白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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両親はαだった。兄が居たけど 両親から見た兄は居ない人だったし、馬鹿が移るから近寄るなと良く言われてたけど、俺は良く親の目を盗んで会いに行ってた。

「いいか 絶対にαになるんだ。俺みたいにβになっちゃダメだからな」

病院に行く前に兄がこっそり教えてくれた言葉だ。

それっきり会っていない。

こっそりとしか会えなかった。会えなかったけど、仲の良かったお兄ちゃん。優しかったお兄ちゃん。


お兄ちゃん

目を開けると真っ白な天井。

最近は見なくなった夢。たった一人の兄だった人がごく稀に夢に出てくる。探すことは無いけど どこかで元気にしてくれていると信じてる。






5回目の発砲事件 
俺で5人目。
警察の対応、遅すぎる事件捜査。新聞やテレビには連日の様に流る憶測。

晃さんは忙しい。

退院日の今日、お世話になった 先生や看護婦 そしてΩ担当の先生にも挨拶をして荷物を手に持ち病室からでると、バッタリ会った。

「何してんの?」
「それは コッチのセリフだ!なぜ退院日を黙ってた?!医者から連絡が無ければ本気で分からなかった」

αが怒るとやっぱりΩである俺は竦んでしまう。

「忙しそうだから」
「確かにそうだが、時間なら何とかして作るから、一言 言ってくれ」

「そう、ごめん」

「怒鳴って悪かった。ほら 荷物持ってやるから」

俺の手から荷物を受け取ると軽々と持ってくれる。

「ありがとう」

「安全の為にも俺のマンションに、居てくれないか」

意味が分からない。発砲事件の被害者が2度も襲われたとは聞かない。

「大丈夫です。自分の家の方が落ち着くので」

「そうかも知れないが、俺が安心して打ち込める為だと 思ってくれないか?」

「俺 直ぐにジュースを零したり コップを割ったりとそそっかしいから」

「よごしても怒らないし 割れたりしてケガをすると危険だから紙コップにするか」


車に乗り込みながら 真面目に返してくる晃さんに笑ってしまった。

噂や流れ聞こえてくるモノよりも、今回のバース性に関するしっかりとした知識を、教えられた。知っていたものや 違っていたものや驚かされるもの。

知ってるのは、番関係。αが一方的にΩの首を噛み 一方的にに番関係が結ばれ、解除もαが一方的にαから解除されたΩは、常に誰彼構わず タダ求める身体に堕ちる。だから 勝手に噛まれない様に首にプロテクターを装着しなければならない。

初めて知ったのが、建前上、プロテクターをかってに外して噛んだ場合 法的措置が有る。が、立証するのは難しい、泣き寝入りだった事。

驚いたもの都市伝説の運命の番。聞いてて感心するやら呆れるわで 笑ってしまった。医者は憧れてる人の方が多いと語ってたが、俺にはムリだからと答えた。
でも、俺と晃さんは運命の番だから一目でこの人しか要らない この人しか欲しくないと思えた。と答えれば それが運命の番だと教えてくれた。

医者は 本気で分かってるのか?奇跡に近いんだぞ!?と、眉間の皺を指で伸ばしながら、俺は晃さんに噛まれてるから 噂通りに お互いのヒートしか感じなくなってるから安全だと話してくれた。

「なあ、俺のマンションに来ないか?」

医者との話を思い出してる間に俺のアパートに着いてしまった。

「まだ1度も行ったことない家に行くのは楽しみだけど、本人が居ないのに のんびり出来なくてやだな。本人が居て 慣れた場所なら 違うとおもうけど とにかくいきなり今日からとかは精神的に耐えられないから ゴメン」

正直に話せば無理矢理にとかはしない。お互いをしらないままに番関係をむすんでしまったのだ。俺としては知らない人の家で伸び伸びは出来ない。

「そうだな、俺も考えなしだった、急過ぎたすまない。それと、ゆっくり時間も取れなくて悪い、その内に 必ず時間をつくるから」

「うん、じゃ」

車から降りてそのまま家に入った。

数日ぶりに帰ってきた1Kの小さな我が家にホッとする。


織田 晃さん29歳 職業 刑事
花束を持って現れたあの日に名前と年齢を聞いた。
「俺も医者に怒られた。人に怒られること自体久々で、新鮮だったよ。必ず幸せにしてやるから俺を信じろ」大きな手で俺の手を包み込んで言ってくれた言葉で、十分幸せな気分に浸れた。

それと同時に、刑事に何処まで嘘が付けるかその方が不安だった。
田中 鈴  19歳  元はβが今ではΩ
刑事さんの前でばれると不味い事がだらけ。
苗字も名前も歳も 全て嘘。
そして、黒ずくめの男の顔を見てる。
断言は出来ない。出来ないけど 俺は多分知ってる。隠し事ばかりだな。

俺がいた場所は病院なのに、自分で消毒をしてやりたいけど 無理だからと大きめの絆創膏と消毒液を置いていった。看護婦さんが気を利かせて ついでにと何時も消毒をしてくれて絆創膏を貼ってくれた。
そのお陰で 噛み跡も綺麗に傷をふさぎ小さな跡にしか残ってないと言ってくれた場所のそっと触れる。

切なさが込み上げて苦しくなる。
目を閉じると雨の中走り去る車が鮮明に蘇る。何度も思い返してる映像に初めての感情が加わった。

もし 追いかけてたら・・・追いかけてたら どうなってたのか?嘘を付かなくても済んだのかも知れない。

Ωを受け入れられた今でこそ 思える感情なのかもしれない。

下の子がαだったらその子一人を、大事に育てたいからといきなりβの子を捨てる親も居るからとすんなり通ってしまった俺の真っ赤な嘘。

嘘のまま11年間生きてきた。

どうする。このまま嘘をつらぬきとおして良いのかな?

黒ずくめのオトコがコチラに銃口を向けた
男には感情を感じない。
心が真っ黒に感じた。
一筋の光も差し込まない真っ黒な闇を抱えてる。

何で こんな事をするのか
俺には分かるような気がする
きっと アレは俺だったかも知れない


会いに行けないかな。会いたい、何もしてあげれないけど、話しなら聞いてあげれる。何日でも付き合ってぜんぶ吐き出したら こんな馬鹿な事件は辞めてくれるかも知れない。


身体を起こすと かつての兄弟でもあり友達の1人を訪ねた。





「あー、アイツさ なんて言うのヒートに入ってから殆ど引きこもりになっちゃっててさ、職員達もお手上げでさ、でも 職員達はそんなアイツに食事や風呂を入れてやったりしてたけど、なんていうのかなぁ~、勿論、親切だったけどさ、ちょっと異常だったよな」

活発で良く外で遊んでた奴なのに。退園して 1度も行ってないし、アイツの事も聞いてないけど、そんなことになってたなんて、しらなかった。

「今 住んでる所とか知らない?」

「アイツか?たしか職員のところに一緒に住んだはずだ。チョット待ってろ」

引き出しから ノートを引っ張り出して メモをしてくれた。






平屋の一軒家の住所に辿り着いた。チャイムを鳴らすけど全く応答が無い。
勝手に庭を覗くと全く手入れのされてない庭。誰かが住んでるとは思えない。

「あの、すみません。こちらに住んでた佐藤さんってご存じですか?」

玄関のアプローチを手入れしてた年配の主婦に園で働いてた職員を聞いてみた。
軍手を外して汗を拭きながら なにかを思い出してる。

「そうね、同じことを聞かれたわ、たしか 去年の11月か12月の頃ね。あなたみたいな線の細い子に。でも佐藤さんは去年の夏ごろから見てないわね。ごめんなさいね。余り ご近所付き合い無いから、何時引っ越して行った とか 引越して来た なんて、今の若い子は挨拶なんてしないからわかんないのよ」

「すみません、ありがございました」

夏ごろから見てない、引っ越した可能性が高い。なら、アイツも一緒にって可能性は・・・どうなんだろ。園に行けば・・・やだな。

無理やり押し切る形で出てきた園からは足が遠のいてる。

「ちょっと!チョット まって」

「えっ、おれ? あっ、はい!」

さっきのおばさんが 追いかけてきて俺を呼び止める。

「良かったわ!もう1つ思い出したの、あのね去年の夏ごろ。18歳の男の子を探してるけど知りませんかって聞かれたの。佐藤さんと一緒に住んでたはずなんですけどってね」

「それ!どんな人が訪ねてきたか覚えてますか」

「そうね・・・普通の30代の男性で、そうそうこのへんにホクロがあったわ」

左鼻斜め下を指を置いて教えてくれる。

佐々木 拓也 俺の監視に良く来てたやつだ。

「そうなんですね、ありがとうございます。因みに 線の細いオトコの特徴って何かありますか?」

「うーん、そうねぇ~、顔色があまり良く無かったような、それに15・6の男の子だったしね」

Ωは身長が伸び悩む。そのせいで年齢が下に見られる事が多い。

「あの、俺は幾つに見えますか?」

「あらあら、14・5歳かしら」

「おれ、18歳なんです。俺も兄を探してて、ここに住んでるからって聞いたんですけど、違ったのかな?」

「あらーごめんなさいね。でも、お兄さんを探してるの?」

「でも、違ったみたいです。すみません」

「良いのよ。お兄さんを見つかるといいわね」

「はい。ありがとうございました」



佐々木 拓也は園長の息子だ。

笑い声が聞こえる
笑いながら 犯してた
金を稼げと わらってた
泣きながら 抵抗してたのに 押さえつけて 犯してたアイツが、俺の所に来ては色んなことを話してた。

お前さ ちゃんと食ってんのか?
大きくなんねぇなぁ~
気分悪くなったりしねぇーのか?
体調不良の時は言えよ、飛んできてやるよ
Ωだと余り育たねぇ~だと、間違われんなよ!

アイツに いつΩだと ばれるかも知れないと怯えてた。アイツの顔を思い出すだけで 吐き気がして気持ち悪い。


平日って事もあり14時。時間的人通りも少く信号待ちをしてた。信号待ちの反対車線に黒ずくめの人が立ってる。心臓の音が鼓動し脂汗が滲む。信号の色が変わり人が一斉に動き出し、周りの人々は残像にしか見えなくて、黒ずくめの男だけがはっきりと1歩 また1歩と近づいて来る。

俯いてたてたオトコが顔を上げ 笑った。脳裏にこびり付いてるアイツの顔とダブる。黒ずくめの男はゆっくりと近づいて腕を上げて

ポンと肩に手の感覚があり振り向くと警察官が立ってた。
横を通り過ぎる黒ずくめの男は、黒髪の長髪に黒のジャケットに黒のスキニーパンツ 中は紺のシャツ、あげた腕は肘で曲がり手にはスマホ、男は声を弾ませて電話中だ。

「君 チョットいいかな?大丈夫? ちょっと こっちに来てもらえる?」


「ごめんねぇ~、今 ちょっと物騒な事件が多発しててね、色んな人に声掛けさせてもらってるんだ」

「いえ!大丈夫です では」
この行為が行けなかった。職質は素直に受けるべきだった。警察官が1人2人と増えていくと、最終的に晃さんが出て来て 最初に声を掛けてきた警察官がも平謝りしてきた。

今回の 発砲事件の被害者で 買い物に出て 最初は良かったけど だんだんと恐怖が込み上げて来て動けなくなったと 説明したら信じてもらえて、晃さんと帰ることになった。
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