白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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晴れのち雨

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少し早めに出たが 一人歩きはダメだと良枝さんに言われて運転手付きの車に乗せられてしまった。行き先を聞かれ 新しいノートを買いたいと言えば連れてこられた 大きな文房具店。買いたかったノートを手に時間があるので店内を見て回ってるとショーケースの中のペンに目が止まった。深い紺色の太めのペンは何故か晃さんの手にピッタリと合いそうな気がした。値段を見ればペンなのに1万を越すとか・・・考えられない、けど、晃さんにきっと合いそう。

迷った末に晃さんに買うことにした。誕生日でも無いけど いつもありがとう の感謝のプレゼントとにした。ついでに見つけてたカエルのメモ用紙とふせんも付けて一緒に包んでもらった。

昨日は帰れなくなった すまない。と メールを貰った時は 仕事だと分かってても少し寂しさを感じた。今日 帰ってこれるか 聞いてみようかな?晃さんのメールを呼び出して 1度 帰ってこれるか尋ねる文書を書いてみたけど消した。

忙しいの分かってて 無理やり帰って来てと言ってるみたいで嫌になってしまった。

プレゼント用にラッピングして貰った物を紙袋を手にした時大袈裟過ぎたかな?と思ったが感謝のプレゼントだからコレで良いと自分に言い聞かせて店を出れば静かに車が近づき運転手が下りて後部座席のドアを開けてくれた。

「ありがとうございます」

「いえ」

お礼を言えば、人の良さそうな笑顔の運転手さんが短い返事を返してくれた。素早く自身も運転席に戻ると静かに進み始めた。

「いいお買い物が出来ましたか?」

「はい、ココに連れて来てくれてありがとうございます。買い物はこのまま車に乗せて置きたいのです、よろしいでしょうか」

「お預かりしておきます」

「ありがとうございます・・・えっと お名前まだ聞いてませんでした」

運転手さんの言葉が丁寧すぎて少しは恐縮してしまうし俺までつられて調子が狂う。

「田中と申します。鈴様の事はお聞きしております。鈴様の行きたい場所は可能な限りお連れする様にと旦那様に申し使っておりますので、遠慮なく仰って下さい」

運転手さん 田中さんなんだ。本物の田中さんだ。

「そうなんですね。・・あの、鈴様って俺が偉い訳じゃないので鈴と呼んで下さい。それに言葉も そんなに畏まった喋りって慣れてなくて、普通に話してくれた方が嬉しい、かな」

「でわ、鈴さんと呼ばせて頂きますね」

やっぱり丁寧な言葉はなれない。普通に話して欲しいな。それに、年上に鈴さんと呼ばれるのは申し訳ないと思うけど田中さんも職務だから仕方ないのかな。

「はい。それでお願いします」

「もうすぐ着きますから」

確かに目的地に近づいてるのが分かる。あの角を曲がれば待ち合わせをしてるファミレスだ。

「はい」




「此方の方でお待ちしておりますので、ご友人様と楽しんでいらして下さい」

駐車場に入り車を止めた田中さんは、少し体を捻って俺の方に向くとニコと笑顔で送り出してくれる。

「ありがとうございます。行ってきます」

目的の場所に着く前に 自分でドアを開けます。と、伝えてたので問題なく 普通に下りられた。

店に入れはまだ優は来てなかったので 後でもう一人来ることを店員に告げて空いてる席に座り優に着いた事をメールを入れると後5分で着くと返信が来た。

そのままスマホゲームで遊んでると目の前に人が座った。

「ごめん遅れた」

顔を上げると走って来たのか少し汗ばんで優は、いつもの笑顔を向けて遅れてきた事を謝ったが、謝る程待たされてはいない。

「いいよ、俺もそんなに待ってないし」

「よかった。注文した?」

「まだ、一緒に選ぼうかと思って待ってた」

「好きなの頼んで」

2人でメニュー表を見て決める。ケーキって言ってたけど冷たい物もいいね。って事で オレはバニアアイスと生クリーム、マンゴーがタップリと乗ったパフェにし 優はソーダ味のかき氷にしなった。

「ケーキって言ってたのに冷たい物になっちゃった」

「外 あちぃもん 仕方ないか」

たしかに外は暑くて仕方ない。でも、移動に車を乗ってきた俺はかなり快適に来られな。でも何故か優にそんな事を言えるはずもなく話を合わせる。

「だな」

「あのα見なり良かったけど なにしてる人?αなんだから会社経営してそぅだけど」

あらら、早速晃さんの事を聞いてくるの。一緒に育った中だから遠慮がない。多分俺も一緒の行動になるなって思う。
親が会社経営してるけど、晃さんは警察官。こんな時ってテレビで言ってるみたいに言った方がいいのかな?

「晃さんは公務員だよ」

「は?マジかよ。会社経営してそうって思ってたけど、マジ公務員?ってβと変わりないじゃん。生活安定するけど折角α捕まえても贅沢出来ねぇ~じゃん。そんなんでいいの?」

確かに、公務員は生活安定してるけど・・・そもそも、晃さんの給料って幾らだ?そんな事も知らないし、そんな事を聞いていいのか?結婚するなら聞いていいのか?聞くとしたら何時なんだ?そんな事も知らずに俺は結婚を決めたんだと今更ながらに思う。

そもそも、贅沢したくて晃さんを選んだ。とも言えないし、今現在 身の丈に合わない贅沢をさせて貰ってます。とも言えない、何と答えて良いかも分からずに顔が百面相になってる自信はある。

「もしかして、アイツ 自分がαだからって いい格好したくて 借金作ってるとか無いよな?」

「ないない!絶対にそれだけはない」

なにを勘違いしたのか、とんでもない発想をした優の言葉を間髪入れずに否定してしまった為に少し声がでかくなった。

「鈴はαもβも分からないだろ、αだって言ってても実際はβかもしんねぇーじゃん。アイツα擬きのβだって事も考えられるぜ。結婚する前に調べた方がいい。それに、結婚した途端 あっちこっちから借金取りに追われる羽目になるかもしれねぇ~じゃん。俺は鈴が幸せになってくれないと嫌なんだ」

一緒に育って来たけど、俺はバース性を偽って来た。今でも俺のバース性はβだと思ってる優は、αである晃さんとの結婚を認めてくれようとしてる。でも、結婚するって事は生活を一緒にするって事だから色々と心配してくれてるんだ。
俺は晃さんと一緒に生活する上でのお金を不安に感じた事が無いけど、普通はそこの所を最初に不安を感じたりするもんだよな。頭で考えると先に籍って思うけど心では離れたくない。晃さんさえ居てくれたら良いって思う俺って、生活よりも愛を取った奴なんだろうな。愛で腹は膨れないって知ってるはずなのに、やっぱり どこか抜けてんのかな。

「晃さんはα擬きじゃ無くてちゃんとαだよ。それに借金はないし、俺も借金なんて無い。晃さんは公務員で生活は安定すると思うけど、もし、足りなければ俺もバイトとかすれば良いだけ。生活して行くなら2人で協力しなきゃだろ。俺は晃さんが傍に居てくれるだけで幸せなんだ」

優にちゃんと 晃さんと結婚しても俺は大丈夫だって知ってほしい。俺が晃さんを求めてるんだって。

「あのさぁ~、子供も出来ない 2人での生活が続くだけなのに嫁を働かせに出させるαの旦那ってなに?金遣いの荒いダメ夫じゃん」

た、確かに優の言う通りだ。俺の説明だと晃さんの印象が悪くなってしまった。ソレに子供も出来ない・・・って、俺はΩなので出来る可能性がある・・有るのか? うーん、晃さん 俺との子供を欲しいって・・・思ってくれているのだろうか?やる事やってるけど・・他の人なんて知らないし、俺自身晃さんしか知らないけど多い方だと俺は思う。

普段は精子を中で出されたとしても妊娠はしないのが男性Ωの特長。妊娠する時は発情期の時のみ、しかも99%の確率で妊娠する。でも男性Ωが妊娠するのはαの精子のみ。この国では男性Ωはかなり遅れてて 受け入れられてないが、海外では男性Ωの方が人気が高まってる。その理由がαを産む確率が97%だとわかったからだ。
この国ではなんで女性Ωばかりが受け入れられてるか?答えは、どのバース性の男性の精子でも妊娠する。1つ違うのは、女性Ωは女性αの子供も妊娠してしまうことだけ。女性Ωは普段も妊娠するが確率がβに比べ低く妊娠しずらい。発情期は男性Ωと同じ。但し 最初に言った通り、女性のオメガはバース性問わずに妊娠するが、どのバース性が産まれる確率は2対6対2、αβΩの割合。αの子供の時は80%だと最近の医学で分かった。と先生が教えてくれた後に、Ω用の避妊薬も事後の避妊薬も多くある事も。

「あのさ、そんなに不安そうな顔 見たくないんだけど。やっぱり 不安があるなら辞めたら」

いつの間にか運ばれて来たパフェが俺の前に置かれてた。子供の事を考えてたら、Ωだと判明した後に心構えとして先生に色々と聞いた話を思い出してたら全く気がつかなかった。

「あのさぁ、俺 受かるかどうかもわかんないけど高校受験 受けるんだ」

一緒に育って来たけど子供云々な事は やっぱり身体の関係を意味する事で、それは流石に恥ずかしくて別の話題を振ることにした。

「えっ!園長や朝やんがあんなに高校行けって言ってても働きたいからって言い張ってたのに?今更なんで!!」

凄い勢いで聞いてくる優に驚きながらも朝やんを思い出す。朝比奈先生が1番 俺に親身になって何度も高校に行けと説得してくれた先生だ。

「うん、晃さんにしたい事をしていいって言ってくれたんだ。俺自身も入学金もあるし 学費もなんとかなる。生活の面では晃さんに頼ると思うけど」

高校受験して卒業まで3年か。・・確か Ωの場合、学生中に妊娠したら3ヶ月の自宅学習が認められる?だったけ?その3ヶ月中に行われた範囲のテストを受けて復学?するんだったけ?うーん、こんな感じだったはず・・・!?ダメだ、また子供の事を考えてた。

意識が他所に行きかけたが、なんとか踏みとどまり パフェ用のスプーンを握り締めた。

「いただきます」

「それだ!!」

パフェにスプーンを突っ込みバニラアイスを掬うと突然 閃いたと二パと笑う優に バニラアイスを口に突っ込んだまま首を傾げた。

「わかんねぇーのかよ。入学金や学費貯めてたんだろ?それを狙われてんだよ」

「いやいや、それは無いから。晃さんは俺の貯金なんて狙ってねぇーか」

「αのくせに公務員なんて たいしたαじゃねぇーんだわろ。それでも少しでも大きく見せたくて、いいものを買いすぎて金がたりたい。そこで 騙しやすく人がいい鈴に目を付けた」

優ってこんなにも想像力逞しかったんだ。知らなかったなぁー。呑気に聞いてられるのもそんな事は全くない。学校に行くのは俺だから、俺も僅かだけど貯金があるから出すと言ったが、ダブルお父さんに止められ、その場で話し合った結果、自分の子供になるんだからウチで出すと押し切ったのが須賀のお父さんだ。

何も心配せずに受験に向けて勉強しなさい。と言ってくれた。

「あー、心配してくれるのは嬉しいけど、そんな事は無いから」

納得いってない優の顔を見ながらパフェに目を向けた。
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