〟。北部方面隊、方面直轄、第54普通科連隊の第2中隊所属。制刻 自由陸士長だ」
制刻の名乗りを聞き届けた少年は、手にしていた大剣を背負っていた鞘に納めると、幼さの残る顔立ちに凛とした表情を浮かべ、口を開く。
「僕の名はハシア・リアネイテス、〝栄と結束の王国〟の勇者だ。国より〝君路の勇者〟の称号を授かり、魔王を討つべく旅をしている」
互いに相手を尊重して名乗りを全て聞いた後に、少しの沈黙が訪れる。
「あぁ?」
「ん?な、なんだって……?」
そして二人は互いに怪訝な顔を浮かべた。
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ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
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