白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

文字の大きさ
上 下
40 / 59

紅雨

しおりを挟む
車を出す前に父さんに「今から帰る」と、メールを打てば、「今 映画を見てるから勝手に入って来い」と帰ってきた。確かに 映画を見てる時には邪魔をされたく無い。

22時になる前に実家に帰りつき 静かに家に上がり込んで見れば、リビングで両親と仲良さげに話し込んでる。どうやら 映画を見終わって 感想をいいあってる最中のようだ。

「あら、晃ちゃんお帰りなさい。今日は帰って来れないのかと思ってたわ」

「お帰りなさい晃さん。今日のニュースだと 帰って来れない・・・・」

立ち上がって俺の傍に駆け寄ってきてた鈴の足がぴたり止まり今にも泣きそうな鈴。

「おかえり 疲れてるだろ。先ずは風呂に入ってこい」

確かに疲れてはいるが なによりも先に鈴を抱き締めたいし 何故そんなに悲しそうな表情をしてるのか知りたい。1歩を踏み出す前に父さんに停められた。

「鈴 晃のパジャマ 取ってきてくれる?」

わざわざ立ち上がり父さんは鈴に用事を頼むと俺の向きを変えて背中を押してくる。

「う、うん。わかった」

鈴は素直に頷き俺は父さんの誘導でそのまま脱衣場に連れてこられた第一声がとんでもない疑いだった。

「仕事だと託けて浮気してたんじゃないだろな」

「そんなくだらない暇があれば直ぐに鈴を自宅に連れ帰って2人で篭ってる」

「お前からΩの匂いがするんだよ。気が付かないのか?かなり匂うぞ、鈴もお前の体臭とは違う匂いが強烈に残ってるのに気がついてあんな顔をしたんだ」

匂いが纏わりついた服は着替えたがシャワーを浴びる時間さえ勿体なくて省いてしまったのが裏目に出てしまった。

「確かに大量に臭いを浴びてしまいましたが 俺には魚の腐った臭いにしか感じなかったので、何も無いですよ」

髪に鼻を近づけてクンクンと匂い確かめると余程 臭かったのか眉間に皺を寄せて鼻を摘んだ。

「ウーン、薔薇なのか?鈴がお前の匂いはレモンだと言っていたから混ざり合ってかなり最悪な臭いを放ってる」

父さんの行動と言葉にすぐさま父さんを追い出し 風呂場に飛び込んだ。

念入りに洗い スッキリしてリビングにもどれば両親だけしか居らず鈴は部屋に戻ったと教えてくれた。
鈴の部屋のドアを 2度 ノックしたが応答がない。

「鈴 入るぞ」

部屋に入れば電気が消え 鈴が居るか分からない。

「鈴?電気つけるぞ」

電気を付ければ ベットの上がこんもりと盛り上がって鈴が布団の中に潜り込んでるとわかる。布団を半分捲りそのまま抱きしめ「ただいま」と 囁けば やっと顔を上げてくれたが瞳が少し濡れてた。

「ごめん 急にヒートを起こした人がいて 他の人に任せる訳にもいかずに 俺が対応したんだが、鈴を裏切る様なことはしてない。服だけは着替えたが シャワーを浴びる暇もなかった。鈴には嫌な思いをさせるとまで頭が回らなくてそのまま帰って来てしまった。俺の配慮が足らずに嫌な思いをさせてすまない」

大部分を省きつつも なるべく嘘のない様に気をつけて真摯に謝った。

「ほんとに 何も無かった?」

「ない。俺には鈴以外の匂いには惹かれないって事を改めて分かっただけだ」

ジッと俺を見て 軽く溜め息を吐いた鈴は静かに「わかった」と 答えると視線を外して横を向いてしまった鈴。
かわったと答えた割には、信用されてないのか?生まれて初めての感情に 自分自身が混乱し始めた。

「鈴?俺のベッドで一緒に寝よう」

「晃さんも疲れてるでしょ。1人で寝た方が疲れが取れるよ」

鈴が寝てるベッドはシングルベッドで、俺が一緒に寝てしまえば寝返りも上手く出来ない。なので 俺のベッドに誘ったのに、拒否された事に軽い目眩も加わる。
連日の激務から俺もかなり疲れが溜まってるのかも知れない。

「確かにそうかもしれないけど 鈴不足で倒れそうな俺を救ってくれないか?」

祈るような気持ちで鈴に訴えたら、そっと 窺い見るように チラリと俺の方を見てくれた鈴にすかさず 頬にキスすると紅くなる。

「やっと俺の方を見てくれた」

「狭い」

頬を膨らませたまま抗議してくる姿もまた可愛い。

「俺の奥さん。広いベッドにご案内しましょう」

「うわぁぁ」
そのまま鈴を抱き上げて俺の部屋に連れて込んでベッドに下ろすとそのまま覆いかぶさった。













晃さんとは会えない日々を送ってるけど、毎日電話とメールが届く。その最後のは必ず 大好きや愛してるとついてくる。恥ずかしいけど嬉しい、その1つ1つが大事な宝物になってる。

俺は少し前に 裁判所から鈴の名前をそのまま使っても良いと認められて田中 鈴から須賀 鈴に名前を変えた。須賀の両親に困った事とか無いかと聞かれたので、日雇いでお世話になった会社や連名でお見舞いも貰ってたので挨拶したいと言えば、次の日に 晃さんのお父さんが朝早く 日雇いをしてくれる公園で一緒に「お世話になりました。」と、ビール券を配って歩いてくれた。
お父さんと一緒に挨拶しても 下手な検索をする人はいない。それよりも、無事に退院出来たことを喜んでくれる人ばかりで純粋に嬉しかった。

そしてもう1つ、話し合って 定時制や通信制でも良いから高校に通う事を進められ、迷って晃さんに相談したりお兄ちゃんにも 相談して、やっぱり行きたかった高校に通えるのは嬉しいと素直に、通いたいと言えば須賀の両親も晃さんの両親も喜んでくれたし、お兄ちゃんも晃さんも 良い決断をしたと褒めてくれた。俺は今 高校受験の為に昼間の仕事をせずに塾に通ってる。


世間では、祠堂のニュースや憶測が飛び交う中 原の逮捕とΩの監禁 強制わいせつ罪のニュースが流れたが 世間では騒がれることはなかった。
夕方のニュースは珍しく貸倉庫で警察官と暴力団との銃撃戦の事件がトップニュースで取り上げられた。

「あらあら、銃撃戦なんて何処の国の事件なのかしらって思っちゃうわね」

「鈴 頼むから危険そうな場所には近づかないようにしてくれよ」

「大丈夫ですよ。それに明日はお母さんと須賀のお母さんと一緒にトリックアート展に行く約束をしてますけど、危険は無いですよ」

「今話題のアレか。かなり大掛かりなものもやってると聞いてる。楽しんで来なさい」

「はい」

夕飯前にいつも何かしらの話題を話し合ったり、分からない問題をお父さんに質問したりに穏やかな時間が流れ そのまま夕飯を食べてお母さんが好きなドラマを見たり DVDの映画を見たりして一緒に過ごすのが当たり前になった。

今日はお母さんの楽しみしてるドラマの最終回となっていたが、銃撃戦をしてた暴力団と祠堂が繋がっていた、それも麻薬の密輸の資金提供してたとして再逮捕となり、全局上げての報道合戦を始めてしまった。

警察側の記者会見は明日の昼頃と言ってのに。今 競わなくても良くねぇ?
同じ思いの丈をテレビにぶっつけてるお母さんの声を聞きながらも、今日も晃さんは帰って来れないんだとわかると、少し寂しくなる。

「ほら、どれが良い?」

買い置きしてたDVDをお母さんに見せながら宥めてるお父さん。

「そうね、鈴ちゃんはどれが見たい?」

お母さんに声をかけられてお父さんの持ってる箱の中を見ればお母さんが好きそうなディズ○ーやジブ○や恋愛もの、俺が好きそうな動物ものやアクションや推理ものが揃ってる。しかも見たいと思った物ばかりだ。

「うわぁ~、見たいものばかりで迷うなぁ~どれにします?」

「そうね~、コレなんてどう?」

1匹のクマは自分は人間だと思い込んで 森から街にやって来た紳士すぎるクマ。クマはある家族と絆を結ぶはなしだ。

「それ最初の30分しか見れてなくて最後がどうなったか気になってたんです」

「決まりね」

お父さんとお母さんが座り俺はお母さんの隣りに座る、自然と決まった席順。

「ふふっ 面白かったわね。紳士だけど常識がないのも困り物だわね。でも、憎めない可愛いクマさんだったわ。それに あの父親も、石橋は叩いて渡れって有るけど 叩き過ぎても石橋が壊れて渡れないよね」

壊れたらって、どんだけ強く叩くつもりなんだお母さん?そんな事を思いながら無難な感想を言い合う。

「確かに 慎重過ぎても 子供になにもさせないのは良くないですよね」

俺とお母さんの話を笑いながら聞いてるお父さんも豆知識を入れてくる。

「クマの名前は実際にある駅の名前から付けたそうだ」

「へぇー、さすが お父さん。凄い」

そんな事を話しをしてるとリビングのドアを開けて入ってくる晃さんに驚いた。
会えないと思ってた晃さんが帰って来てくれて嬉しくて 晃さんの元に向かうが何か 違うと勝手に行動を止めてしまった。
何度 見ても晃さんなのに なんだろうと?と、注意深く見るが分からない。

なんと声を掛けて良いのか迷ってるとお父さんが助け舟を出してくれた。
素直に晃さんのパジャマを取りに行く時にすれ違って初めて気がついた。
晃さんだけの匂いではなく、他の人の匂いが強烈に混じってるのだ。
なんで あんなに匂いが体に残ってるのか気になりだしたら 色々と邪推ばかり初めてしまい動けなくなった。

晃さんの部屋の前で動けなくなってるとお母さんに「部屋で休んでなさい」と、声を掛けてもらい パジャマの準備をせずにそのまま 部屋に戻り 布団の中に逃げ込んだ。

会えない日の方が多かったけど、毎日連絡をくれた。大好きだって、愛してるって 毎日言ってくれたしメールでも伝えてくれた。

毎日伝えてくれる言葉にちゃんと愛されてると 少しづつ自信が持てた。会える日にちよりも、相手を思いやれる気持ちや信じる気持ちの方が大事だと思うようになり、俺も晃さんを特別な人だと思えるようになった。

それなのに 晃さんが他の人の匂いをタップリ身に纏って帰って来たら 一気に思ってた気持ちも萎んで 信じられない気持ちは、全て自分が作り上げた都合のいい幻想的な思い込みだったのでは?自分を守るために思い込もうとしてたのでは?とか、悪い方にばかり考えてしまう。

悶々と1人でそんな事を考えてると いきなり布団を剥ぎ取られるれ耳元で「ただいま」と甘く囁く晃さんの声に顔を上げた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

漆黒の瞳は何を見る

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:108

嫌われ忌み子は聖女の生まれ変わりでした

BL / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:2,210

【完結】それは忌み嫌うべきものである

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:47

暗がりの光

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:17

霧が丘高校1年5組

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:22

忌み子の僕がハピエンになるまでの物語

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:82

忌み子らしいけど平凡な幸せが欲しい(仮)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:5

忌み子と呼ばれた鬼が愛されるまで

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:9

処理中です...