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チャプター2:「凄惨と衝撃」
2-13:「〝派手に行こうぜ!〟Ⅰ」
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場所は、愛平の街の東北側の一角へ。
その一帯に立ち並ぶ建物の内の一件。どうやら酒場及び食堂のような店であるらしい、それなりの広さを持つその施設内部。
その各所には、店の中を何やら調べ漁る数名の者等の姿がある。オーク達モンスタ――では無い。迷彩戦闘服を纏う姿は、その者等が日本国陸隊隊員である事を示している。
町の東ブロックのクリアを担当する、第14分隊の隊員等であった。
「――誰が町中へのハンマー攻撃なんぞ要請したんだッ?俺等のほうが酷く町をやっちまうッ」
その内の一名。FN MAGをその太い腕に構える体格の良い隊員が、視線を上げて何か苦い色で声を上げる。
彼始め隊員等の耳には、遠方より立て続き木霊する爆発音が――6分隊と自走迫撃砲の手により開始された、砲撃の音が聞こえ来ていた。
体格の良い隊員の言葉は、しかしそれに対する懸念事項を指摘するものだ。
「さぁな、辺里」
そんな体格の良い隊員に、彼の名を呼び返す声がする。しかし返されたそれは、どこか淡々としていて興味無さげ。
声を辿れば、その主――14分隊を現在率いる、讐(あだ)の姿がそこにあった。
店のカウンターに寄りかかって肘を突き、その手先で酒のボトルを持ち、しかしさして興味は無さそうに弄んでいる。
「ェぁ……」
「ぁ……ぴァ……」
その讐の足元よりは、何か弱々しい声のような物がいくつか上がっていた。
視線を降ろせばそこに見えるは、三体程のオーク達の姿。二体はカウンターにもたれ掛かり、一体は床に完全に沈み、讐に片足でその頭を踏みつけられている。
正しく言えばオーク達は、〝オークだった物〟になりかけている、ないし既になっていた。
まずオーク達は、その四肢を全て折られあってはならない方向に曲げ。もしくは根本より全てを完全に切断され、血をだだ漏らしにしていた。
そしていずれも白目を剥き、その獰猛さを感じさせる口からは、しかし血の泡を零し。弱々しい悲鳴ともつかない音を上げている。
極めつけに目を引くはオーク達の股間部。それらはいずれも掻きこそがれ、真っ赤な臓物が覗き血が漏れ出し、そこにあるはずのオーク達ご自慢の『モノ』が無い。そのオーク達から伸び床に描かれる血の跡を辿れば、床の各所に主を失い最早無用の肉片と成り果てた『それ』が、転がっていた。
さらに見渡せば店内には他にもオークの体が、3~4ポツポツと横たわり転がっている。良くてその身に銃創を作って息絶え、悪ければ先のオーク達と似たような惨たらしい有様。
全て、数分前にこの建物に殴り踏み込んだ、14分隊各員の手によるものであった。
我が物顔で店を占拠したむろしていたオーク達を、しかし踏み込んだ14分隊は片手間程度に排除。そして新たな主と成り代わったのであった。
「そいつは、いい酒か?」
体格の良い隊員――改め辺里から、ボトルを弄ぶ讐へとそんな言葉が飛ぶ。少し呆れの混じるそれは、気分の良いとは言えない現状で、気を紛らわそうとするもの。
「知らん、酒は飲まん」
しかし讐は、そんな突っぱねるまでの興味を有さぬ言葉を返し、そして弄んでいたボトルをカウンターの向こうへと放った。
「讐予勤」
カウンターの向こうでパリンと音がすると同時に、讐を呼ぶまた別の声が届く。
讐、そして辺里が声を辿り視線を向けて上げれば、店の二階へ続く階段より、一名の隊員が降りて来る姿が見えた。
「機関銃班と選抜射手は配置。準備ヨシです」
隊員は、階段を降りつつ讐に向けて報告の言葉を寄こす。14分隊の選抜射手と、分隊に付随していた機関銃班が、二階へ陣取り準備完了した事を示す物。
「いいだろう」
それを聞いた讐は、零し発しながら寄り掛かっていたカウンターを離れ立つ。
そして、床に沈むオークの頭を踏みつけていた片足に、力を込め踏み下ろした。
「きェッ――」
ゴキリと鈍い嫌な感触を讐の脚に伝え、オークの首の骨が折れる。同時にオークの口から絞められた鶏のような悲鳴が上がり、オークの頭部はあってはならないズレ方で、床に踏みつけられた。
オークに手、もとい足を下した讐は、死体となったオークを見降ろすこともせずに、邪魔と言うように蹴飛ばし退け転がす。
そして讐は自身の足元、カウンターにもたれ掛かる、四肢を切断され達磨とされ虫の息のオークに目を付け。その後ろ首を左手で掴んで悠々と持ち上げる。
「始めるぞ」
そして讐は視線を起こし、歩みだしながら店内に向けて端的に言葉を飛ばす。それに辺里に、階段を降りてきた隊員。他、店内に居た数名が呼応。
店の壁際には、それなりに大きな両開きの扉の、店の玄関口が設けられている。
讐を筆頭とする隊員6名が、その扉の前で合流。再編成する。
「必要があれば指示する」
各員に視線を流し、準備に問題が無い事を見止めた讐は、各員に向けてまず一言発する。
「躊躇はするな。後は――好きにやれ」
続け、そんな淡々とした忠告の言葉を、各員へと紡ぐ讐。
それだけ紡ぐと讐は身を翻し、店の両開きの玄関扉を、適当な加減で蹴飛ばし蹴り開いた。
扉がそこそこの勢いで開かれ、先の光景が露になる。
広がったのは、それなりの敷地を持つ広場空間。中央に小さな噴水を置き、四方には家屋や商店が並び、各方より伸びてきた町路が接続している。
元は住民で賑わう繁栄と憩いの場であったであろう場所は、今は御多分にもれずオーク達モンスターに占拠されていた。
おそらく中規模の拠点として使用されていると見えるその場は、オーク達の物資や町よりの戦利品が各所に積み置かれ、作業に従じるオーク達が動き回っている。
そこかしこには恒例のように、無残な姿にされ晒された住民達の死体。そして一角には、裸に剥かれ首輪と鎖で繋がれた町の女達。下品に品定めするような目を注ぐオーク達に囲まれ、女達は慈悲を乞い媚びる声を漏らしている。
そんな、町にとっては絶望の光景。
――しかし。
そんな広場に踏み出し、視線を一流しして状況を掌握した讐等は。さして興味の無いような涼しい顔を引き続き浮かべる。
店の出入り口より繰り出た讐等は、少し広がり雑把に展開。そこで一度足を止める。
そんな讐等の存在に、近くで作業に従じていた何体かのオークが気付き、視線を向ける。しかし、すでに町のほとんどを抑え抗う者などいないはずの中で、唐突にしかも得体の知れない姿様子で現れた存在に。オーク達は訝しみ疑問に思う色こそ見せれど、その動きは緩慢であった。
そんなオーク達に向けて。そんな広場の各方へ向けて。
――けたたましいいくつもの爆ぜる音が、連続的に響き。そして、鉛弾の暴力が各方へと横殴りに襲い掛かった。
讐の近場近辺にいたオーク達が。殴られ、打たれ、貫かれ、叩き飛ばされ。地面に散らばり沈み、あるいは重なる。
――襲ったのは、14分隊各位の火器による銃弾の暴力。
小銃。
機関けん銃。
ショットガン。
軽、中機関銃。
それぞれの手にはそれぞれの火器が繰り出し構えられ、各方へ向けられ今も引き続きけたたましい射撃音を奏でている。
特段精密に狙う事はせず、横薙ぎにされる火器から乱雑にばら撒かれる銃弾。それ等は各方へ飛び、近くに居たオーク達を無差別に襲い貫く。
明確な異常事態に嫌がおうにも気付いたオーク達は、身を翻し慌て逃げようとしたが、その背にも鉛弾が容赦無く叩き込まれ。そのオーク達を先に出来ていた緑の肉の絨毯の、一部へと加えた。
怒声、狼狽、困惑、悲鳴。
あらゆる声、音が、場の支配者であったオーク達から上がり聞こえ始める。
それと入れ替わりに、乱雑に銃弾をばら撒いていた各員の火器が。一旦弾を吐き出す事を辞め、銃撃音が一度鳴りやむ。
「行け」
そして雑把な展開隊形の中心に居た讐が、指示する声を紡ぐと同時に、腕を翳し指先で示し促す。
それを合図に讐筆頭の各員は。それぞれ自分の調子で悠々とした様子で、踏み出し展開行動を開始した。
各員は、オーク達の死体でできた肉の絨毯を、何でもない事にように踏みつけ乗り越えながら。その先に逃げまどい混乱するオーク達を見止め、数名がそれに向けてまた各火器の引き金を引き、掃射を加えた。
またも悲鳴が上がり、オーク達はまとめ連なり屠られ、地面に散らばる。
その様子を興味が無いように一瞥しつつ。
各員はさらに掃射を漏れ点在、狼狽しあるいは背を向けたオーク達にそれぞれ銃弾を撃ち込みながら。より広く一帯をカバーするため、両翼に雑把に広がり各個展開してゆく。
その中心。讐はと言えば、引き続き悠々とした様子でオーク達の死体を踏んで歩みつつ、空いているその片手を(もう片方は達磨にされたオークを引きずっている)、自身の後ろ腰へと伸ばす。そして、身に着ける弾帯に挟んであった、ある火器を手に取り抜いた。
それは拳銃。正確にはリボルバー、回転式拳銃。
ナガンM1895――通称、ナガン・リボルバー。
ベルギーを生まれとし、ロシア帝国や後のソビエト連邦等で多く使用された古き拳銃が、その正体だ。
今、讐の手にあるそれは、元は樺太県侵犯事件の際に、ロシアクーデター軍の側に居た政治将校が愛用していた物。しかしその政治将校は讐により屠られ。鹵獲、戦利品として彼の物となるに至ったのであった。
そんな経緯のあるナガン・リボルバーを、讐は片手間と言った様子で繰り出し構えると。
自身の足元少し先で、這いずり必死に逃げようとしていた手負いのオークの、その後頭部に突きつけ、おもむろに容赦なく打ち放った。
「ぴャッ」
専用の7.62mm弾を叩き込まれ、オークの頭の鼻から上が、砕け爆ぜ、飛び散る。
そしてそのオークの身が地面に沈む前に、その緑の巨体を容赦無く蹴っ飛ばして転がし退け。讐は引き続き悠々と進む。
「オオオッ!」
その時。近くに積まれた物資の死角から、一体のオークが飛び出し襲い掛かって来た。
その太い腕に持った斧が、讐目掛けて振り下ろされる。
「――ビュぐッ!?」
だがそれよりも速く。発砲音が響き、同時にオークは妙な悲鳴を上げて仰け反った。
見れば、オークの顔面は真ん中から潰れ陥没している。そしてオークの前には、片腕を軽く突き出し拳銃を構えた讐の姿。
讐はオークの攻撃よりも早く拳銃を突き出し構え、オークの顔面を撃ち抜いて見せたのだ。
屠ったオークに一瞥すら向けずに、進行を再開する讐。
各方では各員が進みながら、道行く先で遭遇するオーク達を、目に付いた端から屠ってゆく。
騒ぎを聞きつけ駆け付けたのであろう3体程のオークの一隊が、現れた傍から隊員の小銃のフルオートヤクザ撃ちに晒され、次々に死肉と化してゆく。
かと思えば直後には、広場の一角で爆炎が上がり、そこに潜んでいたオーク達が舞い上がる。隊員の一名が投げ放った手榴弾が、それを成したのだ。その隊員はと言えばその冷たい表情を向ける事もせずに、倦怠感露わな手つきで、空き缶でも放るように二発目の手榴弾を投擲。また別方で炸裂したそれが、別のオークの群れをいぶり出し舞い上げた。
さらに背後。
先に讐等が繰り出した酒場の上階からは、窓に据えられ突き出された機関銃班のFN MAGが、広場の先に向けて掃射を行っていた。注ぐ鉄の雨はオーク達を釘付けにし、時に身を晒したオークを屠る。
加えて時折、一際響く乾いた発砲音が響き。そのたびに広場のどこかでオークが身を撃ち抜かれて沈む。同時に配置した選抜射手からの狙撃であった。
「辺里、明倶洲、左に周れ」
そうこうしている内に、分隊は早くも広場の4割程を押上げ掌握。各所で銃声が爆音は途絶える事無く上がり、同時にどこかでオーク達の悲鳴が絶え間なく響く中。讐はナガン・リボルバーを手にする腕を翳し、ジェスチャーを交えて各員へ指示を送っている。
《――讐予勤。広場の北東で動きがある》
そんな讐の耳に、インカム越しの声が届いたのはその時であった。声は、背後の酒場上階で位置に付く、選抜射手の物。
《例のモンスター連中の、頭の悪い企み》
続け寄こされたのは、そんな抽象的に示す言葉。しかし讐にも、それだけでその示す所、敵方が取ろうとしている行動が理解できた。
「ん。ハルボベイは?」
讐はそれに端的、いや適当に返し。続けそう尋ねる言葉を選抜射手に返す。
《近く――丁度いい位置まで来てます》
「いいだろう。突っ込ませて、踏み潰させろ」
選抜射手からの回答を受け、讐はそんな何かの指示の言葉を返し飛ばす。
「コのォ――ギュぅッ!」
そして、瞬間にまた性懲りも無く襲い来たオークの頭を、片手間にナガン・リボルバーで撃ち抜き屠り。
「いいな?」
《了》
そして選抜射手に確認を取ると、通信を終えて自身の行動を続けた。
その一帯に立ち並ぶ建物の内の一件。どうやら酒場及び食堂のような店であるらしい、それなりの広さを持つその施設内部。
その各所には、店の中を何やら調べ漁る数名の者等の姿がある。オーク達モンスタ――では無い。迷彩戦闘服を纏う姿は、その者等が日本国陸隊隊員である事を示している。
町の東ブロックのクリアを担当する、第14分隊の隊員等であった。
「――誰が町中へのハンマー攻撃なんぞ要請したんだッ?俺等のほうが酷く町をやっちまうッ」
その内の一名。FN MAGをその太い腕に構える体格の良い隊員が、視線を上げて何か苦い色で声を上げる。
彼始め隊員等の耳には、遠方より立て続き木霊する爆発音が――6分隊と自走迫撃砲の手により開始された、砲撃の音が聞こえ来ていた。
体格の良い隊員の言葉は、しかしそれに対する懸念事項を指摘するものだ。
「さぁな、辺里」
そんな体格の良い隊員に、彼の名を呼び返す声がする。しかし返されたそれは、どこか淡々としていて興味無さげ。
声を辿れば、その主――14分隊を現在率いる、讐(あだ)の姿がそこにあった。
店のカウンターに寄りかかって肘を突き、その手先で酒のボトルを持ち、しかしさして興味は無さそうに弄んでいる。
「ェぁ……」
「ぁ……ぴァ……」
その讐の足元よりは、何か弱々しい声のような物がいくつか上がっていた。
視線を降ろせばそこに見えるは、三体程のオーク達の姿。二体はカウンターにもたれ掛かり、一体は床に完全に沈み、讐に片足でその頭を踏みつけられている。
正しく言えばオーク達は、〝オークだった物〟になりかけている、ないし既になっていた。
まずオーク達は、その四肢を全て折られあってはならない方向に曲げ。もしくは根本より全てを完全に切断され、血をだだ漏らしにしていた。
そしていずれも白目を剥き、その獰猛さを感じさせる口からは、しかし血の泡を零し。弱々しい悲鳴ともつかない音を上げている。
極めつけに目を引くはオーク達の股間部。それらはいずれも掻きこそがれ、真っ赤な臓物が覗き血が漏れ出し、そこにあるはずのオーク達ご自慢の『モノ』が無い。そのオーク達から伸び床に描かれる血の跡を辿れば、床の各所に主を失い最早無用の肉片と成り果てた『それ』が、転がっていた。
さらに見渡せば店内には他にもオークの体が、3~4ポツポツと横たわり転がっている。良くてその身に銃創を作って息絶え、悪ければ先のオーク達と似たような惨たらしい有様。
全て、数分前にこの建物に殴り踏み込んだ、14分隊各員の手によるものであった。
我が物顔で店を占拠したむろしていたオーク達を、しかし踏み込んだ14分隊は片手間程度に排除。そして新たな主と成り代わったのであった。
「そいつは、いい酒か?」
体格の良い隊員――改め辺里から、ボトルを弄ぶ讐へとそんな言葉が飛ぶ。少し呆れの混じるそれは、気分の良いとは言えない現状で、気を紛らわそうとするもの。
「知らん、酒は飲まん」
しかし讐は、そんな突っぱねるまでの興味を有さぬ言葉を返し、そして弄んでいたボトルをカウンターの向こうへと放った。
「讐予勤」
カウンターの向こうでパリンと音がすると同時に、讐を呼ぶまた別の声が届く。
讐、そして辺里が声を辿り視線を向けて上げれば、店の二階へ続く階段より、一名の隊員が降りて来る姿が見えた。
「機関銃班と選抜射手は配置。準備ヨシです」
隊員は、階段を降りつつ讐に向けて報告の言葉を寄こす。14分隊の選抜射手と、分隊に付随していた機関銃班が、二階へ陣取り準備完了した事を示す物。
「いいだろう」
それを聞いた讐は、零し発しながら寄り掛かっていたカウンターを離れ立つ。
そして、床に沈むオークの頭を踏みつけていた片足に、力を込め踏み下ろした。
「きェッ――」
ゴキリと鈍い嫌な感触を讐の脚に伝え、オークの首の骨が折れる。同時にオークの口から絞められた鶏のような悲鳴が上がり、オークの頭部はあってはならないズレ方で、床に踏みつけられた。
オークに手、もとい足を下した讐は、死体となったオークを見降ろすこともせずに、邪魔と言うように蹴飛ばし退け転がす。
そして讐は自身の足元、カウンターにもたれ掛かる、四肢を切断され達磨とされ虫の息のオークに目を付け。その後ろ首を左手で掴んで悠々と持ち上げる。
「始めるぞ」
そして讐は視線を起こし、歩みだしながら店内に向けて端的に言葉を飛ばす。それに辺里に、階段を降りてきた隊員。他、店内に居た数名が呼応。
店の壁際には、それなりに大きな両開きの扉の、店の玄関口が設けられている。
讐を筆頭とする隊員6名が、その扉の前で合流。再編成する。
「必要があれば指示する」
各員に視線を流し、準備に問題が無い事を見止めた讐は、各員に向けてまず一言発する。
「躊躇はするな。後は――好きにやれ」
続け、そんな淡々とした忠告の言葉を、各員へと紡ぐ讐。
それだけ紡ぐと讐は身を翻し、店の両開きの玄関扉を、適当な加減で蹴飛ばし蹴り開いた。
扉がそこそこの勢いで開かれ、先の光景が露になる。
広がったのは、それなりの敷地を持つ広場空間。中央に小さな噴水を置き、四方には家屋や商店が並び、各方より伸びてきた町路が接続している。
元は住民で賑わう繁栄と憩いの場であったであろう場所は、今は御多分にもれずオーク達モンスターに占拠されていた。
おそらく中規模の拠点として使用されていると見えるその場は、オーク達の物資や町よりの戦利品が各所に積み置かれ、作業に従じるオーク達が動き回っている。
そこかしこには恒例のように、無残な姿にされ晒された住民達の死体。そして一角には、裸に剥かれ首輪と鎖で繋がれた町の女達。下品に品定めするような目を注ぐオーク達に囲まれ、女達は慈悲を乞い媚びる声を漏らしている。
そんな、町にとっては絶望の光景。
――しかし。
そんな広場に踏み出し、視線を一流しして状況を掌握した讐等は。さして興味の無いような涼しい顔を引き続き浮かべる。
店の出入り口より繰り出た讐等は、少し広がり雑把に展開。そこで一度足を止める。
そんな讐等の存在に、近くで作業に従じていた何体かのオークが気付き、視線を向ける。しかし、すでに町のほとんどを抑え抗う者などいないはずの中で、唐突にしかも得体の知れない姿様子で現れた存在に。オーク達は訝しみ疑問に思う色こそ見せれど、その動きは緩慢であった。
そんなオーク達に向けて。そんな広場の各方へ向けて。
――けたたましいいくつもの爆ぜる音が、連続的に響き。そして、鉛弾の暴力が各方へと横殴りに襲い掛かった。
讐の近場近辺にいたオーク達が。殴られ、打たれ、貫かれ、叩き飛ばされ。地面に散らばり沈み、あるいは重なる。
――襲ったのは、14分隊各位の火器による銃弾の暴力。
小銃。
機関けん銃。
ショットガン。
軽、中機関銃。
それぞれの手にはそれぞれの火器が繰り出し構えられ、各方へ向けられ今も引き続きけたたましい射撃音を奏でている。
特段精密に狙う事はせず、横薙ぎにされる火器から乱雑にばら撒かれる銃弾。それ等は各方へ飛び、近くに居たオーク達を無差別に襲い貫く。
明確な異常事態に嫌がおうにも気付いたオーク達は、身を翻し慌て逃げようとしたが、その背にも鉛弾が容赦無く叩き込まれ。そのオーク達を先に出来ていた緑の肉の絨毯の、一部へと加えた。
怒声、狼狽、困惑、悲鳴。
あらゆる声、音が、場の支配者であったオーク達から上がり聞こえ始める。
それと入れ替わりに、乱雑に銃弾をばら撒いていた各員の火器が。一旦弾を吐き出す事を辞め、銃撃音が一度鳴りやむ。
「行け」
そして雑把な展開隊形の中心に居た讐が、指示する声を紡ぐと同時に、腕を翳し指先で示し促す。
それを合図に讐筆頭の各員は。それぞれ自分の調子で悠々とした様子で、踏み出し展開行動を開始した。
各員は、オーク達の死体でできた肉の絨毯を、何でもない事にように踏みつけ乗り越えながら。その先に逃げまどい混乱するオーク達を見止め、数名がそれに向けてまた各火器の引き金を引き、掃射を加えた。
またも悲鳴が上がり、オーク達はまとめ連なり屠られ、地面に散らばる。
その様子を興味が無いように一瞥しつつ。
各員はさらに掃射を漏れ点在、狼狽しあるいは背を向けたオーク達にそれぞれ銃弾を撃ち込みながら。より広く一帯をカバーするため、両翼に雑把に広がり各個展開してゆく。
その中心。讐はと言えば、引き続き悠々とした様子でオーク達の死体を踏んで歩みつつ、空いているその片手を(もう片方は達磨にされたオークを引きずっている)、自身の後ろ腰へと伸ばす。そして、身に着ける弾帯に挟んであった、ある火器を手に取り抜いた。
それは拳銃。正確にはリボルバー、回転式拳銃。
ナガンM1895――通称、ナガン・リボルバー。
ベルギーを生まれとし、ロシア帝国や後のソビエト連邦等で多く使用された古き拳銃が、その正体だ。
今、讐の手にあるそれは、元は樺太県侵犯事件の際に、ロシアクーデター軍の側に居た政治将校が愛用していた物。しかしその政治将校は讐により屠られ。鹵獲、戦利品として彼の物となるに至ったのであった。
そんな経緯のあるナガン・リボルバーを、讐は片手間と言った様子で繰り出し構えると。
自身の足元少し先で、這いずり必死に逃げようとしていた手負いのオークの、その後頭部に突きつけ、おもむろに容赦なく打ち放った。
「ぴャッ」
専用の7.62mm弾を叩き込まれ、オークの頭の鼻から上が、砕け爆ぜ、飛び散る。
そしてそのオークの身が地面に沈む前に、その緑の巨体を容赦無く蹴っ飛ばして転がし退け。讐は引き続き悠々と進む。
「オオオッ!」
その時。近くに積まれた物資の死角から、一体のオークが飛び出し襲い掛かって来た。
その太い腕に持った斧が、讐目掛けて振り下ろされる。
「――ビュぐッ!?」
だがそれよりも速く。発砲音が響き、同時にオークは妙な悲鳴を上げて仰け反った。
見れば、オークの顔面は真ん中から潰れ陥没している。そしてオークの前には、片腕を軽く突き出し拳銃を構えた讐の姿。
讐はオークの攻撃よりも早く拳銃を突き出し構え、オークの顔面を撃ち抜いて見せたのだ。
屠ったオークに一瞥すら向けずに、進行を再開する讐。
各方では各員が進みながら、道行く先で遭遇するオーク達を、目に付いた端から屠ってゆく。
騒ぎを聞きつけ駆け付けたのであろう3体程のオークの一隊が、現れた傍から隊員の小銃のフルオートヤクザ撃ちに晒され、次々に死肉と化してゆく。
かと思えば直後には、広場の一角で爆炎が上がり、そこに潜んでいたオーク達が舞い上がる。隊員の一名が投げ放った手榴弾が、それを成したのだ。その隊員はと言えばその冷たい表情を向ける事もせずに、倦怠感露わな手つきで、空き缶でも放るように二発目の手榴弾を投擲。また別方で炸裂したそれが、別のオークの群れをいぶり出し舞い上げた。
さらに背後。
先に讐等が繰り出した酒場の上階からは、窓に据えられ突き出された機関銃班のFN MAGが、広場の先に向けて掃射を行っていた。注ぐ鉄の雨はオーク達を釘付けにし、時に身を晒したオークを屠る。
加えて時折、一際響く乾いた発砲音が響き。そのたびに広場のどこかでオークが身を撃ち抜かれて沈む。同時に配置した選抜射手からの狙撃であった。
「辺里、明倶洲、左に周れ」
そうこうしている内に、分隊は早くも広場の4割程を押上げ掌握。各所で銃声が爆音は途絶える事無く上がり、同時にどこかでオーク達の悲鳴が絶え間なく響く中。讐はナガン・リボルバーを手にする腕を翳し、ジェスチャーを交えて各員へ指示を送っている。
《――讐予勤。広場の北東で動きがある》
そんな讐の耳に、インカム越しの声が届いたのはその時であった。声は、背後の酒場上階で位置に付く、選抜射手の物。
《例のモンスター連中の、頭の悪い企み》
続け寄こされたのは、そんな抽象的に示す言葉。しかし讐にも、それだけでその示す所、敵方が取ろうとしている行動が理解できた。
「ん。ハルボベイは?」
讐はそれに端的、いや適当に返し。続けそう尋ねる言葉を選抜射手に返す。
《近く――丁度いい位置まで来てます》
「いいだろう。突っ込ませて、踏み潰させろ」
選抜射手からの回答を受け、讐はそんな何かの指示の言葉を返し飛ばす。
「コのォ――ギュぅッ!」
そして、瞬間にまた性懲りも無く襲い来たオークの頭を、片手間にナガン・リボルバーで撃ち抜き屠り。
「いいな?」
《了》
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大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
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※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
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「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
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