白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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彩雲

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苛烈する報道。

実の息子を捨てた親。
祠堂の息子は何処に?
今こそ見直すべき守られるべき人権。
バース性を知った親の心境。
守るべきΩ性、どうやって守っていくべきか。いろんな見出しで討論が繰り広げられる番組を冷めた気持ちで眺める。

正義でやってるなら少し前に起こったΩの事件だってもっと大きく報道されても良かったはずなのに1度報道されたっきり触れもし無い報道関係者達。今だけ正当化して討論しても、世の中の見方が変わらなければ何も意味をなさない。本当にΩの見方を変えようとしてるとは思えない報道の仕方、今さえ見て貰えたらそれでもいいと透けて見えるやり方に腹が立つ。

「誰も本当にΩの立場や見方を変えたいって人はいないよね。自分達の正義を見せつけてるけど、上辺ばっかり」

少し早めの夕飯を食べて帰ってきてリビングで寛いでる時に付けたテレビニュースを見て嘘つきばっかりだと思った事をそのまま呟けばお母さんに頭を撫でられた。

「そうね。ほんと綺麗事ばっかりね、でもね 切っ掛けって必要なのよ。見え透いた物だけど、Ωの辛さや生きずらさをわかってくれる人は居るって信じたい。Ωは人形じゃない、意思を持った人なんだって気がついてって思うの。今日明日で世の中の見方は変わらない。少しづつでいい ゆっくりでも確実に変わってくれるなら、未来は明るい。そう思わない?」

「じゃぁ、俺達が辛いばかりじゃないですか」

「貴方が息子の伴侶で運命の番でとても嬉しい。そして、貴方も私の息子になってくれた事が私の幸せ。私は貴方を心から大切な人 慈しみと愛情を貴方にも注ぎたい。だって、親は子を愛するものでしょ。私は鈴ちゃんを愛してるわ、それじゃダメ?」

俺を見るお母さんの目は真っ直ぐに俺を柔らかくて優しい眼差しで見る。

あの日 雨の中俺を捨てた母さんは真っ直ぐ前だけを見てた。1度も俺を見なかった 振り返らなかった。父さんは汚い物を見る目だった。
どんな思いで俺を捨てたかなんて考えなかった。考えたくなかった。でも、最近 あの時の事を思う。
真っ直ぐ前だけを見てた母さん。もしかして、1度でも俺を見れば 父さんを止めてくれただろうか?子供を捨てないでと言ってくれただろうか?
母親の目が、こんなにも心強い物だとは知らなかった。
あの真っ直ぐ前を見てた目はこんなにも力強さを持ってたなら 少しでも父さんに向けてたらと有りもしない事を 思う。

「あらあら、ごめんなさい。どうしましょう 晃ちゃんに叱られちゃう」

優しい中にも力強さがあった目をしてたのに、急にオロオロしだしてしまったお母さん。

「うん?どうしたんだい?」

お父さんが隣に迄やって来てお母さんを抱きしめて、俺の頭を撫でてくれた。

「どうしましょう。晃ちゃんに叱られてしまうわ」

「大丈夫。少し落ち着いて」

ポンポンと優しく撫でてくれるお父さんの手はどこか晃さんに似てる手つきだったけど、やっぱりどこか違う手だとわかる。







黙ったまま 涙を流す鈴に戸惑う妻を見て、まずは話を聞かないと 何もわからないままだなと心の中で何があったんだと ため息を漏らした

『それはどんなに努力しても所詮 クズはクズ 出来損ないのβだ、どんなに足掻いても‪α‬に離れないからな。財産なんて 出来損ないには宝の持ち腐れだ、優秀な者に譲って使ってもらうのが世のため人のためだ』

なんとも言い難い 酷い言葉の羅列に自然と眉間に皺が寄るのが分かる。
顔を上げれば レコーダーとご丁寧に字幕スーパーまで付いたテレビ画面だ。声は誰の者なんて聞かずとも分かる。

もう 何も聞きたくないとテレビを消して妻にお茶を頼み 消えた真っ黒な画面を見てる鈴に声を掛けた。

「鈴、お母さんと喧嘩でもした?」

有り得ない事を聞いて意識をコチラに向けさせた。

「違う。そうじゃ無くて。お母さんの言ってくれた言葉が嬉しくて だから」

違うと必死に首を振る鈴は小さな子どものようで守らなければと思わせる仕草にも似てた。

「言ってくれた言葉?」

戸惑いながらも意を決したみたいに手をグーにした鈴。

「はい。親は子を愛するものだって。お母さんは俺を愛してくれてるって言ってくれたから。俺 息子として愛されてもいいんだって。家族ってよくわかんなかったけど 何だか嬉しくて」

育った環境のせいか家族をよく分からないと語る鈴。おかしな事を言うな。兄弟の思いはよく分かる子の筈だ。ならば、分からないというよりも、両親に捨てられた心の傷が問題の様な気がした。

「可愛くて素直ないい子が俺の息子になってくれたんだ嬉しいよ。須賀のご両親も喜んでる。今日 須賀のお母さんに会ってきて それを直で感じてこなかったか?」

少し頬を赤くする鈴。昼間に送られてきた鈴の写真の多さからして、かなり2人に構い倒されたに違いない。

「それは、はい。もう良いって言ったのに 色々と」

下を向いてしまった鈴は困惑気味な様子だ。

「親の愛情も、叱られる事も全部引っ括めて黙って受け取り、それを糧に大きくなるのが親への恩返し。その子が親になった時、その子供に、そうやって受け継がれる物なんだ。私も親に愛情を注がれて育った。私の息子になったからには、私からの愛情を受け取って欲しい。そして、いつか生まれてくる子がいたら その子に私から受け取った愛情を教えて欲しい」

親から子へ、我が家の先祖が言った言葉だ。
人に優しくしなさい。今ではなくてもどこかで、自分ではなく我が子がお世話になるかもしれない、優しさの連鎖は少し違う形で 我が子や孫に帰ってくる。
客商売をしてたからこそ出た言葉は、祖父からも父親からも聞いた言葉だ。

「愛情?」

言葉を少し変えてみたが今はこの子に両親とはどんなものか教えるのには1番の言葉だと思えた。

「親はね、自分の子となった子を心から信じて愛するものなんだ。私も鈴を愛してる」

「それは 親 として ですよね。鈴は私の妻なんですから ベタベタと無遠慮に撫で回すのは止めて下さい」

私から鈴を取り上げるようにすっぽりと自分の胸の中に閉まってしまった息子。

「おやおや 今日も帰って来れたんだね。かなり過激な報道がされてるみたいだが?」

「全て把握出来てる物ばかりだから問題ない。鈴 どうした?この 変態親父になにかされたか?」

おやまぁ 父親の私には鋭い眼光を向けて起きながら 鈴には私でも見たことない眼を向けるものだ。

「えぇっ そんなこと無いよ。お帰りなさい。帰って来れたの?」

「そう?ならいいけど。昼間はかなり楽しんでたみたいだったな。鈴はアート展が好きなのか?」

自然と自分の膝に乗せて頬を撫でる息子に ため息を吐きながら今日見る予定のDVDをセットする。

「前から興味があったから」

「おかえり晃ちゃん。お茶が入ったわよ」

「さてと。では 今から映画鑑賞の時間だから 鈴を勝手に連れ出さないように」

お前は好きにしても良いけど 鈴は置いて行けとわかりやすく言ってやれば またもや睨まれたが 鈴はお茶を手に「楽しみ」と 既に見る気でいるのだ。
直ぐにも攫って行こうとした晃は諦めて一緒に映画鑑賞に加わった。


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