白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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氷雨

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五月蝿い動機に耳の奥に残る笑い声がずっと頭の中で響き渡る。

外が徐々騒がしくなり 車の走る音や通学する子供達の声が聞こえ 朝だな。と頭の片隅でわかったものの何も出来ずに蹲りずっと眠れない一夜を過ごした。

ボーッと過ごしてしまった。来客を知らせるブザーが鳴るけど動く気力がない。そのまま 帰ってくれと願うが相手はしつこかった。

ドンドンドンドンと力任せにドアを叩く音と「鈴!鈴!居るんだろ!開けろ!!!」声を聞いた瞬間は体は勝手に動き出してた。

ガチャと鍵を開けると外から勢い良く戸が開き抱きしめられた。

「よかった!」

「あの、晃さん 仕事は?」

「鈴?」

「・・・はい?」

「部屋に入ろうか」

晃さんに支えられて部屋に入り 電気を付けた晃さん。

「今日は何して過ごしてた?」

やさしく抱きしめられたまま聞かれて慌てた。

「今日、・・・えっ、えっと 散歩」

「昨日のままでの服装で散歩は考えにくい」

あっ!!昨日ままの服装だった。
服装もそうだけど、チラリと確認した時計に驚いた。7:15って朝の7時じゃないよな、今は 夜だ。1日ボーッとして過ごしてたことになる。

「コレは どう見てもお小遣い帳には見えないが?」

出しっぱなしになってたノートを見てる晃さん。話そうと決心したが、犯人の顔を見てないと言ってしまった手前、言い訳が必要だと思ってたが、まだそのシナリオも出来てない為に、身体が勝手に反応して慌ててノートを綴じて胸に抱き込んでしまった。

晃さんは静かにポケットから携帯を取りだし何処かに掛けると直ぐに「来い」と言って通話を切った。

「色々と聞きたいことが出来た。そのノートも此方に預からせてもらいたい」

黙ったままの俺にもう一度声を掛ける。

「鈴、そのノートの説明をしてくれ」

言葉が出て来なくて黙ってるノート中身の説明を求められた。

「・・・・・ごめ、んなさい」

来客のブザーが鳴ると晃さんは来客を連れて戻ってきた。この前とは違う、晃さんとあまり年が変わらない人だ。

「初めまして、如月と申します」

この人も刑事なのだろう。爽やかな感じの刑事だ。

「そのノートの説明をして欲しい」

「ノート?」と呟いてる如月さんの目線は腕の中にあるノートに向けられたのを確認して晃さんが口を開いた。

「発砲事件の犯人の顔を見たんだろ?鈴はその人物を知ってる可能性が高い。と、そのノートを隅から隅までと見た訳じゃないが、そう俺は思ったんだが?」

「本当ですか!?犯人の顔を、それも知ってる人なんですか?!」

どう答えたらいいのか戸惑ってしまい だまりこんでしまった。

「質問に答えれない。俺達警察はYESと捕らえるが良いんだな」

別に声を荒げてるわけでもないのに、αに威圧されてカタカタと震えが止まらない。  

「織田警視、漏れてますよ抑えて下さい 番さんが怯えてますよ」

「鈴、話せ」

静かに話せと言われただけだ。なのに、ボロボロと涙が止まらず嗚咽してしまった。

「あーもー、泣かせてどうするんですか!」

如月さんにが近付き 頭を撫でてくれたけど、晃さんに止められた如月さん。

「鈴は俺のだ、勝手に触るな!!」

「だぁーもぉ~、面倒臭いですね!勝手に触ってすみません。ですけどね!話を聞く相手を泣かせてどうするんですか?!」

「怖がらせて悪かった。気を付けるから許してくれ鈴」

親指で流れる涙を優しく拭いてくれる晃さんからは威圧が無くなりホッとするも、なかなか涙は止まらず 自ら晃さんに抱きついた。
チュッと旋毛にキスしてくれる晃さんの優しさに少しづつ涙が止まると遠慮がちに声がかかった。

「あー、落ち着かれたなら 話しを聞かせて貰えますか」

「遠慮がない奴は嫌われるぞ」

「貴方だけには言われたくないセリフですね」

「あの、ごめなさい」

見られた物は仕方ない。怒られるのを覚悟で話すしかない。

「撃たれたときに顔をみました。でも、見間違いなら迷惑をかけるし、もし そうなら自首して欲しくて。どちらにせよ 先ずは話を聴きたくて 行方をさがしてた、けど、足どりが掴めなくて・・・」

「その足取りを書いてるのがそのノートか?」

「見せてもらっていいですか?」

胸に抱えてたノートを晃さんに手渡した。ノートを開くと如月さんも一緒に覗き込んだ。

「あー、成程。今 マトリが狙ってる獲物ですね。どうします」

「色々と絡み合ってんな めんどくせぇ。この佐藤が去年の夏ごろから音信不通ってのは?」

まとり?どこかで聞いたこと有るけどなんだったけ?絡み合ってんの?なにが?

2人だけの会話に着いて行けずに疑問に思ってると、質問されて??となる。

「おーい、鈴、帰ってこい」

髪の毛を混ぜるように掻き回されてしまった。

「なに?」
絡まるからやめて欲しいと手ぐしで元通りにしながら晃さんの質問を聞いた。

「この佐藤が夏頃から居なくなったって、誰に聞いた?」

「優と佐藤の家のご近所のおばさん。今時の若い人は引っ越しの挨拶しないから わかんないけど 去年の夏ごろから見てないって。っで、優が話すには居なくなる前は園長の息子と険悪ムードだったからそれで居なくなったんだろうって」

「夏より前の別れってのは?」

「俊と佐藤は付き合ってたのかな?俺は知らないし、多分ちがうと思うけど、優から聞いた話だと、退園した時は俊は佐藤と一緒に住んでたみたいだけど、夏前に別れて行方も分からなくなった」

「重要な事なんでお聞きしますが、今回の発砲事件の犯人は?」

「・・・・多分 俊」

「俊ねぇ、鈴との繋がりは?」

「ひかり園で一緒に育った仲間」

「優って子も 園の子?」と、聞かれ頷いたけど、如月さんは納得出来てないみたいだ。

「可笑しいですね、夏前に別れたと子供達に分かる程に噂が広まってるのに、佐々木がソレを知らずに態々佐藤の自宅まで尋ねますかね?」

あれ?そういえば そうだよね?夏前に噂が広まってるのに園長息子がそれを知らずに佐藤の家を訪ねるのは可笑しいし、・・・あれ?俊の行方をおばさんに聞いてんだよね。どうなんってんだ?

「ソレに 俊を探してる15・6才の少年、鈴君に心当たりは?」

「ないです」

「さてと、鈴 お前は重要参考人になったわけだ。この事をもう一度署の方で話をして セキュリティー万全な場所に移ってもらう。必要な物をまとめろ」

セキュリティー万全って、嘘ついてたからヤッパリ牢屋かな?でも、刑事に嘘ついてたからそうなるだろうな、あーでも早めには帰りたい。出来れば

「・・・1泊2日で帰れる?」

何故か如月さんは噴き出して背を向けて盛大に笑われてしまう。晃さんは大きな手を顔に当てて項垂れてしまった。

「あー、そうだな。取り敢えず・・・事件解決迄は」
「ヤッパリ、牢屋に入ってなくちゃダメ」

「バカ」
呆れたように呟いてるけど馬鹿って、チョット酷いと思う。

「大丈ですよ。そんな所には入れませんから」

「ホント?」

如月さんは俺の頭を撫でながら大丈夫と言ってくれてる優しい人だ。そんな如月さんの手を「触るな」と晃さんは跳ね除けてた。

必要な物 と簡単に言われても何日分?と悩んでると「身の回りの物で良いですよ。例えば携帯、財布、読みかけの本とかあればいいんじゃないですか?」と、言ってくれた如月さんに「そんな所だな」と、同意してしまった晃さん。

「あの、着替えとか下着は?」

「もう揃えてる」

??揃えてるって?どーゆーこと??

理由が分からないまま 急かされて 取り敢えず読みたいと買っておいた2冊の本と読み掛けの本 それと財布と携帯を持った所で「あぁ、あと貴重品も」と、晃さんに言われたので貴重品を纏めてるバックを押し入れから取り出す。

「へぇーちゃんと纏めてんだな。よく出来た奥さんだ。ちょっと見ていいか?」

見られて不味いものは無いのでどうぞと渡す。中身は預金通帳、保険関係、印鑑。退園の時に誰もが貰うのが三本判だ。実印・銀行印・認印が収められてる箱だけど、開けて確認したのは1度だけ。この部屋を借りる時は 日雇いで知り合った人に頼み込んで社長さんにほぼ信用貸しみたいにして借りたので印鑑を使ってない。保険も園からの引き継ぎでずっとかけてる、通帳も園に入った時に作ったものだ。お小遣いを貯めてたから額はそれなりに溜まってるが、園を出た時から使ってないからそのままだ。退園してから印鑑を使ってない。何処で俺が 偽名を使ってるかバレるか分からないので 印鑑は使いたくないのだ。

ずっと奥底に隠してる隠し事。箱に入れて鎖でグルグルに巻き付け鍵を掛けて心の奥底に隠してる隠し事。俺が田中 鈴では無いと知られたら生きていけない。
生キテ行ク手段ヲタ失ウ

「よしよし、他のものは後から取りに来れば問題ないな。じゃ、行くか」

大満足の様子の晃さんに??と なりながも纏めたバックを上機嫌で持ってくれた晃さんに続いて部屋を出た。






車に乗り込み着いた場所は警視庁だ。
偽名で生きてる俺は 絶対に来たくない場所だ。悪いことだと分かってるからこそ動悸が酷く 吐気が酷い。

広い会議室の様な場所に連れてこられて1人で待ってるように言われ待ってると、最初に晃さんと現れたおじさんと若い刑事さん、それと如月さんと晃さん。
若い刑事ちょっとイケメンな感じの刑事は永田さん、おじさん刑事は久保さんは改めてあいさつしてくれた。

初めに、「見間違いかも知れないと思い話せなかった」ちゃんと謝った。そして晃さんと如月さんに説明したように 全部話した。聞かれた事だけに関しては

「相手は拳銃を所持してます。危険人物なので 保護させていただきます。出かける際は警護させていただきますのでご了承ください」

黙ってたことは悪いことだけど 話したら話したで大事とになってしまったな。余り警察とは関わりたくないと今初めて思ったけど、番相手が警察関係者だ。逃げられないなと思った。でも、もう少し あと少し 今のまま 田中鈴でいたい。

「はぁ、でも 1度襲われた人が2度目があったとは聞いてませんし、刑事さんも忙しいので俺なんかの警護は不要です。そもそも 俺 男なので」

「申し訳ありませんが、他の方は撃たれた時に犯人の顔は見てないんです。防犯カメラの死角での犯行で映ってない。手掛かりがほぼ無い状態のなかで はじめての重要な手掛かりが掴めたんです。それも 顔馴染みかも知れない、貴方を1人には出来ません。命最優先で考えて下さい」

命最優先でと語る永田さん反論するだけの言葉が無くよろしくお願いしますと言わざる得なかった。

永田さん、久保さん、後から来た山里さん、3人が交代で護衛に付くからと紹介された。

・・・・あれ?

「あの、今更 なんですけど 荷物纏めなくても・」
「さぁ!!鈴がきょうから住む家に連れて行ってやる」

大きな声を出して俺の言葉を遮った晃さんは、俺を立たせて 腕を引っ張られる状態で車に押し込まれた。




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