白昼夢の中で

丹葉 菟ニ

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降りしきる雨

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ずっとだ。俺の中には雨が降ってる。
止むことの無い雨が。




7歳のバースの結果が出た日、俺は実の親に知らない街に捨てられた。

「いいか!お前は祠堂の名を語る事は許さん!お前は俺の子ではない、二度と俺の前に姿を見せるな!!」

母親は黙って前を向いていた。車から叩き出された俺は、雨が降る中 そのまま転がり落ちると同時に バンとドアを閉められた。車は何事も無かった様にまま走り去って行く車を見つめただけだった。

それから直ぐに保護され児童養護施設に入った。

自分の名前は言えた。でも、言えなかった。

安易に田中と名乗った俺に下の名前は?と聞かれて、その人の筆箱のファスナーに小さな鈴が付いてたから鈴と答えた。年は誕生日はバース性はと次々に告げて俺は目に付くもので答えて嘘の突き通した。

俺はその日から、田中 鈴 8歳βとなった。


養護施設では、大勢の人と暮らす。下は0歳から上は18歳と幅広い身寄りが無いもの同士が暮してた。ここなら信用出来ると思ってた。ここなら18歳で出て行かないと行けないけど高校迄は通わせてもらえるし、優しい職員も信用もしてた。

だけど、俺は見てしまった。

発情期に入ったΩ男性が男性職員達に回され泣き叫んでいた。

下卑た笑い方をしながら

丁度いい性欲処理がまた出来た。
また1つ 売り物が出来た。
親に捨てられるのは、オメガは屑以下なんだよ 分かってんのか屑。
お前も 立派に発情期が来たんだ しっかり足開いて稼いで恩返ししろよ。
コイツは どれだけ稼いでくれるか楽しみだ。
見た目だけは 可愛いし色んな奴が目を付けてたからな 月に100万は固いよな。
誰がタダでこんな人間以下の面倒を見るかよ。利益がなきゃやらねぇよ。

泣いてる子に 浴びせてたセリフを聴きながら雨の日を思い出してた。

信用してたのに 裏切られる。今度は捨てられるんじゃない、金稼ぎの道具にされてしまう。
あんなことしたくない。気持ち悪い。あんな事は嫌だ。

こんな世界に信用できる人は居ない。誰も信じずに1人で生きて行こう。

俺は高校にと進める園長に断り、中学を卒業すると養護施設を飛び出した。

それからは働かないと暮らせない。俺の身分証はβとなってる。働こうと思えば働き口はある。でも俺が選んだのは日雇い、飽き性だからと回りに嘘を付いて選んだ。養護施設の職員が最初はちょくちょく様子を見に来てくれてたが、1年たってからは来なくなった。

俺の所に毎月 2・3回は来てたからな、確実に疑われてたんだろうな。来なくなってから直ぐに黙って引越した。懐は痛かったが とにかく怖かった。逃げ出したかった。


筋肉の付きにくい体で 体力も無いけど、何とか食いつなぐ生活を送って4年。身分証の上では19歳、未だに発情が来ない。でも、心の底では、いつかバレる事を恐れてる。バレた時はあんな風になるのかと、怯えてる。でも、いつ来るか分からない物に脅えるよりは、目の前の生活だと、今日も朝から日雇いをしてくれる公園に集まる。

「よぅ、鈴 今日は交通整理が有るがやらないか8000円だ。どうだ?」

「あそこの交通整理 9000円だったけど?徳さん」

「チッ、仕方ねぇあ、9000円出すよ」

「毎度」

紹介札を貰って、札に書かれてる同じ建設会社の車の中で待ってる人に渡すと「あと二人待ちだから」と声を掛けてくる。

今日は 交通整理だけだから、身体に負担が掛からずに済む。
朝から少し熱ぽいけど、これくらいなら休む事はしない。足元の不安定な生活な上に、本当の俺はΩだ。発情期になれば1週間は休まないといけなくなる。多少無理をして顔を繋いで置かないと、さっきみたいに声を掛けてもらえなくなるから。

残りの2人も日雇のベテランのフジさんとノブさん。本名なんて知らない。俺も鈴で推してる。

「よー。なんだ鈴じゃねぇか。よろしくな」
「鈴は日に焼けると直ぐに真っ赤になるからな 日陰になる所にしとけよ」

「ありがとう」


2人とも 俺が日雇い駆け出しの時も色々と相談や手助けをしてくれた人だ。

工事現場は新たに立つマンション。工事現場のトラックの出入口の交通整理だ。

「確かここって 連続通り魔が出没してる辺りだろ?」

「きぃ付けろよ鈴」

「うん、じゃ 俺はアッチに立つから」

連続通り魔か。確か改造銃を人に向けて いきなり発砲、3日前に死んだ人も出たんだよな。

何処から狙ってるかも分からないのに、気をつけようもないし、どこに現れるかも分からない人をどうする事も出来ない。

今は目の前の仕事だと、回りに愛想のいい挨拶をして歩く。

生活の為、1人で生きて行く為に稼ぐぞ、と、だるい体に言うことを聞かせながらもトラックの出入口に付いて赤と白の旗を半日 降り続けてお昼に入った。

日陰に入り半額のパンを齧るが、半分も食べれない。朝から体調が悪かったけど 本格的に熱でも出したのか フラフラする。

「はぁ~、今日は あと半日だ。頑張るしかないな。明日は休むか」

独り言ちると気合いを入れて立ち上がった。

1台のトラックを無事に道路に出して直ぐに入って来ようとしてるトラックを入れる為に歩行者を先に通ってもらい歩行者が居ないことを確認してトラックを誘導した。

その時、真っ黒の服装の人と目があった。
目があった人物は、まっ直ぐに片腕を上げた手には

気がついた時は俺は衝撃で後ろに倒れた。





目が覚めた時には白い天井は家じゃない。ここはどこだ?
ピリッと傷んだ左肩に 全てを思い出した。

アイツ 俺を打ったんだ。

ノックも無しに入ってきたのはスーツ姿のおじさんと、後から入ってきた人にドキって胸が高鳴る。

ドキドキして煩い。一気に苦しくなって息も出来なくなる。
なのに あの人から目が離せない。あの人しかいらない。あの人が欲しい。あの人は俺のモノだ。

なにコレ 知らない。こんな感情知らない。

先に入って来た人を 追い出して その人と二人っきりなった。

その人がズンズン歩いてくるとズボンから何かを取り出し 俺の口の中に押し込んで来た。なにが なんだかわからないままにキスをされてしまい口に押し込んできたものを飲み込んだ。

「飲んだな」
「うん」

訳の分からないまま 彼は出て行ってしまった。ドキドキと高鳴る心臓と、俺の心の中には雨が降る。捨てられたあの日が鮮明に思い出す。

高鳴る心臓も治まり 冷静になると先程の2人が入ってきた。

「治まりましたね」

おじさんに言われても素直に頷けない。

「あの、どなたですか?」

「失礼、私達は」

おじさんに見せられた物を見て納得してしまった。

「貴方がなぜ病院に居るか分かりますか?」

俺は撃たれただけ。

「・・・はい」

「単刀直入にお聞きします、犯人を見ましたか」

「・・・いいえ」

「そうですか」

「なにか覚えてる事は無いですか?」

「・・・いいえ、なにも すみません眠りたいので もう良いですか?」

「君はバース性が違う。病院にも確認したが1000人1人の割合で 7歳では明確にバース性が出てこない子がいるそうだ」

ずっと 黙ってたのに余計な事を言ってくる、俺にキスして来た刑事の声が俺を支配する感覚にギュッと手を握りしめた。

「そう、なんですか」

「君の為にも
「あの!わざわざありがとうございます、分かりましたので、もう、帰ってもらって良いですか?寝たいので」

無理矢理に話を遮り追い返す。

「そうか また来る」

来なくてもいい。
出て行く2人に心の中でそう、答えた。



間違いであって欲しい。でも 朝からの体の怠さを思い出すと、あれは発情期に入ったんだろ。ここは病院だ。
嫌だ こんな人が大勢 居る中で発情期に入ったら。

回されてる人を思い出す。誰も信じられない。
怖い 怖い 怖い 帰ろ家に 帰りたい。

腕に刺さってる点滴を抜いて そのまま病室を抜け出した。

外は暗くても此処が何処かよくわかった。



歩いて帰る。時間も分からないまま、ただひたすらに歩き 家に辿り着くと窓を全部施錠してる事を確認するとそのまま倒れ込む。

先程から動悸が激しく下半身が濡れる感覚あり 気持ち悪い。それよりも、あの男の顔がチラついる、あの男に触って欲しい欲望が沸きあがる。

なんで!ヤダ、バレると回される 金稼ぎの道具にされてしまう。
ヤダ ヤダと思いながらも 自然と下半身に手を伸ばして指先が触れると、回されてる人の事を思い出す。怖い と思ったら出来なかった。

蹲りどうすればいいか分からないまま泣くしかなかった。

「鈴、鈴!居るんだろ!開けろ!」

ドアを乱暴に叩きながら叫んでるのは、頭の中にこびり付いてしまった刑事の顔、よく通る男らしい声が俺の名前を叫ぶ。

玄関まで這って来てしまった。

「帰れよ!迷惑だ!」

「鈴 ここを開けろ」

「ヤダ 絶対にヤダ」

「頼むからここを開けろ、抑制剤を渡すだけだ何もしない」

「嘘だ!回す気だろ!」

「馬鹿な、そんな事をするわけないだろ!!鈴は俺の番だ。自分の運命の番を他の奴には触らせるわけないだろ!!」

「信じない」

「信じろ 俺は1人だ」

信じたらダメだ。でも、ずっと会いたいと思ってた人が扉の向こうに居る。
この鍵を開けらダメだ回される。グルグル頭の中を回る。

「信じろ 頼む信じてくれ」

懇願する声が、泣きそうな声が俺の体に染み込んでくる。

扉の向こうにあの人が居る。
あの人だったら、この苦しさから 解放してくれるかも。そう思ったら ガチャと鍵を開けた。玄関に蹲ってるとレモンの香りに包まれて更に下半身が重たくなった。

ガチャと施錠の音が遠くで聞こえる。抱きかかえられたまま 畳に下ろされるけど、離れていくのが寂しくて腕を掴むが 水を持ってくると告げると 勝手に離れていく。
それだけで寂しくて辛くて声を出して泣き出してしまった。

「そんなに泣くな、ほら コレを飲め」

「ヤダ ヤダ」

「ただの抑制剤だ 飲まないと辛いぞ」

「出したい けど できない」

「誘ってるだろ。俺の我慢も感が・・・」

自分からキスした。キスして舌を入れた。だって それしか知らないから。
レモンの香りが強くなった。下半身がズグンと重くなる。

そのまま押し倒されて、舌を絡めて吸われて気持ちいいと感じる。

「鈴、いいのか?」
「うん 出したい」
「わかった」

それからは よく分からなかった。いや、わかってた。自分の指先が触れただけでも気持ち悪かったのに この人の手は気持ち良くて ずっと触っていて欲しい。もっと もっと触って欲しい。

ビチョビチョに濡れてる。体の奥が疼く、自分では出来ないけど、この人なら この人だけに触られたい。触って欲しい、して欲しい あんな風にして欲しい。

欲しいとしか思えなかった。

「鈴噛みたい。噛んでいいか」

欲しい、この男の全部が欲しい。本能のままに噛んでと叫んでた。

腹の中に熱いものを叩きつけられると、首すじに痛みを感じ 全身に雷に撃たれ 男と繋がったと確信した。





夢の中の出来事だった。でも、現実にあったと、物語ってる。

家に帰ったはずの俺は病院に戻って来ていたし、看護婦からコンコンと説教されてしまい主治医の先生にも怒られてしまった。

「それと 貴方のバース性ですがβではありません。それは分かってますね?」
 
「はい」

「初めてのヒート つまり発情期は何時ですか?」

「今回が初めてです」

「そうですか。ずっとβだと信じてて いきなりヒートをおこせばパニクに陥っても仕方ありませんね」

「大勢がいない所が良いかと思って すみません」

「そうですね。確かに大勢が居ないところの方が安全性は保たれます。ですがココは病院です。隔離室も有りますし、隔離室に入れるのは 同じΩか番持ちと決まりが有ります」

「すみません、そうですよね。忘れてました」

控えめなノックの後に あの人が入ってきた。

名前も知らないあの人が、俺に降りしきった雨の後に咲いた花を届けに来てくれた。








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