白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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霧雨

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2人1組になり車に乗り込んで警官がさって行く。

晃さん忙しいのに悪いことしちゃったな。
帰るぞと重い足取りで 晃さんが乗ってきた車に乗り込もうと身を屈めると1人の制服警官が近付いてきて声を掛けてきた。

「すみません、織田警視はお忙しいので自分が送りますが」

あれ、この人。

「俺、この人に送ってもらう」

「は?」

晃さんは額を抑えて俯いてしまった。

「お仕事 頑張って。すみませんお世話になります」

「分かった、名前は」
「須賀です、階級は巡査です」

須賀さんか、違ったな。

「では、須賀巡査 田中 鈴を無事に自宅迄 送り届けてくれ。鈴も 勝手に出歩くな」

「須賀さん、帰りにスーパーかコンビに寄りたいけど、無理だよね」

「そうだね、チョット無理だな。ゴメンね、そうだ コレ良かったらどうぞ」

ポケットから出したのは苺みるく飴。良くお兄ちゃんから貰った飴だ。

「ありがとうございます」

「じゃ、行こうか」

「少し遅くなるが 夕飯は届けるから外に出らずに待っててくれ」

「わかった」

須賀さんともう1人 運転手の席に座ってる人は阿部さん。

「すみません。よろしくお願いします」

送って貰う車はパトカー。
あははは、ちょっと失敗したかも。

「パトカーって戸惑うよね?」

「えっ・・・はい。少し戸惑ってます」

顔だけをコチラに向けて須賀さんは、にこやなに話して来る。パトカーに乗せられるってイメージはやっぱり 悪い事をした人ってイメージが強いから素直に答える。

「パトカーって悪い人を乗せてばかりじゃないから。安心して」

「はぁー」

「お昼食べたの?」

「え?」

「夜ばかり気にしてたけど お昼食べたのかなって。家から出るなって言われてたけど 食べてなかったら お腹空くよね?」

「いえ、大丈夫です」

「そっ、良かった」

「鈴君は兄弟とかいないの?」

ドキってした。でも、この人は須賀さんで、全然違う人。

「俺は 施設で育ったので 兄弟姉妹は普通の家庭よりかは多く居ます」

「そっかー。兄弟姉妹が多く居るのか。俺には弟が1人いるんだ。だから鈴君位の年齢の子は放っておけなくて」

にっこりと 人好きする笑顔で話す須賀さん。こんな風に笑う人を、俺は1人知っている。

「悪気があってじゃ 無いから許してやって鈴君。コイツも ずっと 離れ離れになった弟を探してるだけだから」

え?
運転手しながらバックミラーでチラッと俺を見ながら阿部さんが 気軽にはなしてくる。

「離れ離れになった弟?」

「よくある話だよ。親戚に引き取られる時に 二人同時には育てられないからって 弟は遠くの親戚に引き取られたんだけど、旦那さんに病気が見つかって それから転々としてたんだどね、最後には海外に行ってて 行方が分からなくなって」

「そうなんですね」

馬鹿だな。一瞬は期待してしまったけど、世の中都合良くは行かないものだ。良く、話を聞いてみると全く違う人生を歩んでる。
引き取り手があるなら まず Ωではない。

「見つかるといいですね」

「ありがとう。でも、弟をって気持ちが強すぎて鈴君位の子を放っておけないんだよ」

「あはっ、須賀さん優しいんですね」

パトカーの中は 優しい空気に包まれて穏やかな雰囲気でアパートに着いた。

何か困ったら 何時でも相談してと 携帯の電話番号を交換した。

家に入ると晃さんからメールが届き 帰りついたら連絡をくれ。と短い文章でも 俺が家に帰りついたか知りたいんだと分かると馬鹿みたいに笑顔になる。

[今 帰りついたよ。須賀さんも阿部さんもいい人で こんなものしかないけどって 飴とガムをいっぱい貰っちゃった。]

[そうか、なるべく早く食事を届けられるように行くから外に出ないでくれ。ではまた後で]

たったコレだけのやり取りだけど 嬉しいと感じてしまうのは単純なんだろうな。それと別に頭の隅によぎる黒づくめの人物。

押し入れの奥から1つのダンボールを引っ張り出して目当てのモノを取り出す。

佐藤 忠雄 名前の横に住所と電話番号が書かれてる番号をタップする。程なくして無機質な機械音声で留守番電話に繋がる前に女性が出た。

「はいはーぃ。どちら様?」

かなり若い女性の声だ

「あの、この電話番号は佐藤さんの携帯では?」

「えー、違いますよ!私の誕生日に携帯買ってもらったばかりだからわかんないけど、コレは私の携帯番号だよ」

「そうなんだ、メモ間違えちゃったみたいだ 。ごめんね」

「へーそうなんだ。メモする時は気をつけないとね」

「ごめんね。じゃ」

電話を切ると考える。今どきは携帯を変えるのに電話番号まで変えるものなのか?

つらつらと考えてるとメールが入った。

[よ!エッちゃんから聞いたけど、なんかしんないけど 佐藤を探してるんだって?アイツさ去年の夏?ごろから無断欠勤してるぞ]

良くも悪くも 仲良かった仲間は兄弟姉妹として育ってきたのでは情報伝達も早い。
今 入ってきた メールは1つ下の皆のリーダー的存在だ。

[そうなんだ。家に行ってみたけど 引っ越してて居なかった]

アイツの事を聞きたいけど まだ園の中に居るコイツに聞くのは危険な気がする。もし、園長の息子にどのように耳に入るか分からない。危険はなるべく避けた方がいい。

[時間があれば 明日でも会いたいんだけど 会える?出来れば園の奴に内緒で]

どう解釈をしたら良いのか判断に迷う。

[内緒で?どうした なにかあった?]

[余り 信用できる人がいない気がするから、もしかしたら鈴兄なら話せるかなって]

悩みなら職員に相談するけど それが出来ないことなんだろう 俺と同じ悩みなのか?それとも 進路とか?話を聞いてみないことには分からない。

[俺でいいの?]

[迷惑だった]

迷惑では無い 明日会う約束をしてメールを終えた。俺に態々会いたい理由が分からない。





夕飯に持って来たお弁当は豪華な老舗の折り詰めと買いもの袋。

買いもの袋は有難く受け取ったが、弁当は豪華過ぎると文句を言おうとしたけど一緒に食べる為に持ってきたと言われたら素直に食べるしか無かった。

「気分は良くなったのか?」

「うん」

「そうか、まだ犯人も捕まってない。我々警察も手を尽くしてる。犯人が捕まれば 少し時間も取れるし 1人で出れるようにリハビリをしよう」

俺が気分が悪くなった理由を信じて 1人で出れるようにリハビリをしようと持ちかけてくれる。
本当は黒づくめの男に身体が動かなかった。なんて今更ながら言えない。嘘をつくなら最後まで突き通さないと嘘は成立しない。
俺は最後まで嘘を突き通さないと行けない。相手は刑事で番相手に不安はあるけど、大丈夫 最後まで 突き通せる。

「大丈夫だよ。それに明日は園で仲良かった子と会うことになってるんだ。少しリハビリが出来るかもしれないし、仕事も始めないと」

「はぁっ、園の仲良かった子ね。・・・ダメだな。大人になりきれない自分に腹が立つ」

「?」

理由が分からなくて俺はマヌケな顔をしてたんだろうな。晃はクスクス笑って俺の頬にキスしてきた。

「俺がやりたい事を全部他の奴にやられるとそれなりに腹が立つんだよ」

「え?」

「でも、2人になれる時間もなかなか取れない俺が文句を言う筋合いはないけど、鈴は俺の番で俺は鈴が安心して住める様に今回の犯人を必ず捕まえるから」

「うん」

「時間が取れたら色々話そう。俺は鈴のことも知りたいし俺の事も知って欲しい」

「うん」

嬉しいしのに恥ずかしい、それにどこか擽ったい。でも、素直に全てを受け入れる事なんて出来ない。俺はこの優しさに浸る資格は無い。1日でも早く捕まえたい警察と、俺の考えが間違ってなければ自首させたい俺。そのためなら匿っても良いとさえ思ってる。
この気持ちは平行線でどこかで折り合う事も重なることも無い。

「もう少し待たせてしまうが 必ず時間をとるから」

「うん」

慌てて食べてあまり話もせずに帰って行った。それでも、何処の誰と会うのか 安否確認メールだけは要求された。





次の日 指定された公園に行けばメールをくれた優が待ってた。

「ごめん 待たせた?」

「いや、待ってないけど・・・なんか痩せた?ちゃんと飯食ってんのか?」

会うのは3年ぶりで実際は同級生だけど、1つ上だと信じられてる。痩せたと口を開いた 目の前に立つコイツはメキメキ 成長してんな。

「何か ガッシリしてんな」

ガシガシと頭をかく姿は歳相応に見えるけど、何か違うと感じる。

「まぁ~、俺はβだって周りな言ってたんだけど  ここまできたら流石に誤魔化すのは難しいって園長にも言われてな。俺 実はαなんだ」

「え?α?あー、なんか納得 出来るわ。へー、おめでとう?」

「いやいや、目出度くないから。ってかさ、今日呼び出したのは こんな事を話したいからじゃなくて!」

俺達は久しぶり再会なのに、話は園の話になり 俺が高校に進学せずに何故 出て行ったのかと ずっと疑問に思ってた事を追求された。
優を何処まで 信じていいか分からずに追求を交わす俺と 何かしらの発言を欲してる優。
俺に 何かを隠してる優も 俺には言いたくないってことは分かった。

「あのさ、俺はβなんだ。αの考える事はわかんないけど、なにがしたいの?園は 俺達のような親が居ない子達を保護して 育ててくれてる場所だろ?感謝してるけど、不満に思ってるなんてない」

「ホントに?園長の息子の拓也にも同じ事を言えんのかよ」

「あー、まぁ アイツは 機嫌いい時と悪い時の差は大きかったけど アイツがどうかしたのか?」

誰でも知ってる事実のみを語って 追求を逃れる。

「ホントになんにも知らないならいいや」

「そこのハンバーガー食いにいかねぇー?奢るから」

どうにか追求を逃れたくて懐は痛いけど 久しぶりってことで ハンバーガー位なら奢れる。

「セットプラス 単品バーガー頼んでいいなら乗る」

「食うねぇ~」

「なに年寄り臭いこと言ってんだよ。鈴が食べなすぎ。1つしか変わんないのに ひょろひょろのもやしじゃん」

「は?もやしは流石にちょっと受け付けないかも。せめてもう少し違ったものがいい」

「じゃ カイワレ」

「単品バーガーはなしの方向で」

「わぁー ごめんない」

言い合いをしても 直ぐに仲直り出来るのも同じ環境で育ったおかげ。友達でもあり兄弟だ。
頼んだものを手に窓ぎわの席に座りながらも、どこか納得してない顔を見た俺は、なんで拓也を気になるのか 気をつけながら聞いた。

「うん、アイツの取り巻きみたいにしてた奴らいただろ。アイツが勝手に園で雇い始めたヤツらと 古くから居る園長派のグループって言えばいいのかな?対立し合ってんだよ」

「それって なんで」

「俺も不思議に思ってさ探ったら 鈴が園を出た頃からギクシャクし始めてて。それに Ωだったアイツが発情期を迎えた頃だったろ。何か知らないかと思ってさ」

なんか俺を騙そうとしてる風ではない。でも、昨日 話を聞いた時は対立してるなんて話は聞かなかった。俺は早くに出たから 遠慮して黙ってたとか?
話したらアイツの何かしらの手がかりが見つかる。でも、

「おや?鈴君 こんにちは」

「あれ、こんにちは」

「ちゃんと食べないとダメだよ。あっ、そうだ これどうぞ」

手に持ってたいちごミルクの飴をくれた須賀さんにお礼を言えば バイバイと手を振り 端の席に付いてハンバーガーをむしゃむしゃ食べ始めた。

「誰?」

「須賀さん」

「ふーん」

仕事仲間とでも思ったのか追求してこない優は、直ぐに興味を無くしポテトとモグモグ食べ始めた。

なんか俺の決心がどこか吹き飛んでポテトを食べながら窓の外をながめた。対立か、園長と息子が仲良くしてる所はあまり無かったな。だったら、園長と息子は関係ない?
Ωが発情期を迎えて 勝手に客を取ってたのが息子だけの仕業なら。園長の指示ではなく 息子だけの指示でやってた。だったとしても許せない事だ。俺はあのとき助け出すことも出来ずに逃げだした。あの時に助け出せなかったけど、今なら 僅かでも手を伸ばしてやりたい。コイツは、優は誰の為に手を差し伸べてるのだろう。

「優は誰のために 調べてんの?」

ゆっくりと コッチを向いた優の目には強い意志が宿ってた。





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