白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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勘違い雨

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「俺と鈴は結婚をしなくても心から繋がった相手だ。でも、世間にわかりやすく鈴は俺のものだと示す為には結婚が手っ取り早い。そうだな、わかりやすく言えば俺と鈴は相思相愛」

肩を抱き寄せられ 意地の悪い顔をすると少し屈み こめ髪にチュッとキスをして来た晃さん。なにをするんだと思うより何故だか心が繋がった相手だと言ってくれたことが自然と嬉しいと心が震えた。

「バカバカしい。良い大人が非現実的な夢物語を語ったてなにが相思相愛だ、キモイだけなんだよ。鈴も夢見てないで目覚ませよ。そいつの愛人で良いように利用されて終わりだぜ」

確かにβなら夢物語、愛人止まりで必要無くなれば捨てられて終わりだ。でも、俺と晃さんは番 しかも運命の番であり 心が繋がてる相手。俺を誰にも取られない為に結婚をすると言い切ってくれた。なら 晃さんは俺のものだ、誰にも譲りたくないなら ちゃんと結婚をして俺だけのものだと世間に示す必要があるんだ。

「俺は 晃さんと結婚するから」

隣に立つ晃さんのスーツをギュッと握り自分の意思を示した。それを聞いて 思いっきり呆れてる優が1歩踏み出して俺の腕を掴んだ。

「なにバカな事 言ってんだよ!!こんな奴のどこが良いんだよ!相手はαだ、いい女かΩが現れたらどうせ捨てられるだぞ!だったら、ちゃんと結婚出来る相手と一緒になれよ。俺なら鈴を・・・」

優に持たれた腕を引っ張られ よろめきそうになるが 晃さんが俺を支えて 優の手から俺の腕を取り返した晃さんの胸の中に囲われてしまった。

「ふん、俺なら鈴をなんだ?泣かせない、とでも言いたかったのか?それに、なぜ俺が鈴を捨てる 前提の話になってんだ。本当の友達なら 結婚相手を否定しないものなんじゃないのか?入籍できない同性婚をしてる奴なんて今の時代ごまんと居るが、お前は古い考えで 入籍できない同性婚は認められないか、それとも」

ぇっ、えっ、まさか。でも それって、もしかして、俺のことを・・・好きだってこと?思いたある節はあるにはある。声を掛けて来た兄ちゃんや如月さんのことをやけに気にしてた。でも、俺は、手を引いて引っ張ってくれた兄や姉、後ろを着いてきてくれた弟や妹、相談したりされたり、時には喧嘩したり、一緒に泣いたり笑ったり 励ましあい育ってきた。そんな相手に恋愛感情を持つよりも先に仲間だと感じ そして兄弟だと思って育って来た。そんな相手を今更 恋愛感情は持てない。

「鈴が捨てられて泣く姿を見たくないだけだ!!勝手に人の事を推測するな!」

ゆっくりとを上半身だけを捻り優を見れば怒ってるなと一目瞭然なのに・・・何故だか怖いとは全く感じない。

「俺が捨てると推測してる奴に言われたくないな」

「推測じゃない!事実だ!!αなんて自分が一番偉いと思い込んで好き勝手にしてβを見下してる奴らばっかりだ」

「碌なαに会ったことが無いんだろうな」

「他人事だな。お前も同じムジナなんだろ。仲間どうしで仲良くしてれば良いだろ。鈴を巻き込むな」

それこそ思い込みなんじゃないだろうか。それに 俺がβでは無くΩだと明かせば済む話なのに、晃さんは一言も俺がΩだとは明かさないのはなぜなんだろうか?

「クス、申し訳ないが 鈴以外に俺の心が動くことは無い。もし 今 出会ってなくても俺は鈴を見つけ出して必ず一緒になる。俺からは絶対に離れない」

本当に俺だけなんだ。俺だけを求めてくれる。言葉だけじゃない。本気でオレだけを求めてくれてると感じ取れる。晃さんと目に見えない 何かで繋がってるからか 俺は晃さんの言葉を信じられる。

「晃さんは俺を見つけてくれた。ずっと 一緒に居てくれるって約束してくれた。なら、俺も晃さんから絶対に離れないから、だから必ず2人で幸せになろう」

「あぁ、鈴なら何度でも誓える。俺には、鈴だけだ 愛してる」

身体中が嬉しいと叫ぶ。心臓が晃さんと出会った時の様にドキドキと五月蝿いのに息が出来ない。晃さんだけが居てくれればいい、晃さんだけが欲しい、晃さんは俺だけのものだ。ぐるぐるとそんな感情だけが俺を支配する。今口を開けばとんでもな言葉が飛び出しそうで怖い。

「ウソだろ 鈴 目を覚ませよ。こんな奴と一緒に居て幸せなんかあるわけないだろ、そんな戯れ言 一々 真に受けてどうするんだよバカバカしい!そんな奴の・・αの言葉なんか信じるな」

「愛してる鈴、この思いは鈴だけに思う特別な想いだ」

「ぅん」

頷くだけで 精一杯だ。今は外で目の端には優が居ると自分に言い聞かせる。

「っ! 俺は許さないからな!!絶対に認めない!」

そう叫ぶと走って去って行った優を呼び止めることが出来ないまま優の背中を見送った。
数回深い深呼吸をして どうしたら良いのか分からないままに口を開いた。

「俺は晃さんが好き、でも、まさか優が俺の事・・・俺 全然気が付かなかった・・俺、ずっと 兄弟だって、 仲間だって 思ってたから」

優しく頭を撫でながら背中を摩ってくれる晃さんに身を任せてると徐々に気分が落ち着く。

「鈴はそれでいい。きっと憧れや尊敬の念が強すぎて好きだって思い違いをしてたんだろう。頭が冷えて落ち着き冷静になれば 気がつく。今はソッとしといてやれ。行くか?」

優と行くはずだったハンバーガーショップに行く気がせずに 力なく首を振れば そのまま車に乗せられて連れて来られたのは 蕎麦屋だ。気分は複雑なこんな時なのに、手打ち麺のザル蕎麦にサクサクの天麩羅が絶品で旨いと声を出してしまった。

俺って結構 薄情な奴なのかも。

そんなことを思ってると、送ってやれないからと 迎えの車を呼んでくれた晃さんと別れて家に帰れば 式の準備だと、お母さんと愛さんがテンション高く待ち構えてた。優の事を考える暇なく、塾の時間まで 質問攻めにされ 一日が終わった。






まさかなと思いつつも 揺さぶりをかける前に白状してくれたケツの青いガキに少しばかり熱が入り過ぎたとなと思いつつも反省はしない。
全く鈴に関係ないならどうでもいいが、僅かでも鈴が関わってくるなら話は別だ。

一緒に育って来た園の子達を鈴の兄弟や仲間だと思えばこそ 無下に出来ないと俺は最大限の徐歩をしてやってるだけでも ありがたいと思って貰いたい。
世の中 運命の番が出会えてる人数は1%も居ないので比較も出来ないが、普通に仲のいい番でも 自分のよく知りもしない相手と、それも二人っきりの食事を許せるαが10人中何人居るか、俺は1人も居ないと思う。それを踏まえるなら、本当の兄弟でも無い ただ一緒に育った相手と二人っきりの食事を許してやってる時点で、俺は随分と心の広い番だ。

それを、俺が鈴を捨てる前提の話し方が気に食わない。それに ハッキリと言ってやる必要は無いと、鈴の本当のバース性を言ってやらなかったが、どんな馬鹿でも気づいて良さそうなものを全く気がつかない早坂に呆れも生まれたが、そんなものはどうでもいいと良くなったのは 俺を包み込む鈴の匂いと、心の1番柔らかい部分をガッチリと鷲掴みされる感覚に脳が痺れ、軽いヒートを起こしかけてると即時に判断した。少しでも気を緩めたら己の意思が低迷してしまい、自分の行動に責任が持てない行動に出そうだと、意識を保つのに必死になった。

早坂が去った後、鈴は戸惑っていたが 早坂の思い込みの違いで感情を履き間違えたんだと、最もらしい理由を言い含めて落ち着くのを待ってる間、俺の頭の中で鈴を淫蕩に何度も抱いてた。

我慢の限界に近づくと車に誘導し 先に鈴を車に乗せると万が一の為に持ち歩いてる抑制剤をそのまま飲み込んだ。

身体の欲望は収まっても頭の中に媚りついた鈴の乱れ姿が離れないまま、何も手につかないと執務机に前に座ってるだけだ。

「そこに何もせずに座ってるなら 車に乗ってるぬいぐるみでも良いんですよ」

コイツ 何時の間に俺の車をチェックしてんだ?怖ーよ。

「可愛いだけのぬいぐるみに何ができる」

「気の抜けた間抜け面を惜しみなく晒してるカエル擬きなら 人の笑いを誘ってくれそうですが」

「・・・人の笑いをさそうなら 一時の安らぎを与えて少しは役にたって いいじゃないか。カエルを持ってきて座らせるか?」

「確かに、ボケと座ってる役立たずよりかは遥かに役に立ちそうですね。仕事をしないのであれば間抜け面のカエルを座らせてとっとと お帰り下さい。その代わり ヒート休暇は3日と制限させて頂きます」

「待て!最低 7日だぞ」

「鈴君は2度目のヒートでしたね。初めの頃は不安定で7日も無い子が殆どです。3日も有れば十分です」

俺の殆どが コイツに全て筒抜けになってる時点で 論争で勝てる相手では無い。論争の前に俺のスケジュール管理を全て握られてる俺には ほぼ勝ち目が無い。

「分かった!仕事はするからヒート休暇は最低7日だ」

「貴方の働き次第です」

俺の右腕を変えたいが、如月に取って変われる相手が居ない、こんな時に本当に悔しい。 

ヒート休暇は最低7日だと机の上のファイルを捲り始めた。




「ひゃっ~ほーい。お仕事進んでる」

妙な挨拶をしながら勝手に部屋に入って来た須藤を見もせずに声をかける。

「何しに来た」

「一服 行かない」

たまに誘いに来るので不思議では無い。

「やめた」

「は?なに?風邪でも引いた」

「煙草は辞めた」

「ちょっ!待て!辞めるなよ お前が辞めたらますます肩身が狭くなる」

おかしな話をするなと須藤に視線を移すも直ぐに視線を反らした。

「なんで お前 俺を涙目で見るんだ」

「コーヒー奢ってやるから」

「どうも」

「煙草 買ってやるか」

喫煙者が敬遠されつつある世の中、庁の中にもその風潮もある為に肩身の狭い思いをしてる。炎天下でも雨でも風の強い日でも外で吸えと建物の外に追いやられてる左近、昔からある廊下の一角の喫煙所を退かせたがってるヤツらから死守したいのだろ。

「吸いもしない物を貰っても邪魔なだけだ」

「なんで!!」

「身体に良くないから辞めて欲しいと鈴からの要望だ。煙草を辞めるだけで鈴の心配事が減るなら容易い」

「いやいや、いやいやいや待てよ。瀬田課長 煙草を辞めて1年であの腹になったんだぞ。あんなにジムに通ってんのに、お前もあの腹になりたいのか?」

健康診断で引っかかった為に煙草を辞めた瀬田課長、平均的な体型だったが 煙草を辞めて1年経った今ではジムに通ってても 立派な突き出たメタボ腹になってる。煙草を辞めた今の方が不健康に見える。

極たまにしか吸わない俺でも、一年後にあんな体型になる可能性が有るのか?!

「へー、織田もあの体型になるのか、鈴ちゃんに幻滅されるなぁ~。こんなお腹の出っ張った晃さん嫌い。かっこよくて スマートな人がいい!って 荷物纏めて去っていくんだろうなぁ~」

腹が出るぞとジェスチャーで腹の膨らみ具合いを作る須藤に思わず腹が出た自分を想像してしまった。

目の前に鈴が現れて太った晃さんなんて大っ嫌いと俺の前から去っていく映像が見え、俺の顔色は青を通り越して真っ白になってるだろう。

「煙草 辞めて不健康なメタボ腹になるか 鈴ちゃんにちょっとだけ 隠れてココだけで こっそり煙草を吸うか」

辞めると約束したのに、鈴に隠れてココだけで煙草を吸うなど許せないだろ。

「なっ!なっ!太らない為にも」

煙草を辞めるなと執拗く俺を誘って来る須藤に腹が立つし、鈴と約束したにもかかわらず 無性に煙草を吸いたくなった。

「五月蝿い!!瀬田課長は瀬田課長だ!元々が太りやすい遺伝子組織だったんだ!俺は太らないし その為の努力もする。二度と誘いに来るな 出て行け!!」

吸いたい気持ちを振り切る為に、怒鳴り飛ばし須藤を部屋から追い出した。

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