白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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悲雨

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小さな公園に辿り着いた。

道路沿いには背の低い木々 手前には整備された花壇、ブランコ 滑り台 砂場 ジャングルジム 鉄棒と小さな吊り橋の先には緩やかな傾斜に丸い石をはめ込んで所々に穴が空いて ロッククライミングが楽しめる。広さは無いが 住宅内にあるために 子供達の遊び場としてよく使われてるのだろうが、今は無差別発砲事件が続いてるために親が外に出さないのだろう。
早く事件を解決して 伸び伸びと遊ばせてやりたいと強く思う。
緩やかな傾斜の中に警察犬が入っり、公園に入った方向と対極にある出入りから細い路地を進み出した警察犬の後を追う。

大通りを出て 細い路地に繋がる道を行き 数10件並ぶホテル街にたどり着いた。

まさかとは思うが・・・・入るなと願っても 1番手前のHOTELに警察犬が入った。

管理人を飛び出し防犯カメラを見せてもらう。










「浅嗣さんと最後に会ったのは いつ?」

「お前にそんな事 関係無いだろ」

「俺 もしかしたら その人の事 知ってるかも 知れない。浅嗣なんてめったにない名前だ」

驚いてる俊に俺は気が付かない。それ程に俺はかなり頭の中が混乱してた。

「浅嗣さんを知ってるの?!知ってるなら合わせて」

俺が浅嗣を知ってると知ると驚き 知ってるなら合わせて欲しいと頼まれる。

「待って、その前に本当に名前だけ?名字は知らないの?」

「知らない!でも 知ってるなら合わせて」

「待って、絶対ない名前じゃ無い、たまたま同じ名前かも知れない。顔はどんな感じ?」

「どんな 感じ?・・・・・浅嗣さんはカッコよくて優しいαで天使。僕の境遇を救ってくれたんだ」

「どこで知り合ったの?」

「どこで?・・・いつもの様に犯されて 気絶して気がついたら その人が居たんだ。このまま、ここに居たらいつか殺されるって 思ってたから、逃げたいか?って聞かれて、・・・頷いたら 明日 助けに行くって・・・。そしたら 本当に家に来てくれた。檻から出してくれて、銃を渡してくれた。追われたら躊躇わずに使えって。本当に 天使みたいな綺麗な人だった」

おかしいって気が付かない俊。精神的に追いこまれてら正常な判断が出来なくなってたんだろう。
犯されて気絶してる所に浅嗣がいる事自体 怪しいし、家に助けに来たのだって おかしい。俊を置いてる所に人が尋ねてきても家に上げないし、佐藤が留守にするのだって 厳重に鍵を掛けてからの外出になる筈だ。それに逃げるのに銃を渡すのは異常だ。

「ごめん。多分 俺が知って浅嗣とは違う。俺が知ってる浅嗣は、・・・・・知り合いが犯されて回されてるのを見ても助けない最低な奴なんだ。泣いて助けてって言ってるのに、助けずに 自分の身が可愛くて、怖くて逃げだす奴なんだ」

「なんだよ そいつ 最低な奴だな。僕の知ってる浅嗣さんとは全然 違う」

「うん、本当に最低な奴なんだ。発情期がいつ来るのかも分からない、明日かも知れない。発情期が来たら 知り合いの様に回されて 犯される、こんな所から逃げ出さないと 次は自分の番だって 逃げ出した。
逃げても そこに居たリーダ的な奴は追ってきた。日を空けずに ベタベタと付きまとわれた。でも 浅嗣に発情期が来ないってわかると 付きまとうのを辞めた。そいつが来なくなると引越しをして 身を隠した。でも、仕事は辞めなかった、辞めれなかった。いつ襲ってくるかもわからない発情期に備えてお金を貯めたかったから」

「浅嗣さんの話じゃ無いよな?その話 僕の知ってる人の話?」

静かに立ち上がり またも俺に銃を向けてきた。

「ねぇ、その話に出てくる知り合いって誰?」

「 ・・・いつも元気にいっぱいに走り回り笑顔が絶えなくて、下の子供達の面倒をよく見てた。16歳の誕生日を祝ったその月に発情期が始まった。凄く苦しそうで、気になって 眠れなくて 夜中にベッドから抜け出した。近づいたらダメだって言われてたけど、気になって見に行くと居なくて、病院にでも行ったのかなって。そしたら 階段下から話声がして、物置部屋だから 人が居ない筈なのにって、少し下がると 笑い声が聞こえて、気になって 下がると電気が付いててドアが少し開いてて、隙間から除いた」

誕生日は一人一人にやってもらえない。その月の子供達を纏めて祝うのだ。他の子達と一緒に俊も16歳の誕生日を祝ったその月の終わりに発情期が始まった。

「最低な奴。知ってたなら普通 助けるもんじゃない?それにそんな最低な奴に、浅嗣さんの名前 勝手に使わないでくれる。浅嗣さんの名前が穢れるから」

ハッキリと憎しみが込められた目で見据えてくる俊を見返した。

「俺の知ってる浅嗣はそんな奴だから」

「ふん、見て来たように詳しく説明出来る時点でおかしいだろ?園には浅嗣なんて名前1人も居ない」

「園に居たんだ 浅嗣は、ずっと 世間に嘘をつき続けて生きてたんだ」

「そうだとしても 全然似てない。それに 浅嗣なんて名前なんてめったにないって言ったのお前だろ?!」

たしかに 浅嗣なんて名前は滅多にない。でも 俺は知ってる。

「俺は 田中 鈴じゃない」

「 お前って 最低だな。僕の命の恩人の人の名前を勝手に盗むなんて」

鋭い視線と共に乾いた音が部屋の中に響き渡る。
心臓が馬鹿みたいにバクバクいってるが どこも痛くない。

「謝れよ、浅嗣さんをお前みたいなクソ最低な奴と一緒にしてすみませんでした、って言えよ!」

俊に俺があの日見た事を話したのは失敗だった。浅嗣がどんな奴かは知らない、浅嗣なんて珍しいだけで居ないなんてことは無いはずだ。
そのことに今更 気がついても遅い。目が血走ってる俊をどうやって思いとどまらせるかが問題だ。

部屋出入り口からカチャリと音がした。俊にも聞こえたのだろ。俺に近づき首に腕を回してた頭に銃を突き付けられた。

部屋に人の足音が聞こえ 入って来た人物を見て何故か危機的状況なのに安堵してしまった。

「鈴を1ミリでも傷つけたらタップリ後悔させてやる」

晃さん 警察官が言っていい言葉とは思えない言葉にギョッとする。

「犯人を刺激してどうするんですか」

如月さん、冷静に返してる場合ですか?

「だったらそこを退け!」

「鈴を離すのが先だ」

部屋の中が重苦しい空気に荒い呼吸を繰り返す俊。

「晃さん、聞いて。俊は俺を撃った。でも他の5件の事件は違う、俊じゃない 信じて」

「その話 署で詳しく聞かせて頂きたいですね」

「ダメ!俊は自首させたい。連れて行かないで!!」

晃さんも如月さん驚いてるし、困惑してる。確かに仕事上 犯罪を犯した者は逮捕しないと行けないかも知れない。でも、俊はちゃんと自分が悪い事をしたって自覚してる。

「鈴君 貴方って人は」

重苦しい圧にひんやりと冷たい物が混ざる。あきられた感じに聞こえたけど、どうやら如月さんも怒らせてしまったようだ。

「 鈴を離せ」

晃さんからはどんどん威圧が強まって俺も油断したらへたり込みそうになる中、俊は平気なのかとチラリと見るが何を思ってるのが全く分からない。

「ちゃんと話した方が 俊の為だから、ね、自首して話を聞いて貰って悪い奴らを捕まえて貰おう」

「お前見たいな最低な奴が居るから 僕が苦しまなきゃならなかったんだ!なんでお前はΩじゃないんだよ!!お前が 居れば 僕は助かったのに
「ふざけんじゃねえよ。誰がΩだったら お前はお払い箱になるとでも思ってたのか。勘違いもするなよ、お前は変わらない」

俊の言葉を遮り晃さん怒気を含んだ威圧に俺は真っ青になる。確かに晃さんの言う通りかも知れないけど、もしかしたら身代わりになる人がいれば解放されると思ってたのだろう。

「身代わりが見つかれば解放される。都合がいい幻想ですね。其れも 身代わりが見つかれば堂々と見て見ぬ振りをして貴方だけが逃げると言ってるようなもの 最低だ。そんな貴方を自首させたいと思ってる鈴君も 御手洗になにを吹き込まれたんですか?」

如月さんまでも晃さんの言葉を固定してしまったし、俊が悪く思われてしまった。

α二人分の威圧にガタガタと震えだした俊。俺も既に倒れそうだ。

「御手洗 鈴を離せ」

晃さんの一言で首に回ってた俊の腕は無くなり 俊は奇声を上げて俺の背中を押され 前のめりに倒れ込む寸前 晃さん救われてた。その瞬間乾いた 音を聞き顔を上げた。如月さんが銃を構えてた。振り返り俊を見れば手を抑えてベッドを背にして座り込んでた。

「今死なれては今後の捜査に困りますからね」

如月さんは俊に近づくと先ず銃を拾い俊に手錠を掛けた。

「待って!如月さん 俊は俺しか撃ってない。本人だって反省してるから」

「甘いですよ。鈴君しか撃ってなくても 撃った事実は消えません。それに 貴方に銃を向けた時点で自首と見なすのは難しいです」

「晃さん!!」

「お前に銃を向けてた事実は変えられない。それに ここにカメラと音声録音もある。

カメラと音声録音だと、自身に付いてるネクタイピンを指さした晃さん。

「そんな」

力なく項垂れてしまう俺に 晃さんは淡々と説明してくれた。

「何事にも不測の事態に陥った時の為に仕方ない事だ」

次々に人が入って来て俊が連れて行かれていく。そんな 俊になんと言葉を掛けていいか見当たらない。
それでも なんとか声に出した。

「助けてやれなくて ごめん」

俊は視線を逸らさしただけだった。

「鈴 お前にも聞かなきゃならないことがあるから 一緒に来てもらう」

「うん」







大勢の警察官の人を残して署に連れて来られた。
俊にも話したし 俺の秘密を話す事にした。

コレで晃さんともお別れになる。

前と同じ部屋に通されて持ってると永田さんがお茶を持ってきてくれた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「田中さん、車の前に急に飛び出したらダメだろ」

「あっ!そうですよね。すみません」

あの瞬間を思い出して俺も大胆なことをしてしまったと思う。

「あの瞬間 心臓が止まるかと思ったよ」

「以後 気をつけます」

「約束な」

「はい」

永田さんと約束した所で晃さん達が入ってきた。


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