白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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冷雨

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ヒート時の心得なんて母さんに聞ける訳もないとわかっていながら、出かける前に「しっかりと 聞いとけよ」と、言った日から忙しい中にも穏やかな数日が懐かしいと、今 この瞬間 思う。

「同じΩなら私の方があの子の力になってあげれるし、この国よりもずっとΩに理解があるわ。私が浅継を育てます」

「浅継ではない。鈴です。それに 鈴には運命の番がいます。引き離すなんてとんでもない」

「はっ!? なんて言ったの?!運命の番ですって?貴方ね、そんな迷信を信じてるなんて 兄さんの子供なの?そんな嘘に決まってるんでしょ、恋人と離れたくなくて嘘を付いてるの。そんな事にも気づけないなんて、貴方 親失格よ」

須賀家に叔母がなんの前触れもなく突然乗り込んで来たと、連絡を受け急いで駆け付けた。
リビングには叔母と叔母の弁護士、明道氏と息子の征一郎、須賀家の弁護士が話し合っている話し声が少し開けたドアから漏れ聞こえた。

「呼んでくれてありがとうお義父さん」

誰にでもわかりやすくお義父さんと呼んだが 悪くない。鈴の父親はこの人しかいないと実感出来る。

「待ってたよ。さぁ 早く入ってくれ」

お義父さんもわかりやすく満面の笑みを浮かべて俺を快く招き入れてくれたが、叔母とその弁護士の目は不審者を見る目で俺を見てくる。

「君は高嗣さんではないですよね。申し訳ないが部外者を招き入れるのは、私達は歓迎しません」

俺を部外者扱いをしてくる弁護士。物言いがハッキリしていて不愉快にもならない程 清々しい。鈴の親族でも無い俺は確かに法律上部外者だ。

「部外者とはとんでもない。晃は鈴の運命の番、パートナーだ。それに もう 鈴は彼以外を受け入れない。噛んでるからね」

お義父さんは一筋縄では行かない喰えない笑みを浮かべ俺を紹介すると、叔母は「なんてことを。」と、呟いてるが 聞かなかった事にして人好きする笑顔で挨拶をしてやった。

「初めまして、鈴の運命の番の織田 晃です」

相手が海外生活が長くても、この国らしく手を出し握手を求めたが、わかりやすい嫌悪感だけで拒否された。

「まだ 10代の子を運命の番だなんて、わけも分からない世迷言を言って浅継を騙したの!?」

叔母はΩにしても女性にしても背が高く172・3はある。鈴よりもデカいと分かれば、鈴が落ち込むこと間違いないな。顔は歳を取ってるが若い頃はそれなりに美しかっただろうが・・・Ωにしては普通の部類。コレで、Ω女性とは考えにくい。祠堂家のバース性偽装は1人ではなかった可能性が極めて高い。息子と娘のバース性も疑わしいものになるな。


「10代なのは確かですが鈴は18歳、この国では保護者の同意があれば結婚も出来る、そんなに子供じゃないし、運命に出逢えば一目で解る。世迷言ではなくお互いに納得した上で番になった。誰とも番になれない、紙切れでしか繋がれない人達には分からないことでしょうが、番とは己の半身であり魂だ。失う事なんで考えるだけでも恐ろしい」

叔母は真横に下ろされてる拳がワナワナと震えてる。何がそんなにも感情を高めてるのか聞かなくても調べさせた情報で大体の想像が付く。

叔母の家の内情は壊れてる。夫は10年前から愛人の家に入り浸り 家には帰って来ない。息子はハイスクールに通っているとなってるが、彼氏と同棲していて学校にも余り通っていないうえに成績もイマイチ振るわず留年してる。娘は男と見境なく遊び回り ひっそりと2度 中絶手術を受けてる。そんな家に鈴を住まわせたいと誰が思うかだ。

「‪α‬なんて 誰彼構わず好きになった子を"君は私の運命"って 言ってその気にさせただけ。実際に運命なんてあるわけないのよ。ただの迷信 世迷言なの、そんなものになんの価値があるの?あるわけない、嘘なんだから。浅継を渡して頂戴、構成施設に預けて然るべき処置を取らせます。二度と浅継には近ずかないで」

番を何らかの理由で亡くした者を救う為の実験的に作られた構成施設。
番がいなくなってしまった‪α‬はヤル気を失い腑抜けになってしまう。そんな‪α‬を救う為のプログラムを作り精神的に支えを作りバックアップ、そして次の番相手を探す手伝いをする。成果は方は上々だ。
Ωは番以外の性行為を完全に拒否してしまう。そのため、発情期になると苦しむ内に段々と抑制剤の量が増え 副作用が出やすくなってしまい、幻覚や幻聴、鬱、そして自ら自殺してしまう者と様々な最悪なケースしか取れないΩ達。そうならないためにも、抑制剤を管理して、次の番候補を探す手伝いをする。Ωは次の番候補の相手の匂いを嗅いだり、精液を薄め体内に入れて 拒否反応の度合いを確かめたりする。Ωの方がリスクが高いだけあってなかなか難しいが数名の番カップルが出来たと報告が上がってる。その中に極秘となってるが 運命の番と思われる者同士の拒否は全く無く 直ぐに施設を出た。と聞いてる。

抑制剤の過剰摂取による自殺者を見たことがある。部屋の中は荒れ放題で抑制剤が遺体の傍に散らばってた。柱には爪で引っ掻いたあとが幾つも残されてた。見ただけでは男か女かも分からない、肌は真っ白で髪が抜け落ち、骨に皮が張り付いてる状態、番に捨てられて抑制剤に頼るしかなかった子だった。

鈴が他の者の匂いをかいだり、薄めたとしても他の者の精液を体内に入れる鈴を思い浮かべただけでも殺意しか湧いてこない。でも、もし 俺が何らかの理由で鈴よりも先に俺が亡くなったとしたら、不本意だけど鈴に取ってはいい場所なのかもしれない。鈴を1人にしてしまう、そうなったら抑制剤に頼るしかない鈴がボロボロになって行く鈴を想像したくない。でも、それは今では無いのは確かだ。

「よくご存知ですね。その施設に入れるべき人間は鈴ではなく貴方の娘なのでは?男遊びも程々にしないと嫁の貰い手もありませんよ」

お前の娘は男遊びが過ぎるのを構成させたらどうだ?と、直接的に分かりやすく言ってやった。

「貴方!なにが仰りたいの!!私は薬師寺財閥の社長夫人よ。どなたか知りませんが、厳重に抗議させて貰いますからね!!」

虚勢を張って金切り声を上げる。表沙汰にはなってないが、今や薬師寺財閥はハリボテ状態で何時倒産してもおかしくない状況に追い込まれている。息子はβで成績もイマイチ状態 いいとこ取りが無いので息子は援助先には売り込めない。娘を提携代わりに嫁に出そうにも2度の堕胎手術で婚約者も見つからなと 四苦八苦してた所に鈴の話を聞きつけ、援助先か提携先かは知らないが、家を救う為の人身御供を手に入れようと躍起になってる。
父さんからの情報だから間違いない。ただ一つ最近取った新耐震構築を上手く軌道に乗せる事が出来れば倒産はま逃れるだろうと話してた。が、その為の資金も必要だ。

「名刺を頂けますか」

弁護士が俺に近づき名刺を出せと掌を見せてきた。

「抗議ですか?構いませんが、今の状態でお出来になるんですか?」

弁護士は指先でメガネを1度持ち上げ 私をしっかりと見つめながら 俺の言った言葉の真意を測ろうとしてるのか、眉間に皺をゆっくりと入れていく。

「薬師寺財閥ですよ。‪α‬なら1度はお聞きになった事はあると思いますが?」

「兄 正継はα‬だと言われてましたが、βでした。貴女は発情期なんて経験された事 無いでしょ?祠堂家は名のある家名と縁続きになりたいばかりに貴女はΩとして生きてきたのでは?」

「バース性を・・・批難するなんて、やはりこの国は昔からなんにも変わってないわ。浅継をこんな国に置いて置けません」

「根拠しかない・・・推測論だけです」

弁護士としての役目を果たそうとするが、それは一般論でしかない。一般ならβで良かったと笑って許せる範囲内、でも Ωとして政略結婚をしたとなれば話は別だ。

「女性なら若い頃は美しくあればβでもΩでも気づきにくい。悪いが叔母さん 貴方は本当に鈴の気持ちを分かってあげれると思ってるのですか?」

征一郎の言葉で叔母の肩が大きく跳ねるのを弁護士が怪訝な表情でそっと盗み見てる。弁護士も知らなかったのか?この叔母がΩに見えてたなら目は節穴しか持って無さそうだ。

「失礼にも程があります。バース性の否定的な発言をすれば甥の家だからとしても許せません。慰謝料請求させてもらいます」

バース性否定の言葉が何処に会ったのか疑問が残るが、慰謝料請求を求めてきた叔母に余裕の笑みで応えるお義父さんは実に面白そうに目を細めた。

「どうぞ。そうして貰えたなら此方としても美和子叔母さんのバース性を正々堂々と調べられる。是非訴えて下さい。木本先生宜しくお願いします」

「お任せ下さい。」と律儀に頭を下げる須賀家の弁護士は国際弁護の資格も持つやり手の弁護士だ。その姿に怯えた様子を見せたのが叔母の弁護士だ。今までの会話の中にバース性の否定をしてる会話が何処にもない。ただ 叔母のバース性を疑っただけだ。しかもΩではなくβなのでは と。逆なら名誉毀損になるがΩの人間がβに思われるのは喜ばれるだけなのに前代未聞の裁判に叔母の弁護士は挑まないと行けなくなった。

「美和子様 少しお考え直されてはいかがですか。Ωではなくβに間違われただけなんですから」

俺の前から叔母の元に戻り腕に手を添えて考え直せと諭す。諭すなら鈴の事も諦めろと言って欲しいと願いながら妙な光景を黙って見守った。

「私は浅継を必ず連れて帰ります」

諦め切れないのか最後に一言だけ言い残して帰って行った。

「人騒がせな叔母ですね。あんなのが親戚にいたなんて知らなかった。婆さんの葬式にも来てなかったよね?」

うんざりしたとソファーに深く座り直した征一郎は髪をかきあげた。

「電報と香典を送って来たけど出席はしてなかったね。私も20数年ぶりに会ったよ」

携帯を開き新しいお茶を頼みながら息子の質問に応える。

「へぇー、薬師寺ホールディングスは元々は貿易から始まったけどあっちこっちを吸収合併させて今の形になったけど、今のままじゃ回しきれないって 分かってんだろうな」

経営状況を把握してたのか淡々と語りながら俺に質問をぶつけて来る。

「1つ打開策があるとすれば最近取った特許だな。あの耐震構築はすばらしい。無駄な損失を見直し耐震構築を上手く軌道に乗せれば今の薬師寺ホールディングスは打開できる。でも それにも資金がいる、今はその金集めに躍起になってるんだろうな」

俺の見解を聞かせたが誰でも気づく耐震構築の素晴らしさ。アレを上手く軌道に乗せるだけで見通しが違ってくる。それと、無駄を切り離し内部の建て直しも居るだろう。

「それは 俺も思ったが、今の薬師寺のトップの中にどれだけの人間がその耐震構築に気づける者が何人いるかが問題だ。噂では色呆けしたオッサンが跡取りが居ないと嘆きながら次の子供を欲しがって日中関係なく励んでるって話だ」

愛人が会社に出入りしてるのは知っていたがまさか子作り説だったとは。10年前からの愛人を作って何人か居る中で最近の愛人は経営コンサルタントとなっていたが、怪しいもんだな。

「次の代を狙って作ったとしても約20年後だ。現実的じゃ無いな」

その前に薬師寺ホールディングスが残ってない可能性の方が高い。

「そう、現実的でも無いし 帰らない夫を見返したくて叔母はヴィンホーエン家伝統の集団お見合いに鈴を参加させたくて叔母は帰ってきたくもなかったこの国に帰ってきた」

「ヴィンホーエン なるほど。資産50億の富豪の息子か、確か来年で20歳か?あの家の伝統だったな、20歳の誕生パーティーで運命の番に出会った先祖の遺言で受け継がれてるお見合いパーティーだったな」

「詳しいね、その通り。叔母はそのパーティーにどうしても鈴を連れて行きたいみたいだ。パーティー参加の条件はΩとその親族のみ。でも、鈴は晃君と番になってるのにね」

「諦めが悪すぎるだろ」

「金が必要なんだろうな」

鈴を一人歩きなんてさせないが少し厳重に警備体制を父さんに頼み 征一郎とお義父さんと幾つか情報の確認をして仕事に戻った。

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