白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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喧嘩雨

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午前中はゆっくりと出来ると言っていた通り晃さんが仕事に行くのはお昼からだ。

今 家には俺と晃さんだけで俺はブスくれたまま昨日の風呂の苦情を言ってたが全く取り合わない所か珍回答が返ってくる。

「絶対に一緒にお風呂に入らない」

「マスカット美味いぞ」

「絶対にやだ」

「桃の方がいいか」

「今度 お風呂に入って来たら嫌いになるから」

「スイカ食うか」

「口聞かない」

「メロンがいいか」

「勝手に入って来たら 一人暮らしするから」

「マンゴー食べるか」

「俺の話し聞いてる?」

「キュウイはゴールドか?」

最初は一言 言えばクッキーやチョコやマカロンと棚をゴソゴソと探りながら一問一答で返して ふざけてると腹が立ったてしょうがなかったが、お菓子が無くなると今度は冷蔵庫を開けて中にある果物で一問一答を繰り返してる。暖簾に腕押し状態で途中から脱力してしまったが何処まで続けられるか面白くなって止められない状態だ。

「お風呂に勝手に入ってこないで」

「そうだな カニ缶なんてどうだ?」

お菓子が無くなり果物も無くなり次は缶詰か。

「お風呂は一緒に入らないから」

「みかん缶がある」

多分 家にあるもの全部で珍回答を繰り返すのだろう。晃さんは俺とまともに喧嘩したくないのか、それとも喧嘩するだけの価値も無いと思われてるのか、どっちなんだろう。施設にいた所はくだらない事でも喧嘩して仲直りしてを繰り返して仲良くなって行った。自分の意見を通したくても出来ない時は話し合ったりしてお互いが納得出来る結論を出したりもした。晃さんは俺とそんな事をしたいとは思わないのかな。なんか悲しいと思う。

「もういい 晃さんがまともに取り合ってくれないって良くわかった。缶詰が無くなったら次は何を言うつもりだったの」

「飲み物だな」

やっと まともな会話が出来たけどやっぱり珍回答になってる気がするのは俺の思い過ごしだとは思わない。

「晃さんは俺と喧嘩とかしたいとか思わないの」

「積極的に夫婦喧嘩はしたいと思う奴は居ないだろ。嫌いだの口を聞かないだの言ってても 鈴が一番言いたいのは風呂には一緒に入りたくないだ。俺にはそんな話は聞けない」

珍回答してた割にはちゃんと聞いてんじゃん!!だったらちゃんと向き合って話し合うって姿勢を見せろ!

「なんで」

「本気で言ってんのか」

出来の悪い子を見る目で見る晃さんを力いっぱい睨ん出るけど晃さんは  ため息をつくだけだ。

「抱いた後に風呂に入らないとベトベトのままだろ」

確かにその通り。ベトベトのまま寝ると朝にはカピカピにへばりついて大変だろうなとは思うけど、何故かそのまま頷いてしまうのがイヤだ。

「それは・・・朝に入るから大丈夫」

「本気で言ってるのか?発情期の時はどうする」

あっ!発情期があった。まだ1度しか来てないから頭になかった。さすがに1週間 風呂に入らないのはまずい。否、俺が・・・入れるのか?お風呂とか食事とかそんな日常を忘れて 唯ひたすら性の事しか頭にない俺にそのなのは無理だ。日常の世話をしてくれながらもΩの欲を埋めてくれるのがαの悦びなんだと先生が教えてくれた。ならば 発情期の時だけ・・・ってのは虫が良いよな。

「・・・ごめん」

発情期の時だけ一緒にお風呂に入るとは言えずに素直に謝れば晃さんが近づいてきた。

「俺も脅かしてしまってすまない。風呂に入る時は声を掛ける」

えぇー!謝るところソコ?違うだろって思えるけど余りにも紳士に謝る晃さんを見れば、昨日の頭を洗ってる時にいきなり指を絡ましてきた晃さんにびっくりしたのを思い出し、確かに脅かされるのは嫌だなと思う。驚かさないのであればそれでいいと思えるから不思議だ。

「晃さんって狡いよね」

「何が狡いんだ」

「俺が怒って色々言ってても珍回答で返してくるし、今 驚かされたのも思い出した」

「狡いのはどっちだ。本心で言ってるとは感じ取れないから聞き流していられたが、嫌いだの口を聞かないだの一緒に暮らさないなど言われたら俺でも傷つく」

ちょっと拗ねた子供のような顔を見せた晃さんはそのまま俺を抱き上げ自分の膝に乗せ俺を抱きしめる。

「かなり本気で言ってたよ」

「本気で嫌いなのか」

「・・・・ぅーん」

ギュッと力いっぱい抱きしめて「鈴 愛してる」と 囁く声が真剣すぎて俺の心が「俺も愛してる」と言いたいとザワザワ騒いでるのに、変な意地が勝ってしまって口を開けない。そっぽを向いて知らん顔をした。

貝の様に固く口を閉ざしてると突然ソファーに押し倒されて 驚き晃さんを見れば怖くて勝手に体が小刻みに震える。俺の頬に片手を添えて綺麗に笑った晃さんだったけど、俺は底知れない恐怖を感じて自然と涙が溢れた。

「私の愛を疑ってるのか」

鋭い眼差しで覗き込みながら俺を見てくる晃さんから目が逸らせずにいる。思い出すのは先生から言われてた言葉だ『αの愛を確かめようなんて気を起こさないこと。αは番が可愛くて愛おしくて宝物なんだ。そんなαに 愛情を確かめようと妙な気を起こすと監禁されるケースがある。それだけ、αは番に対して真剣に向き合ってる』今 一瞬でも目を逸らしたら監禁されかねない。言葉を間違わずに答えなければならない気がする。

「ぢっ違う」

「私達は夫婦なんだ。当然一緒に暮らすよな」

「ぅん」

「会話は必要だが積極的に喧嘩を買う気は私には無い」

「俺だって・・・喧嘩なんて・・」

「私は鈴を心から愛してる」

晃さんが俺を愛してる気持ちを疑ってはないし、俺も最初は晃さんを理屈ではなく 本能で求めて、今では心から好きだ。でも、これからずっといつも居るなら 一方的の意見やルールを押し付けられるのは納得いかない。俺が1人で納得行かないことをずっと我慢して晃さんの傍に居続けるのは嫌だ。ちゃんと自分の思いを伝えないと何時までも伝わらない。勇気をもって口を開く。

「俺はずっと園で暮らしてた。園の子達といっぱい喧嘩もしたけど、それと同じだけ謝って仲直りもしてきた。意見が合わない時は何度も話し合って皆で納得行くように話しをして来た。俺は晃さんと喧嘩もするけど仲直りもして 今以上に仲良くしたいし、もっと晃さんの事を知りたいと思う。納得行かないことは2人のルールを作って行きたい」

「なるほど。喧嘩は積極的には買わない。が、必要な喧嘩はする。謝ればその喧嘩は終わりだ」

その条件だと 喧嘩を終わらせたくて 晃さんが謝れば、俺が納得行かないまま終わってしまう結果になりかねない。

「意見が合わなければ・・・謝っても俺は口聞かないと思う」

「2人で納得の行く話し合いをすればいい。但し、離婚や別居は認めないし口を聞かないなどは却下だ。鈴がどなんに泣こうが喚こうが私は持てる力全てを使ってでも鈴を離さないし 無理やりでも口を開かせる」

真剣すぎる声と危険すぎる内容に息が止まる。今まで見てきた晃さんは ほんの一部なのだ。俺が知ってる晃さんも本当の晃さんだけど、危険すぎる今の晃さんも俺が知らないだけで この姿も本当の晃さんの1部なのだ。

「晃さんが話し合いや喧嘩に応じてくれなかったら 実家に家出するから」

危険すぎるからと、一方的に押されて言いなりにもなりたくない。

「実家に家出されない様に気をつけなければな」

鋭く射抜く様な目だった晃さんが満足気に目元を緩めて笑ったのが分かると全身の力が抜けるがまだ震えが止まらない。
自分が押し倒して来たのにもう一度 抱き上げ膝の上に座らされると小さな子供をあやす様に背中を撫でてくれる晃さんに無意識に抱きついて少しづつ落ち着くのを待った。そんな姿を帰って来た 良枝さんに見られ「あらあら 仲良しですね」なんて言われて初めて気がつき恥ずかしかった。

お昼前に晃さんに優と待ち合わせの場所に送って貰うことになった。通勤用の車がメルセデスなんだと初めて知った。その助手席にゲーセンで取ったカエルとウサギのぬいぐるみが座ってた。カエルのぬいぐるみを膝の上に乗せて座ると隣に座った晃さんがウサギを膝にのせた。

「カエルがいいなら交換するよ」

「ウサギでいい」

膝の上にウサギを乗せたまま車を運転し始めた晃さんをそっと見る。部屋にはぬいぐるみや可愛い物がないシックな感じだけど 晃さんは意外と可愛い物好きなんだ。

「今日は帰りは遅くなるから」

「そっか 仕事なら仕方ないよね」

ゆっくりと車を動かし始めた。

「晃さんはお昼はどうするの?」

「如月と適当に食べる」

「いつも何処で食べてるの」

「出向してる時は店屋物が多いな。庁にいる時は食堂を良く利用する」

「へー、晃さんって食堂とか利用するんだ。いつも高級なレストランとか行ってそうなのに」

「高級なレストランなら鈴と行く」

「余りマナーとかわかんないから 緊張して味がわかんないかも」

「そうか、なら個室を取れるところにするから安心しろ」

俺が落ち着くまで 晃さんは執拗い程 何度もキスを繰り返して 一言「ごめん」と謝ってくれた後は、何気なく普通に話せてる。当たり前な事なのにそれが今 嬉しい。

「高級レストランよりも蜂の巣箱に連れていってね」

「鈴との約束は守る。時間を作るから待ってろ」

「うん!アイスの乗ったハニートーストが食べてみたい」

「楽しみにしてろ」

何気なく普通に会話が出来るのが楽しい。晃さんが好きなのはミステリーやホラーの映画の方が好きだと知ったり、車のや腕時計が好きだと知ったこと。机の引き出しを開けた時に煙草が出てきてビックリしてると、たまに吸いたくなる時があると教えてくれた。体に悪いから止めてと言えば「吸いたくなったら鈴がキスをしてくれ」と煙草を握りつぶしてゴミ箱に捨ててしまった晃さん。ゆっくりと少しづつ晃さんを知っていくことが楽しい。

待ち合わせの場所に着くと晃さんも車から降りた。俺はただ送ってくれるだけだと思っていたので どうしたんだろうと晃さんを見ると、車を周り俺の隣まで来ると抱き寄せられて エスコートされる様に優の前まで歩いてきてしまった。

「君が早坂 優君か。初めまして 鈴の夫の織田 晃だ。鈴とはこれからも友達・・として仲良くしてくれ」

まさか優に挨拶するとは思わなかったな。それにしてもやけに友達を強調してないか?

「まだ結婚・・もしてないんだろ。なにがなんだよ」

まさか優が晃さんに攻撃的な口調で応戦してしまい 俺は内心あたふたしてしまいどうしていいのかわからない。

「そうだな、まだ結婚してない。正確にはフィアンセだ。式は来年直ぐに挙げる」

「ふーん。あんたαだろ?なら女性かΩにしたら。鈴はβだ、どんなに大事に思ってても籍にも入れない愛人止まりなんだろ。あんたは鈴には相応しくない別れたら」

性別とバース性が存在するが、この国での結婚は男女の異性婚とαとΩの同性婚のみしか認められない。優は俺がβだと信じてるから晃さんに俺と別れるように言ったんだ。

「いいなそれ。恋人であり妻であり愛人でありか、鈴と色んなパターンでも楽しめるな」

「αのクセにあんた知らないの?αだからって誰とでも結婚出来ないんだよ。同性婚が認められてんのはαとΩだけ。俺は鈴が女性と結婚すると思ってたんだけど」

思いっきり晃さんを馬鹿した話し方をする優を止めようとしたけど晃さんに止められてしまった。




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