白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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晴天雨

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遅くても帰るつもりが色々とやってる内に帰れないと判断し鈴にメールを送り、徹夜をしてから朝方から仮眠室で3時間ほど寝て起きれば 面倒な事になってた。ユーシュエンの引き渡し要請が出た。上層部は手順通りにゴネてみせれば好きにしろとあっさりと引き下がった中国の政府関係達。たった3時間でそんな事になること自体 異例だ。その事実をユーシュエンに教えてやれば、今まで不敵に笑ってた笑みも消え失せ 暴れて手が付けれないと知らせが入り、どうしてもお願いします。と、頭を下げられたら無下にも出来ずに呼ばれた部屋で 不遜な態度と悪態が目に余り 暴れた奴の宥め役なんてお断りだと直ぐに本音でボヤいてしまった。

「まったく コッチとしても早く引き取って欲しいのにあっさり手を引くとか有るのか?」

事件の報告書は多いが全て目を通す。その中に報告書と混じって上げられるユーシュエンに関する苦情の多さにうんざりしてたが、一応はまだ黒獅のトップだからと 容疑者でありながらも それなりの持て成しはしてやっていたのに、向こうでは既にトップからあっさりと引き摺り降ろされてた。それもそうだろう、身体だけで楼閣して行った座だ。中身が無くてあっさりと潰されたんだろう。その事実を受け入れきれないのか、自分はまだ権力を持ってると勘違いしてる此奴の態度は悪い。上も取り敢えず なんてせずにサッサと引渡してくれて良かったのにと頭を抱える。
有力者だと直ぐにでも返せと煩い連中なのにだ。ユーシュエンは切り捨てられたと見てまず間違いない。祖国に帰ったとしても此奴の居場所は もう無いだろう。

「身体はそれなりに良くても頭の中が空っぽで使えない。総合的に見てなにも魅力的に感じる要素がなかったんでしょう」

苦情の用紙を叩きながら悪辣な事を本人の目の前で平然と言ってのける如月に俺が部屋を出て行きたくなる。

「貴様 その態度を改めないと夜道を1人で歩けなくしてやる」

「残念ですね、夜道を1人で歩く事はないので」

「はァ~、少しは頭を冷やせ如月、須藤と交代しろ」

平常運転とは言い難い如月の様子にうんざりする。ユーシュエンに突っかかってどうするんだよ。須藤と交代して部屋に入って来た。が、本来ならお前もココに居なきゃならんのに、面倒だと避けてるのは明らかだ。

「いやぁ~、本当の事をハッキリ言ってくれると助かるんだけど」

「お前も追い出すぞ」

本来ならおまえの役目なのに部下に頭を下げられて来てやってんだ。火に油を注いで時間を長引きさせたくは無い。

「欲求不満だからとウチの若いもんに手ぇ出そうとしないでくれる?やりたきゃ自分の右手でも左手でも好きな方使って処理してくれると嬉しいンだけど」

「男のペニスじゃなきゃ満足しないんで、貴方も素敵ですよ 須藤さん、どうですか?不能の人と話してても私はつまんないですよ、どうですか 裸での対話を楽しみませんか?」

恥じらいや羞恥心などは昔に捨てて来てるな此奴と呆れる。それに、コレが続いてたのかと思えば確かに逃げ出したくもなる。ねっとりと絡める取るユーシュエンの視線に背筋が寒くなるどころか、全身が凍り付つきそうな鬱陶しい視線に取調室ではなく冷凍庫の中に居るみたいな錯覚に陥る。

「ムショにはいれば食い放題だよー」

刑務所はそんな事を目的とした場所じゃねーよ。と言いたいがユーシュエンが入ってしまえば、次の日からソープ場と化すだろ。

「βでも それなりの血統書が付いてないと美味しくないので」

祖国の要人達に見捨てられた此奴に、家柄が良くてよ頭の出来がそこそこ良い奴が近づかないのは目に見えてわかる。

「雑種が血統書付きを欲しがっても、お前自身に惚れないと尻尾は振らないだろ。諦めろ」

須藤の言葉に 確かに と心中で頷く。

「私はΩですよ。血統書付きなら 最高のαを産むΩを欲しがる」

昔からある噂話。Ωがαを産む確率は高い。それも 最高のαを産む確率が高い、カースト制で表すなら上位。次にαの先祖返りと言われてる、βがαを産むが頭の良さはそれなり カースト制なら中だ。後は突然変異、先祖に居なかった家系に突然 生まれる子だ。カースト制では下の方。となってるが、こんな戯言 今どき信じてる人は居ない。 真実を知りたければ 噂の出処を突き詰めて行けば 自ず見えてくる呆れた理由。
由緒ある家系にも関わらず、やっと生まれたαだったが出来がイマイチ、他のαよりもかなり劣る馬鹿息子を庇う為に出来た噂話だ。
たったひとつ当たってるとしたらΩがαを産む確率は高い100%中88%。この数字は学会でも発表されてる数字だ。

「血統書付きが欲しいなら 気に入った相手に次々と声を掛けるな」

それに血統書付きを欲しがってもお前は男性のΩだ。αの子供しか産めない。βを食いだけ食っても所詮は遊びたいだけだと好評してるのと同じだ。

「最近では5・60のジジイか役にも立たない女しか姿が見えないから声も掛けられない」

「お前の相手を誰もしたがらない。そんなに欲しければロードコーンを置く許可を取ってやる」

交通課に行けば 要らない物をひとつ貰ってくれば済む話だ。

「ロードコーン?どっかで聞いた事あったなぁ?」

なんだったか?と、思い出そうとしてる須藤。確かに普通は三角コーンと呼ばれてるからな。

「駐車場や工事現場で見かける三角の目印だ」

須藤にわかり易く説明してやると柳眉を顰めた。

「それいいね、騎乗位で楽しめる是非使いたい」

本気かと疑いたくなるが、楽しそうにしてる本人を無視するのも悪いし、どうでもいい会話に呆れを通り越して疲れが蓄積してくる。

「上の許可が降りたらな」

「その時はローションも付けて下さい」

そんなものに予算が下りるとは思えない。此奴の為に態々買い物をするのも面倒だが部下に買ってこさせれば良いだろ。それで少しは大人しくしててくれるならと安いもんだ。

「うへぇ~、・・・・」

想像でもしたのか須藤が隣で盛大に嘔吐く。

「あぁ、分かった。許可が下りたらすぐに準備してやる、それ迄いい子にしてろ」

話は終わったと部屋を出ると須藤が俺を呼び止める。

「ちょっ~っと待て。本気で渡すのか?」

「許可が降りればな」

遠慮なくにらんで来るが そんな事をされても痛くもや痒くもない。

「仕方ないだろ?相手はΩの淫乱だ、それに ユーシュエンの発情期も分からないのにどう対処するつもりだ?」

「それは土屋班に頼べば どうにかするだろう?」

「逮捕時の状況を思い出せ、アレは例外だ」

あの時の状況を思い出したのか、須藤はぐったりと膝に両手を置いたが、勢いを付けて起き上がる。

「それは 確かにそうだけど・・・もうちょい まともな物を渡してやれば良いだろ?本気で使ってたらどうするんだよ」

「気に入ったから使うんだろ?それとも教育上 宜しくないなんて言い出すなよ?それなりに経験してきてる大人ばかりが揃ってる」

「だぁー話になんねぇ~!!如月 お前の上司をなんとか解き伏せろ」

「えっ?なんですか」

部屋を出て直ぐに俺の傍に来たが意識が他所に行ってる如月は話を振られても理由が分からない顔をしてる。

「体調でも悪けりゃ 医務室に行ってろ邪魔だ」

「申し訳ございません。少し休ませて頂きます」

「お大事に」

素直に頭を下げて医務室に向かった如月の背中を見送り須藤は一言付け加えると俺について執務室に戻る 途中で土屋に出くわした。

「あの淫乱の引き渡し失敗なんだってねぇ~」

此方の失態ではない。あちらがあっさりと引き下がっただけだ。きっと面倒になって来ると下に丸投げで寄こして来る。ソレを処理するのも須藤の仕事になって、最終的に泣き付いてくるのがいつもの事だ。

「まったくだ。サッサと引き取って欲しいのに」

「ふーん、如月はどうしたんだ?」

ソワソワと若干落ち着きのない土屋は会いたい人物が居ない事を聞いてきた。

「体調不良みたいだったから医務室に行かせた」

「体調不良?ふーん、そ、じゃねー」

足早に去っていく土屋を見送ることもなく歩き出すと後ろから付いてくる須藤が困惑気味な声を出す。

「あぁ~、もぉー如月が居なきゃ コイツの悪行を止める奴いねぇ~」

「善行の間違いだろ。それに如月も当分は使いもんになんねぇーしな 俺としては痛手なんだ 頼むぞ」

「は?なにそれ?もしかして 俺って頼られてんの?」

「ユーシュエンに関しては」

「あー、それな。まぁ 頑張ってみます」

煙草と誘われたが 足を蹴り飛ばしてそのまま 部下の集まる部屋に向かい事情聴取を受け取った。








箕田先生との勉強も終わり下に下がるといつもの様に一緒にお昼を食べるが今日の話題はお兄ちゃんの話題だ。

「鈴君のお兄さん達って素敵よね。晃さんだけかと思ってたけど征一郎さん、高嗣さんはご兄弟?それとも従兄弟とか?」

家庭教師になってくれる人だけど 詳しい説明はして無い事から 箕田先生は俺が織田家の子供だと思ってることが何となく分かった。お父さんにも詳しく聞かれても答える必要は無い。と言われてたから 事実を言うだけにした。

「兄弟だよ」

近い将来 義理のお兄さんで湊さんがいるよ、と心の中で付け加える。

「そう、素敵なお兄さんばかりね。彼女とか居るのかな?」

「居ますよ」

彼女の有無を聞かれたら「いる」と答えろとも言われてたからそのまま 答える。

「そうなの」

残念そうにする箕田先生にごめんねと謝った。晃さんには俺がいるが、お兄ちゃんとせい兄ちゃんは彼女が居るかなんて知らないからだ。今度 聞いてみよう。

お昼を食べて帰る時には箕田先生は若干元気がなかったけど 気にせずに送り出した。

部屋に戻ると携帯が鳴ってた。

確認すれば優からで一瞬 出るのに戸惑うけど 出ることにした。

「もしもし」

『・・・俺 だけど・・』

「優・・」

本来ならスラスラと何かしらの言葉がでるのに何も出てこない。

『本気で・・・結婚するの・・相手はαでも 男なのに』

αとか男とか関係ない。俺が結婚したいのは晃さんだから迷うことは無い。

「俺 本気で晃さんと結婚したいと思ってるから」

『騙されてると思わないのか?』

「思わない」

『そう、本気なんだ。わかった、あのさ改めてお祝いさせてくれる?今から』

「今から?ご飯食べちゃったんだけど」

『じゃ、いつも 食べたいって言ってた ケーキでも奢ってやるよ。ファミレスだけど』

「確かに ケーキって憧れ強かったよな」

『決まりだな。駅前のファミレス 2時でいい?』

了解の返事をして電話を切った。優が晃さんとの事を認めてくれた事が単純に嬉しかった。

良枝さんに出かける事を伝え 少し早いけど家を出た。
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