白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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私雨

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1日に1度は必ず連絡をくれる晃さん。

俺が晃さんの実家に居ることを知ってるのか、初めから驚いた風も無く 「少し忙しくなるから家で1人で居るよりは良いだろ。セキュリティ一は万全だから何も問題無い」らしい。
結婚式の話が出てると話を振れば、俺の好きにしていいの一点張り。
相談したいと言えば、一生の思い出だから好きにしなさいとか言ってくれるけど 俺は戸惑うばかりだ。

何も相談もなく 決めていいなんてないと思ってるし この家に釣り合うだけの価値を自分自身に見い出せない。つまりは、結婚式なんてしたくないし、披露宴なんてしたくない!!
そもそも 呼べる親が居ないし 勤めてても固定では無く足下が不安定な日雇いだ。結婚式や披露宴に呼べる人なんて何処にも居ない。
その事を 言いたくても 電話の後ろでは忙しそうにしてる人達の声が聞こえて 言い出せないままに言葉を飲み込んで「お仕事頑張って」と声をかけて 電話を切ってる。



今日で4日目の朝 広いリビングのテレビに映し出された緊急特報の文字と急に切り替る番組。

只今より緊急特報としまして先程迄の番組は後日放送させていただきます。と滑舌良く話し始めたニュースキャスターは1度姿勢を正して原稿を読上げ始めた。

先程 国会議員 民主党 祠堂 正嗣幹事長代理宅に 連続発砲事件の容疑者として浮かび上がった長男の家宅捜索が始まりました。
もう一度繰り返します。先程・・・・・

「おはよう 鈴君。おや、派手なニュースだね」

今日は日曜日だからなのか、ゆったりとした服装で現れたお父さんは俺の隣に着てニュースを見入ってる。

「おはようございます。・・・やっと捕まるんですね」
 
あそこは俺の生家だ。その家に大勢の捜査員達がダンボールをもって入って行く映像が流れてる。

「捕まえてくれる人を待ってたの?」

俺が小さかった時はあの門から外に出たことは無かった。身体が小さいから 何かあっては対処出来ないでしょ?といわれ続けてた。庭に遊具が置かれ 部屋にはオモチャが沢山あり かなり年配の家政婦が勉強を見てくれてたのを思い出す。きっと、家政婦のお婆さんは知ってた。俺がαじゃなかったら捨てられるって。だから 住所 名前 電話を覚えなさいって教えてくれてたんだ。
俺がそんな事を思い出してるなんてわかるわけないし、お父さんは俺の事情なんて知らない。純粋に発砲事件の事を聞いたんだろうな。と、どこかぼんやりと零れ落ちた言葉は会話の流れとは全く関係ないものだった。

「どうだろう?俺には 関係ない人だから 」

「関係なくは ないと思うよ?・・・鈴は被害者なんだから」

「そう、ですね。・・・」

「それとも、自分の名前が分からないから」

一瞬 慌てたが どうにか会話は繋がったとホッとしたのも束の間、驚いて顔を上げれば 当たったと喜んでるお父さんがいた。

「家でもよかったんだけど、鈴は晃の嫁だから 私の養子にする訳にも行かない。その事を踏まえて、須賀 平良氏と会う約束が出来たんだ。向こうも 大変喜んでくれてね 苗字は心配ない。あとは裁判所の審査待ちだけど、問題ない無く許可が降りると思う。近いうちに須賀 鈴 18歳Ω番持ち。嘘偽りのない物になるから安心しなさい」

「ふぇへ」

なんで 知ってるのかは置いといて、自分の名前を名乗れない不安をお父さんは感じ取ってくれてたんだ。自分の名前を嘘の無いものにしてくれるから 安心しろと言ってくれたお父さんに ありがとう と言うよりも先に涙が溢れて止まらない

「あぁ ほら 泣かない。慰める役はあの大勢の中のたった一人なんだけどな」

テレビをチラリと見ながら片腕で肩を抱い もう片方で頭を優しく撫でてくれるお父さんに甘えて 気が済むまで泣いてしまった。







上空にはヘリが飛び 地上には規制線を張りその向こう側には報道陣の少しでもいい場所でいち早く情報を入手しようと躍起になって押し寄せて来てる。

応接間の座り心地のいいソファーに深々と座り忘れてた煙草の味を思い出したかのよう葉巻に手を伸ばした。

「良い葉巻ですね、1本頂いてもよろしいですか?」

「すきにしろ!!」

先ほどから 曲線が優雅な1級品のマホガニーの机に前に座ってる醜い人の塊に笑みを浮かべて声を掛ける。

「そうだ、つい最近ですね 私に番が出来たんです。其れも 都市伝説だと思ってた運命の番で。その子が、今回の被害者」

「それがどうした!あのバカがやったとでも言いたいのか!?私を誰だと思ってる!!」

この期に及んでまだ虚勢をはる維持があるとは見上げたもんだ。ここまで来たなら 自分の政治生命は終わってると気がついても良いものなのに。余程の未練があるみたいだ。

「ひかり園の田中 鈴と言う子なんです」

顔色が明らかに変わる。ヘッドを切り落とし火を付けて 火が落ち着くのを眺めながら チェックメイトと囁いた。ゆっくりと吸い込むと 雑味ばかりで旨くもないし香りも良くない。名ばかりの3流品だ。

「父に貰って吸った葉巻の方が美味かったな。須賀 高嗣は貴方のお子さんでもありましたね」

「出来損ないだ!」

「なにを見ての評価は私には理解できませんが、私はあの者を評価しますよ。一目見た時から私の番は自分の弟だと言ってね、DNA鑑定をした結果」

葉巻を灰皿でもみ消して捨てた。
机の上に置いた封筒から家宅捜索令状ともう一枚入れていた用紙を手に立ち上がり正嗣の前に突き出して見せた。
面白い程顔を赤らめて用紙をひったくると破り丸めて捨てた。
人間慌てると無様になるが、ここ迄無様αは見たことこない。コイツほんとうに‪α‬なのかも疑いたくなる。

「高嗣と私の番が 兄弟なら貴方が育ててる祠堂浅嗣は誰なんですかね?親子鑑定をして下さい」

「アレは!!
「奥様にもしてもらいますので 御安心下さい」

俺が言葉を言い終わると同時に科捜研が部屋には入ってきた。最初は怒鳴り散らし 手も付けられない状態だったが、もう一度 高嗣と鈴の話をすると大人しくなり、唾液と指紋採取をさせてくれた。
ねぎらいの言葉を掛けると、一礼して足早に部屋を出ていく。

「ご同行してくれると有難いのですが、それとも 手鎖を嵌められた情けない姿を全国に晒しますか?実の子を捨てて 有川 迅 現在19歳を育てた政治家として。
両親は町工場を営んでたが 経営が行き詰まって自殺。子供を一時保護され直ぐに 親戚に引き取られたとなってるが その子も両親の後を追うように自殺。
引き取られた親戚の行方が分からないし、引き取られた先の住所はダム建設を行ってる場所だ。おや?田中鈴の本籍もダム建設の場所だ。もっと言えば 20年も前から人が住んでない場所ですよ」

赤くしてた顔をこんどは青くして椅子に座り込んだ。

「失礼します。屋根裏から改造銃2丁発見されました。これから祠堂浅嗣を連行します」

緊張しながらも1人の捜査員のリーダーが報告に来た。

「ご苦労 良くやった」

労いの言葉を掛けると何処か嬉しそうに部屋を出ていくと怒声が響き渡る。

「あのバカは!!私の幹事長代理としての名誉を汚しおって!アイツのせいで!!育ててやった恩を仇でかえしやがって!!」

「バカはあんただろ」

「出来損ない!!貴様 余計な事を!!!」

無遠慮に部屋に入って来た須賀は今まで1番清々しい顔をしてた。

「自分の子供もまともに育てれない人が他人の子を育てるなんて無理なんだよ。それと貴方との会話を思えてるか?」

「会話だと!そんな事 いまは関係無いだろ」

「マスコミに流して良いですか?」

「あの会話は 捜査には一切関係ないから お兄さんの好きにするといい」

「織田警視にお兄さんと言われると背筋が凍るので辞めてもらっていいですか?」

表情からして本気で嫌だと訴えて来る須賀に高い数値で兄弟だと期した報告書を思い出すと頭ではこんな所で言わなくても良いとストップを掛けるが、なぜか感情が勝ってしまう。

「鈴の兄である事には覆らない真実だからな、少しくらいは融通してやっても良いと思ってる。なんならお兄ちゃんと呼ぼうか?」

「お兄さんでお願いします。ちゃんはさすがに きついので。それと 覚えてなくてもマスコミに情報を流します」

優秀な‪α‬に育てられると受け答えがしっかりとしてて助かる。並のβだとガチガチになって 会話も成り立たなくて此方が困り果てることが何度もあった。

「リークしたいのなら如月を頼れ。上手いことやってくれる。あんたも考え無しにいろいろと喋りすぎたことを後悔して懺悔するといい。上に立つ者は特に言葉に注意して発言し、下の者に己を惚れさせ着いてこさせる。ただし着いてきてくれる以上は1人も脱落者を出さずに適材適所に宛てがい 成果を褒めれば人は更に成長する。コレは俺が尊敬する爺さんの言葉だ」

わかりやすく言ったつもりだが 伝わってないよな?それがどうしたって目だ。コイツ本当に‪α‬なのか?

「なんの事だ!我々はαだ!!αがこの世の中を動かしてる 我々αに黙って従い手足となって使われてこそのβだろうが!!」

「分かってませんね。これだからα信者は頭が硬くて困る。ソレに貴方は‪α‬じゃない。α擬きのただのβです」

突然 驚きの情報を口にした如月に視線が集まる。

「少し出てくると言って 出かけて行って帰って来たらとんでもない事を言うんだな」

「ええ、その男が余りにもだらし無いしαにはとてもじゃないが見えないので、昔の記録を引っ張り出して 町医者だった石垣医師は亡くなられてたが、その当時の看護婦が覚えてましたよ。
その男は間違いなくβだと証言してくれました」

「やっぱり貴方はβだったのね。おかしいと思ってたのよ 貴方にβなんじゃ無いのって言えば証拠だってα証明書しか見せてもらえなかった。
α証明書を態々見せる人なんて居ないわ。だって αなら 誰でも自らの実力で証明し だれからも‪α‬だって思われるものよ!
私のせいじゃ無い!貴方のせいで私は優秀なαを産めなかった!!」

崩れるようにその場に座りこみ泣き叫ぶ婦人は ‪α‬を産めない事で この家で色々と言われ続けて来たのだろう。その事は同情するが、実の子を捨てて他人の子を自分の実子の籍に入れて育てるのは罪だ。

遠慮なく立たせて 警察車両に乗ってもらう。



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