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チャプター2:「凄惨と衝撃」
2-16:「〝派手に行こうぜ!〟Ⅲ」
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愛平の町の町路を、またドカドカと進むオークの一群があった。
一群は、先に発したオーク頭率いる一隊に続き。それに合流すべく追いかけるオーク達の後続隊。
「急ゲよっ、頭達に遅れチまうぞッ」
その一群の先陣を務める一体のオークが、急かし促す言葉を上げる。
「そんナ慌てンなよ。どうセ頭は喜んで人間共をみんなブッ殺してるゼ」
「ちゲェ無ェ!また人間ドモの無様ナところを見ンのが楽しみダな!」
しかし続く他のオーク達は、下品に笑い上げる。オーク達は、先陣を切っていった自分達の頭が暴れまた勝者となっている事を、信じて疑わなかった。
「……オぃ……なンか来るゼ?」
「ア?」
しかしその中で、一体のオークが別種の疑念の声を上げた。そのオークが前方を指し示し、一群のオーク達の視線は町路の先へ集中する。
丁度砂埃が舞い上がり立ち込め、不明瞭となったその先。砂のカーテンの向こうに見えた朧げなそれは、ゆらりゆらりと動き現れるいくつかの影。
それにオーク達は訝しみつつ、しかしあまり警戒の色は見せずの注視する。
今のこの町の中で、その先より現れ来るとすればそれは味方。同族であるオーク始め魔物しか考えられない。少なくともオーク達はそれを疑わなかった。
そして、砂埃を抜けて影の群れは正体を現す。現れた緑の巨体達は、想像通り同族のオーク達であった。
「ナんだよ、ビビらせやガって……」
一目見てその事が確認でき、一層の安堵を見せ声を漏らすオーク達。
「オいおい……どうし……――!?」
そして一体のオークが、同胞が町路を戻って来た理由を尋ねようと、声を上げようとした。
しかし――
オーク達が異変に。現れた同胞達の、明らかな異常に気付いたのはその直後瞬間。そしてオーク達は驚愕し、愕然とした。
「……ァ……ぁ゜……」
「ぃ……ぃだァ……っ……」
「だス……け……」
砂埃のカーテンを抜けて姿を現したのは、複数体のオーク達。横並びに歩くそのオーク達の動きは何か非常に弱々しく、そして悲鳴ともつかない声を漏らし届けている。
当然だ。
そのオーク達はいずれも、一体残さず。
あるはずの両腕が見えない。ことごとく根本より切断され、おびただしい血を流している。
いずれも虫の息といった様子で涎を垂らし泡を吹き。白目を剥き――いや、よくよく観察すれば、何体かは両目を潰され視力を奪われている。あるいは顔面を潰されている。
そして極めつけは、オーク達の下腹部、股間部。
そこに下がるはずのご自慢の『モノ』が、ことごとく無い。いずれの股間もこそげ、掻き取られたかのように痛々しい損壊の様子を見せ。そして排泄物のごとくおびただしい血を垂れ流し、震えながらの弱々しい歩みに合わせ、血の道筋を作っていた。
まるで、亡者の群れ。
「ん……ナ……!?」
微塵も予想していなかったそのえげつない光景に、オーク達は絶句。
しかしそんなオーク達の耳に、さらに何か異質な音が届き。そしてオーク達の先に光景となって現れる。
砂埃のカーテンの向こうにシルエットを浮かべ。そして瀕死のオーク達を追い立てるように、金属の擦れるような音を立てて砂埃の中より現れたのは、何か箱状の大きな物体。
「ハ?……ぇ、あ……う、ウワぁアアアアッ!??」
しかしその正体を判別する前に、新手のオーク達の視線はもっと別の物に。その物体の前面に〝括りつけられた〟ものに轢きつけられ。そして一体のオークから、狼狽える、いや悲鳴に近い声が上がった。
「ぉ゜……も……ぉぴょ……ぉ……っ」
オーク達の視線の先に現れた、箱状の物体――それは他ならぬ76式装甲戦闘車。
重要なのは、その正面装甲に磔括りつけられた、いくつかの物体にあった。
その正面に括りつけられ晒されていたのは、他ならぬオーク頭――いや、正確にはだった物と表現すべきか。
オーク頭は、ほぼ瀕死であった。
その太く屈強であった両腕両脚は、しかし切断され影も形も無く。チェーンソーによるものである乱暴に切断面からは、おびただしい出血が見える。
獰猛を絵にかいたようであった顔面は鼻面から潰され凹み、面白いまでに崩壊。
そして最早お約束に用に、股間で主張していたはずのご自慢の『モノ』は。切断され掻き削がれて姿を消し、削がれた欠損部からはまたおびただしい血が、そして膀胱の残りなどの内臓物が飛び出て垂れさがっている。
よく観察すれば、オーク頭のまた獰猛であった口は、しかし何かが突き込まれ塞がれている。それは、あるべき場所より削がれ無用の長物と化した、オーク頭のご自慢であった竿と玉と他臓物。それがオーク頭の口を占め塞ぎ、今は無駄となったその長太さで、喉の気道へ突き込み呼吸を阻害。わずかな隙間からは、最早呻き声にもなっていない苦痛の音が、血の泡と共に漏れ出ているのみ。
先まで、それまでの勝者。簒奪者、征服者であったはずの姿から180度変わり。瀕死の家畜、虫にも劣る格好へと。肉塊の達磨へと成り果てたオーク頭の醜態がそこにはあった。
「ぁぉ゜……ぇァ……」
「ぉぽ……ぉご……」
ついでにそのオーク頭の両側には、同じく括りつけられ晒されるオークが二体。いずれも有様は、オーク頭と同様の無残な姿と成り果てていた。
「か、頭……嘘ダろ頭だゾ!?」
「な、なんダよあれッ!」
先立ち向かい、そしてまた人間達を蹂躙しているはずであった自分達の頭が。しかし見るも無残な姿となって、目の前に現れた現実に。オーク達は最早パニックの域で狼狽え慌てふためき出す。
「どうし……――パりゃッ!?」
しかし、オーク達にはその暇すらほとんど与えられなかった。
直後に狼狽えていたオークの一体が、最早悲鳴の体を成していない音を上げて、弾け飛んだ。そのオークの頭部から胸周りは果実のように弾けて損壊消失し、地面に投げ叩きつけられ臓物を散らかす。
そして同時に響き聞こえ出したのは、異質な複数の破裂音――火力投射、銃砲撃の音。
76式装甲戦闘車の搭載の、30mmリヴォルヴァーカノンや74式車載7.62mm機関銃からの投射攻撃が、オーク達を襲い始めたのだ。
「ひビェッ!?」
「ナん――キョッ!?」
オーク達は狼狽し事態をロクに把握もできないまま。火力投射を前に弾かれ、浚えられ出した。
「ぁ……ぅぁ゜……」
一方。
両腕を切断され挙句股間を削がれ、プルプルと震えながら虫の息で並び歩かされるオーク達は。最早目の前で仲間達が屠られてゆく光景すら分かっておらず、涎を垂らし泡を吹いてただ呻いている。
「ぁぇ……――ピャッ!?」
内の、一体のオークの後頭部にゴリと何かが押し付けられ。パーン――という乾いた音が響き、そのオークの頭部が爆ぜたのはその時であった。
絶命し、崩れ地面に沈むオーク。
その後ろより現れたのは、他でもない讐であった。
その片手には今まさに引き金の引かれ、オークの頭部を撃ち抜き屠ったナガン・リボルバー。
「イマイチだな」
讐は屠ったオークの死体には一瞥だけくれて、そんなどこかつまらなそうな感想のような一言を零す。
説明も最早不要かもしれないが、オーク達をここまでの阿鼻叫喚の地獄に陥れたのは、他でもない讐と14分隊だ。
その理由は、町の住民に対する一応体裁上の仇。非道を行ったオーク達への制裁。そして、まだ残り蔓延るオーク達に対するコケ脅しをおまけ程度に期待したもの。当然、後方の本部班や野戦指揮所への許可などは取っているはずもない。讐と14分隊の独断だ。
ついでに補足すれば。オーク達の『モノ』を切り削いで口に突っ込ませる等の汚れる行動は、隊員等が直接行った訳では無い。これ等の汚れの伴う手順は、捕縛したまだ息のあるオーク達を、痛めつけ脅し。オーク達に互いにやらせ、施させたのであった。
そして実際にあって、その効果は絶大。新たに表れたオーク達を面白いまでに狼狽させたが。当の讐はそれをさして面白く感じずお気に召さなかったようで、最早用済みと並べ晒し歩かせたオークの一体を始末したのであった。
「やれ、始めろ」
そんなつまらぬ様子を見せつつ、讐はナガン・リボルバーを持った手を翳し流し。促す言葉を紡ぐ。
それに呼応し、76式装甲戦闘車の両側面を抜けて、片里始め隊員らが駆け出て来た。
内数名は並ばされたオーク達を無視してそのまま抜け出。
「ぁ……びぃッ……!?――ギャ!」
「ぴゃぁッ」
他の複数名はオークの尻を蹴飛ばして地面に転がし、その上でショットガンを叩き込み。あるいは讐にならい銃火器を後頭部に突きつけ撃ち抜き。
用済みと言わんばかりにオーク達を屠り退けてゆく。
そしてそこから流れ続ける動きで、町路上に雑把に展開。個々の判断で進行、攻撃を開始。町路上に各種火器の発砲音が、本格的に響き始める。
そして、その様子を続けてのつまらぬ様子で眺めていた讐も。展開し進行を開始した隊員等を追うように、気だるげに踏み出し歩み出した。
前方に、ばらけた雑把な隊形で展開したのは、讐筆頭に辺里を始めとする6名。
各々は確固判断で自由に、好き放題に弾をばら撒きながら。後ろより続く76式装甲戦闘車の援護支援を受けながら、我が物顔といったまでの様子で町路を押し進む。
町路の先にあるは、先程現れた新手のオークの一群の、しかし火力投射に屠られ浚えられ、無残に散らばる光景。
讐筆頭の6名は、その場に遠慮無く踏み入り死体や肉片を踏み。さらに転がりながらもまだ息のあるオークを邪魔と言うように蹴飛ばし。その体に、頭に銃弾を叩き込み始末する。
そのさらに向こうの町路上には、背を向けて狼狽え逃げるオーク達が見える。
しかし直後には後続の76式装甲戦闘車の30mmリヴォルヴァーカノンと機関銃が唸りを上げ。追いかけ叩き込まれた銃弾がオーク達の背中を食らい射抜き。さらには着弾した機関砲弾がオーク達を千切り散らかし、弾き巻き上げた。
「前方、さらに新手」
そこで辺里が報告の声を上げる。
見れば、町路の先よりさらなるオークの一群が現れていた。
一群は、しかし直後には散らかされた仲間や。さらには装甲戦闘車の前面に引き続き無残に晒されているオーク頭の慣れ果てを見て。遠目にも分かる狼狽の様子を見せる。
一方の分隊は。構うことなく、そして止まることなくさらに押し進み。
そんなオーク達に向けてまた容赦なく、火力を叩き込み、蹴散らした。
またパニックに陥り、背を向け、転倒し這いながら逃げ出すオーク達。
しかしそんなオーク達に、また容赦なく襲う攻撃。
町路に並ぶ建造物の上階に、分隊付随の機関銃班が配置。窓より突き出し据えられたFN MAGが唸り銃弾を吐き出し、逃走するオーク達の背中を片端から喰らい、屠ってゆく。
さらには14分隊が先に抑えた広場に配置した64式81mm迫撃砲から。81㎜迫撃砲弾が投射され飛来。迫撃砲弾は見事なまでに逃げるオーク達のど真ん中に落ち、炸裂。オーク達を千切り四散させ、宙空へと舞い上げ血肉の花火を作った。
「ッ――前方!」
そこへ、またも辺里が。今度は少し険しい色で発し上げる。
町路の先。今度そこに見えたのは、あまりにも巨大な物体――生物。イノシシの特徴を持ちながら、マンモスのように大きなそれ。モンスター達が使役する巨大生物、ライマクであった。
「聞いてたマンモスモドキか――讐ッ!」
「焦るな。火力支援」
ライマクの存在は、14分隊にも伝えられ周知されていた。その聞き及んでいた巨大な脅威の登場に、少し急く様子で訴える言葉を寄こす辺里。対する讐は、変わる事のない少し気だるげな様子で、ヘッドセットを用いて装甲戦闘車や各火点に、支援要請の旨を発報しようとした。
「――っと?」
しかし。讐がその動きを中断して、何かに気付く様子を見せ、視線を上げたのはその時。
「ッ!」
続け辺里もそれに気づく。
彼等が聞き留めたのは、キィィィ――という空気を切り裂くような音。それが上空より届き、見る見るうちに鮮明になる。
――瞬間、町路の先で巨大な爆音が響き、そして爆炎が上がった。
見れば、現れ町路上を練り進んでいたライマクの。その巨体が爆炎に包まれ焼かれていた。
そしてほぼ同時に、町路の上空。家並みに枠取られた空の中を、何か飛行物体が恐るべきまでの速度で。そして劈くような轟音を響かせて飛び抜けた。
「ッ――マジかッ」
「寄こしたのか」
上空を飛び抜けて行った飛行物体。それの飛び抜けた先を追って上空を見上げ、辺里は少し驚き。讐は淡々とした様子で零す。
視線で追いかけた先。大空を背景に旋回体制に入り飛ぶは、尖ったシルエットと迷彩に塗装したボディが特徴の飛行体――三菱 F-1戦闘機の機体であった。
日本国航空隊所属のそれは、ここより遠く月詠湖の国の個人所有領――スティルエイト・フォートスティートに新たに転移して来た飛行場、豊原基地から出撃し飛来したもの。
この愛平の町の状況が想定以上に過酷で凄惨な物であった事から、困難な事態への対処に備え。装甲小隊始め部隊に、より一層の強力な火力を提供するために出撃し。
そして今、腹に抱えたMk.82航空爆弾をライマク目掛けて投下。その有り余る炸裂の暴力を持ってライマクを焼き消し飛ばし、屠って見せたのだ。
「ジャストなタイミングで来てくれたッ」
辺里はその到着と爆撃支援の見事なまでのタイミングに。歓迎しつつも少し皮肉気な色を零す。
その向こうには、その巨体をしかし面白いまでに大きく削がれ失い。内臓を露にし沈んだライマクの巨体。
「行け、行け」
一方の讐は長くそれに興味を持って行かれる事は無く。地上に視線と意識を戻して、またナガン・リボルバーを流し前進続行を促す。
方やオーク達は、すでに完全に戦意を失い瓦解していた。
最早なりふり構わず、背を向け一目散に逃げてゆくオーク達。時折、増援であったのであろう別のオークの一群が合流を見せるが、そのオーク達もすぐに事態に直面し、逃走する群れの一部に加わるハメになり。そして火力投射に弾かれ巻き上げられ、地面を彩る血肉ろ化す末路を辿った。
14分隊は各種火力支援を受けながら、容赦なく押し進み、オーク達を退けてゆく。
すでにカバーも必要最低限で、堂々と進撃。攻撃射撃行動も、ヤクザ撃ちのそれが散見された。
逃げるオークの群れの背を遠慮なく撃ち。道中、戦意を失い縮こまり隠れるオークを引きずり出して始末し。負傷し這い逃げるオークを踏みつけ、蹴飛ばし、転がし屠り仕留める。
時折、携帯放射器操作員の藩基の操る携帯放射器が盛大に火炎を吹き。オーク達を炙り包み、炎と熱の苦しみで阿波踊りを演じさせ。そしてオークの丸焼きを仕上げる。
「残すな、見逃すな」
讐は、自身もナガン・リボルバーを片手間に撃ちつつ。隊員に促し指示を送る。
町路上に響くは、あらゆく火器火力の音。そしてオーク達の悲鳴、鳴き声。
《――少し、広報と行くか》
そんな最中。讐の背後より効果の掛かった響く音声が、唐突に響く。
その主は、後続の76式装甲戦闘車の車長の太帯の声。装甲戦闘車の車長用キューポラ上には、半身を出した彼の姿。その手にはスピーカーメガホンが持たれ構えられ、それが効果の掛かった音声の原因である事が見える。
《――異世界の異種の諸君ッ。諸君には看過されぬ罪がある。深く後悔し、償うべく逃れられぬ非道の咎があるッ。それが償われるには、諸君の命を差し出してもらう必要がある。諸君の悲鳴を、恐怖の震えを、無残な慣れ果てた屍を差し出してもらう必要があるッ》
その太帯がスピーカーメガホン越しの声で紡ぎ始めたのは、そんなオーク達に訴える勧告の言葉。何かの真似でもしているのか、重厚な言葉遣いで紡がれる叩きつけるような言葉が、スピーカーメガホンの効果が掛かり響き伝わる。
《あぁ、諸君の回答はいらない。こちらは諸君の意思は関係なく、ただ諸君を屠り沈める。君達は――ただ怯えていろッ。ただ泣いていろッ。己が差した存在で無いと思い知り、ただ震え後悔していろッ。それが君達に残され認められた、唯一の姿だッ!思い知るがいいッ!》
オーク達の絶望を誘うための宣告の文言。
それが無数の銃砲火の音。キャタピラの音に飾られながら、高らかに響き上がる。
「――やぁれやれ」
そんな太帯の姿様子を、背後の装甲戦闘車上に身ながら。
讐は呆れシラけた様子で、一言零しながらも。今しがた捕まえ、肉の盾として利用する予定の一体のオークの首根っこを掴み引きずり。各方へ適当にナガン・リボルバーを撃ち放ちながら、前進進行を続ける。
その向こうには最早愉快なまでの姿で、揃いも揃って逃げてゆくオークの群れ。
直後瞬間。
そのオークの群れが爆炎に巻かれ、巻き上げられ消し飛ぶ。
そして町路の真上上空を、再び空気を切り裂くような音を響かせ。さらには劈くジェットエンジンの轟音を轟かせて。
飛来した二機目のF-1戦闘機。今の一機目の相棒機であろうそれが、高速で飛び抜けた――
「――あぁ、やだやだ。この古臭い機体にまた押し込められるなんてな」
上空へ飛来した、2機のF-1戦闘機。
内の二機目、二番機。その窮屈なコックピット内で、そんな白けそして不愉快そうな言葉が紡がれ響く。
その声の主は、航空隊所属の空曹長――維崎。
彼は、この異世界への初期段階の転移現象で転移した、航空隊のCH-47J輸送ヘリコプターの副機長を務めていた隊員だ。
しかしその彼は今。F-1戦闘機の操縦席に収まり、その操縦桿を操り機を飛ばしていた。
転移の第二段階では豊原基地の飛行場施設と一緒に、多種複数の航空機が転移してきていた。今この異世界の空を飛ぶ、二機のF-1戦闘機もその一部だ。
しかし、その多種複数の航空機に対して。それを操るパイロット事態が若干少ないという事が、後の人員点呼掌握で明らかとなったのだ。
特に人数が限られたのが、戦闘機のパイロット。
せっかく飛ばせる機体と、それを可能とするだけの装備物資設備が転移して来たというのに、肝心のパイロットが揃えられないというのは、非常に歯がゆい状況であった。
その解決策の一つとして白羽の矢が立てられたのが、維崎であった。
彼は元々戦闘機パイロットの志願、候補者であり、高等訓練課程でF-1戦闘機の原型機であるT-2改の搭乗経験を有した。
いくつかの訳あって当時はその道を外され、ヘリコプターのパイロットへと転換する事となった維崎であったが。この異世界においての隊の都合、なりふり構っていられない現状が、幸か不幸か転じ。
ご丁寧にまた基地と一緒に転移してきていた操縦シュミレーターで、突貫、付け焼刃の再訓練を受けた後――維崎はF-1戦闘機を駆り、この異世界の空を飛ぶ事になったのであった。
「おまけに飛ばされた先は、この気分の悪い状況だ」
その維崎はもう一言呟き。緩やかな旋回行動を取り、少し傾く機体の上で。顔を横に向け、キャノピー越しに眼下の町へと視線を降ろす。
見えるは、痛々しいまでの崩壊の様子を露にする、町の全形。
さらに同時に。コックピットの操縦系の片端に埋め込まれた小さなモニターには、無人観測機が送って来た町のズーム映像が映され。地上で起こる気分の良くない残酷な光景の数々を、映像で表し伝えていた。
《――ヤロウぁ、外道の屑どもがァッ――ふざけやがってェァ――!》
そんな維崎の耳が直後。パイロットヘルメット内臓の無線機から、自分とは毛色のまったく異なる別の声を聞く。それは憤り吐き捨てるような色のそれ。
その声を聞いた維崎は、視線を前方へ向けて機体の進行方向を見る。
その先にあるは、維崎の乗り操るF-1戦闘機より少し距離を取り先行、緩やかな旋回行動を取る尖るシルエット。もう一機のF-1戦闘機、飛来した二機編隊の一番機の姿がそこにあった
今しがたの声は、その一番機に乗り操るパイロット。航空隊の二等空尉――推噴、その彼が主であった。
《デカブツのトンマどもォ――目にもの見せてやらァッ》
続けまた聞こえ届く推噴の声。声量こそ静かだが、その芯には明確な憤りの圧と威がふんだんに込められている。
推噴は、眼下の町で行われているモンスター達による非道に、煮えたぎるまでの怒りを覚えていたのだ。
「落ち着いたらどうだ?ブチ切れて暴れても、けっ躓くのがオチだぞ」
そんな届き聞こえた声の主である推噴に、維崎はまた白け気だるげな声色で、そんな忠告のような言葉を紡ぎ送る。
今のこの場で、階級は幹部である推噴の方が上であり、実際今はこの二機編隊の長でもある。しかし維崎の今の言葉は、そんな事など微塵も意に掛けない不躾なそれだ。
一番機の推噴は、言動通りの感覚派で激情家の問題児であったが。
維崎は維崎でまた、怖い物知らずのきらいがある別種の問題隊員であった。
そして、この異世界の空で急遽相棒となった推噴に対して、維崎は遠慮や忖度は無用で無意味と早々に判別。無遠慮な態度姿勢を取ることに、早くも憚ることは微塵も無くなっていた。
《ほざけェァッ!アレをぶっ飛ばす以外にどうするってェ?あァんッ?》
対して推噴から寄こされたのは、最早脅しているかのようなドスの利かされた声。
「〝ヘヴィメタル2、シェンカー〟からホロウストーム・コマンド。続く地上への投射に入る、目標の指定をくれ」
しかし維崎にあっては、そんな推噴の声を無視し。地上の野戦指揮所に向けて自機のコールサインを告げ、続く地上攻撃のための目標指定の要請を送る。
《了解、ヘヴィメタル2。そちらのHUDと画像に表示する》
野戦指揮所からは応答対応の返事がすぐに寄こされ。そして操縦席のHUDには次なる目標へと導くマーカーが浮かび、操縦系のモニターにも同様にマーカーや進入ルートのラインが表示された。
「確認した――ほれ、目標が寄こされたぞ」
それを確認しその旨を野戦指揮所に送り。それから維崎は投げやりな声色で、前方を飛ぶ推噴に促す言葉を送る。
《ハァッ!いいじゃねェかァ――ヘヴィメタル1、ヘイワードォァ。行くぞオラァッ!》
維崎からの促す声を受け取ったであろう推噴は、今度は無線越しにそんな荒々しくも滾るような声を寄こす。
かと思うや否や。前方を飛ぶ推噴のF-1戦闘機は、いち早く次の火力投射への進入ルートに入るためであろう。より速度を上げ、維崎の二番機を引き離す様子を見せた。
「アタマ撃滅の相手は疲れる」
そんな推噴の声と様子に。一方の維崎は歯に衣着せぬ物言いで、億劫そうに紡ぎ発し。
それから推噴の一番機とはまた別に自分のペースで。火力投射への進入コースに機体を乗せるべく、操縦桿始め各操縦系を操り機体を加速旋回させた。
一群は、先に発したオーク頭率いる一隊に続き。それに合流すべく追いかけるオーク達の後続隊。
「急ゲよっ、頭達に遅れチまうぞッ」
その一群の先陣を務める一体のオークが、急かし促す言葉を上げる。
「そんナ慌てンなよ。どうセ頭は喜んで人間共をみんなブッ殺してるゼ」
「ちゲェ無ェ!また人間ドモの無様ナところを見ンのが楽しみダな!」
しかし続く他のオーク達は、下品に笑い上げる。オーク達は、先陣を切っていった自分達の頭が暴れまた勝者となっている事を、信じて疑わなかった。
「……オぃ……なンか来るゼ?」
「ア?」
しかしその中で、一体のオークが別種の疑念の声を上げた。そのオークが前方を指し示し、一群のオーク達の視線は町路の先へ集中する。
丁度砂埃が舞い上がり立ち込め、不明瞭となったその先。砂のカーテンの向こうに見えた朧げなそれは、ゆらりゆらりと動き現れるいくつかの影。
それにオーク達は訝しみつつ、しかしあまり警戒の色は見せずの注視する。
今のこの町の中で、その先より現れ来るとすればそれは味方。同族であるオーク始め魔物しか考えられない。少なくともオーク達はそれを疑わなかった。
そして、砂埃を抜けて影の群れは正体を現す。現れた緑の巨体達は、想像通り同族のオーク達であった。
「ナんだよ、ビビらせやガって……」
一目見てその事が確認でき、一層の安堵を見せ声を漏らすオーク達。
「オいおい……どうし……――!?」
そして一体のオークが、同胞が町路を戻って来た理由を尋ねようと、声を上げようとした。
しかし――
オーク達が異変に。現れた同胞達の、明らかな異常に気付いたのはその直後瞬間。そしてオーク達は驚愕し、愕然とした。
「……ァ……ぁ゜……」
「ぃ……ぃだァ……っ……」
「だス……け……」
砂埃のカーテンを抜けて姿を現したのは、複数体のオーク達。横並びに歩くそのオーク達の動きは何か非常に弱々しく、そして悲鳴ともつかない声を漏らし届けている。
当然だ。
そのオーク達はいずれも、一体残さず。
あるはずの両腕が見えない。ことごとく根本より切断され、おびただしい血を流している。
いずれも虫の息といった様子で涎を垂らし泡を吹き。白目を剥き――いや、よくよく観察すれば、何体かは両目を潰され視力を奪われている。あるいは顔面を潰されている。
そして極めつけは、オーク達の下腹部、股間部。
そこに下がるはずのご自慢の『モノ』が、ことごとく無い。いずれの股間もこそげ、掻き取られたかのように痛々しい損壊の様子を見せ。そして排泄物のごとくおびただしい血を垂れ流し、震えながらの弱々しい歩みに合わせ、血の道筋を作っていた。
まるで、亡者の群れ。
「ん……ナ……!?」
微塵も予想していなかったそのえげつない光景に、オーク達は絶句。
しかしそんなオーク達の耳に、さらに何か異質な音が届き。そしてオーク達の先に光景となって現れる。
砂埃のカーテンの向こうにシルエットを浮かべ。そして瀕死のオーク達を追い立てるように、金属の擦れるような音を立てて砂埃の中より現れたのは、何か箱状の大きな物体。
「ハ?……ぇ、あ……う、ウワぁアアアアッ!??」
しかしその正体を判別する前に、新手のオーク達の視線はもっと別の物に。その物体の前面に〝括りつけられた〟ものに轢きつけられ。そして一体のオークから、狼狽える、いや悲鳴に近い声が上がった。
「ぉ゜……も……ぉぴょ……ぉ……っ」
オーク達の視線の先に現れた、箱状の物体――それは他ならぬ76式装甲戦闘車。
重要なのは、その正面装甲に磔括りつけられた、いくつかの物体にあった。
その正面に括りつけられ晒されていたのは、他ならぬオーク頭――いや、正確にはだった物と表現すべきか。
オーク頭は、ほぼ瀕死であった。
その太く屈強であった両腕両脚は、しかし切断され影も形も無く。チェーンソーによるものである乱暴に切断面からは、おびただしい出血が見える。
獰猛を絵にかいたようであった顔面は鼻面から潰され凹み、面白いまでに崩壊。
そして最早お約束に用に、股間で主張していたはずのご自慢の『モノ』は。切断され掻き削がれて姿を消し、削がれた欠損部からはまたおびただしい血が、そして膀胱の残りなどの内臓物が飛び出て垂れさがっている。
よく観察すれば、オーク頭のまた獰猛であった口は、しかし何かが突き込まれ塞がれている。それは、あるべき場所より削がれ無用の長物と化した、オーク頭のご自慢であった竿と玉と他臓物。それがオーク頭の口を占め塞ぎ、今は無駄となったその長太さで、喉の気道へ突き込み呼吸を阻害。わずかな隙間からは、最早呻き声にもなっていない苦痛の音が、血の泡と共に漏れ出ているのみ。
先まで、それまでの勝者。簒奪者、征服者であったはずの姿から180度変わり。瀕死の家畜、虫にも劣る格好へと。肉塊の達磨へと成り果てたオーク頭の醜態がそこにはあった。
「ぁぉ゜……ぇァ……」
「ぉぽ……ぉご……」
ついでにそのオーク頭の両側には、同じく括りつけられ晒されるオークが二体。いずれも有様は、オーク頭と同様の無残な姿と成り果てていた。
「か、頭……嘘ダろ頭だゾ!?」
「な、なんダよあれッ!」
先立ち向かい、そしてまた人間達を蹂躙しているはずであった自分達の頭が。しかし見るも無残な姿となって、目の前に現れた現実に。オーク達は最早パニックの域で狼狽え慌てふためき出す。
「どうし……――パりゃッ!?」
しかし、オーク達にはその暇すらほとんど与えられなかった。
直後に狼狽えていたオークの一体が、最早悲鳴の体を成していない音を上げて、弾け飛んだ。そのオークの頭部から胸周りは果実のように弾けて損壊消失し、地面に投げ叩きつけられ臓物を散らかす。
そして同時に響き聞こえ出したのは、異質な複数の破裂音――火力投射、銃砲撃の音。
76式装甲戦闘車の搭載の、30mmリヴォルヴァーカノンや74式車載7.62mm機関銃からの投射攻撃が、オーク達を襲い始めたのだ。
「ひビェッ!?」
「ナん――キョッ!?」
オーク達は狼狽し事態をロクに把握もできないまま。火力投射を前に弾かれ、浚えられ出した。
「ぁ……ぅぁ゜……」
一方。
両腕を切断され挙句股間を削がれ、プルプルと震えながら虫の息で並び歩かされるオーク達は。最早目の前で仲間達が屠られてゆく光景すら分かっておらず、涎を垂らし泡を吹いてただ呻いている。
「ぁぇ……――ピャッ!?」
内の、一体のオークの後頭部にゴリと何かが押し付けられ。パーン――という乾いた音が響き、そのオークの頭部が爆ぜたのはその時であった。
絶命し、崩れ地面に沈むオーク。
その後ろより現れたのは、他でもない讐であった。
その片手には今まさに引き金の引かれ、オークの頭部を撃ち抜き屠ったナガン・リボルバー。
「イマイチだな」
讐は屠ったオークの死体には一瞥だけくれて、そんなどこかつまらなそうな感想のような一言を零す。
説明も最早不要かもしれないが、オーク達をここまでの阿鼻叫喚の地獄に陥れたのは、他でもない讐と14分隊だ。
その理由は、町の住民に対する一応体裁上の仇。非道を行ったオーク達への制裁。そして、まだ残り蔓延るオーク達に対するコケ脅しをおまけ程度に期待したもの。当然、後方の本部班や野戦指揮所への許可などは取っているはずもない。讐と14分隊の独断だ。
ついでに補足すれば。オーク達の『モノ』を切り削いで口に突っ込ませる等の汚れる行動は、隊員等が直接行った訳では無い。これ等の汚れの伴う手順は、捕縛したまだ息のあるオーク達を、痛めつけ脅し。オーク達に互いにやらせ、施させたのであった。
そして実際にあって、その効果は絶大。新たに表れたオーク達を面白いまでに狼狽させたが。当の讐はそれをさして面白く感じずお気に召さなかったようで、最早用済みと並べ晒し歩かせたオークの一体を始末したのであった。
「やれ、始めろ」
そんなつまらぬ様子を見せつつ、讐はナガン・リボルバーを持った手を翳し流し。促す言葉を紡ぐ。
それに呼応し、76式装甲戦闘車の両側面を抜けて、片里始め隊員らが駆け出て来た。
内数名は並ばされたオーク達を無視してそのまま抜け出。
「ぁ……びぃッ……!?――ギャ!」
「ぴゃぁッ」
他の複数名はオークの尻を蹴飛ばして地面に転がし、その上でショットガンを叩き込み。あるいは讐にならい銃火器を後頭部に突きつけ撃ち抜き。
用済みと言わんばかりにオーク達を屠り退けてゆく。
そしてそこから流れ続ける動きで、町路上に雑把に展開。個々の判断で進行、攻撃を開始。町路上に各種火器の発砲音が、本格的に響き始める。
そして、その様子を続けてのつまらぬ様子で眺めていた讐も。展開し進行を開始した隊員等を追うように、気だるげに踏み出し歩み出した。
前方に、ばらけた雑把な隊形で展開したのは、讐筆頭に辺里を始めとする6名。
各々は確固判断で自由に、好き放題に弾をばら撒きながら。後ろより続く76式装甲戦闘車の援護支援を受けながら、我が物顔といったまでの様子で町路を押し進む。
町路の先にあるは、先程現れた新手のオークの一群の、しかし火力投射に屠られ浚えられ、無残に散らばる光景。
讐筆頭の6名は、その場に遠慮無く踏み入り死体や肉片を踏み。さらに転がりながらもまだ息のあるオークを邪魔と言うように蹴飛ばし。その体に、頭に銃弾を叩き込み始末する。
そのさらに向こうの町路上には、背を向けて狼狽え逃げるオーク達が見える。
しかし直後には後続の76式装甲戦闘車の30mmリヴォルヴァーカノンと機関銃が唸りを上げ。追いかけ叩き込まれた銃弾がオーク達の背中を食らい射抜き。さらには着弾した機関砲弾がオーク達を千切り散らかし、弾き巻き上げた。
「前方、さらに新手」
そこで辺里が報告の声を上げる。
見れば、町路の先よりさらなるオークの一群が現れていた。
一群は、しかし直後には散らかされた仲間や。さらには装甲戦闘車の前面に引き続き無残に晒されているオーク頭の慣れ果てを見て。遠目にも分かる狼狽の様子を見せる。
一方の分隊は。構うことなく、そして止まることなくさらに押し進み。
そんなオーク達に向けてまた容赦なく、火力を叩き込み、蹴散らした。
またパニックに陥り、背を向け、転倒し這いながら逃げ出すオーク達。
しかしそんなオーク達に、また容赦なく襲う攻撃。
町路に並ぶ建造物の上階に、分隊付随の機関銃班が配置。窓より突き出し据えられたFN MAGが唸り銃弾を吐き出し、逃走するオーク達の背中を片端から喰らい、屠ってゆく。
さらには14分隊が先に抑えた広場に配置した64式81mm迫撃砲から。81㎜迫撃砲弾が投射され飛来。迫撃砲弾は見事なまでに逃げるオーク達のど真ん中に落ち、炸裂。オーク達を千切り四散させ、宙空へと舞い上げ血肉の花火を作った。
「ッ――前方!」
そこへ、またも辺里が。今度は少し険しい色で発し上げる。
町路の先。今度そこに見えたのは、あまりにも巨大な物体――生物。イノシシの特徴を持ちながら、マンモスのように大きなそれ。モンスター達が使役する巨大生物、ライマクであった。
「聞いてたマンモスモドキか――讐ッ!」
「焦るな。火力支援」
ライマクの存在は、14分隊にも伝えられ周知されていた。その聞き及んでいた巨大な脅威の登場に、少し急く様子で訴える言葉を寄こす辺里。対する讐は、変わる事のない少し気だるげな様子で、ヘッドセットを用いて装甲戦闘車や各火点に、支援要請の旨を発報しようとした。
「――っと?」
しかし。讐がその動きを中断して、何かに気付く様子を見せ、視線を上げたのはその時。
「ッ!」
続け辺里もそれに気づく。
彼等が聞き留めたのは、キィィィ――という空気を切り裂くような音。それが上空より届き、見る見るうちに鮮明になる。
――瞬間、町路の先で巨大な爆音が響き、そして爆炎が上がった。
見れば、現れ町路上を練り進んでいたライマクの。その巨体が爆炎に包まれ焼かれていた。
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「ッ――マジかッ」
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上空を飛び抜けて行った飛行物体。それの飛び抜けた先を追って上空を見上げ、辺里は少し驚き。讐は淡々とした様子で零す。
視線で追いかけた先。大空を背景に旋回体制に入り飛ぶは、尖ったシルエットと迷彩に塗装したボディが特徴の飛行体――三菱 F-1戦闘機の機体であった。
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そして今、腹に抱えたMk.82航空爆弾をライマク目掛けて投下。その有り余る炸裂の暴力を持ってライマクを焼き消し飛ばし、屠って見せたのだ。
「ジャストなタイミングで来てくれたッ」
辺里はその到着と爆撃支援の見事なまでのタイミングに。歓迎しつつも少し皮肉気な色を零す。
その向こうには、その巨体をしかし面白いまでに大きく削がれ失い。内臓を露にし沈んだライマクの巨体。
「行け、行け」
一方の讐は長くそれに興味を持って行かれる事は無く。地上に視線と意識を戻して、またナガン・リボルバーを流し前進続行を促す。
方やオーク達は、すでに完全に戦意を失い瓦解していた。
最早なりふり構わず、背を向け一目散に逃げてゆくオーク達。時折、増援であったのであろう別のオークの一群が合流を見せるが、そのオーク達もすぐに事態に直面し、逃走する群れの一部に加わるハメになり。そして火力投射に弾かれ巻き上げられ、地面を彩る血肉ろ化す末路を辿った。
14分隊は各種火力支援を受けながら、容赦なく押し進み、オーク達を退けてゆく。
すでにカバーも必要最低限で、堂々と進撃。攻撃射撃行動も、ヤクザ撃ちのそれが散見された。
逃げるオークの群れの背を遠慮なく撃ち。道中、戦意を失い縮こまり隠れるオークを引きずり出して始末し。負傷し這い逃げるオークを踏みつけ、蹴飛ばし、転がし屠り仕留める。
時折、携帯放射器操作員の藩基の操る携帯放射器が盛大に火炎を吹き。オーク達を炙り包み、炎と熱の苦しみで阿波踊りを演じさせ。そしてオークの丸焼きを仕上げる。
「残すな、見逃すな」
讐は、自身もナガン・リボルバーを片手間に撃ちつつ。隊員に促し指示を送る。
町路上に響くは、あらゆく火器火力の音。そしてオーク達の悲鳴、鳴き声。
《――少し、広報と行くか》
そんな最中。讐の背後より効果の掛かった響く音声が、唐突に響く。
その主は、後続の76式装甲戦闘車の車長の太帯の声。装甲戦闘車の車長用キューポラ上には、半身を出した彼の姿。その手にはスピーカーメガホンが持たれ構えられ、それが効果の掛かった音声の原因である事が見える。
《――異世界の異種の諸君ッ。諸君には看過されぬ罪がある。深く後悔し、償うべく逃れられぬ非道の咎があるッ。それが償われるには、諸君の命を差し出してもらう必要がある。諸君の悲鳴を、恐怖の震えを、無残な慣れ果てた屍を差し出してもらう必要があるッ》
その太帯がスピーカーメガホン越しの声で紡ぎ始めたのは、そんなオーク達に訴える勧告の言葉。何かの真似でもしているのか、重厚な言葉遣いで紡がれる叩きつけるような言葉が、スピーカーメガホンの効果が掛かり響き伝わる。
《あぁ、諸君の回答はいらない。こちらは諸君の意思は関係なく、ただ諸君を屠り沈める。君達は――ただ怯えていろッ。ただ泣いていろッ。己が差した存在で無いと思い知り、ただ震え後悔していろッ。それが君達に残され認められた、唯一の姿だッ!思い知るがいいッ!》
オーク達の絶望を誘うための宣告の文言。
それが無数の銃砲火の音。キャタピラの音に飾られながら、高らかに響き上がる。
「――やぁれやれ」
そんな太帯の姿様子を、背後の装甲戦闘車上に身ながら。
讐は呆れシラけた様子で、一言零しながらも。今しがた捕まえ、肉の盾として利用する予定の一体のオークの首根っこを掴み引きずり。各方へ適当にナガン・リボルバーを撃ち放ちながら、前進進行を続ける。
その向こうには最早愉快なまでの姿で、揃いも揃って逃げてゆくオークの群れ。
直後瞬間。
そのオークの群れが爆炎に巻かれ、巻き上げられ消し飛ぶ。
そして町路の真上上空を、再び空気を切り裂くような音を響かせ。さらには劈くジェットエンジンの轟音を轟かせて。
飛来した二機目のF-1戦闘機。今の一機目の相棒機であろうそれが、高速で飛び抜けた――
「――あぁ、やだやだ。この古臭い機体にまた押し込められるなんてな」
上空へ飛来した、2機のF-1戦闘機。
内の二機目、二番機。その窮屈なコックピット内で、そんな白けそして不愉快そうな言葉が紡がれ響く。
その声の主は、航空隊所属の空曹長――維崎。
彼は、この異世界への初期段階の転移現象で転移した、航空隊のCH-47J輸送ヘリコプターの副機長を務めていた隊員だ。
しかしその彼は今。F-1戦闘機の操縦席に収まり、その操縦桿を操り機を飛ばしていた。
転移の第二段階では豊原基地の飛行場施設と一緒に、多種複数の航空機が転移してきていた。今この異世界の空を飛ぶ、二機のF-1戦闘機もその一部だ。
しかし、その多種複数の航空機に対して。それを操るパイロット事態が若干少ないという事が、後の人員点呼掌握で明らかとなったのだ。
特に人数が限られたのが、戦闘機のパイロット。
せっかく飛ばせる機体と、それを可能とするだけの装備物資設備が転移して来たというのに、肝心のパイロットが揃えられないというのは、非常に歯がゆい状況であった。
その解決策の一つとして白羽の矢が立てられたのが、維崎であった。
彼は元々戦闘機パイロットの志願、候補者であり、高等訓練課程でF-1戦闘機の原型機であるT-2改の搭乗経験を有した。
いくつかの訳あって当時はその道を外され、ヘリコプターのパイロットへと転換する事となった維崎であったが。この異世界においての隊の都合、なりふり構っていられない現状が、幸か不幸か転じ。
ご丁寧にまた基地と一緒に転移してきていた操縦シュミレーターで、突貫、付け焼刃の再訓練を受けた後――維崎はF-1戦闘機を駆り、この異世界の空を飛ぶ事になったのであった。
「おまけに飛ばされた先は、この気分の悪い状況だ」
その維崎はもう一言呟き。緩やかな旋回行動を取り、少し傾く機体の上で。顔を横に向け、キャノピー越しに眼下の町へと視線を降ろす。
見えるは、痛々しいまでの崩壊の様子を露にする、町の全形。
さらに同時に。コックピットの操縦系の片端に埋め込まれた小さなモニターには、無人観測機が送って来た町のズーム映像が映され。地上で起こる気分の良くない残酷な光景の数々を、映像で表し伝えていた。
《――ヤロウぁ、外道の屑どもがァッ――ふざけやがってェァ――!》
そんな維崎の耳が直後。パイロットヘルメット内臓の無線機から、自分とは毛色のまったく異なる別の声を聞く。それは憤り吐き捨てるような色のそれ。
その声を聞いた維崎は、視線を前方へ向けて機体の進行方向を見る。
その先にあるは、維崎の乗り操るF-1戦闘機より少し距離を取り先行、緩やかな旋回行動を取る尖るシルエット。もう一機のF-1戦闘機、飛来した二機編隊の一番機の姿がそこにあった
今しがたの声は、その一番機に乗り操るパイロット。航空隊の二等空尉――推噴、その彼が主であった。
《デカブツのトンマどもォ――目にもの見せてやらァッ》
続けまた聞こえ届く推噴の声。声量こそ静かだが、その芯には明確な憤りの圧と威がふんだんに込められている。
推噴は、眼下の町で行われているモンスター達による非道に、煮えたぎるまでの怒りを覚えていたのだ。
「落ち着いたらどうだ?ブチ切れて暴れても、けっ躓くのがオチだぞ」
そんな届き聞こえた声の主である推噴に、維崎はまた白け気だるげな声色で、そんな忠告のような言葉を紡ぎ送る。
今のこの場で、階級は幹部である推噴の方が上であり、実際今はこの二機編隊の長でもある。しかし維崎の今の言葉は、そんな事など微塵も意に掛けない不躾なそれだ。
一番機の推噴は、言動通りの感覚派で激情家の問題児であったが。
維崎は維崎でまた、怖い物知らずのきらいがある別種の問題隊員であった。
そして、この異世界の空で急遽相棒となった推噴に対して、維崎は遠慮や忖度は無用で無意味と早々に判別。無遠慮な態度姿勢を取ることに、早くも憚ることは微塵も無くなっていた。
《ほざけェァッ!アレをぶっ飛ばす以外にどうするってェ?あァんッ?》
対して推噴から寄こされたのは、最早脅しているかのようなドスの利かされた声。
「〝ヘヴィメタル2、シェンカー〟からホロウストーム・コマンド。続く地上への投射に入る、目標の指定をくれ」
しかし維崎にあっては、そんな推噴の声を無視し。地上の野戦指揮所に向けて自機のコールサインを告げ、続く地上攻撃のための目標指定の要請を送る。
《了解、ヘヴィメタル2。そちらのHUDと画像に表示する》
野戦指揮所からは応答対応の返事がすぐに寄こされ。そして操縦席のHUDには次なる目標へと導くマーカーが浮かび、操縦系のモニターにも同様にマーカーや進入ルートのラインが表示された。
「確認した――ほれ、目標が寄こされたぞ」
それを確認しその旨を野戦指揮所に送り。それから維崎は投げやりな声色で、前方を飛ぶ推噴に促す言葉を送る。
《ハァッ!いいじゃねェかァ――ヘヴィメタル1、ヘイワードォァ。行くぞオラァッ!》
維崎からの促す声を受け取ったであろう推噴は、今度は無線越しにそんな荒々しくも滾るような声を寄こす。
かと思うや否や。前方を飛ぶ推噴のF-1戦闘機は、いち早く次の火力投射への進入ルートに入るためであろう。より速度を上げ、維崎の二番機を引き離す様子を見せた。
「アタマ撃滅の相手は疲れる」
そんな推噴の声と様子に。一方の維崎は歯に衣着せぬ物言いで、億劫そうに紡ぎ発し。
それから推噴の一番機とはまた別に自分のペースで。火力投射への進入コースに機体を乗せるべく、操縦桿始め各操縦系を操り機体を加速旋回させた。
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