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チャプター2:「凄惨と衝撃」
2-17:「異種の味方&恐怖の敵&超常的ヤツ」
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場所は、町の中央より少し東寄りを、南北に縦断する町路――先に峨奈率いる第3分隊が担当していたブロックへ。
現在はその町路上を、その役割を第3分隊より引継ぎ分離した3名と1機――他ならぬ制。そして敢日にGONGと、新たに加わったオークのジューダが歩み進んでいた。
「――あれは……ッ!?」
内のジューダは、驚愕の様子で上空を見上げている。
その視線の先に在るは、高速で上空を翔ける飛行体――F-1戦闘機。
今は一番機と思しき一機が先行し旋回の軌道を描き。少し距離を放して二番機が続き、追って旋回に入る隊形行動を見せている。
ジューダの驚愕はむろんの事、突如として轟音を響かせ町の上空に姿を現した、異様で正体不明の飛行物体を目撃してのものであった。
「大丈夫だ、心配無ぇ。ありゃぁ、俺等の身内だ」
そんなジューダに掛けられる、独特な重低音での説明の言葉。その主は制刻だ。
ジューダの少し先に立ち、紡ぎつつ同様に上空のF-1戦闘機隊を見上げ追っている。
「身内……あれも君等の味方だと?」
「あぁ。この町が予想よりも面倒事になってたからな、応援に寄こされたらしい」
ジューダは視線を降ろし制刻を見て、少し戸惑う色で言葉を返す。それに制刻はまた答え、補足の言葉をさらに紡ぐ。F-1戦闘機が出撃し飛来した理由経緯については、制刻等にも今しがた野戦指揮所より通信連絡が寄こされ、説明された矢先であった。
「――ッ」
そんな制刻とジューダの一方。敢日は、その視線を二名とは別方へと向けて、顔には難しい色を作っている。
その敢日が流す視線が見止めるは、町の各所より上がる煙。そして、町の各方より聞こえ来るは爆音や銃撃音が絶え間なく響き届いている。それ等は、少し前の自走迫撃砲のからの砲撃に始まり、各隊の多種の重軽火器が唸り。そして極めつけはF-1戦闘機の航空爆撃が生み出し、今も響き上げ続けるもの。
もしかすれば。いや事前に聞いていた忠告から高確度で、町や住民を巻き込む事も厭わぬ姿勢で始められたであろうそれ等に。
敢日は難しい心情を作り、それを顔に険しい色で表していたのだ。
「見物してばかりも居られねぇ。俺等も、行程を進めるとしよう」
しかしそこへ、制刻の促す言葉が寄こされる。
「あ、あぁ」
「……オーケー」
それにジューダはまだ戸惑い残る色で。敢日は少し浮かない様子で、了解の言葉をそれぞれ返す。
そして3名と1機は進行行動を再開。また町路を北に向かって歩み進み始めた。
「――ッ。止まってくれッ」
ジューダが唐突に制止の声を上げたのは。それから少し町路を歩み進んだ所であった。
「どうした?」
振り向きジューダに尋ねる制刻。そのジューダは、少し難しくも何かに気付いた様子で、周囲へ視線を向けている。
周囲の地形環境は、それまでまっすぐ進んでいた町路が、西方へくの字90度の曲がり角を描いている。
「愛芽通り……この辺りに、フケンの住居があるはずだッ――」
ジューダはその一帯の一か所にある、その町路通りの名称を現す看板を見止めながら。そんな言葉を零す。
続けジューダから述べられた補足説明によれば。
その人物は先に保護回収したサウセイ同様、密かにジューダの一族との交流を持つ人物。そして抵抗を諦めずに子供達を連れて、町のどこかに身を潜めているはずの一人であるとの事だ。
その人物の住居が、ジューダが当人から聞いた記憶によれば、この近辺であるとの事であった。
「成程」
「そりゃぁ、チト調べとくべきだな……ッ」
ジューダの説明に、制刻は零し。続け敢日は、住居を調べ捜索する必要がある事を言葉にする。
「んじゃ、ちょいとお邪魔するか」
そして制刻はまた発し。時間も惜しいと行動をに映る。
3名と1機は近場の家屋の一件の、その玄関口より進入突入。周辺家屋の捜索行動を開始した。
制刻等は建物家屋内へと進入し、手分けして生存者の捜索を開始。
「――ッ、酷いな……」
一軒の家屋内の一室。ネイルガンを構え警戒即応の態勢を取り、視線を各方へ向けながら進む敢日の身がある。
そしてその動作を取りつつ、敢日呟く。家屋内はこれまでの御多分に漏れず、引っくりかえされたように荒らされていた。
「フケン!ネンエル!ドゥクフレイさんッ!居たら返事を!」
敢日が隣室とを繋ぐドアを潜った所で、響き聞こえたのは重低音のしかし急き焦れるような、名を呼び訴える声。
隣室には、室内に視線を走らせ、発し上げるジューダの巨体があった。
その声で呼ばれた名前等は、いずれもジューダと交友のある町の住民のもの。それを口にしたジューダのその厳つい顔には、しかし険しくも焦る色が浮かび上がっていた。
「……ッぅ」
発し上げ呼びかけたジューダの声にしかし返答は聞こえず。ジューダはその顔により苦い色を作る。知る人々を本気で心配し、急いているのであろう様子が嫌でも伝わって来た。
「……大丈夫さ、抗う事を諦めない人々なんだろう?きっとどこかで身を潜めて無事でいるさ、信じよう」
ジューダのその姿を見た敢日はそんな言葉を送る。ジューダと交友のあるその人々は、いずれも生きる事を諦めずに逃げ隠れているらしい。それを信じ希望を持ち続ける事を促す物。
はっきり言って気休めであったが、ジューダの焦り不安を抱く姿を前に、敢日は言葉を掛けずにはいられなかった。
「あぁ……そうだな、すまない」
掛けられたそれに、ジューダもまだ不安心配の様子は消える事がないながらも、同意と礼の言葉を返す。
「よし、捜索を続け……――ッ!」
「ッ!」
そして捜索行動を再開しようとした、しかし直後。
敢日、そしてジューダは、同時に気配と物音を察知した。
出本は近場にあった窓の向こう、屋外。数は複数、多数。
敢日とジューダはそれぞれ窓の近くの壁際に取りつきカバー、外部からの死角の部分にその身を即座に隠す。
「……」
そして最低限視線を出して、窓の外を観察する敢日。
その向こう。家屋に面する町路に見えたのは、オークの一群であった。
どこかへの増援か、あるいはパトロールか。雑な隊伍を組んで進む様子を見せている。そして内の何体かは、窓の向こうすぐ側を通り、時折窓からこちらを軽く覗き見ながら通り過ぎる個体もある。
「……――」
敢日とジューダは視線を一度合わせ。息を潜め殺し、外の一群をやり過ごす事を狙い、通り過ぎるのを待つ。
しかし。
瞬間。窓の向こうにガシャっと音を立てて何かが取りつき。そして荒々しい吠える鳴き声がこちらに向けて飛び出した。
それはかなり大型の犬、いや狼か。それに類した生き物。先んじて明かせば、それはワーテウルフと呼ばれる、大型の狼に類した魔獣。
オーク達が番犬、軍用犬代わりとして飼い慣らし連れているそれが、家屋内に潜む存在を嗅ぎつけたのだ。
「ナんだッ、何が居ルッ!?」
ワーテウルフのそれを受け、近場に居た一体のオークが窓より内部を覗き込む。
「!、居やガる、隠れてヤがるぞ!オイ、ここに――」
そしてそのオークも、内部に潜む敢日やジューダの存在に気付く。そしてオークはそれを仲間に知らせるべき、声を発し上げ掛けた。
「――ぎェひッ!?」
しかしオークのその言葉は紡ぎ切られる前に、妙な悲鳴へと変わった。ほぼ同時にガラスが盛大に割れ砕け散り。そして吠え叫んでいたワーテウルフもまた、それを「ギャウッ」という悲鳴に転じさせ、窓の向こうでもんどり打つ。
見れば敢日の手には突き出し構えられたネイルガン。それより撃ち出された釘群が、オーク達を屠ったのだ。
「ッ、見つかったかッ!」
「ここをッ――」
発見された事に、ジューダが苦い色で発し上げ。同時に敢日がここよりの離脱を促そうと、言葉を発しかける。
しかしそれを遮る様に。
窓際で突如として大きな発火現象が巻き起こり。いくらかの衝撃と破壊、そして赤々とした光と高熱が襲い来た。
「ッ!?」
「ぅぉッ!?」
敢日とジューダは咄嗟に窓際より飛び退き、床に突っ込み倒れる。
微かに体に走る痛みを無視して、すかさず顔を起こし見れば。窓際は窓縁はじめ各所に火が付き燃え、損傷していた。
「ッぅ……――ここを離れるぞッ!」
具体的なそれの正体は不明だが、それがオーク達からの攻撃である事に関しては疑いようがない。
敢日は改めてジューダに訴える言葉を発し上げ。そして二人は身を起こし、その場よりの離脱逃走を開始した。
飛び出すように二人が窓際を離れた直後。ガラスの割れた窓より、さらには壁を貫いて。いくつもの矢撃や魔法攻撃であろう鉱石の針が、屋内へと注ぎ襲い来た。
敢日とジューダはそれに追い立てられるように、その一室の扉を駆け潜り、隣室へと逃れる。
しかし当然か、その隣室にも流れスライドするように、同種の攻撃が注がれ窓や壁を貫通し襲い来る。
そしてさらに。先の火炎現象攻撃の二発目が、近場の窓に叩きつけられ、窓ガラスを割って高熱で二名を襲った。
「ッ、火の弾なのかッ!?」
「中級のフィルエ・ベイル!マギエ・オークがヤツ等の中に居るッ!」
先行する敢日が駆け逃げ、また扉を潜りつつ。襲い来る火炎現象に推測の言葉を発する。それにジューダが答える。襲い来るそれは、魔法を使えるオーク個体が繰り出して来る火炎弾攻撃であった。
「数も多かった、自由と合流したほうがいいッ!」
「承知だッ!」
先に見えたオーク達の数から、先に制刻やGONGと合流すべきとの判断をしつつ。敢日は閉じられていたドアを蹴破り、さらに隣室へと逃れ踏み込む。
駆ける二名の背後よりは、追いかけるように壁を貫き矢や鉱石の針が、壁を貫き襲い。一定間隔で火炎弾が飛来して高熱でこちらを煽る。
「上に上がる、階段を上るッ」
さらに踏み込んだ隣室の端に、上階へ続く階段を見止め。敢日はジューダに促し発する。そして直後には階段に到達し、脚を駆けて駆け上がり出した。
「自由、聞こえるか!モンスターの一体に遭遇、追われて色々ばら撒いて来てる!合流してくれッ!」
階段を駆け上がりながら、敢日はヘッドセットに張り上げ通信を上げる。相手は別所で行動中の、他でもない制刻。
《見えてる、騒いでる連中をこっちからも確認してる。すぐに向かうから気張れ》
「頼むッ!」
制刻から帰って来たのは、向こうからもこちらの状況を視認掌握している旨。そして合流まで持ちこたえる様要請する言葉。
それに端的に返しながら、敢日は階段を上り切り上階へと出た。
「――ッ!」
上階へ踏み出て、視線を走らせ一室内を掌握する敢日。
しかしその暇も一瞬。一室内の反対にある別のドアが、向こうより荒々しくけ破られた。そして現れたのは、一体のオーク。
「見つけタッ、居やガ――ギョぅッ!?」
そのオークは敢日の姿を見つけ、発し上げ掛けた。しかしそれは紡がれ切る事も無く、オークの声を遮る様に上がった金属音と同時に、悲鳴へと変わる。
オークの相対遭遇と同時に、敢日は構えていたネイルガンを即座に撃ち、オークの頭部を貫き屠ったのだ。
「居たゾ!」
「殺セ!」
しかし扉の向こうには、さらなるオーク達の体が見える。
「後ろだ、反対だッ!」
敢日は背後に視線を向け、そちらに別の扉を見つけ、それを逃走経路と判断。続くジューダに発し知らせながら、身を翻してそれを目指し駆ける。
「オラァァッ!」
そんな二名の元へ、一体のオークが走り迫って、己を振り襲い来る。
「――ゲぁッ!?」
しかしそのオークは、敢日に続き身を翻す途中のジューダに。その彼より振るわれた鯨包丁のような鉈にバッサリと切られ、真っ二つとなり退けられ、床に転がされて鮮血をぶちまけた。
ジューダはその屠ったオークにはそれ以上見向きもせず、敢日を追い。そして二人はまた隣室へと踏み込む。
――そんな瞬間の二人を、衝撃が襲った。
「――ぉわッ!?」
襲い来たのは衝撃と高熱。〝何か〟が家屋の屋根を突き破り破壊し、屋内へと叩き込まれ落ちたように見えた。
襲い来たそれらの現象と。反射的な回避避難行動の意図から、敢日はほとんど吹っ飛ぶように、床に身体を投げ出し回避姿勢を取った。
続くジューダも、その身を低くし腕で身を庇う。
「――ッ!?」
直後にすぐさま身と視線を起こした敢日。その彼の目が見たのは、大穴の空いた家屋一室の天井、そして床。さらにその周囲は火が伝い燃え、あるいは焼けこげていた。
「んだこりゃ……隕石……ッ!?」
「ミテュア……初級だがミテュアだ!星を落とす魔法だッ!」
驚愕の光景に、敢火は目を剥きつつも推測の言葉を零し。続けジューダが、その正体を明かす言葉を同様に驚く色で零す。
「隕石って……――ッ!」
さらに驚愕を現す声を零しかけた敢火。
しかし直後。敢日の目は視界の端に、揺らめき光る何かを見る。それを辿り敢日は、そしてジューダは真上を見上げる。その先、大穴の空いた天井からその向こうに見えた大空に。赤々と燃えながら降下して来る物体――隕石が。魔法で生み出されたであろうそれが見えた。
「冗談……――」
最早乾いた笑いに近い声で、呟いた敢日。
「――窓だッ!」
続けジューダが促し示す言葉を発した瞬間。両名は跳ね上がる様に身を起こし、あるいは床を踏み切り。家屋の壁際の窓へ、ほぼ飛ぶように駆けた。
「飛べェッ――!」
ジューダは張り上げ。同時にその巨体を持って体当たりを敢行、窓を周りの壁ごと破り破壊。
破られた壁際の開口部より、二人は宙空へと飛び出す。
直後――降下して来た隕石が天井の大穴を抜け、家屋内へと直撃。巻き起こった衝撃と炎が、二名の背後で巻き上がり広がった。
「ッぅ!」
後方背中より襲う熱と衝撃に顔を顰めながらも。敢日とジューダは宙空を降下。
「――ヅッ!?」
「――ぐォッ!」
咄嗟の退避行動の先であったため、満足な受け身の態勢を取る事は敵わず。二名は気休め程度の受け身態勢で地面に叩きつけられるように着地。その体を少なからず打ち、地面を転げあるいは滑った。そして家屋の破片がバラバラと降り注ぐ。
「ッゥ……!」
落ちた周囲には、家屋に囲われた小さな広場空間。
少なくない痛みに苛まれつつも。まだ敵中である状況下で、すぐさま態勢を復帰させようと体に鞭打つ敢日。
しかし、彼の意思に反して身体は痛みを訴え動きは緩慢。思うように動かない。
「イやがっタぞッ!」
「こっチだッ!」
そんな所へ。聞きたくはなかった、荒々しく明らかな害意の込められた声が響き聞こえる。そして視線の先、家屋の間の小道より、複数体のオーク達がワラワラと沸き出て来た。
「ニンゲンと、裏切りモンだッ!」
「ふざけやガって、焼き殺しちマえッ!」
憤慨した様子で、両名を遠巻きに囲いだすオーク達。その中には、少し趣の異なる装飾の個体もいくつか見え、そしてその異なるオーク達の手には、1m程の火の玉が生み出されている。おそらく先にジューダが説明した、魔法現象を扱うオーク個体であろう。
「ッ――!」
まずい――全身がそう危機感を訴え、敢日は自身の手中にあるネイルガンを、突き出し構えようとする。しかし敢日の完全ではない緩慢な動きよりも早く。魔法を使うオーク達は炎の玉を保持する腕を振るい上げ、敢日等を焼くべくそれを放とうとした。
「――ッ゛ェッ!?」
――しかし。その魔法使いのオークの内の一体が、何か妙な悲鳴を上げると共に、吹っ飛ぶように崩れたのはその時であった。見れば、そのオークは何か細めの杭、いや太い矢か。そんな物にその頭部を貫通されている。
「ギェァッ!?」
「ナ!?――ビェェッ!?」
それを皮切りに。敢日とジューダを取り巻いていたオーク達は、次々に倒れ――いや、射抜かれ始めた。いずれも細めの杭のような矢にその身を貫通され、崩れ倒れてゆく。
「な、何ダよ、こ――ギャゥァッ!?」
さらに極めつけは。狼狽する一体のオークが悲鳴を上げて、真っ二つになり鮮血を噴き出し、そして崩れる。
オークが崩れ落ちたその背後にあったのは、オークを越える巨大な存在。
身長は3m近く。筋肉を蓄えたあまりに太い腕に脚、そして妊婦のように出た肥満腹が特徴の――トロルであった。
その手には、ジューダが持つものと同じような、鯨包丁のような鉈。
さらにその背後、その広場空間の向こう奥から。バラバラと複数の大きな人影が現れ、散開しながら駆けてくる。
それは、なんといずれもオークであった――
新たに現れたのは、いずれもまたオーク等であった。
その手に少し大ぶりの鉈や。人の扱う弓の倍の大きさはあり、杭のような矢を番えたそれを持ち装備する様子を見せている。
様子から、敢日等を囲っていたオーク達を屠り排除したのは。そのまた別のオーク等のように見えた。
「こりゃぁ……――ッ?」
危機を脱した事、そして新たに現れたオーク等にそこを救われたらしき事を微かに推察しつつも。敢日はその身を起こしつつ、しかしまだ疑問の多々抱く色を見せ、呟く。
そんな敢日等の元へ。現れた新たなオーク等――正確に内訳を言えば、6体のオークと1体のトロルの内から。一体が進み出て、こちらを観察する様子を見せつつ近寄ってくる。
そのオーク個体は、見るにメス――いや女のようであった。
その身長は、男オークより引けを取るが2mに近いか越えている。肌はオークを現す緑色。腕や足、そして腹には逞しい筋肉を纏わせている。
しかし胸には、軽防具に覆われながらも豊かさの覗く乳房が見え。何よりその緑肌の顔立ちは、口に覗く八重歯で猛々しさを感じさせながらも、しかし人の価値観で見ても整い端麗な物。釣り上がった目尻の目もまた美麗で、それらは長いポニーテールを形作った白髪の髪型で彩られていた。
「――……ジューダ?――ッ!皆、ジューダだよッ!」
少し警戒し、そして敢日等を確かめ観察するように覗き歩み寄って来た、その美人と表現できる女オークは。内のジューダの存在、正体に気付くと、そのポニーテールを靡かせて振り向き、背後周囲のオーク等やトロルに向けて、発し上げた。
「ッ!ジューダか!」
「マジか、ホントか!」
女オークのその訴える声に。周囲の展開し、警戒の姿勢を見せていたオーク等も、こちらに注意を向けてそして驚きの色を見せる。
「ジューダッ!」
そして女オークと、今しがた敵対するオークを真っ二つにして見せたトロルが。ジューダの元へと駆け寄った。
「サウライナス、ハープンジャー……――ッ。みんな、来てくれたのか……!」
女オークとトロルは、ジューダに駆け寄って手を貸す動きを見せる。そんな女オークとトロルに、ジューダはおそらくその二名の名前であろう名を口にしながら、続き驚く色を見せる。
「君、大丈夫か?」
さらに敢日の方にも、また別のオークと女オークの二名が歩み寄って来て。そして内のオーク――厳つい顔に対して違和感を覚えてしまう、片眼鏡(モノクル)を付けているその彼――は、案ずる言葉を掛けながら手を貸してくれた。
「あぁ……すまん、ありがとう」
唐突な、予期せず目まぐるしく一転した事態に戸惑いつつも。敢日はその差し出された手を受け取り、立ち上がりつつ礼の言葉を返す。
「もぉッ!一人で行くなんて……心配したんだよッ!今だって危なかった、分かってるのッ!?」
「まったく、君はいつも無茶をする……ッ」
そんな傍ら背後では。ジューダがサウライナスという名らしい女オークや、ハープンジャーという名らしいトロルから、心配され同時に叱られている姿を見せている。
「すまなかった……しかし町の様子から、黙って見てはいられなかったんだ」
そんな二名にジューダは謝罪し、しかし同時にそんな説明の言葉を紡ぐ。
「だからって……――もうっ……」
サウライナスはさらに言葉を発し上げようとしたが。しかし何か難しい色をその端麗な顔に作り、そして「これ以上は責められない」と言ったように溜息交じりの一言を吐いた。
「――所でジューダ、こちらは?町の人ではないようだが」
そのやり取りが一区切りした様子の所へ。先に敢日に手を貸してくれた方眼鏡のオークが、敢日に視線を流しつつ、ジューダに向けて尋ねる言葉を送る。
「あぁ、ロードランド。彼は――」
そのロードランドと言う名らしい片眼鏡のオークに。ジューダは一緒にあった敢日を、紹介説明する言葉を紡ごうとした。
――しかし。
それを遮り阻むように、その広場空間の一角で、衝撃と破壊音が響き上がった。
「ッ!」
「なにッ!?」
敢日。そしてジューダ始めオーク等各々の視線が、一斉に音の発生源を向く。
発生源は、家屋に囲まれる広場空間の西方の一点。その個所を隔てる石造りの壁が、向こうより吹き飛ばすように破壊され崩されていた。
そしてその向こう様に湧き出るように現れたのは、複数体のオーク。その様子から間違いなく敵性のそれ。
そしてそのオーク達を従えるように現れ出て来たのは、巨大な存在。
トロルに並ぶ、3mに達するかと思しき身長に、赤黒い肌。全身を覆う鍛え上げられた鎧のような筋肉。その見た物の恐怖感を煽る獰猛な顔の、その額には二本の角。
「ッ……オーガッ!?」
それを目の当たりにし、サウライナスが代表するように、険しい声色でその正体を紡ぐ。
「連中の、将軍級か!?」
さらにトロルのハープンジャーが、そんな推察の言葉を発する。そしてそれは的中していた。現れたオーガは、町を襲ったモンスターの軍勢の中でも、将軍クラスに値する存在であったのだ。
「オぉォ、いぃたいたァ。ネズミ共がいタぞォっ」
そんな、恐ろしさを体現したまでのオーガは。
破壊した石壁を乗り越え踏み入ると。その空間で展開隊形を取っていたジューダ等を見つけ見降ろし、そしてその獰猛な顔に身の毛のよだつまでの笑みを浮かべて発する。
「小賢しいヤツ等だァ、せいぜいブっ潰すのを楽しませてモらうゼぇっ」
続け発するオーガ、それはまるで獲物、玩具を見つけ楽しみにするようなそれ。
「ッ、自分が――!」
「ダメだッ、あれは危険だッ!」
そんな明確な脅威であるオーガを前に。トロルのハープンジャーが自分が対応に出る旨を名乗り上げるが。しかしジューダは相手の脅威度を測り、腕を翳してそれを止める。
「安心しろォ、皆まとめて楽しんでヤらァッ!」
しかしオーガはそんなジューダ等を一笑し。そして獲物を嬲り楽しまんと、その大きな一歩を踏み出そうとした。
――衝撃が起きたのは、その瞬間だった。
オーガの側面。そこに建つ家屋の壁が、その内よりまるで爆薬の起爆でもあったかのように、吹き飛び崩壊。
家屋の破片が吹き飛び巻き散り、砂煙が上がる。
そして、家屋の壁に空いた大穴より――ヌラッ、と。姿を現す存在、影が見えた。
「ッ――!」
真っ先にその正体に気付いたのは、敢日。
衝撃的な演出に合わせて、悠々とした動作で踏み出て姿を現したその存在は――他でもない誰でもない、制刻であった。
「――アぁァ?」
制刻は、悠々とその状況でも自分のペースを崩さぬ姿で、歩みそしてオーガの前へと立つ。
そんな制刻の登場に、オーガは訝しむ様子でその姿を見降ろす。
「んダぁ?こいつァ?ヤツ等の味方かァ?」
さらに零すオーガ。その様子は、己のこれからの狩りを阻害されたせいか、少し不機嫌そうだ。
「まずテメェから潰されてェってかァ?――ガハッ!いいぜェ――お望みどおりにしてヤラぁッ!」
そのオーガはしかし直後には、獰猛に笑い上げ――そして目の前の制刻をまず潰さんと、その太く逞しい腕を、拳を。凶悪なまでの勢いで腕力で振るい降ろした。
――トスッ、と。
微かな、何かが触れるような音がわずかに上がり聞こえたのは、その直後。
「――ハ?」
続け、そんな呆けるような声を漏らしたのはオーガ。
「――え?」
さらに、制刻がオーガに潰される事は避けられないと、覚悟していたジューダ始めオーク等の内の。誰かから声が上がる。
制刻を潰さんと振り下ろされたはずのオーガの腕っぷしは――しかしその目的を成せてはいなかった。
そのはずだ。オーガのその腕は、制刻の翳したその片腕の手の先で、〝受け止めらていた〟のだから。
「ナ――……アぁ……ッ!?」
そこでようやく、オーガは事態を理解する。
オーガの振り下ろした拳は、制刻の右片手の手先で。それも正確には、制刻の三本の指の先のみで、意図も容易く受け止められていた。
「ハ……!?ナん……ふざケ……ッ!?」
それまでの加虐的な笑みを一転させ。明らかに狼狽する様子で、己の腕を動かすことを試みるオーガ。しかしオーガの腕はそれ以上先に進む事はない、どころか持ち上げ引く事すら敵わない。
オーガの強靭な腕は、しかし制刻の指先のみで、完全にその動きを封じられていたのだ。
「テメぇッ……!フザけ……――ギぃッ!?」
獰猛に牙を剥き出し、制刻に向けて吠え上げようとしたオーガ。しかし直後、そのオーガの口から濁った悲鳴が漏れた。その理由は、オーガの脚に走った衝撃と激痛。
見れば、制刻の突き出した片脚が。それの成した脚撃が、オーガの強靭な脚を、しかし小枝でも折るかのように折り崩していた。
「ガっ……!?」
オーガの脚は、体勢はそのまま崩れ折れ。地面に膝を着く。
「ナッ……コのヤ……――ウごッ!?
さらに事態は動き、オーガにとっての驚愕は立て続く。
オーガの視界は唐突に何かに遮られ、そしてオーガの顔を妙な圧されるような感覚が襲う。
見ればなんと。制刻はその持ち前の独特の、人間離れした尖り大きな左手で、オーガの顔面を鷲掴みにしていたのだ。
「テメッ、放……い゛ッ!?」
抵抗に身を捩り、荒げた言葉を発そうとしたオーガだったが。直後にオーガの口からまた妙な悲鳴が上がり、さらにオーガの頭は沈み、低い位置に下がる。
また見れば。制刻は掴んだオーガの頭を、そのままさらに左片腕の腕力の身で、抑え押し込み。オーガの体をさらに強制的に沈め、さらには無理やり両膝を着かせて跪かせ、正座の姿勢に落とし込んでいた。
オーガはもう片手でも制刻の腕を掴み、その両腕を持って制刻の手を引きはがそうとするが、オーガの剛力をもってしても制刻の腕はびくともしない。
「ぎァ……デめェ……ぶっコロして……」
ここまでコケにされ、屈辱に怒りの感情を煮えたぎらせ。オーガは害意の言葉を吠え上げようとした。
「――ェ……ヒッ!?」
だが。しかし。
直後、一転して。そのオーガの口からは、その獰猛な声を無駄にするまでの、無様を体現したまでの悲鳴が上がった。
オーガの目は、今は己を鷲掴みにする制刻の指の隙間越しに。今は正座に沈められ、己より高い位置にある制刻の顔を見たのだ。
そこに在り見えたのは――あまりにも恐ろしい存在。
オーガを見降ろす、生物の本能的な危機感を、不安感、嫌悪感をを揺さぶる、歪で不安定な造形の眼。
制刻のそれが、魔物の中でも上位に君臨するオーガを、しかし子犬のように怯え震わたのだ。
「ぁ……ァ……ぎひッ!?」
制刻の眼を前に、恐怖にか細い鳴き声を漏らしていたオーガは。しかし直後に、その獰猛な口からしかし痛々しいまでの悲鳴を上げた。
オーガの顔面を襲ったのは、圧迫による痛覚。耳をすませばギリリ、ミシシというオーガの頭骨が軋む音が聞こえる。
「ぁッ……ぁぎ……!ゃべ……ゅりゅ、ひへっ……っ!」
圧迫による痛みは徐々に強くなり、オーガはまた悲鳴を漏らし。最早上位魔族のプライドも、恥も外聞も無く、懇願の声を上げる。
しかし無慈悲にも制刻の手は圧迫を止めず。
「ぁっ……ァッ……ぎぇあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っッ!??」
ついに圧迫による痛みは激痛の域へと到達。オーガの頭骨は鳴ってはならない音を鳴らし、そしてオーガの獰猛な口はしかし涎と泡を漏らして、家畜の最期のような絶叫を上げる。そして――
「――あ゜ッ」
パァン、と。オーガの頭部は、熟れた果実でも潰すように、制刻の手によって圧し潰され、砕かれた。
頭部を形成していた頭骨の欠片や、脳漿に眼球が、歯などが綺麗なまでに弾け四散する。
そして頭部を潰され失い、支えを失ったオーガの巨体、上体は。グラリと後ろへと倒れてズシリと地面に沈み、動くことは無くなった。
当初、まるで絶望を体現したかのように出現した恐ろしき魔物であるはずのオーガは。しかしそれを悠々と超える怪物である制刻の登場を前に。噛ませ犬を絵に描いたような、無様な末路を迎えたのだった。
「――デケェだけだったな」
そこで制刻はこの場に現れて始めて、いつもと変わらぬ淡々とした口調で。オーガだった首なしの巨体を見降ろしつつ、そんな無遠慮に評する一言零す。
「遺跡ん時のベイルサークに比べりゃ、チワワだな」
続け、先日の遺跡で相対した驚異的な生物。ベイルサークを思い返し、それと対比しての評価を零す制刻。
「ハ?……う、ウワあああッ!?」
「だ、ダンナがぁ……っ!?」
一方。制刻の周りではいくつもの狼狽の声が上がった。
それはオーガと共に現れた取り巻きのオーク達。オーク達は自分達の頭、指揮官であったオーガが屠られた事実。そして目の当たりにしたその凄惨な末路に、動揺――というよりほぼパニックに陥ったのだ。
「こ、コノ……!」
内の一体が、まだ戦意を残しているのかそれとも自棄か。クロスボウを構えて制刻に向けようとする。
「――ギェぁッ!?」
しかし、そのオークからもまた悲鳴が上がる。
そして見ればオークの体は宙に浮かび、その胸からは先端の尖った金属の杭のような物が突き出ていた。
オークの背後に目をやれば、そこには異質で巨大な人型の機械――そこに在るは自立型ユニットのGONGの姿。そのGONGのアームより展開された、チタン製の白兵戦用バヨネットが、オークの身を背中から貫いたのであった。
「ワァァ!?こ、今度はナん――ギェべッ!?」
オーガに続く仲間の惨劇に、近場に居たまた別のオークが狼狽の声を上げかけるが、それもまた妙な濁った悲鳴へ変わる。GONGがさらに開いていたもう一方のアームで、オークの顔面を殴って拉げ吹っ飛ばしたのだ。
「ヒィ!?――ギャッ」
「タすけ――ビュぇッ!?
そしてGONGはオーク相手に暴れ始め。オーガの取り巻きであったオーク達は、一方的に散らかされ屠られ始めた。
「やぁれやれ――」
そんな光景に最早自分は手出し無用と。制刻は残るオークの始末をGONGに任せ、淡々と零しながら振り向き、その歪な眼での視線を背後へと向ける。
「ッ!」
「ッぅ!」
それに反応したのは、女オークのサウライナス始め、先に現れ敢日等を救ったオーク等。
襲来した脅威であるはずのオーガを、しかしそれ以上の衝撃をもって面白いまでに易々と屠って見せた制刻を前に。呆気に取られていたオーク等は。
しかし正体不明なその存在の注意が自分等へ向いた事で、強く警戒し身構える姿勢を取り。鉈や弓などのそれぞれの装備を構えて制刻へと向けた。
「っと!ストップ!タンマだ、タンマタンマッ!あいつは大丈夫だッ!」
そこへ同じく制刻に視線注意をもってかれていた敢日が、一拍遅れて状況を飲み込み。そしてオーク等の前に身を翻して出て、両腕を翳して抑えるポーズを取りながら、訴え要求する言葉を慌て発し上げた。
「皆、武器を降ろせ!あの彼は、味方だ!」
「あのぶっ飛んだのは、俺の親友だ!敵じゃない!」
さらにジューダも状況に追いつき、オーク等に向けて促し、そして説明する言葉を紡ぎ。敢日は畳みかけて訴える言葉をまた紡いだ。
「……味方?」
「本当にか……?」
二名の言葉を受け。サウライナスやハープンジャー、オーク等は訝しみ今だ警戒の色を残しつつも、それぞれの得物をとりあえず降ろす。
「あぁ……無理もないが、大丈夫だ」
敢日もオーク等のその反応も当然と、少し呆れ困ったような色を作りながら。また促す言葉を紡ぎつつ、背後を振り向く。
「解放、無事だな」
丁度そこへ、独特の重低音が聞こえ届き。そして敢日やオーク等の心情も知った事ではとでも言うように、悠々とこちらへ歩んでくる制刻の姿が見えた。
後ろには機械音を立ててノッシノッシ続くGONGの巨体もあり。その向こうにはすでに千切り散らかされ始末され切った、敵性のオーク達だった物が散らかっていた。
「あぁ……チトやばい状況に陥ったが、彼等が駆けつけてくれて救われた」
そんな光景や、制刻の変わらぬスタンスに少し呆れ脱力した色を見せながらも。敢日はオーク等を、視線と翳す片手で示し紹介しながら、説明する。
「そいつぁ、礼を言わねぇとな――でぇ。て事はアンタさん方は、兄(あん)ちゃんの身内ってトコか」
その敢日の説明に、制刻は礼と言うワードに反していささか不躾な言葉を紡ぎ。それからジューダに、そしてオーク等に視線を流しながら、推察&尋ねる言葉を紡ぐ。
「あぁ……その通りだ。皆は、私の部族の同胞だ――」
その制刻に、ジューダはまだ戸惑いが残る様子でしかし返し。
互いは、それぞれの紹介と事情の説明そのほかを始めるに至った――
現れ駆け付け、敢日等の危機を救ってくれたオーク等は、〝ユーティースティーツ〟という名を名乗る一つのオークの部族であるらしい。
ちなみにジューダは、このユーティースティーツ部族の族長の息子であるらしい。そして一人種族の異なるトロルのハープンジャーに関しては、流れ着いた放浪者であるらしい。
約束の日取りになって部族の居住地を訪れない、町の住民のサウライを案じ飛び出して行ってしまったジューダを。彼等は心配し、応援の隊を揃えて追いかけて来たとの事であった。
「皆、心配を駆けて本当にすまなかった」
「本当だよ!……だけど、ジューダは正しかった――こんなに酷い事になってるなんて……」
ジューダの述べた謝罪の言葉に、また叱る声を上げたのはサウライナス。しかし同時に彼女は、その顔を曇らせて紡ぐ。
オーク等もジューダを捜索するここまでで、町の惨状を嫌と言う程目の当たりにして来たのであった。
「しかし、また別の驚きがあったな――」
そこへ、また別種の色の声が響く。声の主は、片眼鏡が特徴のオークのロードランド。彼の目は相対する制刻や敢日、そしてGONGに向けられている。
ジューダからのユーティースティーツ部族の紹介に続き、制刻や敢日からもその正体が。日本国と日本国隊の存在とそれについての説明、町への介入の理由など他各種が、今なされた所であった。
「空に現れた、あの凄い速さの鏃?も、貴方たちなの?」
ロードランドに続け、尋ねる声が上がる。
先に敢日に、ロードランドと一緒に手を貸してくれた女オーク。鍛え上げられた体に、美麗なロングの白髪に飾られた、凛々しく端麗ながらも猛々しく気の強そうな顔立ちが特徴。しかしその口調は、反して柔らかくどこかフワっとしている。
彼女のそれは、上空へ出撃飛来したF-1戦闘機を示すもの。
「あぁ、アレもこっちの身内だ。心配無ぇ」
その問いかけに、制刻は淡々と肯定の言葉を返す。
直後。「自分を呼んだか」とでも言わんかのようにF-1戦闘機の一機が、真上をやや低めの高度で、轟音を轟かせながら飛び抜け通過した。
「ッぅ――なんなの……?」
サウライナスが視線を見上げて飛び抜けたF-1戦闘機を追いつつ、困惑の訝しみの声を零す。
「なぁ、よォ。それよか、サウセイ達は無事なのかよッ?」
そこへ割り居るようにまた別の声が差し込まれる。声の主は三白眼が目立つ一名のオークで、その声が上げたのは先に保護したサウセイの名。少し荒げたその声は、しかし同時に焦り心配する色が含まれていた。
「デュラウェロ、大丈夫だ。少なくともサウセイは生きてる」
「あの兄ちゃんだな。坊主たちと一緒に、先に町の外に避難してもらってる」
ジューダはそのオークを名で呼び、そして落ち着かせるように紡ぐ。続け制刻が答え、さらにそのサウセイを保護に至った経緯や、今は三人の子供達と一緒に野戦指揮所に避難している旨が説明された。
「あぁ、そいつぁ良かった……っ」
それを受けたデュラウェロという名のオークは、まだ完全にとは言えないが、険しい顔に少しだけ安心した様子をその顔に見せた。
「しかし……サウセイとウノイ達だけで、フケン達の無事はまだ分からないんだな?」
しかし続け、今度はトロルのハープンジャーが難しい色で言葉を挟む。それはユーティースティーツ部族と交流を持つ、しかしまだ発見に至っていない他の住民が居る事を、歓迎しがたく思うもの。
「あぁ。だから俺等は、引き続きの戦闘捜索を続ける」
制刻はそれをまた端的に肯定。そして自分等は、住民の捜索を続ける旨を告げる。
「アンタ等はどうする?そっちでも続けるってんなら、一緒に来てもらえると面倒が無ぇんだが」
続け、そんなやや不躾な言葉で。尋ね要請する言葉をオーク等へと発する制刻。
戦力的な意味でも、無用な混乱を避ける意味でも。少なくとも敵対関係では無いオークの彼等には、同行してもらいたい所であった。
しかし得体の知れない。おまけに立場が変われば脅威となるだろう力を、先に見せつけた制刻を前に、オーク等はすぐに返事を返せないでいた。
「皆、私やサウセイは彼等に危機を救われた。彼等は味方に、力になってくれる存在だと信じられる」
だが、続けジューダが。同胞の皆に向かって、説き促す言葉を紡いだ。
「……ジューダが言うなら」
「少し、見させてもらうとするか」
ジューダのそれを受け。サウライナスやハープンジャーが、まだ疑念は晴れないと言った様子ながらも、受け入れる言葉を発する。
「理解に礼を言う――コントロール、エピックだ」
オーク等のその様子を受けた制刻は、端的に協力に礼をする言葉を紡ぎ。それからヘッドセットに言葉を発し、野戦指揮所に向けての通信を始めた。
「同行してるオークの兄ちゃんの、身内と遭遇合流した。一個班規模、こっからは一緒に行動してもらう。以降、俺等と一緒に居るデカい図体の一隊は撃つな」
ヘッドセットに状況現状を端的に紡ぎ、通信に上げて送る制刻。
一方、オーク等には制刻が唐突に一人で話し始めたように見え。オークの各々は訝しむ視線を制刻に向ける。
「識別には充分注意しろ――あぁ、終ワリ」
しかしそんなオーク等の視線を気にも留めず。制刻は言葉を紡ぎ切り、通信を追える。
「――おぉし、行くとしようぜ」
そして引き続き訝しむオーク等に、しかしまったく気にせず構わぬ様子でそんな促す言葉を告げ。
身を翻して、悠々と歩み出し行程を再開。
ジューダは少し困った様子で、そんな制刻の背を見て。それから横に居る敢日に視線を送る。
敢日は肩をすくめ困り笑いだけをジューダに寄こすと、制刻を追って歩み出し、さらにGONGがそれに追従。
オーク等も戸惑いと疑念を残しつつも、とりあえずと言った様子でゾロゾロとそれに続く事となった。
現在はその町路上を、その役割を第3分隊より引継ぎ分離した3名と1機――他ならぬ制。そして敢日にGONGと、新たに加わったオークのジューダが歩み進んでいた。
「――あれは……ッ!?」
内のジューダは、驚愕の様子で上空を見上げている。
その視線の先に在るは、高速で上空を翔ける飛行体――F-1戦闘機。
今は一番機と思しき一機が先行し旋回の軌道を描き。少し距離を放して二番機が続き、追って旋回に入る隊形行動を見せている。
ジューダの驚愕はむろんの事、突如として轟音を響かせ町の上空に姿を現した、異様で正体不明の飛行物体を目撃してのものであった。
「大丈夫だ、心配無ぇ。ありゃぁ、俺等の身内だ」
そんなジューダに掛けられる、独特な重低音での説明の言葉。その主は制刻だ。
ジューダの少し先に立ち、紡ぎつつ同様に上空のF-1戦闘機隊を見上げ追っている。
「身内……あれも君等の味方だと?」
「あぁ。この町が予想よりも面倒事になってたからな、応援に寄こされたらしい」
ジューダは視線を降ろし制刻を見て、少し戸惑う色で言葉を返す。それに制刻はまた答え、補足の言葉をさらに紡ぐ。F-1戦闘機が出撃し飛来した理由経緯については、制刻等にも今しがた野戦指揮所より通信連絡が寄こされ、説明された矢先であった。
「――ッ」
そんな制刻とジューダの一方。敢日は、その視線を二名とは別方へと向けて、顔には難しい色を作っている。
その敢日が流す視線が見止めるは、町の各所より上がる煙。そして、町の各方より聞こえ来るは爆音や銃撃音が絶え間なく響き届いている。それ等は、少し前の自走迫撃砲のからの砲撃に始まり、各隊の多種の重軽火器が唸り。そして極めつけはF-1戦闘機の航空爆撃が生み出し、今も響き上げ続けるもの。
もしかすれば。いや事前に聞いていた忠告から高確度で、町や住民を巻き込む事も厭わぬ姿勢で始められたであろうそれ等に。
敢日は難しい心情を作り、それを顔に険しい色で表していたのだ。
「見物してばかりも居られねぇ。俺等も、行程を進めるとしよう」
しかしそこへ、制刻の促す言葉が寄こされる。
「あ、あぁ」
「……オーケー」
それにジューダはまだ戸惑い残る色で。敢日は少し浮かない様子で、了解の言葉をそれぞれ返す。
そして3名と1機は進行行動を再開。また町路を北に向かって歩み進み始めた。
「――ッ。止まってくれッ」
ジューダが唐突に制止の声を上げたのは。それから少し町路を歩み進んだ所であった。
「どうした?」
振り向きジューダに尋ねる制刻。そのジューダは、少し難しくも何かに気付いた様子で、周囲へ視線を向けている。
周囲の地形環境は、それまでまっすぐ進んでいた町路が、西方へくの字90度の曲がり角を描いている。
「愛芽通り……この辺りに、フケンの住居があるはずだッ――」
ジューダはその一帯の一か所にある、その町路通りの名称を現す看板を見止めながら。そんな言葉を零す。
続けジューダから述べられた補足説明によれば。
その人物は先に保護回収したサウセイ同様、密かにジューダの一族との交流を持つ人物。そして抵抗を諦めずに子供達を連れて、町のどこかに身を潜めているはずの一人であるとの事だ。
その人物の住居が、ジューダが当人から聞いた記憶によれば、この近辺であるとの事であった。
「成程」
「そりゃぁ、チト調べとくべきだな……ッ」
ジューダの説明に、制刻は零し。続け敢日は、住居を調べ捜索する必要がある事を言葉にする。
「んじゃ、ちょいとお邪魔するか」
そして制刻はまた発し。時間も惜しいと行動をに映る。
3名と1機は近場の家屋の一件の、その玄関口より進入突入。周辺家屋の捜索行動を開始した。
制刻等は建物家屋内へと進入し、手分けして生存者の捜索を開始。
「――ッ、酷いな……」
一軒の家屋内の一室。ネイルガンを構え警戒即応の態勢を取り、視線を各方へ向けながら進む敢日の身がある。
そしてその動作を取りつつ、敢日呟く。家屋内はこれまでの御多分に漏れず、引っくりかえされたように荒らされていた。
「フケン!ネンエル!ドゥクフレイさんッ!居たら返事を!」
敢日が隣室とを繋ぐドアを潜った所で、響き聞こえたのは重低音のしかし急き焦れるような、名を呼び訴える声。
隣室には、室内に視線を走らせ、発し上げるジューダの巨体があった。
その声で呼ばれた名前等は、いずれもジューダと交友のある町の住民のもの。それを口にしたジューダのその厳つい顔には、しかし険しくも焦る色が浮かび上がっていた。
「……ッぅ」
発し上げ呼びかけたジューダの声にしかし返答は聞こえず。ジューダはその顔により苦い色を作る。知る人々を本気で心配し、急いているのであろう様子が嫌でも伝わって来た。
「……大丈夫さ、抗う事を諦めない人々なんだろう?きっとどこかで身を潜めて無事でいるさ、信じよう」
ジューダのその姿を見た敢日はそんな言葉を送る。ジューダと交友のあるその人々は、いずれも生きる事を諦めずに逃げ隠れているらしい。それを信じ希望を持ち続ける事を促す物。
はっきり言って気休めであったが、ジューダの焦り不安を抱く姿を前に、敢日は言葉を掛けずにはいられなかった。
「あぁ……そうだな、すまない」
掛けられたそれに、ジューダもまだ不安心配の様子は消える事がないながらも、同意と礼の言葉を返す。
「よし、捜索を続け……――ッ!」
「ッ!」
そして捜索行動を再開しようとした、しかし直後。
敢日、そしてジューダは、同時に気配と物音を察知した。
出本は近場にあった窓の向こう、屋外。数は複数、多数。
敢日とジューダはそれぞれ窓の近くの壁際に取りつきカバー、外部からの死角の部分にその身を即座に隠す。
「……」
そして最低限視線を出して、窓の外を観察する敢日。
その向こう。家屋に面する町路に見えたのは、オークの一群であった。
どこかへの増援か、あるいはパトロールか。雑な隊伍を組んで進む様子を見せている。そして内の何体かは、窓の向こうすぐ側を通り、時折窓からこちらを軽く覗き見ながら通り過ぎる個体もある。
「……――」
敢日とジューダは視線を一度合わせ。息を潜め殺し、外の一群をやり過ごす事を狙い、通り過ぎるのを待つ。
しかし。
瞬間。窓の向こうにガシャっと音を立てて何かが取りつき。そして荒々しい吠える鳴き声がこちらに向けて飛び出した。
それはかなり大型の犬、いや狼か。それに類した生き物。先んじて明かせば、それはワーテウルフと呼ばれる、大型の狼に類した魔獣。
オーク達が番犬、軍用犬代わりとして飼い慣らし連れているそれが、家屋内に潜む存在を嗅ぎつけたのだ。
「ナんだッ、何が居ルッ!?」
ワーテウルフのそれを受け、近場に居た一体のオークが窓より内部を覗き込む。
「!、居やガる、隠れてヤがるぞ!オイ、ここに――」
そしてそのオークも、内部に潜む敢日やジューダの存在に気付く。そしてオークはそれを仲間に知らせるべき、声を発し上げ掛けた。
「――ぎェひッ!?」
しかしオークのその言葉は紡ぎ切られる前に、妙な悲鳴へと変わった。ほぼ同時にガラスが盛大に割れ砕け散り。そして吠え叫んでいたワーテウルフもまた、それを「ギャウッ」という悲鳴に転じさせ、窓の向こうでもんどり打つ。
見れば敢日の手には突き出し構えられたネイルガン。それより撃ち出された釘群が、オーク達を屠ったのだ。
「ッ、見つかったかッ!」
「ここをッ――」
発見された事に、ジューダが苦い色で発し上げ。同時に敢日がここよりの離脱を促そうと、言葉を発しかける。
しかしそれを遮る様に。
窓際で突如として大きな発火現象が巻き起こり。いくらかの衝撃と破壊、そして赤々とした光と高熱が襲い来た。
「ッ!?」
「ぅぉッ!?」
敢日とジューダは咄嗟に窓際より飛び退き、床に突っ込み倒れる。
微かに体に走る痛みを無視して、すかさず顔を起こし見れば。窓際は窓縁はじめ各所に火が付き燃え、損傷していた。
「ッぅ……――ここを離れるぞッ!」
具体的なそれの正体は不明だが、それがオーク達からの攻撃である事に関しては疑いようがない。
敢日は改めてジューダに訴える言葉を発し上げ。そして二人は身を起こし、その場よりの離脱逃走を開始した。
飛び出すように二人が窓際を離れた直後。ガラスの割れた窓より、さらには壁を貫いて。いくつもの矢撃や魔法攻撃であろう鉱石の針が、屋内へと注ぎ襲い来た。
敢日とジューダはそれに追い立てられるように、その一室の扉を駆け潜り、隣室へと逃れる。
しかし当然か、その隣室にも流れスライドするように、同種の攻撃が注がれ窓や壁を貫通し襲い来る。
そしてさらに。先の火炎現象攻撃の二発目が、近場の窓に叩きつけられ、窓ガラスを割って高熱で二名を襲った。
「ッ、火の弾なのかッ!?」
「中級のフィルエ・ベイル!マギエ・オークがヤツ等の中に居るッ!」
先行する敢日が駆け逃げ、また扉を潜りつつ。襲い来る火炎現象に推測の言葉を発する。それにジューダが答える。襲い来るそれは、魔法を使えるオーク個体が繰り出して来る火炎弾攻撃であった。
「数も多かった、自由と合流したほうがいいッ!」
「承知だッ!」
先に見えたオーク達の数から、先に制刻やGONGと合流すべきとの判断をしつつ。敢日は閉じられていたドアを蹴破り、さらに隣室へと逃れ踏み込む。
駆ける二名の背後よりは、追いかけるように壁を貫き矢や鉱石の針が、壁を貫き襲い。一定間隔で火炎弾が飛来して高熱でこちらを煽る。
「上に上がる、階段を上るッ」
さらに踏み込んだ隣室の端に、上階へ続く階段を見止め。敢日はジューダに促し発する。そして直後には階段に到達し、脚を駆けて駆け上がり出した。
「自由、聞こえるか!モンスターの一体に遭遇、追われて色々ばら撒いて来てる!合流してくれッ!」
階段を駆け上がりながら、敢日はヘッドセットに張り上げ通信を上げる。相手は別所で行動中の、他でもない制刻。
《見えてる、騒いでる連中をこっちからも確認してる。すぐに向かうから気張れ》
「頼むッ!」
制刻から帰って来たのは、向こうからもこちらの状況を視認掌握している旨。そして合流まで持ちこたえる様要請する言葉。
それに端的に返しながら、敢日は階段を上り切り上階へと出た。
「――ッ!」
上階へ踏み出て、視線を走らせ一室内を掌握する敢日。
しかしその暇も一瞬。一室内の反対にある別のドアが、向こうより荒々しくけ破られた。そして現れたのは、一体のオーク。
「見つけタッ、居やガ――ギョぅッ!?」
そのオークは敢日の姿を見つけ、発し上げ掛けた。しかしそれは紡がれ切る事も無く、オークの声を遮る様に上がった金属音と同時に、悲鳴へと変わる。
オークの相対遭遇と同時に、敢日は構えていたネイルガンを即座に撃ち、オークの頭部を貫き屠ったのだ。
「居たゾ!」
「殺セ!」
しかし扉の向こうには、さらなるオーク達の体が見える。
「後ろだ、反対だッ!」
敢日は背後に視線を向け、そちらに別の扉を見つけ、それを逃走経路と判断。続くジューダに発し知らせながら、身を翻してそれを目指し駆ける。
「オラァァッ!」
そんな二名の元へ、一体のオークが走り迫って、己を振り襲い来る。
「――ゲぁッ!?」
しかしそのオークは、敢日に続き身を翻す途中のジューダに。その彼より振るわれた鯨包丁のような鉈にバッサリと切られ、真っ二つとなり退けられ、床に転がされて鮮血をぶちまけた。
ジューダはその屠ったオークにはそれ以上見向きもせず、敢日を追い。そして二人はまた隣室へと踏み込む。
――そんな瞬間の二人を、衝撃が襲った。
「――ぉわッ!?」
襲い来たのは衝撃と高熱。〝何か〟が家屋の屋根を突き破り破壊し、屋内へと叩き込まれ落ちたように見えた。
襲い来たそれらの現象と。反射的な回避避難行動の意図から、敢日はほとんど吹っ飛ぶように、床に身体を投げ出し回避姿勢を取った。
続くジューダも、その身を低くし腕で身を庇う。
「――ッ!?」
直後にすぐさま身と視線を起こした敢日。その彼の目が見たのは、大穴の空いた家屋一室の天井、そして床。さらにその周囲は火が伝い燃え、あるいは焼けこげていた。
「んだこりゃ……隕石……ッ!?」
「ミテュア……初級だがミテュアだ!星を落とす魔法だッ!」
驚愕の光景に、敢火は目を剥きつつも推測の言葉を零し。続けジューダが、その正体を明かす言葉を同様に驚く色で零す。
「隕石って……――ッ!」
さらに驚愕を現す声を零しかけた敢火。
しかし直後。敢日の目は視界の端に、揺らめき光る何かを見る。それを辿り敢日は、そしてジューダは真上を見上げる。その先、大穴の空いた天井からその向こうに見えた大空に。赤々と燃えながら降下して来る物体――隕石が。魔法で生み出されたであろうそれが見えた。
「冗談……――」
最早乾いた笑いに近い声で、呟いた敢日。
「――窓だッ!」
続けジューダが促し示す言葉を発した瞬間。両名は跳ね上がる様に身を起こし、あるいは床を踏み切り。家屋の壁際の窓へ、ほぼ飛ぶように駆けた。
「飛べェッ――!」
ジューダは張り上げ。同時にその巨体を持って体当たりを敢行、窓を周りの壁ごと破り破壊。
破られた壁際の開口部より、二人は宙空へと飛び出す。
直後――降下して来た隕石が天井の大穴を抜け、家屋内へと直撃。巻き起こった衝撃と炎が、二名の背後で巻き上がり広がった。
「ッぅ!」
後方背中より襲う熱と衝撃に顔を顰めながらも。敢日とジューダは宙空を降下。
「――ヅッ!?」
「――ぐォッ!」
咄嗟の退避行動の先であったため、満足な受け身の態勢を取る事は敵わず。二名は気休め程度の受け身態勢で地面に叩きつけられるように着地。その体を少なからず打ち、地面を転げあるいは滑った。そして家屋の破片がバラバラと降り注ぐ。
「ッゥ……!」
落ちた周囲には、家屋に囲われた小さな広場空間。
少なくない痛みに苛まれつつも。まだ敵中である状況下で、すぐさま態勢を復帰させようと体に鞭打つ敢日。
しかし、彼の意思に反して身体は痛みを訴え動きは緩慢。思うように動かない。
「イやがっタぞッ!」
「こっチだッ!」
そんな所へ。聞きたくはなかった、荒々しく明らかな害意の込められた声が響き聞こえる。そして視線の先、家屋の間の小道より、複数体のオーク達がワラワラと沸き出て来た。
「ニンゲンと、裏切りモンだッ!」
「ふざけやガって、焼き殺しちマえッ!」
憤慨した様子で、両名を遠巻きに囲いだすオーク達。その中には、少し趣の異なる装飾の個体もいくつか見え、そしてその異なるオーク達の手には、1m程の火の玉が生み出されている。おそらく先にジューダが説明した、魔法現象を扱うオーク個体であろう。
「ッ――!」
まずい――全身がそう危機感を訴え、敢日は自身の手中にあるネイルガンを、突き出し構えようとする。しかし敢日の完全ではない緩慢な動きよりも早く。魔法を使うオーク達は炎の玉を保持する腕を振るい上げ、敢日等を焼くべくそれを放とうとした。
「――ッ゛ェッ!?」
――しかし。その魔法使いのオークの内の一体が、何か妙な悲鳴を上げると共に、吹っ飛ぶように崩れたのはその時であった。見れば、そのオークは何か細めの杭、いや太い矢か。そんな物にその頭部を貫通されている。
「ギェァッ!?」
「ナ!?――ビェェッ!?」
それを皮切りに。敢日とジューダを取り巻いていたオーク達は、次々に倒れ――いや、射抜かれ始めた。いずれも細めの杭のような矢にその身を貫通され、崩れ倒れてゆく。
「な、何ダよ、こ――ギャゥァッ!?」
さらに極めつけは。狼狽する一体のオークが悲鳴を上げて、真っ二つになり鮮血を噴き出し、そして崩れる。
オークが崩れ落ちたその背後にあったのは、オークを越える巨大な存在。
身長は3m近く。筋肉を蓄えたあまりに太い腕に脚、そして妊婦のように出た肥満腹が特徴の――トロルであった。
その手には、ジューダが持つものと同じような、鯨包丁のような鉈。
さらにその背後、その広場空間の向こう奥から。バラバラと複数の大きな人影が現れ、散開しながら駆けてくる。
それは、なんといずれもオークであった――
新たに現れたのは、いずれもまたオーク等であった。
その手に少し大ぶりの鉈や。人の扱う弓の倍の大きさはあり、杭のような矢を番えたそれを持ち装備する様子を見せている。
様子から、敢日等を囲っていたオーク達を屠り排除したのは。そのまた別のオーク等のように見えた。
「こりゃぁ……――ッ?」
危機を脱した事、そして新たに現れたオーク等にそこを救われたらしき事を微かに推察しつつも。敢日はその身を起こしつつ、しかしまだ疑問の多々抱く色を見せ、呟く。
そんな敢日等の元へ。現れた新たなオーク等――正確に内訳を言えば、6体のオークと1体のトロルの内から。一体が進み出て、こちらを観察する様子を見せつつ近寄ってくる。
そのオーク個体は、見るにメス――いや女のようであった。
その身長は、男オークより引けを取るが2mに近いか越えている。肌はオークを現す緑色。腕や足、そして腹には逞しい筋肉を纏わせている。
しかし胸には、軽防具に覆われながらも豊かさの覗く乳房が見え。何よりその緑肌の顔立ちは、口に覗く八重歯で猛々しさを感じさせながらも、しかし人の価値観で見ても整い端麗な物。釣り上がった目尻の目もまた美麗で、それらは長いポニーテールを形作った白髪の髪型で彩られていた。
「――……ジューダ?――ッ!皆、ジューダだよッ!」
少し警戒し、そして敢日等を確かめ観察するように覗き歩み寄って来た、その美人と表現できる女オークは。内のジューダの存在、正体に気付くと、そのポニーテールを靡かせて振り向き、背後周囲のオーク等やトロルに向けて、発し上げた。
「ッ!ジューダか!」
「マジか、ホントか!」
女オークのその訴える声に。周囲の展開し、警戒の姿勢を見せていたオーク等も、こちらに注意を向けてそして驚きの色を見せる。
「ジューダッ!」
そして女オークと、今しがた敵対するオークを真っ二つにして見せたトロルが。ジューダの元へと駆け寄った。
「サウライナス、ハープンジャー……――ッ。みんな、来てくれたのか……!」
女オークとトロルは、ジューダに駆け寄って手を貸す動きを見せる。そんな女オークとトロルに、ジューダはおそらくその二名の名前であろう名を口にしながら、続き驚く色を見せる。
「君、大丈夫か?」
さらに敢日の方にも、また別のオークと女オークの二名が歩み寄って来て。そして内のオーク――厳つい顔に対して違和感を覚えてしまう、片眼鏡(モノクル)を付けているその彼――は、案ずる言葉を掛けながら手を貸してくれた。
「あぁ……すまん、ありがとう」
唐突な、予期せず目まぐるしく一転した事態に戸惑いつつも。敢日はその差し出された手を受け取り、立ち上がりつつ礼の言葉を返す。
「もぉッ!一人で行くなんて……心配したんだよッ!今だって危なかった、分かってるのッ!?」
「まったく、君はいつも無茶をする……ッ」
そんな傍ら背後では。ジューダがサウライナスという名らしい女オークや、ハープンジャーという名らしいトロルから、心配され同時に叱られている姿を見せている。
「すまなかった……しかし町の様子から、黙って見てはいられなかったんだ」
そんな二名にジューダは謝罪し、しかし同時にそんな説明の言葉を紡ぐ。
「だからって……――もうっ……」
サウライナスはさらに言葉を発し上げようとしたが。しかし何か難しい色をその端麗な顔に作り、そして「これ以上は責められない」と言ったように溜息交じりの一言を吐いた。
「――所でジューダ、こちらは?町の人ではないようだが」
そのやり取りが一区切りした様子の所へ。先に敢日に手を貸してくれた方眼鏡のオークが、敢日に視線を流しつつ、ジューダに向けて尋ねる言葉を送る。
「あぁ、ロードランド。彼は――」
そのロードランドと言う名らしい片眼鏡のオークに。ジューダは一緒にあった敢日を、紹介説明する言葉を紡ごうとした。
――しかし。
それを遮り阻むように、その広場空間の一角で、衝撃と破壊音が響き上がった。
「ッ!」
「なにッ!?」
敢日。そしてジューダ始めオーク等各々の視線が、一斉に音の発生源を向く。
発生源は、家屋に囲まれる広場空間の西方の一点。その個所を隔てる石造りの壁が、向こうより吹き飛ばすように破壊され崩されていた。
そしてその向こう様に湧き出るように現れたのは、複数体のオーク。その様子から間違いなく敵性のそれ。
そしてそのオーク達を従えるように現れ出て来たのは、巨大な存在。
トロルに並ぶ、3mに達するかと思しき身長に、赤黒い肌。全身を覆う鍛え上げられた鎧のような筋肉。その見た物の恐怖感を煽る獰猛な顔の、その額には二本の角。
「ッ……オーガッ!?」
それを目の当たりにし、サウライナスが代表するように、険しい声色でその正体を紡ぐ。
「連中の、将軍級か!?」
さらにトロルのハープンジャーが、そんな推察の言葉を発する。そしてそれは的中していた。現れたオーガは、町を襲ったモンスターの軍勢の中でも、将軍クラスに値する存在であったのだ。
「オぉォ、いぃたいたァ。ネズミ共がいタぞォっ」
そんな、恐ろしさを体現したまでのオーガは。
破壊した石壁を乗り越え踏み入ると。その空間で展開隊形を取っていたジューダ等を見つけ見降ろし、そしてその獰猛な顔に身の毛のよだつまでの笑みを浮かべて発する。
「小賢しいヤツ等だァ、せいぜいブっ潰すのを楽しませてモらうゼぇっ」
続け発するオーガ、それはまるで獲物、玩具を見つけ楽しみにするようなそれ。
「ッ、自分が――!」
「ダメだッ、あれは危険だッ!」
そんな明確な脅威であるオーガを前に。トロルのハープンジャーが自分が対応に出る旨を名乗り上げるが。しかしジューダは相手の脅威度を測り、腕を翳してそれを止める。
「安心しろォ、皆まとめて楽しんでヤらァッ!」
しかしオーガはそんなジューダ等を一笑し。そして獲物を嬲り楽しまんと、その大きな一歩を踏み出そうとした。
――衝撃が起きたのは、その瞬間だった。
オーガの側面。そこに建つ家屋の壁が、その内よりまるで爆薬の起爆でもあったかのように、吹き飛び崩壊。
家屋の破片が吹き飛び巻き散り、砂煙が上がる。
そして、家屋の壁に空いた大穴より――ヌラッ、と。姿を現す存在、影が見えた。
「ッ――!」
真っ先にその正体に気付いたのは、敢日。
衝撃的な演出に合わせて、悠々とした動作で踏み出て姿を現したその存在は――他でもない誰でもない、制刻であった。
「――アぁァ?」
制刻は、悠々とその状況でも自分のペースを崩さぬ姿で、歩みそしてオーガの前へと立つ。
そんな制刻の登場に、オーガは訝しむ様子でその姿を見降ろす。
「んダぁ?こいつァ?ヤツ等の味方かァ?」
さらに零すオーガ。その様子は、己のこれからの狩りを阻害されたせいか、少し不機嫌そうだ。
「まずテメェから潰されてェってかァ?――ガハッ!いいぜェ――お望みどおりにしてヤラぁッ!」
そのオーガはしかし直後には、獰猛に笑い上げ――そして目の前の制刻をまず潰さんと、その太く逞しい腕を、拳を。凶悪なまでの勢いで腕力で振るい降ろした。
――トスッ、と。
微かな、何かが触れるような音がわずかに上がり聞こえたのは、その直後。
「――ハ?」
続け、そんな呆けるような声を漏らしたのはオーガ。
「――え?」
さらに、制刻がオーガに潰される事は避けられないと、覚悟していたジューダ始めオーク等の内の。誰かから声が上がる。
制刻を潰さんと振り下ろされたはずのオーガの腕っぷしは――しかしその目的を成せてはいなかった。
そのはずだ。オーガのその腕は、制刻の翳したその片腕の手の先で、〝受け止めらていた〟のだから。
「ナ――……アぁ……ッ!?」
そこでようやく、オーガは事態を理解する。
オーガの振り下ろした拳は、制刻の右片手の手先で。それも正確には、制刻の三本の指の先のみで、意図も容易く受け止められていた。
「ハ……!?ナん……ふざケ……ッ!?」
それまでの加虐的な笑みを一転させ。明らかに狼狽する様子で、己の腕を動かすことを試みるオーガ。しかしオーガの腕はそれ以上先に進む事はない、どころか持ち上げ引く事すら敵わない。
オーガの強靭な腕は、しかし制刻の指先のみで、完全にその動きを封じられていたのだ。
「テメぇッ……!フザけ……――ギぃッ!?」
獰猛に牙を剥き出し、制刻に向けて吠え上げようとしたオーガ。しかし直後、そのオーガの口から濁った悲鳴が漏れた。その理由は、オーガの脚に走った衝撃と激痛。
見れば、制刻の突き出した片脚が。それの成した脚撃が、オーガの強靭な脚を、しかし小枝でも折るかのように折り崩していた。
「ガっ……!?」
オーガの脚は、体勢はそのまま崩れ折れ。地面に膝を着く。
「ナッ……コのヤ……――ウごッ!?
さらに事態は動き、オーガにとっての驚愕は立て続く。
オーガの視界は唐突に何かに遮られ、そしてオーガの顔を妙な圧されるような感覚が襲う。
見ればなんと。制刻はその持ち前の独特の、人間離れした尖り大きな左手で、オーガの顔面を鷲掴みにしていたのだ。
「テメッ、放……い゛ッ!?」
抵抗に身を捩り、荒げた言葉を発そうとしたオーガだったが。直後にオーガの口からまた妙な悲鳴が上がり、さらにオーガの頭は沈み、低い位置に下がる。
また見れば。制刻は掴んだオーガの頭を、そのままさらに左片腕の腕力の身で、抑え押し込み。オーガの体をさらに強制的に沈め、さらには無理やり両膝を着かせて跪かせ、正座の姿勢に落とし込んでいた。
オーガはもう片手でも制刻の腕を掴み、その両腕を持って制刻の手を引きはがそうとするが、オーガの剛力をもってしても制刻の腕はびくともしない。
「ぎァ……デめェ……ぶっコロして……」
ここまでコケにされ、屈辱に怒りの感情を煮えたぎらせ。オーガは害意の言葉を吠え上げようとした。
「――ェ……ヒッ!?」
だが。しかし。
直後、一転して。そのオーガの口からは、その獰猛な声を無駄にするまでの、無様を体現したまでの悲鳴が上がった。
オーガの目は、今は己を鷲掴みにする制刻の指の隙間越しに。今は正座に沈められ、己より高い位置にある制刻の顔を見たのだ。
そこに在り見えたのは――あまりにも恐ろしい存在。
オーガを見降ろす、生物の本能的な危機感を、不安感、嫌悪感をを揺さぶる、歪で不安定な造形の眼。
制刻のそれが、魔物の中でも上位に君臨するオーガを、しかし子犬のように怯え震わたのだ。
「ぁ……ァ……ぎひッ!?」
制刻の眼を前に、恐怖にか細い鳴き声を漏らしていたオーガは。しかし直後に、その獰猛な口からしかし痛々しいまでの悲鳴を上げた。
オーガの顔面を襲ったのは、圧迫による痛覚。耳をすませばギリリ、ミシシというオーガの頭骨が軋む音が聞こえる。
「ぁッ……ぁぎ……!ゃべ……ゅりゅ、ひへっ……っ!」
圧迫による痛みは徐々に強くなり、オーガはまた悲鳴を漏らし。最早上位魔族のプライドも、恥も外聞も無く、懇願の声を上げる。
しかし無慈悲にも制刻の手は圧迫を止めず。
「ぁっ……ァッ……ぎぇあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っッ!??」
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「――デケェだけだったな」
そこで制刻はこの場に現れて始めて、いつもと変わらぬ淡々とした口調で。オーガだった首なしの巨体を見降ろしつつ、そんな無遠慮に評する一言零す。
「遺跡ん時のベイルサークに比べりゃ、チワワだな」
続け、先日の遺跡で相対した驚異的な生物。ベイルサークを思い返し、それと対比しての評価を零す制刻。
「ハ?……う、ウワあああッ!?」
「だ、ダンナがぁ……っ!?」
一方。制刻の周りではいくつもの狼狽の声が上がった。
それはオーガと共に現れた取り巻きのオーク達。オーク達は自分達の頭、指揮官であったオーガが屠られた事実。そして目の当たりにしたその凄惨な末路に、動揺――というよりほぼパニックに陥ったのだ。
「こ、コノ……!」
内の一体が、まだ戦意を残しているのかそれとも自棄か。クロスボウを構えて制刻に向けようとする。
「――ギェぁッ!?」
しかし、そのオークからもまた悲鳴が上がる。
そして見ればオークの体は宙に浮かび、その胸からは先端の尖った金属の杭のような物が突き出ていた。
オークの背後に目をやれば、そこには異質で巨大な人型の機械――そこに在るは自立型ユニットのGONGの姿。そのGONGのアームより展開された、チタン製の白兵戦用バヨネットが、オークの身を背中から貫いたのであった。
「ワァァ!?こ、今度はナん――ギェべッ!?」
オーガに続く仲間の惨劇に、近場に居たまた別のオークが狼狽の声を上げかけるが、それもまた妙な濁った悲鳴へ変わる。GONGがさらに開いていたもう一方のアームで、オークの顔面を殴って拉げ吹っ飛ばしたのだ。
「ヒィ!?――ギャッ」
「タすけ――ビュぇッ!?
そしてGONGはオーク相手に暴れ始め。オーガの取り巻きであったオーク達は、一方的に散らかされ屠られ始めた。
「やぁれやれ――」
そんな光景に最早自分は手出し無用と。制刻は残るオークの始末をGONGに任せ、淡々と零しながら振り向き、その歪な眼での視線を背後へと向ける。
「ッ!」
「ッぅ!」
それに反応したのは、女オークのサウライナス始め、先に現れ敢日等を救ったオーク等。
襲来した脅威であるはずのオーガを、しかしそれ以上の衝撃をもって面白いまでに易々と屠って見せた制刻を前に。呆気に取られていたオーク等は。
しかし正体不明なその存在の注意が自分等へ向いた事で、強く警戒し身構える姿勢を取り。鉈や弓などのそれぞれの装備を構えて制刻へと向けた。
「っと!ストップ!タンマだ、タンマタンマッ!あいつは大丈夫だッ!」
そこへ同じく制刻に視線注意をもってかれていた敢日が、一拍遅れて状況を飲み込み。そしてオーク等の前に身を翻して出て、両腕を翳して抑えるポーズを取りながら、訴え要求する言葉を慌て発し上げた。
「皆、武器を降ろせ!あの彼は、味方だ!」
「あのぶっ飛んだのは、俺の親友だ!敵じゃない!」
さらにジューダも状況に追いつき、オーク等に向けて促し、そして説明する言葉を紡ぎ。敢日は畳みかけて訴える言葉をまた紡いだ。
「……味方?」
「本当にか……?」
二名の言葉を受け。サウライナスやハープンジャー、オーク等は訝しみ今だ警戒の色を残しつつも、それぞれの得物をとりあえず降ろす。
「あぁ……無理もないが、大丈夫だ」
敢日もオーク等のその反応も当然と、少し呆れ困ったような色を作りながら。また促す言葉を紡ぎつつ、背後を振り向く。
「解放、無事だな」
丁度そこへ、独特の重低音が聞こえ届き。そして敢日やオーク等の心情も知った事ではとでも言うように、悠々とこちらへ歩んでくる制刻の姿が見えた。
後ろには機械音を立ててノッシノッシ続くGONGの巨体もあり。その向こうにはすでに千切り散らかされ始末され切った、敵性のオーク達だった物が散らかっていた。
「あぁ……チトやばい状況に陥ったが、彼等が駆けつけてくれて救われた」
そんな光景や、制刻の変わらぬスタンスに少し呆れ脱力した色を見せながらも。敢日はオーク等を、視線と翳す片手で示し紹介しながら、説明する。
「そいつぁ、礼を言わねぇとな――でぇ。て事はアンタさん方は、兄(あん)ちゃんの身内ってトコか」
その敢日の説明に、制刻は礼と言うワードに反していささか不躾な言葉を紡ぎ。それからジューダに、そしてオーク等に視線を流しながら、推察&尋ねる言葉を紡ぐ。
「あぁ……その通りだ。皆は、私の部族の同胞だ――」
その制刻に、ジューダはまだ戸惑いが残る様子でしかし返し。
互いは、それぞれの紹介と事情の説明そのほかを始めるに至った――
現れ駆け付け、敢日等の危機を救ってくれたオーク等は、〝ユーティースティーツ〟という名を名乗る一つのオークの部族であるらしい。
ちなみにジューダは、このユーティースティーツ部族の族長の息子であるらしい。そして一人種族の異なるトロルのハープンジャーに関しては、流れ着いた放浪者であるらしい。
約束の日取りになって部族の居住地を訪れない、町の住民のサウライを案じ飛び出して行ってしまったジューダを。彼等は心配し、応援の隊を揃えて追いかけて来たとの事であった。
「皆、心配を駆けて本当にすまなかった」
「本当だよ!……だけど、ジューダは正しかった――こんなに酷い事になってるなんて……」
ジューダの述べた謝罪の言葉に、また叱る声を上げたのはサウライナス。しかし同時に彼女は、その顔を曇らせて紡ぐ。
オーク等もジューダを捜索するここまでで、町の惨状を嫌と言う程目の当たりにして来たのであった。
「しかし、また別の驚きがあったな――」
そこへ、また別種の色の声が響く。声の主は、片眼鏡が特徴のオークのロードランド。彼の目は相対する制刻や敢日、そしてGONGに向けられている。
ジューダからのユーティースティーツ部族の紹介に続き、制刻や敢日からもその正体が。日本国と日本国隊の存在とそれについての説明、町への介入の理由など他各種が、今なされた所であった。
「空に現れた、あの凄い速さの鏃?も、貴方たちなの?」
ロードランドに続け、尋ねる声が上がる。
先に敢日に、ロードランドと一緒に手を貸してくれた女オーク。鍛え上げられた体に、美麗なロングの白髪に飾られた、凛々しく端麗ながらも猛々しく気の強そうな顔立ちが特徴。しかしその口調は、反して柔らかくどこかフワっとしている。
彼女のそれは、上空へ出撃飛来したF-1戦闘機を示すもの。
「あぁ、アレもこっちの身内だ。心配無ぇ」
その問いかけに、制刻は淡々と肯定の言葉を返す。
直後。「自分を呼んだか」とでも言わんかのようにF-1戦闘機の一機が、真上をやや低めの高度で、轟音を轟かせながら飛び抜け通過した。
「ッぅ――なんなの……?」
サウライナスが視線を見上げて飛び抜けたF-1戦闘機を追いつつ、困惑の訝しみの声を零す。
「なぁ、よォ。それよか、サウセイ達は無事なのかよッ?」
そこへ割り居るようにまた別の声が差し込まれる。声の主は三白眼が目立つ一名のオークで、その声が上げたのは先に保護したサウセイの名。少し荒げたその声は、しかし同時に焦り心配する色が含まれていた。
「デュラウェロ、大丈夫だ。少なくともサウセイは生きてる」
「あの兄ちゃんだな。坊主たちと一緒に、先に町の外に避難してもらってる」
ジューダはそのオークを名で呼び、そして落ち着かせるように紡ぐ。続け制刻が答え、さらにそのサウセイを保護に至った経緯や、今は三人の子供達と一緒に野戦指揮所に避難している旨が説明された。
「あぁ、そいつぁ良かった……っ」
それを受けたデュラウェロという名のオークは、まだ完全にとは言えないが、険しい顔に少しだけ安心した様子をその顔に見せた。
「しかし……サウセイとウノイ達だけで、フケン達の無事はまだ分からないんだな?」
しかし続け、今度はトロルのハープンジャーが難しい色で言葉を挟む。それはユーティースティーツ部族と交流を持つ、しかしまだ発見に至っていない他の住民が居る事を、歓迎しがたく思うもの。
「あぁ。だから俺等は、引き続きの戦闘捜索を続ける」
制刻はそれをまた端的に肯定。そして自分等は、住民の捜索を続ける旨を告げる。
「アンタ等はどうする?そっちでも続けるってんなら、一緒に来てもらえると面倒が無ぇんだが」
続け、そんなやや不躾な言葉で。尋ね要請する言葉をオーク等へと発する制刻。
戦力的な意味でも、無用な混乱を避ける意味でも。少なくとも敵対関係では無いオークの彼等には、同行してもらいたい所であった。
しかし得体の知れない。おまけに立場が変われば脅威となるだろう力を、先に見せつけた制刻を前に、オーク等はすぐに返事を返せないでいた。
「皆、私やサウセイは彼等に危機を救われた。彼等は味方に、力になってくれる存在だと信じられる」
だが、続けジューダが。同胞の皆に向かって、説き促す言葉を紡いだ。
「……ジューダが言うなら」
「少し、見させてもらうとするか」
ジューダのそれを受け。サウライナスやハープンジャーが、まだ疑念は晴れないと言った様子ながらも、受け入れる言葉を発する。
「理解に礼を言う――コントロール、エピックだ」
オーク等のその様子を受けた制刻は、端的に協力に礼をする言葉を紡ぎ。それからヘッドセットに言葉を発し、野戦指揮所に向けての通信を始めた。
「同行してるオークの兄ちゃんの、身内と遭遇合流した。一個班規模、こっからは一緒に行動してもらう。以降、俺等と一緒に居るデカい図体の一隊は撃つな」
ヘッドセットに状況現状を端的に紡ぎ、通信に上げて送る制刻。
一方、オーク等には制刻が唐突に一人で話し始めたように見え。オークの各々は訝しむ視線を制刻に向ける。
「識別には充分注意しろ――あぁ、終ワリ」
しかしそんなオーク等の視線を気にも留めず。制刻は言葉を紡ぎ切り、通信を追える。
「――おぉし、行くとしようぜ」
そして引き続き訝しむオーク等に、しかしまったく気にせず構わぬ様子でそんな促す言葉を告げ。
身を翻して、悠々と歩み出し行程を再開。
ジューダは少し困った様子で、そんな制刻の背を見て。それから横に居る敢日に視線を送る。
敢日は肩をすくめ困り笑いだけをジューダに寄こすと、制刻を追って歩み出し、さらにGONGがそれに追従。
オーク等も戸惑いと疑念を残しつつも、とりあえずと言った様子でゾロゾロとそれに続く事となった。
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