白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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陰雨

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昨日は、ただ話が聞きたいからと署に来て頂いて 話を聞いてた。自称 祠堂浅嗣の隠し持ってた2丁の銃にはベッタリと指紋と弾倉のオマケ付きで発見された。
極秘扱いになってたが、1人目と2人目に使われた弾痕が一致、3人目と4人目6人目につかわれた弾痕が一致、 5人目に使われた銃は御手洗俊が所持してた銃と判明。任意から逮捕に切り替わり、今日は朝から本格的な取調べを始めた。






「理由は」

「ねえ、この生きずらい世の中で 悩みもなく 馬鹿みたいに大口開けて笑ってる人ってどぉ思う」

今では 取調べをされてると分かっての行動なのか些か疑問に思うところだ。
足を組み 机に両肘を突き 顎の下で組んだ手の甲に頬を乗せて真正面では無く右隣にいる人に問い掛ける。

「悩みがない奴なんて居ない」

見られた者は迷いなく答えた。

「馬鹿だなぁ、悩みがある様にみえて 実際はβには悩み無いんだよ。僕達の様な優秀なαに仕えてるから君たちは生きて居られる。僕達αに寄生して生きてる君たち能無しは自分で考えて行動するなん出来ない。何か困ったら どうしますか?って うざったく聞いてくる。そんな人間に生きてる価値ってあるの?
そんな人間に幸せになる権利ってあるの?
ないでしょー!
ないよ。死んで当たり前なのに。僕達上位種のαが要らないと判断したんだ 生きてる価値なしって。
俺達が審判を下したんだ。
お前ら 能無しのβに指図される覚えはない。僕は帰る」

隣の部屋に篭って取調べの様子を伺ってたが、余りにも幼過ぎる言い分な癖にやる事は人殺だ。気分が悪くなる。

「勝手に帰られては困ります」

部屋を出てまだ続く取調べ室に入った。
何も知らないただの‪α達‬は世の中をまわしてると声高らかに叫びたい奴には叫ばせとけば良いだけだ。

αだからと、自分が上位種などと簡単に口にするなど愚かにも程がある。αだからそこ簡単に自分が上位種などと口にするものは居ない。

αの審判をする者も達は実在する。
αの中にほんのひと握り先祖返りで生まれてくる純度の高い本来の力を持って生まれてくる。それも1人が欠ける頃に1人が生まれる。それは何故かはわからない。神のイタズラとしか思えないが、我々は上位種と呼ぶ。
上位種には上位種の責務と責任がこの世に生まれ落ちた時から付きまとう。それは重苦しい重圧でしか無い。一筋の光も通さない暗闇に用意された善も悪も引っ括めた机の周りには15席の椅子に1人も掛けることなく座り 審判を下し御膳が許可を与えれば悪も善に、善は悪にもなりうるαの審判。上位種達の相当の覚悟がければ本当の意味でこの世の中は回らないのだ。

真相を知らない御伽噺に憧れて話をしてるお子様は今も訳の分からないことを喚いてる。


「僕は何も悪いことはしてない。‪α‬の審判を下したまでだ」

「‪α‬の審判か。面白い、お前の審判がどこまで通じるから試してやる」

上位種とただのαの圧倒的な力の差を解放して見せつける。
次々と顔を青くして倒れて行く捜査員達を如月が外に出して行くがそんなことに構っていられない。

「αの審判なら何故 御手洗 俊に銃を渡した。彼はΩだ、貴様の‪α‬の審判の意義が違ってくるだろ」

ガタガタと震え顔色を無くした 有川は恐怖を隠しもしない恐れた目で俺をみてくる。

「御手洗俊に銃に渡したのは発砲事件が起これば それに便乗して人を殺せると思っての行動だ。だが御手洗はなかなか発砲事件を起こさない。痺れを切らしたお前は事件現場となる場所を数日前から入念にチェックし、防犯カメラの位置を撮影しどのように動き どの位置から発砲事件すれば見つかりにくいかを見極めてる。お前が入念に下調べを行ってる姿が映像として残ってる」

目を見開いたまま涙を流し 声も出ないのか 首を縦に振った、認めたと捉えて良いだろう。ここで佐藤 一の事件も聞き出しても良いがそれは壁の向こうにいる奴らに取っておくことにする。

「 お前の両親の町工場を経営してたが資金繰りが上手く行かなくなり自殺。その後 祠堂正嗣に引き取られ浅嗣として生きることを強要された。お前の本名は 有川 迅 現在は19歳 間違いないな」

唇を震わせながら 「なぜ それを」と呟いてる声が微かに聞こえる。

「貴様が能無しβと嘲笑った 俺の部下達が寝る暇を惜しみ、1つでも多く情報を持ち帰るために頭と足を使って掻き集めてきた情報だ。自分が‪α‬だからと勝手に俺の優秀な部下を蔑むことは許さん」

ブルブルと震えが止まらない有川。俺の覇気を止めることが出来ない小童だ。如月の言葉を借りればβにαを加味しただけの3流αだ。
こんなくだらない子供地味た奴が、‪α‬の審判などといって、銃をオモチャの様に扱い人を殺し 人を苦しめ、そして御手洗までもが感化され私の大事な番までもが被害にあったのだ。同じ思いをさせてやりたい。そして その苦しみを味わせてやりたい。そこからでしか コイツは物事を学ばないのではないのかと本気で思う。今 手元に銃が有れば良いのにと本気で思う。

「失礼します。織田警視 皆さん落ち着かれました。それにこんな3流にもならない‪α‬を貴方が態々説教した所で マトモな知能を付けて無ければ言ってる意味も理解出来ません。無駄です。代わりの者を入れますから押さえて下さい。それと、正直に話すことはいい事ですが、余り図に乗りすぎると次は私が叱りますから」

如月は俺の背を押して取調べ室から追い出し引き継ぎに入って行く者達にアドバイスを言い渡すと部屋には引き返した。

「落ち着いて下さい。貴方が本気で怒ると私の肌がピリピリして痛いんですから」

お前の肌がピリピリするくらいなら良いのでは?とは絶対に言えない。久しぶりに少し力を解放してしまい、気分が悪くなった人達が少なからず居たからだ。悪いことをしてしまったと反省しながら思い浮かべるのは愛おし番の顔だ。今頃なにをしてるのか 趣味や趣向なのど細かな情報がまだ無いから分からないことが多すぎる。一緒に居られた時間が少ないが 思い浮かべるだけで安らげる俺の番は大事な宝物だ。

「仮眠室に行かせようとしましたが4名とも隣に入って 貴方の言葉を聞いてました。またあなたの信者増えました」

「ありがた迷惑な」

「会いたいんじゃないですか?」

唐突に言われコイツの記憶力の良さに頭が下がる思いだ。こんな時に俺の気分を落ちつかせてくれるのは きっと世界中でたった一人しかいないからだと、前に1度だけ話したことがあったと思い出した。

「おまえは俺の事を理解 し過ぎてて気持ち悪いよ」

「最高の褒め言葉ですね。母親でも父親でもなれそうですね」

「同い年の親は絶対に要らないから捨てる」

「両親の次に理解力があるとすれば 妻ですかね」

「おいやめろ、想像しただけでも 萎える。そもそも 俺には相思相愛の可愛い妻が居る」

「古女房の位置に収まっときます」

「どうしても離れない覚悟だな」

兄弟と言い出さないのは、前に兄が俺と如月の間を疑い「友達や親友はお前の自由だ。ただ、付き合いや伴侶となる相手は選べ。こんな可愛げのない弟は絶対に欲しくない。何かあれば私の持てる全ての力で排除してみせる。」と 宣言された如月は「生憎ですが、才能に惚れて何がなんでもついて行こうと決心してますが、貴方をお兄様と呼ぶ日は永遠に来ませんので 御安心下さい」と返してる。
勿論 俺は黙ってた。如月をそんな目で見たことは1度もない。もっと言わせてもらえばどちらも 抱く側であって抱かれる側では無い。想像だけで簡単に吐けると如月と俺とが同時に思った事だ。

「当然です。離れることがあるとすれば 別つ時ですね」

「永遠の誓いなんていつした?俺の記憶にはない」

「大学の時代 皆で行ってた毎年の初詣の時してましたが」

「俺は可愛い運命の番を願ってた」

「気が合わないですね。だから古女房なんですかね」

爽快に笑いながら電話をかけ始めた如月は2時間ほどしたら鈴が来ることを伝えてきた。
言葉が無くても意思疎通が出来る相手は助かる。俺には無くてはならない存在だ。ただし古女房は辞めてもらいたい。

上司に呼ば出向けば 何時になく上機嫌な上司達にお褒めの言葉を貰い部屋にもどれば所在なさげな鈴が固いだけのソファーに座って待ってた。

「待たせてしまったな 少し痩せたか?」

元々痩せすぎてた鈴は今 実家に身を寄せてる。食事が足りてないとは考えがずらい。
鈴の隣に座り腰を抱けば見間違いではなく確実に痩せてしまってる。
原因を考えるが思い当たる節はない。両親も兄も一目で鈴を気に入り 俺から鈴を攫う勢いで実家に引っ張って行ったのは両親だ。鈴が食べたいと言っていたケーキとプリンの回収だけ頼み 後は俺自身も忙しくなるからと両親に鈴を預けたわけだが何故 痩せるような事が起きてしまったのだ?

「どうした鈴 悩みごとか?」

細すぎる腰を抱き自分の膝に抱き上げて座らせ 首筋から漂う匂いを嗅ぐと疲れが取れ 気分が不思議と落ち着く。

「発砲事件の犯人逮捕 ありがとう。僕だけ違う模倣犯だって報道されてる」

見たくもないが簡単に耳に入ってくるだろう。

「御手洗俊は 確かに悪いことをしたが 同情の余地もある。その辺は裁判長が汲み取ってくれると思う。裁判はまだまだ先だ。今はまだ 事件の全容が明らかになってない。もう少し 忙しくて時間を作ってやれなくて済まないと思ってる」

「それは別に ・・・晃さんは忙しいから仕方ないよ」

物わかりが良すぎるのも寂しいものだ。今 この仕事を辞めてたとしても 鈴には衣食住 どれも困らせることなく養って行けるだけの力は有るし。子供が生まれたとしても大丈夫だ。

「理解してもらえるのは嬉しいが ワガママを言っても良いんだぞ。仕事と私どっちが大事なんだとか言ってほ」
「仕事に決まってんだろバカだな」

俺の答えは鈴だと答える前に、即答で仕事と答えた鈴。俺が仕事してないと嫌われそうだな。
番に嫌われ 俺から離れていくと思うだけで内側からドス黒いなにかが這い出てくる。絶対に鈴のだけには見せられない醜い俺の欲望だ。そんな物が外に漏れないよう 常に鈴が望む俺で居てやれる。
俺の目的は達成した、次の目的は番と幸せに日々を過ごすことだ。その為の対価として安穏として仕事をすることにした。

「あのさ、今日 お兄ちゃんのお父さんに合う」

不安そうな声を出す鈴の頬にキスをしてやる。

「須賀 平良さんだろ。養子の件で会うのはしてっる。父さんもついて行くんだ なにも不安に思う事は無い」

「ぅん」

可愛い可愛い俺の鈴 大丈夫だ。須賀氏と電話越しだが、全て話しは付けてる。何も不安に思うことは無い。両親にとっても利になりこそ害には全くならない。双方いい事づくめでの電話会談だった。事件が落ち着いたら真っ先に足を向ける場所だ、なにせ 鈴の父親になる人だからな。

「お父さんと良く話し合っておいで。鈴がしたいようにすればいいだけだ」

不安になりながら細い腕を背にまわし肩に頭を預けてくる鈴。俺に抱きついてくれるだけでもちょっとしたご褒美にしかなら無い自分に呆れつつも そっと鈴を抱きしめた。



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