白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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翠雨

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シーンと静まりかえった部屋には俺と如月さんと晃さんと永田さんと久保さん 前と同じメンバーだ。

コツ
晃さんが机を指で叩いただけでも、俺はビクッとなるが晃さんはお構い無しだ。

「黙ったままじゃ なんも分からないが」

「そうなんだけど、どこから話したら良いか」

話そうと決心はしたものの何処から話したら良いか分からない。そもそも 信じて貰えるかも分からない。

「気にせずに話せばいいですよ」

永田さんは優しく笑って言ってくれて 少し肩の力が抜けた。晃さんもそうだけど、やっぱり イケメンさんって見れるだけでもお得・・・ビクッ  晃さんの威圧が重く伸し掛る。晃さんのコレさえなければと思いもある。

「お前らが鈴を見失わなったら もっと早く救出 出来てたよな」

「「すみません」」

俺が勝手に 動いたからで、久保さんと永田さんが揃って謝る姿は 良心が痛む。

「俺が悪いわけで 2人を攻めるのは違うと思う」

「だったら、何故勝手に兄の静止を振り切って御手洗 俊を追った、危険だと言ったよな?」

「うん、聞いた」

「御手洗を匿ってた場所も大問題だよな?」

ヒィー!!!
焦って逃げ込んだ場所は良くなかった。
如月さんに火に油どころか、ガソリンを注いでどうするんですか?と こっそり言われた。

「あの・・・・・・ごめんなさい」

「謝れとは言ってない、話せって言ってんだ」

「はい」

晃さんが怖くて少し話しただけでも 口の中が渇きお茶で渇きを潤そうと湯のみを持つが手が震えて中のお茶が零れてしまいそうで置いた。

「はぁ~、貴方が居ては話せるものも話せないようですね。席を外して貰えますか?」

如月さんのまさかの提案に明らかに2人はホッとしてるけど俺は晃さんの上着を持ち引き止めてしまった。1番聞いてもらわないといけない人が席を外すのは良くない。

「ダメ!」

「この人が居ては話しにくいんじゃ無いんですか?」

「晃さんにも、・・関わってくるから ・・・・・ちゃんと聞いて欲しい。・・・でも、怖いんだ」

晃さんに嫌われて別れを言われるのが怖い。ずっと嘘をつき続けてきたツケがいま回ってきただけだ。嫌われて別れを言われたらそれは仕方ないとこだ。何度目か分からない腹を括る。

「大丈夫 俺が付いてるから。ちゃんと話してくれないと 何から鈴を守ればいいか分からないだろ?」

さっきまでは重苦しい空気だったのに、今は甘い花に囲まれてる様な空気だ。

「貴方は何考えてんですか?!我々が胸焼けを起こすので 抑えてください」

「五月蝿い 黙れ」

ほらと湯呑みを持ってお茶を飲ませてくれる晃さん。本当に嫌そうな顔をする如月さんと眉間に皺を寄せる2人。この空気ってそんなに嫌なものなのかな?俺には 居心地が良くて 余計な力が入らなくていい。贅沢を言えば、人が居なければ もう少し晃さんに引っ付いて居たい気分だ。

「鈴 話してくれるよな」

「うん、俺がひかり園で育ったのは知ってると思うけど、俺 保護された時に嘘を付いたんだ」

「嘘とは?」

「田中 鈴 4月20日生まれ 8歳 β  ずっと騙しててごめんさい」

「「はっ??」」

永田さんと久保さんは驚きの声を上げてマジまじと俺を見るが 晃さんと如月さん 何故か無反応だ。

「本名 誕生日 歳 ここに書いて下さい」

祠堂 浅嗣 10月10日 18歳 と書いて如月さんに返すと2人が驚きの声を上げた。

「「祠堂!!!!!」」

ビクッ!!!!
思いの外 大きな声を出した2人に驚いて晃さんに抱きついてしまった。

「おい!鈴が怯えてるだろ静かにしろ」

この時 晃さん以外の人と心が通じ合ったと言いきれる。貴方だけには言われたくない!!だ。

「なんで嘘を言わないと行けなくなったんだ?」

恐る恐る 晃さんを見るが なんにも反応がない。それ所か 俺の前髪を弄って掻き上げて おでこにチュッと キスまでして来た。俺は ビックリして背を仰け反らせて おでこに手を当てた。

「我々が居ることを忘れないで下さい」

そうだ!!ここには俺と晃さんだけじゃないんだぞ!

「鈴が可愛いのがいけない」

俺?俺がいけないの?それに可愛いってなに?俺 可愛くないから。 
他の人がいる前で堂々とそんなことをしてくる晃さんに呆れてる如月さんだけがちゃんと注意をしてくれて、俺を見る目が哀れんでくれてる。

「鈴君が可愛いのは認めますが話が進まないので 鈴君に触れるのは後にして下さい」

いやいや、 俺 子供んじゃないし 可愛くもない。

「鈴君 そこに居る阿呆はほっといていいですから 話の続きをお願いします」

すげー、晃さんに 阿呆って言いきった如月さん。俺絶対に如月さんを師匠と呼ぼう。

「俺のバース性の検査結果の日 俺がΩだと分かると 両親に 捨てられました。二度と祠堂の名は名乗るなといって。どうしていいか分からないまま 俺は 側を通ったお爺さんに拾われて ひかり園に保護されました。その時に 自分の名前を正直に言えずに 安易に田中と。その時 誰かの筆箱に付いてた鈴で田中 鈴に。歳も 誕生日もバース性も誤魔化しました。
いつバレるかもしれないと、ドキドキしてたけど バレること無く俺は田中 鈴として受け入れられた。そんなある日 園長の息子が働き出しました」

「佐々木 拓也だな」

俊の発情期が始まり気になり見に行った先で目にした事、聞いた事、怖かった事、そして仲間を助けずに逃げ出した事。全てを話した。

「14歳の時だったんでしょ?怖くて当たり前ですよ」

「ですよね。助けれなかったと 思ってますが、助けに入っても助けれなかったと思いますよ」

怖くて当たり前、助けれなかったと言ってくれる永田さんと久保さん。

「1つ間違ってるとしたらその事実を大人に言わなかった事だけですね」

「園長の息子だから 回りに頼れる大人が居なかったのなら警察に言うべきだったな」

如月さんと晃さんは正論を言ってくる。確かにそうだけど。

「警察に話すなんて考えてなかった。発情期がいつ来るかなとか 園から逃げ出したいって思いだったから。そもそも、色々嘘を付いてるから怖くて言えなかった」

晃さんが持ってクリアファイルの中から1枚の紙を取り出し俺に見せてくれた。

「これは田中鈴としての戸籍だ」

え?そんなもの あったの?出鱈目な情報だからそんな物はある事さえ 知らなかった。父親 太一、母親 花江 二人とも死亡となってるが 全く知らない二人だ。

「ここ、本籍地は今はダム建設が進んでる土地だ。もっと言えば 過疎化が進み20年前から人が住んでない。そんなところの住所が本籍地なのはおかしい。夫妻が住んでたとされる住所もスクラップ工場だ。太一と花江夫妻も出生の有無も分からない。つまり 田中鈴は真っ赤な偽物。ではお前は何者なのか?園に連れてこられた時はまだ子供だ、子供にこんな手の込んで物は無理だ。お前の嘘をそのまま 利用して作り上げた者が居るってことだ。
こんな物を態々作らないと行けなかった理由もあったはずだ」

田中鈴としての戸籍がある事に驚いて 晃さんの説明が上手く入ってこない。でもこんな手の込んだものを態々作った理由ってなに?1つ心当たりがある。たまにテレビに出る 本当の父親。俺がΩだった事に 1番 激怒し 俺を捨てた人。

「一つ 気にかかる事があるんだ。浅嗣って名前よくある名前なの?」

「無いとは言いきれませんが、浅嗣って名前は珍しいですね」

「俊が佐藤の所か逃げれたのは その浅嗣って人なんだ。俊は浅嗣を探して 4番目の発砲事件があった場所にいって俺を見かけたって言ってた。俊が持ってた銃も逃げる時に使えって渡されたんだ。でも、俊は俺にしか使ってない」

「それは御手洗から聞いたのか?」

「そうだけど」

「1つ質問 良いですか?お兄さん 居た?」

「兄が1人居ました。両親からは近づくなと言われてましたが 親の目を盗んで兄に会いに行ってました」

「お兄さんの名前 もしかして高嗣?」

「そうです!!兄を知ってるんですか?」

思いもがけない兄の名前を聞いて立ち上がり 永田の腕を掴んだ。

「落ち着いて、知ってるし 多分 田中さんも会ってるよ。須賀だから」

「え?須賀さんって俺を家まで送ってくれた須賀さん?!」

「そう 覚えてる?」

「初めて会った時 兄に似てると思ったんだ」

あの時 須賀さんを見て兄にそっくりだと感じた直感は正しかった。

「2課に大きな借りを作れそうですね」

ボソッと如月さんが呟いた言葉に晃さんが満足気に頷いたことも知らずに 俺は兄に会えると喜んでた。






永田さんが連絡を取ってくれて1時間後に現れた須賀さん。
恐る恐るといった感じで勧められるままに椅子に座った。

「あの、自分はなんで呼ばれたのかよく分からないのですが」

「祠堂 浅嗣をご存知ですか?」

目をおおきく見開いて俺を凝視して ゆっくりと答えた。

「弟の名前です」

「祠堂 浅嗣と名乗ってる貴方の弟は?」

「・・・確かに 私には弟が居ました。祠堂家の長男として生まれ バース性が分かるまでは大事にされてましたが、βだとわかると 掌を返したようになり、私からは直接 弟にさえも会えなくなりました。それでも 優しかった弟は 両親に隠れてはこっそりと会いに来てたんですが、弟はバース性の結果を聞きに行ってから半年は弟に会え無かった。久しぶりあった弟は丸っきり違ってて、余りにも違いすぎると両親に訴えたのですが、俺はただのβだから弟の顔も覚えれないと、それでも 違うと学校や交番に訴えたのですが 全て揉み消され 父親に殴られて それで終わりです。俺が12歳の時に須賀家に引き取られてからは 祠堂の家とは一切 連絡は取ってません」

そうなんだ 養子に、だから 名字が違ったんだ。でも、須賀さんは俺の兄さんに間違いない。兄との思い出と呼べるものはほとんど無い。でも、1番の思い出は

「兄に近づくなと何度も注意 されてました。でも 優しい兄に会いたくて 両親の目を盗んでは会いに言ってました。会いに行くと必ず苺ミルクの飴をくれたんです」

泣きそうな顔をした須賀は ポケットから苺ミルクの飴を取り出して俺に差し出してくれるが受け取らずに兄に抱きついた。

「お兄ちゃん 会いたかった」

「あの時 名前が違ったけど やっぱり浅嗣だったんだ」

抱き返してくれる 兄の首元に顔を押し付けて泣いてしまった。











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