―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

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チャプター2:「凄惨と衝撃」

2-25:「―応報― 残酷と欲望の清算―」

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 吐き気を催す行いの舞台であった広場は、隊のよってほぼその全てをひっくり返され。そして制圧された。
 モンスター達のその9割がたは血肉の欠片となる末路を迎え。
 先に投降した十体少しのオーク達と、加えて他にも確保捕縛されたオークが何体かに。そしてその半端に屈強な肉体のせいで死ぬことの出来たかった、先の上級魔獣始め将軍級のオークやオーガなどが十体程など。
 計30体近くのモンスター達が、隊に確保拘束される結果となった。

「この軍閥モドキは、これで全てと見ていいかと」

 その広場の一点。
 停車し鎮座する76式装甲戦闘車の傍で、言葉を発する峨奈と、それを受ける鷹幅にそして直宇都の姿が在った。
 峨奈の手には武骨なタブレットが持たれ、画面には無人観測機から送られる町の上空映像。その無人観測機の操縦室から装甲小隊には、観測の結果町の中及び周辺に、これ以上の脅威となりうるモンスターの集団は確認されなかったとの情報がもたらされていた。
 それを受け、そして装甲小隊側もその認識で問題無いと判断。
 これよりの行動の比重を、どこかに逃げ隠れているであろうという話の、無事な住民の捜索へとシフト。各分隊と装甲車輛を分割再編して、捜索行動へと再発出させ。
 そして町外に設けていた野戦指揮所よりは、指揮官の直宇都始め指揮所班の一部が町に入り合流していた。
 その時。バタバタという轟音を響かせて、広場の真上の低い高度を、大きな飛行体――ヘリコプターが飛び抜ける。 
 さらなる増援として寄こされ飛来した、航空隊救難隊のKV-107だ。

《――残存のモンスター勢力に告ぐ、君達の本隊は壊滅したッ。その気があるなら次の場所へ投降せよッ。中央北西住宅地広場、南城壁通用門――ッ》

 そのKV-107からは、拡声器越しの効果の掛かった、そして少し威圧的な色での文言が響き、そして町へと降り注いでいる。
 それは町に残存する可能性のあるモンスター達に向けて。その本隊が壊滅した事を知らせ、投降を呼びかけるものだ。
 さらにKV-107に合わせるように。続け広場の真上高めの高度を、F-1戦闘機の飛行隊が二機編隊を組んで、轟音を轟かせて飛び抜けた。
 F-1戦闘機隊にあっては燃料弾薬の都合、及び脅威度低下の関係から一度基地へと帰還。再補給を行ったうえで待機状態に入る予定だ。万一の場合には再出撃する。

「はぁ……一段落といったところかしら……?」

 そんな各機の姿を一度見上げ追った一同。
 そして視線を降ろした各々の内から、直宇都がそんな言葉を上げる。彼女は直接戦闘にこそ参加はしていないが、後方で指揮調整に翻弄されていた身であり。
 そして映像や情報から知らされた町の惨劇。
 おまけに一部分隊や隊員の過激とも取れる各行動も聞こえてきており、それらの影響による心労からか、その端麗な顔を疲れた色に染めていた。

「――二尉ッ、鷹幅二曹、峨奈三曹……ッ!」

 そんな所へ、端から声が掛かったのはその時。各々が視線をそちらへ向ければ、こちらへ駆けてくる本部班所属の隊員の姿が見えた。

「どうした?」

 それに峨奈が返す。
 その隊員は何か急いた様子で、そして駆け込んできて相対した隊員のその顔を見れば。それは何か苦く険しく、そして微かに青い色に染まっていた。

「それが――」

 隊員は峨奈に答え説明の言葉を紡ぎ。そして直宇都や鷹幅は、聞かされたそれに目を剥き、顔を険しくする事となった――



 広場の周りのある家屋建物の中でも、特に一回り大きく豪華な造りの邸宅がある。
 そこは町の有力な人物である貴族とその一家、そして使用人達が住まう所であった。最もその持ち主と住人達は揃ってモンスターに降り嬲られ、果てに血肉と吹き飛ばされて解放されるという末路の、御多分に漏れなかったが。
 その持ち主を失った邸宅は、現在隊によって一時接収され。先に確保拘束したモンスター達の拘留場所として利用されていた。
 急き、苦い様子の本部班隊員に導かれその邸宅前まで来た、鷹幅、峨奈、直宇都等は。その玄関口を開き潜った。

「――ッ!?」
「――ぅッ!?」

 そして玄関口を潜り入った先で広がり、目に映った光景に。鷹幅と直宇都はそれぞれ、目を見開き驚愕それを見せた。

「あぁ――」

 峨奈だけは、何か差したことはないような冷たい色で、声を零す。
 各々が玄関を潜った先に広がるのは、邸宅の中央玄関ホール空間。ちょっとした体育館かと思える程の広さがあり、モンスター達に荒らされ損壊がやや見えるが、元は上品な空間であったことが分かる。
 問題は、今まさにその空間で行われている事態にあった。

「ぃ……ぃぁ……」
「ァぅ……ぁ……」
「たす……け……」

 そのホール空間に並ばされている〝もの〟がある。それはオーク達を主に一部オーガなど。30体近くのそれらは、全て先に隊に確保拘束されたモンスター達。
 将軍級から兵級までいずれも区別無く膝まづき、あるいは正座の姿勢を取って、いや取らされ。その獰猛な見た目に反した、非常に弱々しくそして苦し気な声を漏らしている。
 細かくはその獰猛な顔をしかし絶望と悲観に染め、涙を流す個体。虚ろな目で生気を失っている個体。暴行を受けたのか顔面が腫れあがっている個体。白目を剥き、あるいは泡や涎をこぼして気絶寸前の個体など、様々。
 それも当然だった。
 そのモンスター達の体を見れば、その屈強な体はどれもが棘の生える鉄の茨――いや、有刺鉄線。隊が保有するそれを巻かれ縛られ、その体を傷つけられ血を流しながら拘束されている。
 いや、それはまだ可愛いほうだ。
 モンスター達のほとんどは、その太く逞しかったであろう両腕を、根本から切断されていた。それだけなら出血多量ですぐに死ねただろうが、その切断面は乱雑に焼かれ止血されている。明らかに、すぐには殺さず長く苦しめるための措置。
 極めつけは、モンスター達の股間部に注目する。
 モンスター達の股間周りは例外なく血で塗れ汚れている。そして肝心のそれぞれの股間を見れば、生えるはずのオークやオーガ達の『モノ』。モンスター特有の逞しさを誇るはずのご自慢それが、例外なく見当たらない――切断されていた。
 単純に刃物類で切断されたもの。精巣などの臓器類ごと掻きこそがれたもの。無理やり力業で千切り取られたものなど。その形態こそ様々だが、大事なそれを奪われていたという事は、どのモンスターにも例外は無かった。
 付け加えて言えば、そのモンスター達の切断された『モノ』は。良くて床に無用の長物として転がり。もしくはモンスター達の口や、果ては尻穴にねじ込まれ、〝再利用〟されていた。

「な……ッ」

 驚愕の、凄まじい光景。
 広がり視認したそれに、鷹幅は言葉をすぐ紡ぐ事が敵わず、そんな一声だけをどうにか零す。

「――ぃやだぁアああああッ!」

 しかし、その光景にまともに驚く暇も無く。何かそんな野太くも泣き喚く悲鳴が聞こえ来た。
 峨奈等が視線をやれば、並ばされるオークから外れるように、一体のオークがホールの隅のほうへと走っていく姿が見える。
 そのオークはまた両腕が切断され無い、しかし止血がされずに血がだだ流しの様子から、それが切断されてすぐのものだと分かる。だが当のオークはそれどころではない半狂乱っぷりだ。
 広いと言っても限りあるホール内。オークはすぐに壁際に阻まれ行く手を失う。

「取っでッ!取っデくでエぇぇぇッ!?」

 そしてオークはその場で足踏み、まるで激しい阿波踊りのように跳ね踊る姿を見せる。
 何かを求める泣き声を上げるその顔は、その獰猛さを台無しするまでに惨めに歪み、そして流され垂れる涙、鼻水、涎で塗れている。
 当オークの必死さに反して、端から見れば珍妙なまでのそれ。
 ――そのオークの下半身が、内より爆ぜたのはその瞬間であった。
 先に明かしておこう。オークの尻には隊の装備する手榴弾が、それもピンが抜かれレバーが外れ、爆発まで秒読みのそれがねじ込まれていたのだ。それも両腕を切断され、己ではそれが取り出せない処置まで施されて。
 それがオークが半狂乱で泣き、跳ね踊っていた理由。
 そして無慈悲に手榴弾は起爆時間を迎え、オークの尻の内部で炸裂。内より千切り四散させたのだ。

「……ァ……ぃ……」

 炸裂の結果そのオークは下半身をほぼ失い、胴だけの達磨となって床にドチャリと落ちる。まだか細く鳴いているようだが、それがこと切れるのがすぐであろう事は明らかであった。

「……!」

 飛び込んできたその光景に、鷹幅は絶句。

「……ぅぁ……」

 直宇都に至ってはショックのあまり腰が抜け、その場にストンと尻餅をついてへたり込んだ。

「手のかかる事を」

 峨奈に関してだけは、何か少し違う点に言及。若干呆れを見せながらも、何でもない様子で視線を流す。

「――これはお揃いで」

 そんな峨奈等へ、正面から何か冷たさを含む、そんな一言が飛んできたのはその時だ。

「ッ!?」

 その声を辿り、そして見えたものに。鷹幅はまたも目を剥き驚愕する事となった。
 正面。ホール空間の奥側には、隣室に繋がるであろう両開きの上品な扉があり、そしてそこから今出て来たであろう存在があった。
 先に見えた極めて印象の悪い、険しく陰湿そうな顔立ちの隊員。14分隊分隊長代行の、讐。何か気だるげで、冷たく嘲るような顔が覗く。
 いや、讐自身にあってはいい。問題はその讐の下、讐が〝乗って座るもの〟だ。

「……ぅ……ェぉ……」

 そこにあったのは、紫色の屈強な体。それは町を襲ったモンスター派閥の軍団長であり、先に冒険者の少年少女を甚振り弄んだ、上級魔獣――いや、その成れの果てだ。
 上級魔族は四ん這の姿勢でその背中に讐を乗せ、力無い様子の四足歩行で進まされている。
 よくよく見れば、上級魔獣の四肢はいずれも肘、および膝の先からが切断され。上級魔獣は焼かれた切断面を床に着けて歩かされている。
 その獰猛で恐ろし気な顔面は、しかし暴行を受けたようでボコボコに腫れあがり、見る影も無い。
だらしなく開口した口からは涎がだだ漏れ、覗く内部には、おそらく全てへし折られたのだろう、歯が一本すらなくなっている。
 さらに見れば、上級魔族のその口には何かが詰め込まれ塞がれている。
 明かしてしまえば、それは上級魔族の陰嚢。上級魔獣の子種を含み作り出すはずのそれ。それが上級魔族の口をいっぱいに塞ぎ、その呼吸を阻害し上級魔獣を苦しめていた。
 この事から察せるだろうが、上級魔獣の股間側を見れば、そこにはごっそり掻きこそがれた痛々しい傷跡があり、あるはずの上級魔獣ご自慢のモノも何もが、影も形も無かった。
 ちなみに陰嚢は上級魔獣の口を塞いでいるが、竿にあっては尻に捻じ込まれていた。突き込みたければ、己の尻にでも突き込んで満足していろとでも知らしめんまでに。
 最早、モンスターの軍勢の頂点に君臨していたその面影は、見る影もないまでに無残な姿。


 そう。今この邸宅のホールで行われていたのは。モンスター達を餌食とした拷問、甚振り嬲る惨劇の劇場だ。


「ぅぅ……」
「ぁぅ……」

 加えてその、讐が悠々と乗り座す上級魔獣の両脇を見れば。それに従い追うように、同じく四つん這いの姿勢で進まされる女オークの体が3体程見えた。
 それは先に制刻に襲い掛かるも、心砕かれ投降した女オーク。そして他、生け捕りにされた女オークが二体。
 上級魔獣と女オーク達は、いずれも裸に剥かれてその首に首輪を付けられ、鎖で繋がれ連なっている。ちなみにその鎖は元々モンスター達が捕まえた獲物を拘束するために使っていたものであり、今はそれを己達に着けられるという皮肉な現状となっていた。
 鎖に繋がれ追従する女オーク達は、いずれも籠をその口に咥えさせられている。その中に詰められ見えるは、身の毛もよだつ拷問に使われる器具の数々。あるいは反して、レーションやスナック、飲料などの飲食物。
 女オーク達は仲間であったモンスター達を甚振る手伝いをさせられ、あるいは讐等に使え給仕の真似事をさせられていたのであった。
 その女オーク達はその顔を絶望に染めながらも、同時に讐にどこか媚びるような目線を送り、同時に仲間であったモンスター達に侮蔑するような目を向けている。
 女オーク達は心折られた果てに、讐に媚び靡き、仲間であったモンスター達を蔑むまでに堕ちていた。
 奇しくも、モンスター達が町の住民を陥れたのと似た状況に、今やモンスター達は堕とされていた。


 そして、そんなホール内の光景状況の中で。


 上級魔獣の背の上に優雅なまでに座し、冷たく不気味に笑みを浮かべるは――讐。その姿は、まるでこの場に君臨した絶対的支配者の様相であった。
 他、ホール内には讐指揮下の14分隊隊員の姿が数名見える。各々は思い思いの場所で佇みあるいは座り、モンスター達を冷たく見て、時折手持無沙汰を解消するように甚振る。
 悲鳴を上げるオークやオーガを、嘲る隊員が見える。しかし反してその隊員の声色や眼は笑っておらず、冷たく冷酷。
 そして隊員等は警戒の意識を解いてはいない。
 さらにホールの一角に上がる螺旋階段を辿り見上げれば、中二階には14分隊付随の機関銃班が配置。FN MAGを据えて銃身の突き出し向け、万一のモンスター達の暴動に備えているようであった。機関銃射手の隊員は、こんな凄惨な状況を眼下にしているというのに、シラけた色でチョコレートバーを齧っていたが。
 この光景は、讐を筆頭とする14分隊の手によるものであった。

「や、ヤめデくで……ヤメデくで、お願イだ……!」
「許してくダせぇ将軍のダンナ……だっデ、ヤらねぇとオデが殺されチまぅんだ……」

 そんな14分隊の監視支配の元。
 並べられるモンスター達の中からまた鳴き声が上がる。
 見れば、正座させられ巨体を有刺鉄線で縛られ拘束された将軍級のオークが、泣き叫び許しを乞う悲鳴を上げている。
 その目の前には別の兵級のオーク。見るにそのオークにあっては四肢と股間のモノがまだある。しかし首輪と鎖で繋がれ、さらには何か尻からも紐が伸び、そしてなによりオークのその顔は涙と鼻水で塗れくちゃくちゃだ。
 そのオークの手には、刃こぼれし柄も失った武器としては最早欠陥の手斧が見える。
そしてそのオークは次に将軍級オークの股に頭を突き込むように、四つん這いになったかと思うと――

「――ひギャぁぁぁぁぁっつ!?」

 将軍級オークの獰猛な口から、惨めな悲鳴が上がった。

「……ぁ……ァ……」

 ピクピクと痙攣し、白目を剥きほぼ失神となった将軍級オーク。見ればその股間は抉られ掻きこそがれ、床に血が噴き出し巻き散っている。そして肝心の将軍級オークのモノもそこには見えない。

「ゥぅ……」

 その将軍級オークから、泣き汚した顔で呻きながら這い離れる兵級オーク。その手に握られる肉塊こそ、将軍級オークの、無用の長物と化したモノであった。


 讐筆頭の14分隊筆頭に、モンスター達は甚振られていると言ったが。何も讐等は自らの手で、モンスター達の汚い部分に触れてそれを行ったわけではない。
 それらの汚れを伴うような行為は、全てそれもまた捕縛したモンスター達に行わせていたのだ。
捕縛したモンスター達の中から、無差別に適当にそれをやらせる個体が選び出され。甚振られその精神を折られた上で、まずそのモンスター達は互いの尻に手榴弾を捻じ込む行為を強要された。
 それはモンスター達の命を握り。反抗を見せる、ないし下手を行う様を晒せば、起爆される。実際に先に跳ね踊った果てに爆ぜ屠られたオーク個体が、その例であった。
 身の毛もよだつ残虐で鬼畜なそれ。
 しかしここまで見せつけられたの隊の火力、脅威を前に、その心はすでに折れていたモンスター達は。その上、今も機関銃班の機関銃が上より睨む状況下で、すでに抗う心は完全に奪われ。処刑台の列の一番後ろに並ぶためのように、それを受け入れたのであった。
 今も8~9体のオーク達が首輪と鎖に繋がれながらも、そのために動く事を許され。支配者である隊の命のままに、仲間であるはずのモンスター達を傷つけていた。


「――……ッ!」

 そのそれらの、言葉にする事も憚られる数々の光景に絶句し硬直していた鷹幅は。しかし1分近い時間を要した意識を取り直し、そして踏み出しホール空間を、並べられるモンスター達の間を割って抜け。
 その一見だけでもこの場の惨劇の首謀者である事は明確である、讐へと詰め寄る。

「――讐予勤……!これは一体どういう事だッ!?」

 そして鷹幅はその美少年顔にしかし凄まじい剣幕を作り。本来透る声にしかしドスを聞かせて、詰問の怒号を讐へと叩きつけた。

「ごらんの通りです」

 しかし、相対する讐は。優雅に上級魔獣の背に座すことを止める様子も無く、そんな言葉を返す。怒号を叩きつけられたというのに、その返答の色はまるで駄々を捏ねる子供をあやすかのようなそれ。

「讐予勤、行動の理由経緯を聞いている」

 そんな所へ今度は鷹幅の背後から彼を越えて、そう尋ねる言葉が讐へと届く。
 見れば鷹幅に続き峨奈が歩み来ており、峨奈はまた讐と相対し立つ。

「これが戯れの遊戯だと言うのなら、看過せんぞ」

 前置きを一言挟んでの、峨奈の言葉。静かに、しかし冷たく低い声で紡がれたそれは、圧を込めての忠告のそれ。

「これは、怖い怖い」

 しかし、受ける人が人なら背筋が凍るまでの峨奈のそれに対しても。
 讐は口ではそんな言葉を紡ぎながらも、その色口調はまるで童の癇癪でも見た程度のそれ。そして讐が峨奈に返すは、同様かそれ以上の冷たい目と色。

「――義務を果たしているまでです」

 そして、讐は冷たく。そんな一言を紡いだ。

「何?」

 それに、峨奈は少し予測の範疇外だったのか、微かに訝しむ色で言葉を零す。

「応報の義務です。この町の連中は、モンスター連中の慈悲を期待してそれに降るなどと、頭が弱いにも限度がある愚行をやらかした。慈悲と救いを差し伸べるには値しないが――それでも一応は残虐行為の被害者だ」

 そう紡ぎ、讐は続ける。

「私等はそれに介入した以上、その応報を肩代わりしてやる義務がある。それをもって初めて事態は終結と認められる。私はそのための行動を遂行したまでです」

 はっきりと、当然の行動と言うように。讐は引き続きの冷たく、そしてどこか不気味な色で、静かに告げて見せた。

「だからって……こんな、ここまで……ッ!」

 しかし鷹幅は到底受け入れられないのか、続く言葉を探している。

「残虐と暴虐には、それを越える撃滅を――」

 そんな鷹幅に、讐は畳みかけるようにそう一言を発した。

「……穢したわけではあるまいな?」

 一方の峨奈はそれに異を唱えることはせず、また冷たい色でそんな問う言葉を紡ぐ。そして同時に、足元で四つ足で這い。讐にそして峨奈等にまで媚び慈悲を求めるような上目遣いを見せる、女オーク達を見降ろす。
 言葉は、女オーク達に対して欲望にかまけた行いをしていないかを問うもの。

「冗談を。私はしっかりと用意された、上等な品しか嗜まない。拾い食いのなど願い下げです」
 
それに対して讐は、嘲る口調で。しかし同時に笑っていない視線を峨奈に返し、そんな回答を返した。
 その言葉を最後に、会話は途切れ。
 ホール中に響くモンスター達の悲鳴や呻き声を背後に、讐と峨奈等の間に冷たい空気が走る。

「――何事です」

 そんな空気を。しかしまるで察し読まずに割る様に、重低音での独特な声色が飛んできたのはその時であった。
 讐、そして峨奈等の視線はそれを辿り、邸宅のホールの玄関口を見る。
 そこに現れ立ち構えていたのは、他でもない制刻であった。

「あぁ」

 その制刻はと言えば、凄惨という言葉でも足りないホール内の光景を視認し。しかしだというのに、まるでつまらない物でも見たかのような、淡々とした一言だけを零す。
 ちなみに制刻は、峨奈や鷹幅、直宇都等の指揮官クラスが少し慌てこの邸宅に踏み入っていくのを見止め。物見雄山感覚でそれを追ってここを覗きに来たのであった。

「創意工夫を、凝らしたな」

 そして制刻は、ホール内の凄惨な光景を前に、しかしそんな悠長とも言える表現の言葉を紡いで見せた。

「お前と違って、私は表現を大事にするんだ」

 そんな制刻に、その創意工夫の体現者である讐から、皮肉気な言葉が飛ぶ。

「――制刻予勤。直宇都二尉を、どこか休める所にお連れしろ」

 そんなやり取りを阻み、咎める色を口調に見せつつ、峨奈から制刻に言葉が飛ぶ。

「あん?あぁ」

 そこで制刻は峨奈の視線を辿り、そこで初めて玄関口の傍、自分の隣でへたりこんで腰を抜かしたままの、直宇都の存在に気が付いた。

「ったく。了解」

 その直宇都の姿から経緯理由に察しを付けた制刻は、呆れた口調で一言零し。そして峨奈に指示を了解する声を返す。

「おい、まさか漏らしてねぇだろうな?」

 そして制刻は、へたりこむ直宇都にデリカシーを鼻で笑うまでの確認の言葉を掛けつつ。直宇都の迷彩服上衣の背中を摘まみ、直宇都の体を片手で易々と持ち上げる。

「だ……だれが……」

 その失礼極まりない言葉に反論しようとした直宇都だが。彼女は未だショックから回復し切れていないせいか、続く文句の言葉を組み立てられずに、一声漏らすだけで言葉尻を濁す。
 そして直宇都は制刻の小脇に抱えられ、先んじて邸宅から退去していった。

「――讐予勤、君等の行動理由には一理あるようだ。しかし、今はそれは優先し時間を割く事ではない」

 それを見送る視線を早々に戻し、峨奈は讐に向けてそう言葉を紡ぐ。

「――お開きにしろ。命令だ」

 そしてホール中に、各隊員に届くよう、冷たくも張り上げられた声で。峨奈は命じる言葉を発し響かせた。

「ハッ、だそうだ」

 讐もそれに異を唱え程ではないのか、何か皮肉気に発し。そしてホール内各所に思い思いに居座る14分隊隊員等に呼びかける。
 それぞれを受け、14分隊は緩慢に気だるげな様子で、しかし呼応し動き始める。
 それは、今の惨劇のお開き――モンスター達への〝処分行動〟の開始であった。
 そして銃声や肉を裂く音が、そして命乞いの叫び声が響き出した。
 それは14分隊各員がそれぞれの装備火器をもって。並ばされるモンスター達の間を縫って周り、そして銃弾を撃ち込む。ないし銃を使う程でなければ、鉈などを叩き込んでモンスター達を屠っていく行動の音。
 そして突然の処分を前に、助命を求めるモンスター達の絶叫、泣き声。
 しかしそれもすぐに収まった。
 30体ほどしかいなかったモンスター達を仕留め処分するのに、さほど時間はかからず。ホール内には静寂が訪れ、そして床にはモンスター達の屍が転がり、悪趣味な絨毯として彩った。

「――14分隊は捜索行動に合流するように」

 ホール内のその処分行動が完了した事を、視線を流して認めた峨奈は。それ以上咎める、論を交わすなどをすることはせず、隊員等にこれ以降の行動指示だけを冷たく端的に告げる。
 それを聞いた14分隊の隊員等は、やれやれと言う様な気だるげで各々のペースを崩さぬ様子で、バラバラと行動に移っていく。

「ハッ」

 讐も、気だるげな溜息を尽きながらも、立ち上がり体を軽く解す姿を見せている。
 その足元には、沈み転がる上級魔獣と女オーク達の屍。
 いずれも、今の讐の手中にあるナガン・リボルバーにより、その後頭部を撃ち抜かれて最期を迎えたものであった。

「ッ……この事態は……彼等の耳には入れるな……!」

 そんな所へまた声が響く、それは鷹幅の物。
 彼等とは、ジューダ等ユーティースティーツ部族を示すものだ。町を襲ったモンスターとは相反する敵対関係であり、隊にとっては味方であるジューダ等。
 しかし曲りなりにも同種族、近い種族であるモンスター達の甚振られ屠られたこの事実が、彼等にとって好意的に映るはずが無い。
 最悪いらぬ溝を生む。
 それを考え、配慮他を考えての。鷹幅から14分隊各員への命ずる言葉であった。
 そして発した後に、鷹幅は引き続きの剣幕で、ツカツカと讐に詰め寄る。

「――この事は、上に全て報告するッ」

 そして叩きつけるように、そう告げる言葉を讐に発した。

「どうぞ、お好きに」

 対する讐は、また嘲る口調と、しかし笑わぬ眼でそれを止めはしない旨を返した。
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